この紅魔の職人に冒険を!   作:棘白猫

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第二話

 昼食を終えた我々3人は解散し、自分はこのギルドに来た目的である仕事の依頼について確認する為に受付の方へと足を向けた。昼過ぎである為か、やはり冒険者達が窓口に並んで職員達と何やらやり取りしているのが見受けられる。だが、若干ながら違和感を感じるやり取りだった。

 

「なぁ、もう少し簡単そうなクエスト無いのか?」

 

「申し訳ありません…現在低、中難度のクエストは殆ど出払ってしまいまして…」

 

 受付担当の職員が放つ台詞に、リーダーと思われる剣士風の男は深いため息をついた。

 

「全く、ここ数日こんな調子だよな…仕方が無い、もう少し酒場で待って見るか。ひょっとしたら何か良いクエストが降って湧いて来るかもしれないし、酒でも飲みながら様子見だ」

 

「リーダー、またそんな事言って…でもこの状況なら仕方が無いか」

 

 落胆した顔を浮かべながら、剣士風の男が率いるパーティは酒場の方へと向かって行った。丁度窓口が空いた事だし、自分は引き続いて受付の窓口へと向かう。見知った顔である受付の一人…見目麗しい金髪と豊満な胸部が目を惹く受付嬢のルナに声をかけた。

 

「ギルドへようこそいらっしゃいました。お久しぶりですねぴたーさん、先程酒場のやり取りを遠目で見てましたが相変わらずそうで何よりです」

 

 社交辞令なのか仲の良い友人に声をかける調子なのか判断は付かないが、ルナは親しげに応対をしてくれた。彼女とはお互い新人時代から見知った仲であり、恐らく受付嬢としてはこのギルド最古参の一人であろう。今も昔も冒険者と共にアクセルの街の仕事を斡旋という形で関わっている、顔役の一人と言える。尚、少し昔にルナに付き合って飲んだ時、中々休みが取れないとか出会いが全然ないとかどこぞのOLさんの様な悩みを打ち明けられた事がある。今もここに居ると言う事は残念ながら仕事も恋愛も良い方向に進展して無いのだろう…少し不憫には思えてきた。本当に良い子なのに。

 

 さて、話が逸れたが依頼の話について聞こうではないか。

 

「既に話を聞いてたかと思いますが、ぴたーさんにお願いしたいのは街の近くの調査です」

 

 先程の朗らかな話口調から一転、お仕事モードに突入したルナの口調は真剣そのものだった。それだけ今回の依頼が切羽詰まった話なのだろう。

 

「実を言いますと、ここ暫くなのですが街の周りから弱い魔物等が徐々に姿を消しつつあるのです。恐らくは、近くに強力な魔物がやってきた可能性が高いかと」

 

 ふむ、何となくだがそんな考えは頭に過っていた。王都からアクセルに向かう時の襲撃の無さ、そして昼間から酒場に結構な数の冒険者が屯している事…そう考えると確かに、強い魔物に恐れをなして他の弱い輩が隠れてしまったと考えるのは真実に近いと推測する。その為まともな仕事が無く他の冒険者たちは待機せざるを得ない、と。

 

 そうなると周りはある程度強力な魔物、そして強い魔物が一体以上…確かにこれを調査させるのはアクセルの街の冒険者では荷が重い話だろう。成る程、ふと依頼用の掲示板へ目を向けると高難易度の依頼の多さが眼に付く。先程のパーティの様に、この状態が続くのは駆け出しの街にとって死活問題になる話だ。

 

「従って、ぴたーさんにはどのような魔物が居るのか綿密な調査をして頂きます。余りにも強力な魔物の可能性があるので、討伐までは考えてません」

 

