この紅魔の職人に冒険を!   作:棘白猫

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第一話

 時の流れとは早いものである。紅魔の里にて魔法の修業をし、卒業後直ぐに里を発ち、冒険者をしながら魔道具職人の腕を磨くという二足の草鞋を履き続け…あれから数年が過ぎた。

 

 自分は今、馬車に揺られている。カラカラという車輪の音、そして馬の蹄のパカパカという音を聞きながら、草原地帯の遠く果てを眺めている…。

 

 そして暫くした後、ぐるりと街を覆う石の外壁が見えてきた。数日掛かった道中の終着点、雇われ先である商隊の目的地…駆け出しの街『アクセル』だ。王都から食料品の買出しに出た商隊の道中における護衛任務についたものの、終ぞ魔物の襲撃が無く気ままな小旅行の様な道程であった。

 

「いやー、王都の方では最近襲撃が頻繁に起こってるから警戒してたものの、何事も無く終わって拍子抜けでしたなぁ」

 

 穏やかな顔で語りかけるはこの商隊のリーダーとして取り纏めを行っている壮年の男性だ。拍子抜けなのは確かだったため、そうですねと相槌を打つ。

 

「本当は帰りもぴたーさんには付いて来て欲しかったのですが、用事があるのでしたら仕方ないですね」

 

 それに関してはこちらの都合もある為、中途半端ではあるが申し訳ないと断りを入れておく。今回この商隊に同行したのは、アクセルの街に用があるからだ。自分が作成した商品を置いて貰っている店へ顔を出すのと、調査の依頼でアクセルの冒険者ギルドに寄る必要がある為、自分の同行はここまでとなる訳である。

 

 程無くして商隊はアクセルの街に辿り着き、各々が馬車を留めて買出しの準備を進めて行った。

 

 自分も降りる支度をしよう…畳んであった赤いコートを白いブラウスの上から羽織る。ずっと座っていた為、黒い膝上の長さのスカートを軽く掃い、壁に立て掛けていた鞄を手に取った。

 

「これが片道の分の報酬です。また機会があったら、宜しくお願いしますね」

 

 片道の護衛料を商隊のリーダーから受け取り、自分も街へと降り立った。今回は魔物の襲撃は起こらなかったと言う事で特別な手当などが無い為頂けた報酬は少ない…が、王都からこの街までの距離を考えると無料で馬車に乗せてもらえるだけ有難い話だ。

 

 報酬の入った革袋を懐に収め、外壁周辺から街中央の商店街の方へと足を向ける。街の中央を流れる川では子供たちが魚獲りをして遊んでいる。石畳を歩く御婦人に元気良く声をかけるは配達人の若い男性。少し離れた郊外では田畑を耕す初老の男性が汗を流し、街の外である外壁の周りでは今日も精悍な男達が日に焼けながら壁の外壁を繕う仕事を行っている。

 

 魔王の支配下からかけ離れた片田舎の街、アクセルは今も平穏そのものであった。

 

 そんな街を自分はノンビリと歩いている。ここ暫くは冒険者としての依頼だったり商売人としての商談だったりと心休まる日が殆ど無かった為、休日の昼下がりの様な面持ちで巡る。とは言え、ここに来た目的は依頼であったり商談であったりするのだが…この長閑な空気がそうさせるだろうか足取りは軽く、恐らく自分の面持ちは穏やかであったのだろう。

 

 石畳が敷き詰められた商店街のとある目立たない一角に足を踏み入れ、目的地である店の前で足を止める。木製の扉をギィと開くと、来店を告げるベルの音がチリンと鳴り響く。

 

「いらっしゃいませー。あっ、ぴたーさんじゃないですか。お久しぶりですね!」

 

 店の奥の方から可愛らしい声と共に現れたのはこの店の店主である女性、名をウィズと言う。自分の姿を確認した後、少し顔色が悪いとも表現出来る白い陶器の様な肌は若干ながら紅が差している様にも見受けられる。表情も緩んでおり、嬉しそうな顔だ。

