この紅魔の職人に冒険を!   作:棘白猫

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本話には一部視点変更(一人称⇒三人称)があります。
視点変更の際は以下の目印が挿入されます。

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これで囲われた部分が三人称視点となりますので留意願います。


第四話

 森の中で首無し騎士に遭遇したは良いものの、身に覚えが無い因縁をつけられて困惑している自分に対し、騎士は尚も怒号を放つ。

 

「一日だけならまだしも三日連続で仕掛けて来たのなら流石の俺も堪忍袋の緒が切れるわ! 今から街に文句言いに行こうと思ったが丁度良かったぞ!」

 

 明らかな敵意を込めて馬上から大剣を構える騎士。しかしここまで言い掛かりが続くのはこちらとて勘弁してほしい。

 

 取り敢えずそちらも落ち着いて欲しい。先ずそちらは爆裂魔法を城に撃ち込むと言っていたが、その城とやらはどこにあるというのだ?

 

「とぼけるな! あの丘の上にある古城に決まっているだろうが!」

 

 あぁ…この首無し騎士の潜伏先はあの放棄された古城だったのか。明日辺り調査しようと考えていたが、あろうことか本人によって裏付けが取れただけでも十分だ。これにてミッションコンプリートと言えよう。こんなに早く一仕事が終わるとは、カズマ君を誘って運がこちらにも向いて来たのだろうか?

 

 さて、その城に今日も爆裂魔法を撃ち込んだという話に戻るが…通常、爆裂魔法と言えば魔法の体系において最強の魔法の一つ。強大過ぎる魔力の奔流を生み出し、熱と光によって文字通り対象を跡形も無く破壊する魔法である。従って、それを使用する為の魔力は並大抵の魔法使いでは補う事すら出来ない…運用法を含めた使用条件が厳し過ぎる一発ネタの様な魔法と言うのは御存じであろう。そう語ると首無し騎士はそうだと同意しつつも、だが何が言いたいと言い放つ。

 

 余りにも鈍いので溜息を付きながら自分はこう言い返した。

 

 ならば今日爆裂魔法を撃った相手が、何故先程上級魔法を連発する程の余力があるのか?

 爆裂魔法で使う魔力はマナタイトで補える魔力量ではないし、こんな芸当はたとえ不死王であっても難しい筈だ。

 

「……」

 

 静寂と共に辺りに漂い出す気まずい雰囲気。どうやらこのデュラハンは漸く勘違いに気が付いた様だ。

 

「その…すまない。どうも気が立っていたようだ」

 

 首無し騎士はぽつりと謝罪の言葉を口にした。分かってもらえれば良いのだ。

 

「ならば他に爆裂魔法をぶっ放す犯人が居ると言う事か…貴様、知らないか?」

 

 爆裂魔法という言葉だけである人物を想像してしまう…恐らく下手人はその人物、自分の姪っ子(と勝手に扱っている)が犯行に及んだのだろう。だが、爆裂魔法が好きと言う話は本人から聞いているが、爆裂魔法を覚えていると言う事は本人からはまだ聞いていない。十中八九習得はしていると思うが、万一覚えて無いと言う可能性もあるのだ…ならば知らないと答えるのが得策だろう、そもそも教える義理も無い事だし。

 

 何時の間にやら辺りに張りつめていた敵意、殺気等の剣呑な雰囲気は消えていた。ならば、ここは双方穏便に会話をすれば、戦闘は回避できるかもしれない。

 

 この見た目にマッチする様な可愛らしい声でうん、私わかんないなと出来る限り無邪気を装って首無し騎士に答えた。騎士はそうか…と一言喋り、馬に跨った。

 

「ならば仕方がない、明日また爆裂魔法を撃つ輩が居たらそいつに直接文句を言ってやるか…すまないな、疑って」

 

 実に物分かりが良い魔王の幹部だった。自分としても依頼が果たせたわけだし、ウキウキ気分でこの場を後にする…。じゃあ私おうちに帰るね、バイバイ騎士さん。

 

「あぁ、気を付けて帰るんだぞー…って、違う! ちょっと待て!」

 