 確かにそうだ。ある程度の魔物なら自分一人で迎え撃てる自信はあるが、これが伝説級の魔物とか魔王軍の幹部等である場合、流石に自分の手に余る。痛手を負わせる事は出来るかもしれないが、確実に命を奪われる羽目になるだろう。自分はそこまで命知らずでは無い、自らの力量は弁えているつもりだ。討伐では無く調査、そうなると大人数のパーティでは逆に相手方を刺激してなだれ込むように討伐へと発展するだろう…場合によってはこの街も戦火が広がるかもしれない。と言う事で、この依頼には少人数のパーティ又はソロ専門でそれなりに実力がある冒険者が必要となる…何となくこちらに御鉢が回った経緯が読めた気がした。

 

 取り敢えず調査期限は1週間とし、手掛かりが掴めない場合は王都から騎士団及び高位冒険者の傭兵集団を呼び掃討にあたる事とした。但し、手掛かりを得た場合でも対応としては王都からの援軍を呼ぶ可能性が高い為、期間中に手配し準備させるという話の流れになった。

 

「有難うございます、ではギルドの方では王都に連絡し、派兵の準備を整えたいと思います」

 

 派兵するにしても相手方の特徴さえ分かれば対応を取る為の装備などで準備がし易い。これは心してかからないと行けないな…。

 

 

 

 ギルドから頂いたアクセル周辺の地図とにらめっこする。先ずは王都方面への道がある平原部…ここは恐らく調査する必要が無いと考えている。馬車に乗っていたときに護衛の為周囲を警戒していたのだが、強力な魔物はおろかジャイアントトード一匹すら居ない平和な風景だった事を記憶している。魔力も何も感じて無いので、やはりここは除外して良いだろう。

 

 逆に怪しいのは森林が広がる方面だ。高難度の依頼書も森林の魔物掃討が殆どだったし、潜伏するには森林と言うのは良い場所だ。そうなると森の奥地か、さらに奥に踏み込んだ湖周辺か、はたまた森とは少し離れているが放置された古城がある地点も怪しい。

 

 いずれにせよ捜索場所は決まった。後はどう調査するかだ…初日は出来るだけ広範囲を捜索したい所。それである程度の目星をつけ、二日目以降はそこを重点的に調査するのだ。そうなると初日は潜伏スキルが欲しくなる。余り辺りを荒らさず、相手方からの警戒を避ける事を考えると盗賊職の協力が必要か。

 

 さて誰に頼もうか…ん、潜伏スキル持ちと言えば…?

 

 

 

 

 

 適度に時間をつぶし、夜の帳が下りてくる頃。

 

 自分は再び冒険者ギルドへと足を運ぶ。木製の扉を開け放ち、一目散に酒場の方へ向かった。お目当ての人物は…いた。茶髪と緑色を基調とした軽装の少年…先程出会ったカズマ君だ。どうやらパーティの皆と夕食をとっている所らしい。こちらとしてはパーティの方にも話を通しておきたい案件だったので非常に都合が良い。

 

 しかしパーティの方はカズマ君以外は皆女性か…しかも皆一様に美人と来た、ハーレムとは羨ましい物だ。おっ、あの特徴的なとんがり帽子を被った黒髪の小さな女の子は…本当にめぐみんがいる。楽しそうに笑みを浮かべながら唐揚げを平らげている所を見ると、本当にこのパーティに気を許しているのだなと感じた。良いパーティに拾われたな、めぐみん。

 

 さて、こちらも話を付けるとしよう。と言う訳でカズマ君に一声かけてみる。

 

「あ、昼間の…ぴたーじゃないか。お前もここで夕飯か?」

 

 肯定である。何だかんだでここの飯が楽しみだから、偶に寄る時くらいは腹一杯食べておきたい訳なのだ。それはさておき、生憎酒場の席は何処も埋まっている様だから、相席を希望しても良いかと尋ねた。

 

「あぁ、もちろんいいぜ」

 

 了承を得られたので、お言葉に甘えて…席に座る前にパーティの面子を見渡すと、皆カズマと自分の方へと視線を向けている。まぁ、見ず知らずの幼い女の子と親しげに話している地点で何だコイツ等はと思うのは致し方無しだろう。

