ロクでなし魔術講師と寡黙な義弟   作:ほにゃー

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第4話 アルトVSシスティ

グレンが非常勤講師になって一週間がたった。

 

最初の頃グレンは自習メインの気分次第で授業をやっていた。

 

授業の内容は酷い物だったが、一応教科書の内容を説明し、要点を黒板に書いてはいたが、途中からは教科書の内容を丸々黒板に書き写したり、教科書を破りページを張り付けたり、最終的には自習の一言で済ませていた。

 

自習の文字ですら、〝自習”から〝じしゅー”となり、最終的に〝じ”だけを黒板に書いていた。

 

そんなグレンに、システィの怒りは頂点に達していた。

 

「いい加減にしてください!」

 

「だから、いい加減にやってるだろ?」

 

「子供みたいな屁理屈こねないで!」

 

システィは立ち上がり、グレンの前に立つ。

 

「こんなこと言いたくはありませんが、私は学園にもそれなりの影響力を持つ魔術の名門、フィーベル家の娘です!私がお父様に、貴方のことを進言すれば、貴方の進退を決することもできるでしょう」

 

「……マジで?」

 

「マジです!本当はこんな手段に訴えたくありません!ですが、これ以上、授業に対する態度を改めないというならば「お父様に期待してますと、お伝え下さい」

 

普通なら謝って授業態度を改めるのだろうが、グレンはクビになれるかもと期待し、喜んだ。

 

「いやー、よかったよかった!これで一ヶ月を待たずに辞められる!ありがとう!」

 

「貴方っていう人は……!」

 

システィの忍耐は限界に達していた。

 

本気で教師を辞めたいのか、それともフィーベル家を侮っているのか、それはシスティには分からなかったが、グレンの素行の悪さを看過する事は出来なかった。

 

だからこそ、割断は早かった。

 

左手に嵌めた手袋を外し、それをグレンに投げつけた。

 

もちろん、手袋はグレンに当たるよりも早く地面に落ちる。

 

やったのはアルトだった。

 

アルトは素早くグレンの前に立ち、手袋を払い落としたのだ。

 

システィはやっぱりかっと言いたげに、アルトを睨み付ける。

 

「………お前、それの意味分ってんのか?」

 

魔術師が左手の手袋を投げつけるのは、魔術決闘の申し込みを意味する。

 

そして、相手がそれを拾えば、決闘は成立する。

 

「貴方に、それが受けられますか?」

 

「………何が望みだ?」

 

「その野放図な態度を改め、真面目に授業を行ってください」

 

「忘れてないよな?俺が勝ったら、こっちの要求を呑まなきゃならないんだぜ?」

 

「承知の上です」

 

「本当にいいのか?」

 

「それでも……私はフィーベル家の次期当主として、貴方の様な魔術を貶める輩を看過する事は出来ません!」

 

そう言うシスティに、グレンはある人物の影が思わず脳裏をチラつき、溜息を吐いた。

 

「まったく、未だにこんな古臭い儀礼を吹っかけてくる骨董品が生き残ってるとはね……いいぜ。その決闘、受けてやるよ」

 

そういい、グレンは手袋を拾う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレンが手袋を受け取った後、クラス全員が学校の裏庭へと集まった。

 

学生とは言えシスティは学年トップの秀才。

 

そんなシスティ相手に、余裕の笑みを浮かべ決闘を受けるグレン。

 

いくらロクでなし教師とは言え、その実力を見てみたいという気持ちもあった。

 

だが、システィの前に立ってるのはグレンではなく、アルトだった。

 

「どういうことよ!?」

 

「どうって……俺がグレンの代わりに受けるんだけど?」

 

「はぁ!?」

 

システィはアルトからちょっと離れた所にいるグレンに目を向ける。

 

「アルトは俺の弟!つまり、俺の決闘はアルトの決闘でもある!いけ、アルト!俺の代わりに、あのガキを倒せ!」

 

「よくわからないけど、わかった。倒せばいいんだよね?」

 

そう言って、アルトはあるものを取り出そうとする。

 

「ちょっ!?バカ!」

 

するとグレンがアルトの頭を叩き、止める。

 

「本気を出そうとするやつがあるか!?あのガキを殺す気かよ!?」

 

「だって、グレンは倒せって」

 