 不味い、都合良く緩い雰囲気になったからこのまま勢いに任せて戦闘を回避するつもりだったが、どうやら首無し騎士は後一歩の所で踏み止まった様だ。

 

「危なかった…勢いに釣られて帰す所だったがそうはいかん!」

 

 再び剣を構えて臨戦態勢を整える首無し騎士。あともう少しだったのだが…恥を忍んでわざわざ可愛らしい幼女の演技もしてやったと言うのに、苦労を返して欲しい。

 

「やっぱり演技だったかこいつ! まぁそれは置いておくが…貴様が爆裂魔法の犯人では無いとは分かったが、連日爆破されて正直気が滅入っているのだ…貴様には悪いが、俺のストレス解消として手合わせに付きあって貰うぞ」

 

 ストレス解消と称して幼女に襲いかかるとは…成る程、こいつは騎士とは名ばかりのロリコン野郎だと言うのか。

 

「ち、違うわ! ただの子供ならそのまま帰していたが、やはり貴様から滲み出る強者の風格は逃すには惜しい…手合わせ願うぞ、幼女の皮を被った猛き紅魔の魔法使いよ!」

 

 幼女の皮を被ったとは随分な言い掛かりだ。こんな黒髪と赤い目が可愛らしい、黙っていればお人形の様だとうたわれている自分だが…確かに実年齢は幼女とは程遠いし、何より思考等の中身は愉快で気さくな成人男性だと自負している…。あぁ、どうやら言い掛かりを付けられても何も言い返す事は出来無さそうだ。全面的に正しい首無し騎士の総評にぐぬぬと唇を噛む。

 

 ともあれ、こんな相手には付き合ってられない。一人張り切っている所悪いが、こちらは帰らせて貰うぞ。と言う事でやる気満々な騎士を尻目に脱出用のスクロールを使って戦線を離脱する…筈だった。

 

 スクロールの魔力を開放しようとするも、何も反応が無い。訝しげにスクロールを見た後、ガチャガチャと物音が聞こえる方へと顔を向けた。

 

「悪いな、お前には大人しく俺に付き合って貰う以外に道は無いのだよ」

 

 そう言うと首無し騎士は懐から何やら魔道具らしき品物を取り出した。遠目からは詳しくは判別し兼ねるが、魔道具から漂う魔力の指向性や表面に刻まれている文様から判断するに、どうやら特定の魔法を阻害する魔道具の様だった。恐らくはテレポート等の移動系術式を封じる類の者だろう…厄介な代物を持って来てくれたものだ。

 

 そうなると逃げるなら足を使うか…子供の身とは言え敏捷性には多少自信があるが、相手は馬に跨っている状態だ。下馬している状態ならともかく、騎乗している状態では分が悪過ぎる。ここから撤退するには馬と騎士を切り離すか、若しくは魔道具を破壊して脱出スクロールを使うか…面倒な事に、どうやら戦闘は避けられない様だ。流石に魔王の幹部相手に一人で倒す等と言う自惚れは無い。とにかく最低限の被害で逃走するのが肝要だ。

 

 止むを得ず、鞘に納めていた短刀を再び握り返す。こちらの臨戦態勢を確認したのか、首無し騎士は剣を捧げるかのように持ち直し、言い放つ。

 

「そうだ、それで良い…我が名はベルディア! 魔王様の幹部の一人、デュラハンのベルディアだ!」

 

 騎士らしく名乗りを上げる首無し騎士のベルディア。ならば紅魔族らしく、名乗り返すのが礼儀と言うもの…こちらも高らかに名乗りを上げる。

 

「ぴたー…そうか、お前がそうだったのか! 紅魔族にぴたーと言う名の凄腕が居ると聞いていたが、まさかお前みたいな奴だったとは!」

 

 魔族側にも名が知れ渡って誇らしい様な、見た目を馬鹿にされている様で苛立たしい様な、妙な気分になる。おい、どうせならセクシーなねぇちゃんが良かったとか言うな、聞こえているぞこの破廉恥騎士。

 

「と…とにかく相手にとって不足無し! では行くぞ、はぁぁぁぁっ!」

 