 

 この店に来たのは1年ぶり位だろうか。かつてこの街を拠点にしていた頃は頻繁に顔を合わせる位の常連になっており、街から離れた後もアクセルに寄る際にはウィズの店に行く様にしている。とは言え店に来ても買い物をする事は稀だ。ここに来てはウィズの話し相手という雑談をするのが常であった。

 

 そして今日は久しぶりに雑談をしに来たのもあるが、要件は別の話…自分が置いた魔道具の売れ行きの話をしに来たのだ。

 

「ぴたーさんの商品ですよね。えぇ、店に置いて程無くですが銀の指輪とネックレスは全部売れたのですよ!ですが…」

 

 嬉しそうに売行きを報告するも最後の方は少し言い淀むウィズ。

 

「私がイチオシだと思う精霊銀製のマナタイト魔法増幅機構付き指輪とステータス異常を全予防する竜石のイヤリングは売れる気配すら無いのですよ…」

 

 そう言ってウィズは悲しそうな顔で店のショーケースに陳列されている自分の作品…指輪とイヤリングに目を向ける。しかし、正直な話この展開は予想通りだ。個人的には銀の指輪とネックレスが全部売れただけでも御の字である。

 

 このウィズという女性…元は高名なアークウィザードだけあって商品の目利き等は優れていると思われる。だが、それを商才として活かす事が全く出来ていないのだ。

 

 今回この店に置いた銀の指輪とネックレスは、魔道具だけあり多少の魔力増幅効果等はあるのだが、どちらかと言うと一般の方がお洒落の為に身につける事を想定した品物だ。従って材料費含め値段もそれなりに手が届き易い価格である。日頃お世話になった方へのプレゼントのような感覚でお求め出来る代物と言えよう。

 

 そして売れ残った商品は…超が付くほど高級な素材、作成の為に用いた魔力や労力と言った人件費を考えると、売れた指輪やネックレスの数百倍位の値段設定にしなければならない。それこそ王都等で取り扱えば貴族や超一流の冒険者ならば手が届くだろうが、少なくとも駆け出し冒険者が多いこの街では間違い無く手出しが出来ない代物と言えよう。

 

 この商品を見せたウィズはこれは絶対売れます!と意気込んでいた。最初は断ったのだが…謎の熱意と友人の頼みと言う事で、取り敢えず置くだけ置く事にしたのだ。案の定だが。

 

 そういう品物ばかり…駆け出しにはどう足掻いても手が届かない高級品や用途不明の欠陥品ばかり取り揃えるこのウィズ魔道具店は、ある意味でアクセルの名物となっている。使えない物ばかり取り揃えている美人店主がいる店、と。店主の美貌のお陰で客足はそれなりにあるのだが、それだけで売上に結び付く事はほぼ無いのだ。

 

 この結果は分かってたので気にしないと告げるとウィズは悲しそうな顔をしていた。

 

「ですけど、こんな良い物を作るぴたーさんの実力が否定されている様で…悲しいじゃないですか」

 

 んー…そういう話か。一応言いたいが、これ相応の作品は王都では毎度毎度ではないけど売れてはいるのだ。どう見てもこれが売れない理由は立地条件以外に見受けられない。

 

 そう言いたいけど、ウィズの沈痛な面持ちを見ると言い切れない。この女性は商売人をするには優し過ぎるのだ…。凄腕と称される魔道士であるウィズに自分の作品が認められているだけでも有難いのだと伝えると、幾分かその表情には笑顔が戻った。頑張って売りきって見せますね、と張り切っているが…多分徒労に終わるであろう。期待しないで待つと笑いながら答える事にした。

 

 さて、売れなかった商品は置いておくとして売れた分の取り分を頂く事にしよう。そう言うとウィズが少しお待ち下さいと言って店の奥に向かう…所で突然バタリと倒れ込む。只ならぬ雰囲気を感じ慌てて倒れたウィズの所へ駆け寄ると…控えめな腹の虫の音がくぅと聞こえてきた。