 

「か…カズマさん…アンタ、いくらヒキニートでモテないからって遂にそんな幼い女の子にまで手付けてるの…流石にそれは私も引くわー」

 

「ちげぇし! 勝手に人をロリコン扱いするんじゃねぇ!」

 

 水色の髪が目を惹く美少女に引かれたカズマ君は必死に弁明を始める。しかしこの少女、何処かで見た記憶があるのだが…うむ、思い出せない。

 

「ぴ…ぴたーじゃないですか!? なんでこんな所に?」

 

 赤い瞳を大きく開き、信じられない物を見た様な口調で語りかけるは紅魔族の少女、めぐみんだ。近所に住む魔道具職人であるひょいさぶろーさんの上の娘で、類稀ない魔力を持つ天才児だと里では評判だった。めぐみんに会う為に来た…なんて冗談を言いたい所だがぐっと我慢して、正直に仕事の為アクセルに一時的に滞在すると言っておいた。後久しぶりに会えて嬉しいとも。

 

「そうですか…私も久しぶりに会えて嬉しいですよ、ぴたー」

 

 はにかみながら答えるめぐみん。うん、やっぱりこの子可愛い。何と言うか親戚の姪っ子を見る様な気分になる。

 

 余談だが、近所に住んでるこのめぐみんと、族長の家の娘さんは私的に姪っ子扱いしている。そこは妹みたいに思えという意見もあるだろうが、可愛がる位に目をかけているものの深くまでは踏み込まないと言う距離感を表現するには姪という表現が適切だと思う。何分19歳プラスアルファの中身だ、どうしてもそう言う風に見えてしまう。昔は二人ともおねぇちゃんと慕ってくれてたけど最近は片や少し扱いが雑になり、片や照れて昔の様に甘えてくれないのが悩みだ。流石に二人とも自分より見た目は大きくなってる訳だし、思春期に入ってるからこういう反応も仕方が無いと割り切ってはいる。非常に悲しいのは確かだが。

 

「あ、ぴたーに皆を紹介しますね。カズマは…何でも先程会ったらしいじゃないですか。聞きましたよご飯を奢って貰ったって」

 

 だから私にも今度奢って下さいとちゃっかり最後に付け加える。まぁ機会があったらいつでも。

 

「今カズマに噛みついてるこちらの青い髪の人はアクア。アークプリーストをやっています。特技は宴会芸です」

 

 宴会芸が特技のアークプリーストとはこれ如何に?

 そんな視線に気が付いたのか、カズマ君との喧嘩を一時中断したそのアークプリーストはこちらを向いてニコリと笑みを浮かべる。

 

「そう、私こそが美しきアークプリーストのアクア。しかしてその実態はアクシズ教の水の女神、アクア様よ!」

 

 一様に流れる沈黙。カズマ君もめぐみんも、金髪の騎士風のお姉さんも皆可哀想な子を見る目で見ている…多分自分もそんな目で見ていたのだろう。

 

 しかし女神…あ、そう言う事か。この人は確かあの時…自分が死んだ後に会ったゲームガールで遊んでた女神だ。あれから20年近く経っても当時と全く同じ姿と言う事は確かに女神なのだろう…しかし、仲間内からぞんざいに扱われているのを見ると、そう接するのが正しい気がした。取り敢えず、彼女の事は敬意(と僅かなおちょくり)を込めてアクア様と呼ぼう。改めて宜しくお願いします、アクア様。

 

「何だろう、何か様付けされても釈然としないけど…まぁいいわ、貴方にも私の神性が伝わったと思うし!」

 

 コロコロと表情を変えるアクア様は何と言うか、人を惹きつけるカリスマの様な何かを感じさせた。そう言う部分は成る程、確かに女神の神性と言えるのかもしれない。

 

「そしてこちらにいる騎士の方はダクネス。クルセイダーをやっています」

 