 そう言い放つと同時に馬が跳躍し、首無し騎士は空中から大剣を振りかざす。雷光の如き重さと速さで頭上から降り注ぐ斬撃を、自分は後方に飛びずさる事で回避した。そして自分が先程居た場所に剣の一撃が振るわれた…轟音と共に地を穿つその一撃はまともに受ければ一溜りも無い事を目に焼き付けられた。

 

 後方へと飛んで回避した事で、自分とベルディアの間には距離が空いている…ならばと自分は『ストーンランス』をベルディアに向かって振るう。尖った細長い岩が投げ槍の様にベルディア目掛けて飛ぶ…が、槍の一撃はベルディアの鎧にほんの僅かな傷を付ける程度の損傷しか与えられない。ほぼ無傷と言って良いだろう。

 

「どうした、その程度か!」

 

 無論、この一撃だけでベルディアを沈めれるとは思っていない。だがこの数ならばどうだ…と言わんばかりの岩の槍を呼びだし、一斉にベルディアに向けて飛ばし続ける!

 

 岩の槍はベルディア自身にはさしたる損傷は与えていないが、槍の数が数である…馬で突き進もうにも思う様に動けないようである。その場に留まって大剣を振るい岩の槍を叩き落とすベルディア。

 

「小癪な真似を…って、何っ!?」

 

 槍の嵐をベルディア本体ばかりに向けていた自分は隙を見て数本程、馬の前足へと刺し穿った。将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、と言う事だ。不意を突かれた首無し馬はジタバタと暴れ、そして馬に乗っていたベルディアは必死に手綱を握るも遂には落馬してしまった。

 

 振り落とされ、ゴロゴロと地を転がりながらも受け身を取るベルディア。鎧の硬度の所為か、はたまた本人の耐久力が底無しに高いのか、落馬しても対してダメージの様な物は見受けられない。だが、それだけが目的では無い。

 

 出鱈目に前に飛ばし続けて来たストーンランスを上の方へと向けて飛ばし、未だ転がっているベルディア向けて槍の雨を降らせる。狙いはベルディア…が纏っている闇色のマント!

 

「うぉ…っ!?」

 

 ベルディアを包囲するように、そしてマントを地へと縫い付ける様に槍の雨が降り注ぐ…程無くして、ベルディアの身は、槍によって地へと固定された。これこそが狙い…ベルディアを馬から降ろし、足止めをする事が目的だったのだ。そんな様子を見る間も無く、自分は戦線から離脱する為に全速力で森の道を駆け抜けた!

 

 逃げる方向は森の奥へと向けて…出口の方に逃げた場合、抜けられた時カズマ君達と遭遇する羽目になるかもしれない。あちらには怪我人も居る以上、それは避けたいのだ。全速力で逃げながら、スクロールの有効範囲まで逃れたか確認する…程無くして、スクロールの表面に魔力が戻ってきた。これで脱出できる!

 

 そしてスクロールを使用しようとした矢先、再びスクロールから魔力が失われた…。どうやら、槍を振り解いてこちらを追ってきたようだ…馬の蹄の音が逃げてきた方向から聞こえて来た。後少し相手が手間取って居たら逃げられたのだが…自分の目論見は失敗に終わった。先程の馬に放った槍の一撃も、馬の走行にはさしたる影響は無い様だ。馬も首が無い以上、アンデッドであるから多少の傷など物ともしないという訳か。

 

「ふははは! 逃げられると思うなよ小娘! もうマントは無いし、先程の手は通用しないぞ!」

 

 してやられたと言うのに、相手としてはこの戦いを楽しんでいる様だ。道の向こう側からベルディアの活き活きとした声が聞こえて来た…アンデッドなのに活き活きとはこれ如何に。正直もう勘弁して欲しいのだが…ぼやいても仕方が無い、次の手だ。

 

 逃げる足を止め、蹄の音が聞こえてくる方向を向く…程無くして、馬に乗ったベルディアの影が見えて来た。

 

 瞬時に魔力を練り、先程アンデット相手に振るったアースシールドの要領で大地から磨かれた岩で作られた刀身を持つ三振りの大剣を召喚する『アースブレイド』の魔法をベルディアに向けて行使する。一本一本の剣がまるで熟練の剣士が手繰る様に、三振りの大剣は一斉にベルディアに襲い掛かる。ソロで活動する事も良くある自分にとって、この魔法は言うならば前衛職を召喚する物であり、同じく前衛召喚の用途で使用しているアースシールドと並んで重宝している。