 

「あ…すみませんご迷惑をおかけして。何分ここ数日間砂糖水だけで生活してたものですから…」

 

 数日間砂糖水だけで生活、というどう見ても倫理的に不味い事を口走るウィズ。赤貧が続いていると聞くが、これほどまでに生活が追い詰められているとは…

 

 ウィズに関しては飯を食わずとも死ぬ事が無い、という事は知ってはいるものの人として飯を抜かす日々が続くのは不味い。肉体は大丈夫でも確実に精神が摩耗される。自分もかつて…こちらの世界に来る前だが、若気の至りとか仕事の成果が中々結びつかない為収入が殆ど無い時に飯抜きの生活をしてきたが、あれは不味い。相当に心が荒む。

 

 取り敢えず自分の取り分は一先ず預けておくから生活費の足しにして欲しい、余裕が出来た時に渡してくれれば良いと言ったらウィズに泣きそうな顔で抱きつかれた。

 

「ありがとうございます…本当に助かります…!」

 

 体格的にもウィズの方が大きい為視界が真黒だ…同性から見ても柔らく大きい胸がしきりに顔を覆っているが、こればかりは役得と言うしかあるまい。

 

 

 

 

 遠慮するウィズを引き摺る様にして向かった先は冒険者ギルドだ。とは言え一先ずの目的地はギルドに併設されている酒場、様は遅めの昼食を取るためだ。

 

 ギルドの扉を開けると、開けた広間が見える。向かって右側のカウンターには冒険者たちの対応をしているギルドの受付員達がせわしなく働いているのが身受けられた。

 

 さて、そちらに向かうのは後回しとして先ずは昼飯である。未だ悪いですよ、とか大丈夫ですと言い張るウィズの手を引きながら案内されたテーブル席に座らせた。

 

 昼が若干過ぎてるとは言え、未だに酒場では多くの冒険者達が屯しており各々が酒を飲みながら仲間内でくだを巻いている。何時来てもここは変わらないなと実感した。

 

 無理矢理座らせたウィズにメニューを押しつけて自分も何を頼むか思考する。色々な土地を渡り歩いて来たが、ここの酒場の飯は非常に美味しいので知らず知らずの内に顔が綻ぶ。自分のオーダーが決まったので前を見ると未だに遠慮がちなウィズ。自分が奢るから好きなのを頼むと良いと言うと観念したのかありがとうございますと言いメニューに顔を向けた。

 

 程無くして店員を捕まえ注文をする。お互いの食べたい物と二人で摘む為の一品料理を何品か、飲み物はネロイドを二つ頼む事にした。

 

「何か色々と申し訳ありません…売り上げの事からお昼までご馳走になっちゃって…」

 

 それに関しては何、気にする事は無いと言う。こちらも冒険者の駆け出し時代に相談に乗ってくれたし、魔道具作りの時も効果の確認等で今も世話になっている。持ちつ持たれつだ。

 

「そう言ってくれると嬉しいですね…ですが」

 

 そう言いかけたウィズがキョロキョロと辺りを見回す。

 

「何か小さな女の子にご飯奢らせている様で、ちょっと落ち着かないですね…」

 

 確かに周りを見ると、少しこちらを見る目が奇異な感じはしないでもない。片やアクセル名物の美人魔道具店主、知らない人は恐らくこの酒場の中には居ないのではないだろうか。

 

 そして自分…ギルドの受付嬢等には知っている顔がいるが周りの冒険者たちは恐らく自分の素性を知っている人は居ないだろう。印象としてはただの幼い少女という位だろうか。

 

 そんな少女がウィズにご飯を奢っている…うん、何も知らない人から見れば店主さんもそこまで生活困っているのかとしか見る事が出来ないだろう。聞き耳を立ててみると今現在の酒場に居る連中の話のタネは我々の関係だ。やれウィズの妹だとか隠し子だとか実はロリババァであっちがウィズの母とか好き勝手言ってくれている。後ちらほらとロリっ子可愛いとかお兄ちゃんと呼んで貰いたいとか今晩はあのお店に行って店主さんとあの子の合わせ技で頼んでみようとか、良く分からない意見も散見される。