 最後に紹介されたのは艶やかな金髪が美しい女騎士だ。紹介を受けて生真面目そうな顔で一礼をしてきたのでこちらも返礼する。そう言えばこの人も何処かで見た気が…こういう場所で無く、確か王都でちらりと見かけた気が。

 

「ダクネスと言う。職業は見ての通りクルセイダーだ。ここでは主に盾役として日々ボロ雑巾の様に扱き使われている…ぴたーと言ったか、どうかよろしく頼む」

 

 これはどうもご丁寧に。見た目通り凛とした佇まいで誠実そうなお姉さんだ。クルセイダー…聖騎士という職は伊達ではないと言う事か。ボロ雑巾の様に扱き使われている、という表現は少し引っ掛かるが。

 

「しかしぴたーか…いや何、最近腕の良いアクセサリー形式の魔道具を作る職人がぴたーという紅魔族だという話を聞いたから、まさかとは思うが」

 

 恐らく自分の事で間違いないだろう。良い機会であるし、自分の紹介も兼ねて手持ちの作品を数点卓の上に並べてみる。手持ちにあったのは星をモチーフにしたミスリル製のチャームだ。一時的に所持者の運勢を高め魔法抵抗力を上げる一品。中々の会心作である。

 

 作品を並べると4人とも一応にそれを見やる。特にめぐみんとダクネスさんの食い付きが良い。

 

「相変わらず良い物を作りますね…魔道具職人というならば本来はウチの父親の商売敵なのですが、これは素直に欲しいと思ってしまいます」

 

「確かに…私はこういう魔道具には疎いが、やはり良い品だ。以前御父様からぴたー作のユニコーンの涙を加工したイヤリングを買って貰ったが、あれは今でもお気に入りだ」

 

 愛好者の方でしたか。それは御贔屓にして頂き、誠にありがとうございます。こういう商売は愛好者やリピーターの皆様によって支えられている部分があるので最大限の感謝を込めて礼をする。

 

「いや、私の方こそ感謝したい。これからも良い品をたくさん作ってくれ」

 

 自分は冒険者でもあるがどちらかというと冒険者家業は副業で、本業はアクセサリー職人の方だと自負している。ダクネスさんの様なお客様の期待に応えられるよう、これからも日々精進していく次第でございます。

 

 しかし、ユニコーンの涙を使ったイヤリングは正直かなり値が張る品だが…金髪と言いこの人は実は貴族…そういう事なのかと一人納得した。以前王都で魔物の軍勢を撃退した時、そこのパーティ会場で見たと思ったらそう言う事か。境遇に付いては理解したが多分この方はそう言うのを隠していると思われる。ならばここは何も言わぬが吉か。

 

「ところで…この魔道具は抵抗力を上げるらしいが、逆に抵抗力を下げる魔道具もあるのか?」

 

 抵抗力を下げる魔道具か…手持ちには無いが、作れなくは無いと考えている。材料が特殊になるが、魔性を秘めた素材…例えば悪魔の角とか不死王の骨とか、そう言うのを呪術的な影響に注意しつつ加工すれば恐らく出来なくはないだろう。

 

「本当か! ならば装備すると時間と共に抵抗力がだんだんと落ちて行く魔道具とか欲しいのだが! 形状は首輪、鎖が付いているとなお良い! 装備すると程良く締め付けられ物理的な防御力と魔法的な防御力が徐々に落ちて行き、それと共に段々と痛みを感じて行く…これを無理矢理付けられ最初は抵抗するものの段々と感じる甘美な痛みに感じる様になり段々と癖になっていく…あぁ…想像するだけでワクワクしてくるぞ!」

 

 うわぁ…これは凄い。鼻息荒く魔道具のオーダーについて力説するダクネスさんは色々な意味で輝いていた。

 

「おいこのド変態クルセイダー! 何いたいけなお子様に変な事吹き込んでいるんだ!」

 

「何を言うかカズマ! 私はぴたーに欲しい魔道具の注文をしているだけだぞ!」

 