 

 ベルディアは大剣を振るって岩の剣と打ち合い、鍔競合い、背後から飛んでくる斬撃を受け流す。剣を受けるたびに、ガキンガキンと言う小気味良い音が響く…三本掛りでも尚優位に立っている様は、流石は魔王軍幹部の騎士と言うべきだろうか。

 

「成る程、剣の練習にはちょうど良い魔法だな…む?」

 

 気付いたようだが遅い…岩の剣に意識が集中している間にインフェルノの魔法詠唱が終わる。先程は森へと影響が出ない様に竜巻で打ち上げた後に空へと火を放ったが、今回はそんな余裕などない…周りの影響を覚悟で、上級火炎魔法『インフェルノ』を行使する。

 

 先程アンデッドナイトの群れを焼き尽くしたように、ベルディアの身体も赤い炎に包まれる。辺りの木々も巻き添えにし、それらは黒い炭へと変わって行った。

 

 次に打つ手は、直接相手を弱らせてその隙に逃走を図る事…だが

 

「ぐっ…だが、この程度!」

 

 僅かに呻くも、ベルディアの身体から黒煙が僅かに上がる程度しか上級火炎魔法は効いていない様だった。片膝をついては居るものの、やがて何事も無かったかのようにすっくと立ち上がる。何時の間にやら三本の岩剣も全て叩き折られており、辺りに転がっていたそれは纏っていた魔力が尽きて砂へと変わって行った…相手は未だ余裕綽々と言った所だろうか。

 

「この鎧は魔王様の祝福を賜った物…様々な魔法はおろか神聖魔法すら防ぐ代物だ。最も、それでもこの身体に多少なりとも損傷を与えるとは、恐れ入る程の魔力だ…」

 

 自慢げに身につけている鎧を褒め称えているベルディアを見て、自分は次の考えを巡らせる。

 

 一般的にアンデッドと呼ばれる種族は魔法の抵抗力は余り無い。特に自身を燃やす火、高位に連なる不死者の忌避の対象である水、そして相反する神の寵愛による神聖…この辺りのいずれかに弱い代わりに抑制する枷無き圧倒的な力、尽きる事無き耐久性が恐ろしい種族であるのだ。

 

 今の状況を鑑みるに、火は鎧の効果の所為か余り効果は無い…そして神聖魔法はアークウィザードである自分には扱えない魔法体系である。

 

 残るは水、これは自分としては不得手な魔法であった。自分が得意な魔法は地と火の属性である…水は相性が悪いのか、使用できる魔法のレパートリーが少ないのだ。仮に水が通用するとしても、クリエイト・ウォーターでは牽制にしかならないだろうし、他の水魔法は何らかの触媒が無いとまともに使用できないと言うのが現状である。

 

「もう終わりか? ならば今度はこちらから行くぞ!」

 

 黒煙が収まり、落ち着きを取り戻したベルディアが剣を構え突撃してくる。大振りなれども素早い一撃を避けながら、次の一手を決めあぐねている状態…正直劣勢であった。

 

 息つく暇無きベルディアの連撃を紙一重で避け続ける…合間を見て、詠唱が早くて至近距離で撃っても術者に危険が無い『ライト・オブ・セイバー』を撃ち込むも、僅かに相手が仰け反る位で魔王の祝福を受けたとされる鎧を切り裂く事は叶わない。密着されている以上、隙を見て魔法を放つのが精一杯であるこの状況…このままでは、遅かれ早かれこちらの体力が尽きてしまう事だろう。

 

 鎧を通す為の手段…手持ちの魔法で有効な手段…攻撃を避けながら今までの状況を整理する。魔道具の想定される有効範囲、そして効き目が悪いとはいえ魔法自体は通ると言う事実…上級火炎魔法でも駄目なら、他に何か強力な手段があれば…!?