 

 確かに落ち着かないものである…仕事も有るし昼ご飯はササッと済ませるのが吉か。

 

「あれ、ウィズじゃないか。こんな所に居るなんて珍しいのかな?」

 

 声の方をふと見ると、いつの間にかそこには一人の少年が立っていた。

 

 我々の方…ウィズを見て物珍しげに声をかけるその少年は、緑色を基調とした軽装の冒険者の格好をしている。腰に帯びている短めの剣を見る限り、盗賊職の方だろうか。そして少年を特徴付ける容姿として茶色の髪と瞳が目を惹く…それはかつて自分が居た世界の人を彷彿とさせている。

 

「カズマさん、でしたっけ。その節は有難うございました」

 

「いいっていいって、あの勝手に突っ込んできた狂犬女神が悪いんだから気にする事ないさ」

 

 若干ぎこちなくもどうやら両者は顔見知りであるようだ。そんなウィズと少年のやりとりをジッと見つめるとこちらの視線に気が付いたのか少年が声をかけてきた。

 

「そういやウィズ、この子は?」

 

「私のお店に置いてある商品を作っている職人さんの一人ですよ。冒険者もしていて今日はこのギルドにも用があるらしく、お昼御飯を奢ってもら…御一緒しているのですよ」

 

 流石に奢って貰うと言うのは色々と不味いと察したのか、慌ててウィズは言い直す。

 

「こんな小さな子がねぇ…ん、この子、黒髪で眼が赤いってことは?」

 

「えぇ、紅魔族なのですよ」

 

 どうやらこの少年は紅魔族を存じているらしい。ならば…

 

 椅子から立ち上がり、眼に力を込めて紅く灯す。

 右手に力を込め、思いっきり横へ薙ぐように振り回す…本来ならばここで魔法による強風を起こすが、室内だし他の客の迷惑にならない様加減して、背中から吹き抜ける様な追い風を中級魔法である『ウインドカーテン』を使用して起こす。巻き起こる風によって、羽織っているコートの裾がパサパサと音を立てて靡いた。余談だが、街中では上級魔法を使用するのは御法度である為使用には注意しよう、自分との約束だぞ。

 

 さて、御膳立てはこれ位で良いだろう。風に乗せて自慢の肩まで届く位の長さの黒髪を靡かせ、これ見よがしに深紅の瞳を輝かせる…そして、厳かに言葉を紡ぐ。

 

 ―刮目せよ、そして刻むが良い

 

 ―我が名はぴたー、紅魔より出でしアークウィザードにして、銀火を操り輝きを紡ぐ者なり!

 

 呆然とする少年、そして同じ様に呆然とする酒場の客と従業員達。

 

 紅魔の名乗りはこれくらいで良いだろう。泰然とした身なりを直し、アクセサリーを主とした魔道具職人兼アークウィザードである事を普通に告げて慇懃に礼をする。

 

「お…おぅ…」

 

 紅魔族を知っていてもこういう名乗りは慣れていないのか、どこか居たたまれない表情をする少年をとりあえず同席させることにした。

 

「いやぁ、本当に紅魔族ってこういうのなんだなーって今更ながら実感してさ。ウチのやつが頭おかしいだけなのかと思ってたんだよ」

 

「あはは…」

 

 頭おかしいとは心外ではあるが、成る程、どうやらこの少年の所属するパーティに紅魔族が所属しているらしい。

 

「それじゃあ改めて、我が名はカズマ、このアクセルで冒険者をしている者ってな。よろしくなぴたー」

 

 これはこれはご丁寧に。わざわざ名乗りを合わせてくれるとは思って無かったので、ついついぺこりとお辞儀をしてしまった。

 

 中々ノリが良さそうな少年だった。カズマ君の差し出した手を握り返し、取り敢えず何か頼めばいいと告げておく。

 

「え、いいのか?」

 