 自分はいたいけなお子様では無い故に話の内容は理解しているのだが…流石に脳がこの展開に追いつけて無い。材料が材料だし、試した事が無い話故直ぐには難しい。いずれ時間が出来たら試してみようと言う事で、先ずはこの話は打ち切って置いた…でなければ恐らく収拾がつきそうにない。

 

 この後は初対面の人も居た事だし紅魔族の挨拶を行ったが、これについてはカズマ君には既に見せたし同じ事を二度やったので詳細は割愛したい。これまた余談だが、めぐみんが『銀火を操り輝きを紡ぐ者』という表現が非常に良いと太鼓判を押してくれた。実に紅魔族らしい響きがお気に召したとか。

 

 夕飯が席へと並べられ、カズマ君達と一緒に舌鼓を打つ中、この席にわざわざ赴いた目的を切りだす事にした。

 

 内容とはズバリ、明日一日だけカズマ君を自分の依頼に連れて行く事。主に潜伏や敵感知スキルによる索敵の補助をお願いしたいのだ。

 

「構わないけど…ぴたーが受ける依頼ってかなり危険な奴じゃないのか?」

 

 仰る通り、依頼は街の近くに潜んでいると思われる強い魔物の捜索…正直に言うと危険度はそれなりにある仕事だろう。だが危なくなったら直ぐ逃げる準備は整えてるし、そちらのパーティから借りる人材―カズマ君の安全を優先する事は約束する。

 

「強い魔物だって? ならば私はどうだ、カズマとぴたーの盾になら喜んでなるぞ! むしろさせてくれ!」

 

 魔物と戦う事は目的では無い為、そうなる事は無い…戦闘になりそうなら撤退するのだ。申し出は有難いが少数でやらせてほしい、と言うか欲望ダダ漏れですダクネスさん。あぁそんなにガッカリしないでほしい…目に見えて覇気が無くなったダクネスさんを見ると心が痛む。たとえその目的が屈強な魔物に嬲られる事だとしてもだ。

 

「うちのカズマさんを貸す訳だから、当然見返りはあるのでしょうね?」

 

 アクア様が何故か上から目線で問い詰めてきた。無論、それについては見返りを用意するのは当然だと考えている…具体的には今回の仕事の報酬の1割をカズマ君達に渡そうと思う。

 

「因みに報酬って…?」

 

 受け取る報酬は200万エリス、1割だから今回の仕事に協力して頂けたら20万エリスを渡すことになる。必要なら手持ちから前払いするのも吝かでは無い。

 

「よしやろう! やらせて頂きますぴたーさん!」

 

 カズマ君が立ちあがり、斜め45度の綺麗な礼をしながら請け負う事を約束してくれた。

 

「ちょっと、カズマさんそんな安請け合いして大丈夫なの!?」

 

「一日だけだし、安全を約束してくれるなら幾らでも敵感知なり潜伏なりしてやるぜ!」

 

「でもこの子こんな子供だし…大丈夫なの?」

 

「少なくとも、ぴたーなら私達より相当強いと思いますよ。私が子供の頃に冒険者始めた訳ですから修羅場は色々潜っているらしいですし、王都でも凄腕の傭兵アークウィザードとして名を上げていると聞きました」

 

 カズマ君もダクネスさんもコクコクと頷く。カズマ君には先程冒険者カードを見せたし、ダクネスさんは恐らく王都での活躍を耳にした事がある筈だ。

 

「うぅーっ…」

 

 他の方々の了承は得られそうだが、どうもアクア様が最後の砦として立ちはばかっている。何か不安やら不満があるのだろうか?