「だからってあんな物持ち出そうとするな!?」

 

「ダメなの?」

 

「意外そうな顔するな!?」

 

一通り叫ぶと、グレンはシスティとアルトに言い聞かせるように言う。

 

「使うのは〝ショック・ボルト”のみ。それ以外は禁止だ。いいな?」

 

「……わかりました。彼が戦うことに納得は出来ていませんが、決闘のルールは受け手側に決定権があります。是非もありません」

 

「うん、わかった」

 

「じゃ、俺が合図で開始な」

 

グレンはそう言い残し、二人から離れる。

 

「ねぇ、どっちが勝つと思う?」

 

「普通に考えたらシスティーナだろうな。でも、相手は未知数の編入生。もしかしたら、大番狂わせが起きるかも……」

 

「しかし、使うのは〝ショック・ボルト”のみ」

 

「詠唱は三節だが、略式詠唱で一節の〝雷精の紫電よ”で使える術。となると、詠唱のスピードが勝敗を分けるな」

 

生徒たちはアルトがどんな戦いをするのか、興味津々に見ていた。

 

「よし、はじめ!」

 

「《雷精の紫電よ》!」

 

グレンの開始とともに、システィは〝ショック・ボルト”を撃つ。

 

放たれた攻撃は、まっすぐアルト目がけ飛ぶ。

 

本来なら〝ショック・ボルト”の様な攻性呪文(アサルト・スペル)には対抗呪文(カウンター・スペル)がある。

 

だが、この決闘には〝ショック・ボルト”以外に魔術は使えない。

 

つまり、先に術を放ったシスティの勝ち。

 

誰もがそう思った。

 

しかし、術はアルトに当たらず、アルトの背後の壁に当たっていた。

 

「……え?」

 

「その術ってさ……真っ直ぐにしか飛ばないでしょ。なら………避けるのは簡単だよ」

 

確かに〝ショック・ボルト”は真っ直ぐに飛ぶ。

 

だからと言って避けられるかと言ったら、それは難しい問題だった。

 

基礎中の基礎の汎用魔術の〝ショック・ボルト”と言えども、中々に速さがある。

 

それを相手が放った瞬間に避けられるアルトの動体視力と反応速度はすさまじい物であることが分かった。

 

「次はこっちの番」

 

そう言いアルトは、一気にシスティとの距離を詰める。

 

そして―――――――――――

 

「はい、終わり」

 

アルトはいつの間にか、システィの背後に立ち、指を向けていた。

 

「ここからの反撃なんてできないでしょ。悪いけど、俺アンタが振り向くよりも早く呪文唱えられるから。例え、三節詠唱でもね」

 

アルトの言う通りだった。

 

システィは優秀である。

 

優秀であるからこそ、この状態から勝つことができないと言うことがすぐにわかった。

 

「わかったわよ。こうさ「《雷精の紫電よ》」

 

システィが降参しようとした瞬間、アルトはためらいもなく、〝ショック・ボルト”を至近距離で撃った。

 

「きゃっ!?」

 

至近距離で術を食らったシスティはそのまま倒れる。

 

「い、今、システィーナの奴、降参しようとしたよな……」

 

「なのに攻撃したぞ」

 

「なんでだよ……」

 

生徒達が降参しようとしたシスティをアルトが撃ったことに驚きを隠せないでいた。

 

アルトはゆっくりと生徒たちを見て、そして、言った。

 

「別に、俺降参しろなんて言ってないけど」

 

そう言うアルトに、クラスメイトたちは得体のしれない恐怖をアルトに感じた。

 

「はいはい、この勝負はアルトの勝ち。つまり、俺の勝ちだ!」

 

システィが何も言わないでいるのを見て、グレンは上機嫌でシスティの所に行く。

 

「じゃ、勝者であるアルトは敗者のコイツに命令をどうぞ」

 

グレンがそう言うとアルトは何かを考え、地面に倒れているシスティに言った。

 

「なら、グレンの好きなようにやらせて。それだけ」

 

そう言ってアルトは中庭を離れ、教室へと戻った。

 

それに続いて、グレンも教室へと向かい、欠伸をして「じゃ、残り時間は自習な~」と言い残し、去っていった。

 

システィは一人、唇を噛みしめ悔しそうに俯いていた。


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