 元々はウィズにご馳走するつもりだったし、一人二人ならそんなに変わらない。常識の範囲程度で好きに頼んで欲しいと告げるとカズマ君は満面の笑みを浮かべて礼を言ってくれた。

 

「いやー有難い。今日も一日荷物背負って歩き詰めだったから腹が減っててさー」

 

 成る程、ギルドの仕事の帰りだったのか。まだ若いんだし冒険者は身体が資本なのだからどんどん食べると良い。

 

「しかしなぁ…幼女に奢って貰うのは少し心苦しいかんじもするなぁ」

 

 さっきのウィズと同じ事を言うカズマ君に対し、折角なので自分の冒険者カードを見せておく。それを手にしたカズマ君はしげしげとカードを眺め始める。

 

「レベル48…え、こんなにレベル高いのか…おっ、アクセサリーの職人だけあって魔力知力以外に器用さが滅茶苦茶高いな…ってちょっと待て!」

 

 カードの一端を見たカズマ君は突如声を上げた。その顔には驚愕の表情しか浮かんでいない。

 

「このロリっ子な見た目で19歳なのか!?10歳の間違いじゃないのか!?」

 

 今明かされる驚愕の事実…と言う訳ではないが、予想通りのリアクションをしてくれて少し気分が良くなる。そしてカズマ君の大声によって知らされた事実に酒場も妙に沸き立つ。

 

 如何にもその通り。当方、正真正銘、花も恥じらう19歳である。但し元いた世界の分を合わせると精神的な年齢は19歳どころではないがそこは言わぬが花と言う奴だ。

 

「合法ロリだ…」

 

「合法ロリだよ…」

 

「やっぱり合法ロリじゃないか興奮する」

 

 合法ロリの連呼と来たか…色々言いたい事はあるが、ここは気持ちを抑えてさらりと聞き流す。だが興奮してるそこの旦那、流石にそれは自分も引く。

 

「流石に驚いたけど…異世界ならばこういう話もあるのか」

 

 ひとしきり驚いた後、妙に冷静な顔付きでカズマ君は一人で何やら納得していた。そう言えば今、ちらりと異世界という単語が聞こえた気がする…見た目から察したが彼も又ニホンジン、即ち元は我々と同じ世界の者だろうか。とは言え、まだ知りあって間もない身の上故に聞くのも野暮だから深くは突っ込まない事にした。いずれ機会を見て故郷の話が出来れば良いが、その時を楽しみにしよう。

 

 さて、そうこうしている内に料理が出来上がり我々の卓に次々と運ばれて行く。昼もそこそこ過ぎていい加減空腹を感じてた為、出来たての料理の香りが鼻と胃袋を攻め立ててくる。

 

 それからは3人で仲良く食卓を囲む。特にウィズはうっすらと涙を流しながら一口一口を噛み締めていた…何と言うか、無理やりにでも連れて来て本当に良かったと心から思う。

 

「本当に美味しいです…固形物を食べたのはもう数日ぶりで…」

 

「そ、そこまで食生活が酷かったのか…」

 

「えぇ…お恥ずかしい話ですが」

 

 最初はややぎこちない雰囲気だったが、料理に箸を入れて行くうちに和気藹々とした雰囲気になっていくカズマ君とウィズ。話を聞くと二人は以前とあるギルドの依頼で顔を合わせた事があるらしい。ちょっとしたアクシデントで(ウィズに対し一方的に)刃を向けた事もあったが丸く収まったとか。

 

「そう言えばウィズ、前言ってたスキルの件なんだけどもう少し待ってて貰えないか?流石に今日は急に会ったみたいな感じだし」

 

「えぇ、それは大丈夫ですよ。カズマさんが都合の良い時に来てくれれば私の方は構いません」

 

「助かるよ」

 

 聞くところによるとどうやらカズマ君は盗賊ではなく、冒険者職だったらしい。身なりが軽装でどことなく盗賊っぽい雰囲気を出してたからそう思っていたのだが。

 