 

「私に対する見返りがない!」

 

 何とも即物的な不満だった…ならばカズマ君を一日借りる代わりに先程酒屋で買ってきた高級シュワシュワを一本奉納させて頂きたく。

 

「よしカズマ、明日一日頑張って働いていらっしゃい!」

 

「手の平返すの早っ!?」

 

 物凄く良い笑顔でシュワシュワの瓶を受け取り、上機嫌にラッパ飲みしながらアクア様はカズマ君の同行を許可してくれた。予めカズマ君から飲むのが好きな駄女神という話を聞いていたので、賄賂代わりに一本仕入れてきたのだがまさか功を奏するとは思いもしなかった…たとえ依頼が円満な方向に向かっていても折角だし渡すつもりではあったが。しかしカズマ君の扱いはシュワシュワ一本並か…こちらも渡した手前何も言う事は出来ないが、少し不憫に思えてきた。

 

「ぴたーなら問題ないと思いますが、どうかカズマを宜しくお願いしますね。こんな男ですがそれなりに機転は利きますし最悪弾避け位には役に立つと思います」

 

 めぐみんなりにカズマ君を褒めてるのだろうか、つっけんどんに話す割には妙な信頼を感じる。

 

「ともあれ、予めこの様に私達にも了承を取ってくれるのは有難い。こんな男でも勝手に連れていかれると色々とこちらも心配するし、そう言う点では貴方は信頼できそうだ」

 

 ダクネスさんの思惑は尤もである。パーティのメンバーを借りると言う事は色々とトラブルの種になりがちである為、自分としてはこういう対応するのが礼儀であると考えている…個人的にカズマ君のパーティに一度接触して見たかったと言う事もあるが。しかしカズマ君、何だかんだでパーティの皆に慕われているな…流石は司令塔と言うべきか。

 

「まぁ精々頑張って稼いで私を楽させる事ねカズマ」

 

「あのなぁ…この20万エリスはキャベツの報酬と合わせて馬小屋脱出の為の資金にするぞ、もうそろそろ馬小屋脱出してせめて宿暮らしにランクアップしたいんだよ」

 

「分かってるわよー、そろそろカズマさんも夜位は人目が無い所でゴニョゴニョしたいだろうし」

 

「お前言うに事欠いて何言い出すんだよ!」

 

「ぴたー気を付けるのよ、このロリマさんはゲスだから貴方みたいな可愛くてちっちゃな子は夜のオカズにされちゃうんだからー…ってわぁぁぁぁっ!?」

 

「こんの駄女神がぁぁぁぁ! 勝手な事抜かすんじゃねぇぇっ!」

 

 ケラケラ笑いながらカズマ君を揶揄するアクア様に対し、カズマ君は怒りの形相でアクア様が手にしている酒瓶をひったくろうとする。攻める者が攻められる者になり、とたんに涙目になりながらアクア様は酒瓶を死守し始めた。本当に表情が変わるのが早い…少し見てて楽しいが、僅かに雲行きが怪しくなってきた。

 

「ちょっと止めてよカズマさん! このシュワシュワは女神に奉納された御神酒なんだから勝手に取らないでよ!」

 

「うるせぇ! さっきから好き勝手言いやがってこいつは…何かすげー腹立つからその酒寄越しやがれ!」

 

 そう言ってカズマ君は何やら片手をアクア様に向かって差し出す。何やら只ならぬ予感がする…止めに入った方が良いだろうか。いくら乱痴気騒ぎが花である酒場であろうとも、そろそろ双方共に矛を納めないと色々と不都合があるだろう。なので取り敢えず二人の間に割って入ることにする。

 

 カズマ君は恐らく脅しの為に初級魔法か、若しくは直接酒瓶を狙うべくスティールをしてくるのだろうか。それならばどちらが飛んで来ても大丈夫そうだ。魔法なら抵抗は出来るだろうし、スティールされたとしても盗られて不都合な物は持ってない筈。戦闘で使用する武器等の装備は別の所に置いて来てあるし、財布の中も今はそこまでのお金は入っていない。万一盗られても、そこまで支障は無いと考えている。強いて言えば商品にする予定のチャームがあるが、それなら今そこの卓上に置いたままだ…手持ちには無いという扱いなので、恐らくスティールで懐に収められる心配は無いと思う。

