ロクでなし魔術講師と寡黙な義弟   作:ほにゃー

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第3話 編入生は純粋少年

グレンの初授業が終わった後は、錬金術の授業だった。

 

錬金術では魔法素材を加工し、器具を操作し、触媒や試薬を扱ったりするので、何かと危険だったりするので、全員、特に女子は外界マナに対する親和性の高さを伸ばすため薄着かつ露出度が割と高めのため、実験用のフード付きローブの着用が決められている。

 

本来は、錬金術の担当講師がいるのだが、グレンはそんなことも忘れ、アルトと共に更衣室へと向かっていた。

 

「たっくよー、規則とは言え、別に着替えなくたっていいだろうがよ……」

 

「でも、規則なんでしょ?なら、守らないと」

 

二人は借り物の実験用ローブを手に、更衣室へと向かっていた。

 

「あのな、アルト。規則なんてな、所詮は規則を作った奴の都合のいいように作られているだけなんだ。そんな規則、守るだけ無駄だぞ」

 

「無駄なの?ふーん、そうなんだ」

 

またグレンの都合によって、アルトの知識に間違った情報が蓄積された。

 

「お、ここか」

 

目当ての更衣室を見つけると、グレンは思いっきり、蹴って開けた。

 

そして、更衣室にはクラスメイトである女子たちが全員下着姿だった。

 

「………あー、昔と違って、男子更衣室と女子更衣室の場所が入れ替わってたのか。まったく、余計なことしやがる」

 

頭を掻きながらぼやいでいると、徐々に女子たちはグレンとその隣にいるアルトに殺気を向け始める。

 

「待て。お前ら落ち着け。俺は常日頃、こんなお約束展開について物申したいことがある。聞いてくれ」

 

グレンが言うと女子達は動きを止める。

 

「俺、思うんだが……その手の小説の主人公って、ラッキースケベ的イベントが発動した時、ヒロインにボコられるのはもう確定してんのに、どうして慌てて目を背けたり、手を引っ込めようとしたりするんだろってな。たかが女の裸をちらっと一目見るのとボコられるのが等価交換だなんて割に合わねぇだろ。だから俺は……この光景を目に焼きつけるっ!!アルト、お前も見ておけ!」

 

「うん、わかった」

 

グレンの言う通り、アルトはしっかりと更衣室の中を見つめる。

 

その時、あることに気づき、アルトはシスティをじっと見つめていた。

 

その数秒後、二人は目も覆わんばかりの凄惨な校内暴力事件の被害者となった。

 

さすがのアルトもクラスの女子全員を相手にグレンを守るのは無理があった。

 

だがこの一件で、クラスの半分の女子がアルトによって気絶させられたので錬金術の実験は中止となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛ぇ……マジで痛ぇ……ここまでやるか?普通……」

 

「ごめん、グレン。守り切れなかった………」

 

昼休みの時間、グレンは頬にあざ、腕にひっかき傷などを作り、食堂へと向かっていた。

 

その隣にいたアルトも、頬に一発拳を食らったのか若干腫れていた。

 

「いいって気にすんなよ。てか、むしろお前がいなかったらこの程度ですまなかったっつーの。だから、そう落ち込むなよ」

 

グレンの言う通り、アルトがクラスの女子の半数を気絶させたおかげで、グレンは少々の怪我で済んでいた。

 

もし、女性全員から袋叩きにあっていれば、今頃涙目で歩いていただろう。

 

「それより飯だ。此処の飯は中々にうまいんだぜ」

 

グレンと共に、食堂に入ると学生たちのざわざわとした声とフォークやナイフなどの金属音が耳に聞こえた。

 

アルトはグレンの後に続く形でカウンターに並び、厨房で料理をしてるコックに料理を注文する。

 

「地鶏の香草焼き、揚げ芋添え、ラルゴ羊のチーズとエリシャの新芽サラダ。キルア豆のトマトソース炒め、ポタージュスープ。ライ麦パン。全部、大盛りで」

 

「俺も同じの。それと追加で、チーズリゾットにミートパイ、あとカルボナーラにこのイチゴのタルトって奴、20個頂戴」

 

グレンとアルトはやせの大食いで、特にアルトはグレンよりも多く食べる。

 

無職のスネかじりだったグレンはセリカに何度も嫌味を言われ続けられていた。

 

尚、アルトに関してはセリカはもっと食えと言わんばかりに、アルトが食べたい物に限らず、色んなものを食べさせている。

 

特にアルトは甘い物は大好きで、甘い物ならいくらでも食べられる。

 

用意された物を受け取り、代金を払うと二人は空いてる席を求め、歩き出す。

 

「あ、グレン。あそこ空いてる」

 

「おっ!本当か?」

 

アルトの指さした方を見ると、そこにはシスティとルミアの二人がいた。

 

聞こえてきた会話の内容から、システィはルミアに〝メルガリウスの天空城”について、ルミアに熱弁している最中だった。

 

メルガリウスの天空城とは、フェジテを象徴する空の城のことで、超古代文明の残滓や神の御座ともいわれ、伝説ではこの世界全ての叡智が眠るとされる。

 

いつから浮かんでいるのかは不明で5,000年前に描かれた壁画にもそれらしき記録が残っている。

 

この城に執心する魔術師たちはメルガリアンと呼ばれ、システィもそのメルガリアンなのであった。

 

ついさっき、あのような出来事があったにも関わらずグレンとアルトは二人の前にお盆を置き、座る。

 

「失礼」

 

「座るよ」

 

一言断ってから、グレンはルミアの前に、アルトはシスティの前に座る。

 

「あ、貴方達は!?」

 