 

 そして一つ浮かんだ、とある手段。通るかどうかは賭けであるが…そう考えた矢先だった。

 

「…捉えたぞ!」

 

 自分を真正面に据え、ベルディアの大剣が断頭台の刃の如く振り下ろされる!避ける隙を逃した状態…このままでは間違い無くあの剣の餌食になる…。

 

 とっさに放った『アースシールド』の魔法…分厚い盾の上に打ちつけられた剣の勢いは止まる事を知らず、黒い閃光の様な衝撃は盾に守られた自分諸共地へと叩き込まれた…。

 

 

 

 

 

「…魔法使い一人で、ここまで俺に対抗できるとは思わなかったぞ」

 

 ガシャリガシャリと、具足が地を踏みしめる音が聞こえる。何者かが呟く声が、耳へと入る。背には折れかかった大木…どうやら衝撃で吹き飛ばされ、木へと衝突したようだ。身体のあちこちは酷く痛み、口の中は何やら鉄の味がする…何とか息は出来るが、息を吸ったり吐いたりするだけで辛い。

 

「実に楽しめたぞ、紅魔の魔法使い…間違い無く貴様は、凄腕だった」

 

 全身を走る痛みと共に聞こえる、耳障りな声…ガシャリガシャリという音は、更に近づいてくる。

 

「だが、どうやら貴様の命運はここで尽きた様だ。お前は生かしておけば、間違い無く魔王軍にとって脅威となるからな」

 

 ガシャリと音が止む。そして首の近くに、何やらひんやりとした金属の様な物が当てがわれる。

 

「名残惜しいがその名は俺の魂に刻んでやる…さらばだ、紅魔の魔法使い、ぴたーよ!」

 

 大剣がゆっくりと横へと持ち上がり、そのまま真横へと一文字に

 

 ―…『アースクエイク』

 

 ドンという轟音。そして鳴動する大地…大気が震え、地が割れる。

 

「おぉぉぉっ!? こ、こいつ、まだ…!?」

 

 突如自身を襲った地殻変動に、一文字に薙ぎ払おうとした剣は鈍り、ベルディアは思わず尻餅をついた。立ち上がろうにもヒビ割れ、裂け、隆起する地面に足を掬われ剣を構える事すら出来ない。

 

 そして自分は身を転がすようにしてベルディアから距離を取る。途中途中で隆起し、尖った大地に背中を刺されるもお構い無しだ。適度な距離を見定める…ここだ、この位置だ。

 

 ベルディアの剣の間合いから離れるギリギリの位置。そして対象がすぐ前に居る、至近距離…。

 

 それを確認した自分は、揺れる大地に抵抗しながら、静かに詠唱を始める…その手の平は、同じ様に大地に抵抗する首無し騎士を捉えながら。

 

 ここで一つ魔法の話をしたい。魔法には初級~上級魔法の他に様々な特殊魔法が存在し、先程話題に上がった爆裂魔法もそう言った特殊魔法の一つである。その系統の魔法は爆裂魔法を含め、世の中には三種類存在している。どれもこれもが上級魔法を凌駕する高い威力と膨大な魔力を消費する、使用するには本人の才能等の色々と制約が必要な大魔法であるのだ。

 

 そして自分は、そんな魔法を”一つだけ”習得している。

 

 爆裂魔法が広範囲を甚大な魔力で蹂躙する大魔法であるのならば、自分が使う魔法は一点に対し万物を崩壊せしめんとする大魔法…。

 

 

 

 ―森羅万象、全てに宿るモノへと告げる

 

 うわ言の様に詠唱を囁く度に、周りの空気がピリピリと振動し、やがてそれは術者である自分を包む魔力の奔流となる。

 

 ―其れは破壊の力の顕現、其れは天地全てを砕く神々の意志也

 

 地の揺れは収まるも、ベルディアは目の前に居る自分に対し剣を構えるも踏み込む事が出来ない…。それもその筈、術者を纏う暴風雨の様な魔力の胎動、この均衡を崩すと言う事はベルディアの身にも良からぬ事態が降りかかる事は間違いないからだ。

 

 ―我は望む、眼前に広がる理全てを虚無の彼方へと消却せし事を!