 

「あっ、ぴたー待って下さい! カズマはこの調子だと多分…」

 

「スティール!」

 

 めぐみんの制止の声と同時にカズマ君の手の平が輝きだす!一瞬で収まったその光…アクア様が必死になって抱えている酒瓶は、そこから無くなってはいない。

 

 そうなると盗られたのは自分の方か…何を盗られたのやら。

 

 身につけている物で盗られそうな物としては、月をモチーフにした手製のネックレスがある…。だが盗られている様子は無く、首に身につけられているのを確認した。後は財布か…ちゃんとある。中身を改めたが、1エリスたりとも無くなっていない。

 

 と言う事は失敗したのか、やっぱりアクア様から何か盗んだのか…しかし何だろうか、この妙な違和感は。

 

 言うならば、何時も身につけている何かを突然失ったかのような喪失感と、下半身が何時も以上に外気にさらされている妙な不快感…。

 

「か…カズマさん…それはちょっと私も擁護出来ないと思うの」

 

「貴方はそこまで堕ちてはいないと思いましたが…」

 

「やはり私の目に狂いは無かったようだ。めぐみんに飽き足らずさらに小さな子にまで手をかけるとは恐れ入った。この次はぜひ私に仕掛けて欲しい!」

 

 三者三様の反応。そしてカズマ君の手に握られていたのはどこか見覚えがある白い布…。

 

「…お子様ぱんつだ。って!?」

 

 手にした白い物の正体を確かめた後、事のまずさに気が付いたカズマ君は必死に弁明を始めた。

 

「い、いや違うぞこれは。これは不幸な事故なんだよ…本当だって!」

 

 成る程、違和感の正体が分かった。そういうことなのだね。そのスティールの精度は見事と言わざるを得ない。

 

 さてカズマ君、流石にそれは君が持ってはいけない物だ。先程から酒場にいる女性陣の刺す様な目…どころか汚れた塵を見る目になっている。自分は特に怒ってはいない。割り込んだこちらにも非はある。だがそれを公衆の面前で手にし続けると言う事は、君は社会的に抹殺され兼ねない事態になるという事だ。一応自分は年齢的には成人と言える…だが、見た目はこんな幼い子供なのだ。他の若い子ならばただの助平な犯罪者で済むが、自分のそれを盗むと言う事は助平な犯罪者でおまけに幼い少女にいかがわしい事をするロリコン呼ばわりされても仕方がないと言う事を。だから早くそれを渡したまえ…おいちょっと待て、どさくさに紛れて懐に入れようとするのではない。

 

 周りの視線と手にしたそれの所為で気が動転しているのか、相手方の反応はどうも鈍い…我に返す為、気付けが必要か。

 

 ならば仕方がない、あまりこの手は使いたくなかったが最終手段…禁呪を使うしかあるまい。

 

 目は僅かに涙を湛え上目使い。両手は軽く握り胸元に添える様に…そして僅かに身体を震えさせる。普段使う筈もない可愛らしい小声の準備も整った…さぁ受けよ、我が禁呪を。

 

 ―カズマおにいちゃんの、ヘンタイ。

 

「だから事故なんだってばぁぁぁっ!」

 

 静まり返った酒場にカズマ君の必死な弁明の声が響き渡った…。

 

 




 カズマパーティ顔合わせとパンツスティール洗礼回。これがあってこそのこのすばだと思います。後涙目になるアクア様とカズマの夫婦漫才とか。

 次回からは戦闘等もちょくちょく入る為、色々とオリジナル要素(魔法等)が入ってきますが、成るべくこのすばの雰囲気を損なわない様気を付けて書ければと思ってます。
 GW中に1話くらい書ければ…いいなぁ。

 後、沢山のお気に入り登録、感想、批評含めた評価等、感謝感激です!
 割と小心者なので嬉しいと同時に震えてます…期待に応えられる様精進せねば。

5/4 誤字修正しました。御指摘頂き有難うございました!

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