「まぁ、使うスキルは確かに盗賊関係多いかもなぁ。スティールとか潜伏とか敵感知とか…」

 

 何と言うかそこまでスキルがあれば立派な盗賊に聞こえる。更に初級魔法とか剣の扱いとか色々使いこなす事が出来るとか。

 

「カズマさんはパーティ内で司令塔みたいな役割を持っているのですよ」

 

「いやー…そうしないとアイツ等余計な事をするから自然とそうなったんだよなぁ」

 

 自分は特定のパーティに所属して無く、他のパーティに助っ人として雇われる事が多い為気苦労は分からないが、パーティの司令塔という役割は並大抵の手腕では勤まらないと理解している。この少年は若くしてそういう才能があるのか…冒険者という職は基本的に最弱職として知られているが、職だけでは測りきれない何かがこの少年にあると見た。であるから素直にそれは凄い事だ、と賛辞を送る。

 

「お、おぅ…何か面と向かって褒められることなんて殆ど無いから…ありがとうな」

 

 本当にそういう経験が余り無いのか、カズマ君の顔が少し赤くなっている。いたいけな少年をからかうのは大人の特権というものだ…自分の見た目は子供だけど。

 

 そうこうしている内に卓に並んでいた料理も殆ど無くなり、自分含め三人は満足した表情で腹をさすった…やはりここの店は料理が美味い。自分は食後のネロイドを堪能している…うむ、実にシャワシャワした喉越しだ。

 

「ご馳走様でした…ぴたーさん、今日は本当に有難うございました」

 

「何か俺の方も急にゴチになって悪いな」

 

 気にする事は無い。やはり料理と言うのは皆で囲んで食べるのが美味いから、こちらとしても楽しい昼食になって良かったものだ。

 

「そうですね…本当に」

 

 自分の言葉に感慨深く頷くウィズ…成る程、彼女にとっては店に一人居る事の方が常だから大人数で食事をするのが久々なのだろう。

 

 恐らく今回の依頼は数日に渡る為少しの間はアクセルに留まるから、またどこかで飯を一緒に食べようかとウィズに言うとぱぁっと花開く様な笑顔を見せてくれた。無論カズマ君もだ。今度はそちらのパーティメンバーも連れてくると良い…そう言うとカズマ君は少し申し訳ない表情をした。

 

「あー…誘ってくれるのは本当に嬉しいんだけど…アイツ等、特にあの駄女神はこれ幸いとばかりに飲んで吐くからなぁ…奢りだけはやめておけよ」

 

 毎回奢る財力は無いから、多分割勘になるだろうが…こちらとしても一癖も二癖もあり過ぎる(カズマ君評)と評判のカズマ君のパーティはそれなりに興味があるのだ。

 

「何かぴたーって人間が出来てるよな…同じ紅魔族のアークウィザードなら俺あんな爆裂狂じゃなくてこっちの方が良かったよ」

 

 熱視線を送ってくれるのは有難いが傭兵メインの自分では恐らくお互い思う様に動けないだろう。しかし爆裂狂の紅魔族とは…思い当たる人物は一人いるのだが。近所に住んでいた魔道具職人の娘さんは確か爆裂魔法を覚えたがっていたと記憶しているが、ひょっとしてその子が彼のパーティに入っているのだろうか。

 

「ん、ひょっとしてぴたーってめぐみんの事知っているのか?」

 

 あぁ、やっぱりめぐみんだったか。彼女も成長して立派なアークウィザードになったのだな…。そう考えると近所に住んでたあの子が大きくなったと言うお隣さん補正が絡み、妙に嬉しく感じてしまう。

 

 自分が言うのも何なのだがあの子は少し…いや、結構変わり者だけど根は良い子である。これからも仲良くしてやってほしいとカズマ君にお願いしておいた。

 




 一先ずはここまで。

 こんな文で週一位のペースで書ければと考えてます。

 感想、批評、誤字報告等有りましたら是非。お待ちしております。


5/9 誤字修正しました。御指摘頂き、有難うございました

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