 

 その時、ベルディアの赤い瞳が戸惑いを映していた…濁った瞳の先には、年端も行かぬ幼き少女。だがその少女の表情は愛らしい外見からは似付かぬ、血に彩られた歪んだ笑顔。爛々と輝きを放つ赤い瞳はベルディアに負けず劣らず、見た者を震えさせる魔性を放っていた…。

 

 自分が使う魔法…その名は、炸裂魔法

 

 

 

 ―…『ディストラクション』!

 

 

 

 

 

 

 ―――

 

 

 地が割れ、木々が根こそぎ倒れている森の一角にベルディアは立ち尽くしていた。鎧はあちこちヒビ割れ、同じ様にヒビがあちこちに入っている剣を持つ手はダラリと下がっている。

 

 そしてベルディアは徐に片手を上げ、天上から振ってきた黒い塊を受け止めた…それはベルディアの身体の一部、兜を被った頭だった。

 

「炸裂魔法の使い手だったのか…少し判断を間違えれば、俺も危ない所だった」

 

 とっさの判断でベルディアは自らの頭を空高く放り投げたのだ。身体が戦闘等を司る機関であるなら頭は魔力等を司る機関、身体に深刻なダメージを負ったとしても頭が無事であるならば時間はかかるが修復は可能である…逆に頭をやられた場合は身体の維持が不可能となり、遅かれ早かれ滅する運命になるのだ。

 

 ヒビだらけの身体、立ち込める黒煙…ボロボロの身体になった自分を見て、溜息をつく。相当な痛手を負ったものの、活動は出来る程度の損傷ですんだらしい事にホッとしたのだ。

 

「…しかし、まんまと逃げられたな。魔道具は破壊されたし、破壊されなかったとしてもあの爆風で逃げられていただろうな」

 

 遠くを見やるベルディア。先程まで対峙していた少女の姿は、自らの魔法で吹き飛ばされた後忽然と姿を消し、今は何処にもない。

 

 そして懐を探ると…炸裂魔法を至近距離で受けた影響か、魔道具は根元からポッキリと折れていた。放出していた魔力も今は露程も感じられない。

 

「この調子では、暫くの間は鎧の修復と己の傷を癒す事しか出来ぬ…暫くは城に籠るしか無さそうだな。歯痒いが街への侵攻は少しの間はお預けか」

 

 自らの無事を確認し、愛馬を呼ぶ…何処からともなく現れた首無し馬に跨り、ベルディアは激戦が繰り広げられた戦場を後にする。

 

「…と言う事はまた暫くあの爆裂魔法が城にぶち込まれるのに耐えなければならないのか…もうやだぁ!」

 

 そしてこれから暫く続くであろう爆裂魔法の責めに恐怖しつつ、ベルディアは大声を上げながら帰路に就いたのであった…。

 

 

 ―――

 

 




前衛対後衛の戦闘って難しい…魔法使いソロで前衛に挑むとなると、妨害しつつ大火力を叩きこむスタンスで攻めるしかないですよね。
例えるなら火柱で敵の侵攻を妨害しながら攻撃とか、範囲を凍らせてから雷球叩きこむとか(某MMO感、尚最近の傾向は分からんッス


今回の物語中に登場した原作には無い魔法の解説を。

・ストーンランス

 地属性中級魔法。細長い尖った岩を投槍の様に射出する。
 少ない魔力消費量でそこそこの使い勝手。弾幕等に。

・アースブレイド

 地属性中級魔法。岩の大剣を作り出す。
 自立操作、遠隔操作可能。疑似前衛としても使える。

・アースクエイク

 地属性上級魔法。広範囲に地震を発生させる。
 離れた位置から使用するのがセオリーの為、今回の使い方は自殺行為。
 良い子は真似しないでね。

・ディストラクション

 炸裂魔法。魔法自体は本編にも名前は存在しているが、使用者は居ない筈…
 故に詠唱、及び魔法名称は本物語の創作です。
 (詠唱、名称が本編に登場したら差し替えておきたいかも)


GWも終わり、しゃちくのフレンズに戻ったので最初に述べた通り今後は週一で投稿出来れば良いかなぁ…と。


5/9 一部の誤字修正、表現変更しました。御指摘頂き、有難うございました!

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