「違います。人違いです」

 

華麗にスルーし、グレンとアルトは食事を始める。

 

「美味ぇ。なんつーか、この大雑把さが実に帝国式って感じだなぁ」

 

「うん。凄くうまい」

 

グレンがライ麦パンに地鶏の香草焼きと細切りの揚げ芋、チーズサラダを挟んで食べている横で、アルトはグレンと同じ食べ方をしつつ、チーズリゾットを平らげ、ミートパイを食べていた。

 

「あの、先生とアルト君って、ずいぶん、たくさん食べるんですね?ひょっとして食べるの好きなんですか?」

 

するとルミアが二人の食事風景を見て、訪ねてくる。

 

「ああ、食事は数少ない、俺の娯楽の一つだからな」

 

「美味い物を食べるのは好きだよ。でも、魚は苦手かな。アレ、なんか苦手」

 

「苦手だからって食わないのは勿体ないぞ。試しに一度食ってみろ」

 

「それでも、苦手なものは苦手」

 

子供っぽく好き嫌いを言うアルトにルミアは思わず笑う。

 

「そう言えば、アルト君と先生の名字が同じですけど、もしかして……」

 

「ああ、アルトは俺の弟だ。もっとも血の繋がりは無いけどな」

 

「グレン、キルア豆少し頂戴」

 

「はぁ?お前もあるだろ?」

 

「もう食べた。もうちょっと食べたいし、少し頂戴」

 

「しゃ-ねーなぁ」

 

グレンはしぶしぶと、自分の皿からキルア豆のトマトソース炒めを少し移す。

 

「ありがと」

 

アルトはお礼を言うと、パンにキルア豆を乗せ、噛り付く。

 

「アルト君、凄い食べますね」

 

「こいつ、魚以外はなんでも食べるんだよ」

 

「それにしても、本当にその炒め物すごくおいしそう。なんだかいい匂いがします」

 

「お?わかるか?ちょうどこの時期に学院に新豆が入るんだ。キルア豆の新豆は香りがいいんだ。これ食べるなら今が旬だ。食ってみるか?」

 

「え?いいんですか?私と間接キスになっちゃいますよ?」

 

「ふん……ガキじゃあるまいし」

 

ルミアはまるで先ほどの出来事を禍根に思って無いようだった。

 

積極的にグレンとアルトに話しかけ、その場の雰囲気を保っていた。

 

「あのさ」

 

すると、さっきまでの料理をすべて食べ終え、タルトを食べていたアルトが、システィに声をかけていた。

 

アルトから話しかけるとは思っていなかったらしく、システィも、そしてグレンも驚いていた。

 

「な、なにかしら?」

 

「そんな量で足りるの?」

 

アルトの目線の先には、レッドブルーベリージャムを塗ったスコーンが二つと紅茶のみだった。

 

それに対しルミアは、ポリッジと呼ばれる麦粥と鳩のシチュー、サラダとしっかりと食べていた。

 

「お前、好き嫌いとか激しいタイプの人間か?」

 

グレンは、システィの方を見ながら、パンを齧る。

 

「そっか。だから、小さいんだ」

 

そこで、アルトは特大の爆弾を落とした。

 

システィの胸を見ながら。

 

「な、なんですって!?」

 

「ばっ!?アルト!お前、何言ってんだ!?」

 

気にしていることを言われ、システィは顔を真っ赤にして怒り、グレンは慌てながらアルトの口を押える。

 

「お、落ち着いてくれ!アルトは本当にそう言った常識に疎いんだ!わざとじゃなくて、純粋に思ったからこそ、言ったんだ!だから、許してやってくれ!ほら、アルト!お前もごめんなさいしろ!」

 

アルトの頭をつかみ、テーブルにぶつけるんじゃないかっていうぐらいに上下に動かす必死なグレンと、上下に動かされながらも、タルトを食べる口を休めないアルトに、システィは怒りを収め、紅茶を一口飲む。

 

「別に好き嫌いがあるわけじゃありません。私は午後の授業が眠くなるから、お昼はそんなにたべないだけです。まぁ、この後の先生の授業だったら、もう少し食べても支障はなさそうですが」

 

「………回りくどいな。言いたいことがあるならはっきり言ったらどうなんだ?」

 

システィの挑発的な言葉に、グレンは訪ねると、システィは立ち上がる。

 

「わかりました。この際、はっきり言わせてもらいます。私は「ほらよ!」はむっ!?」

 

グレンはシスティが口を開けた瞬間、口の中にスプーンを突っ込み、キルア豆を食べさせる。

 

「お前も食いたかったんだろ?このいやしんぼめ」

 

「ち、違います!私が言いたいのはそう言うことじゃなくて「代わりにそっちのも少し寄越せ」

 

またしてもシスティの言葉を無視し、グレンはシスティのスコーンを、システィの了承なしに食べる。

 

「あああああああああ!!?何勝手にとってるのよ!いい加減にしてください!貴方、それでも講師なんですか!?」

 

「ああ、非常勤だけどな」

 

グレンはニヤリと笑って、そう言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方そのころ、アルトはと言うと、食べ終えた皿を見つめ、そして、腹から切ない音を鳴らしていた。

 

「アルト君、まだお腹すいてるの?」

 

「うん。でも、セリカから無駄使いするなって言われてるから」

 

「これ、よかったら食べる?」

 

ルミアは自身のシチューの残りをアルトに差し出す。

 

「いいの?」

 

「うん。今日はもうお腹一杯だし、どうぞ」

 

「ありがとう」

 

ルミアからシチューを受け取り、表情には出さないものの美味しそうに食べていた。


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