輝く翼を持つアインはまさに主天使の名を与えられるにふさわしかった。
グレンはアインの
アインの姿は天使といっても過言ではない。
思わず全てを委ねてしまいそうだった。
アインがゆっくり手を挙げると、背中の翼もそれに合わせて上がる。
そして、翼がグレンの頭上に振り落とされる。
「はああああああっ!」
だが、当たる寸前でリィエルは大剣で翼を弾き、グレンを守る。
「くっ………!邪魔をするな、人形」
リィエルは未だに痺れる体を無理矢理動かし、グレンの前に立つ。
大剣を握る手は震え、今にも手放してしまいそうだった。
それでも何とか握りしめ、アインに剣先を向ける。
「いやああああああ!!」
走り出し、跳躍して、大剣を振り下ろす。
アインは翼を重ね合わせて大剣の一撃をガードする。
その一撃で、リィエルの大剣は粉々に砕け散った。
すぐさまリィエルはアインから距離を取り、呪文を詠唱する。
「《万象に希う・我が腕手に・剛毅なる刃を》!」
再び大剣を錬成し、もう一度翼に叩き付ける様に切り掛かる。
が、またしても大剣は粉々に砕ける。
それでもリィエルは再び大剣を錬成する。
「愚かな。これだけやっても無駄だと分からないか」
アインは溜息交じりにそう言い、指を振る。
すると、翼はまるで蛇の様な動きをし、リィエルの手を切り裂く。
「あつっ!?」
手を切り裂かれた痛みでリィエルの手から大剣が音を立てて落ちる。
「人形風情が、私の裁きに横やりを入れないでもらおう。大人しくしていろ。貴様が生きていられるのは『Project: Revive Life』の唯一の成功例だからなんだからな」
そう言いアインは再びグレンに向かって歩き出す。
だが、リィエルがまたしててもアインを止める。
「なんのつもりだ?」
「私は………選んだ」
「………何?」
「一緒に……皆の所に帰るって……だから、私は戦う。あそこに……帰りたいから……グレンも、ルミアも………私が守る。アルトも………まだ生きてる………だって、一緒に………私が生きる意味を、生きる理由を、一緒に探してくれるって言ってた………だから!私は、いま戦う!」
髪を結っていた紐とループタイを使って、手を大剣の柄に縛り付ける。
「愚かだ……愚か過ぎる」
アインが薙ぎ払うように手を振ると、翼は一斉にリィエルに襲い掛かる。
アイン相手にリィエルは歯が立たなかった。
技術以前に火力負けしていた。
何度も叩きのめされ、傷つけられ、何度も地面に叩き付けられた。
それでも、リィエルは立ち上がり続けた。
服は至る所が切り裂かれ、そこから覗く白い肌から滲み出る血、頬には痣ができ、口の中を切ったのか口端から血が出ており、淡青色の髪も血で濡れていた。
真ん中から折れた大剣を杖代わりに立ち上がり、口の中に溜まった血を吐き捨てる。
震える手で折れた大剣をアインへと向ける。
「もう負けは見えている。諦めろ」
「……いやだ……あきらめ………ない……あきらめ………たくない………初めて……自分が、選んだ道だから…………」
「………そうか、なら、計画変更だ。組織に連れ帰るのはルミア=ティンジェルのみとする。お前はここで……死ね」
「ま、待て!お前の狙いは俺だろ!リィエルは関係ない!」
「止めて!私なら何処にでも行きます!だから、リィエルだけは!」
グレンとルミアは必死にアインにそう叫ぶが、アインはそれを無視し翼を掲げる。
「終わりだ。消えろ」
そして、翼がリィエルに振り下ろされた。
最早、リィエルにはその一撃を受け止めるだけの力は残っていなかった。
その時だった。
突如、背後からアインに向かって何かが飛んできた。
アインはそれに気づき、翼でその何かを弾いた。
弾いた何かは真紅のメイスだった。
そのメイスは、床に突き刺さり、その近くにはアルトが立っていた。
「貴様……まだ生きていたのか……」
アインはそう言うが、アルトは何も反応を見せずう、ぶつぶつと何かを呟いていた。
「まぁいい。生きていようと構わない。生きているなら、次こそ確実に殺すだけだ!」
アインが再び翼で攻撃をしようとした瞬間、アルトはメイスを掴み、一瞬でアインの懐へと入る。
アインは一瞬の判断で翼でメイスの攻撃を防御する。
そしてアルトは、そのまま拳をアインへと向ける。
すると、拳は翼の上からアインへと衝撃を伝えて、ダメージを与える。
「がっ!?」
アインはそのまま飛ばされるが、足で踏ん張り、何とか壁にぶつからずに済んだ。
「馬鹿な……確実に防御したはずなのに……!」
アインの
アインにとっては攻防一体の術である。
にも関わらず、翼はアルトの拳の衝撃を通した。
それが信じられなかった。
「……だだ……」
その時、アルトの呟きが聞こえた。
「まだだ………これじゃあ、アイツを殺しきれない………もっとだ……もっと力を寄越せよ………バルバトス……」
そう言って顔を上げたアルトの右目からは血が流れていた。
目は赤く染まり、血は涙のように溢れていた。
「アル……ト………?」
アルトが来たことに安堵したのか、リィエルは膝の力が抜け、その場に倒れそうになる。
アルトは咄嗟にそれを受け止める。
「ごめん……少し遅れた……後はゆっくりしてて」
そう言い、リィエルをグレンに預ける。
「アルト……お前、目が……」
いつの間にか麻痺が解けていたグレンはアルトを見る。
「グレン、後は任せて。終わらせるから」
そう言いアルトはメイスを構える。
「くっ……やはり貴様は悪魔だ!悪魔は、私の手で葬る!死ね!」
アインは再び、翼での攻撃を行う。
だが、アルトはそれを躱し、アインの背後を取る。
「なっ!?」
「この羽邪魔だな……」
そう言い、四枚ある翼のうち、二枚を素手で掴み、そのまま引き千切った。
翼は根元から引き千切られ、千切られた部分から血が噴水のように出る。
「がああっ!?」
引き千切られた痛みで、アインは思わずその場に膝をついて倒れる。
千切られた翼は消滅し、アインは荒い息をし残った翼でアルトを攻撃する。
アルトはその翼を、先ほどとは違うスピードで弾き、防御する。
「ダメだな………これだけじゃ、アンタは殺しきれないや………」
そう言って下がると、アルトはあることを考えた。
(同じ武器じゃダメだ……
頭の中で
そして、一つの武器を思いつく。
(……元素配列式をマルキオス演算展開…………算出した
「《万象に希う》」
手を掲げ、呪文を詠唱する。
「《我が腕手に》」
そのまま手を地面に置く。
「《殴殺の刃を》」
紫電が爆ぜ、アルトの手にある武器が収まる。
それは剣。
否。
それはメイス。
それも否。
アルトの機動力を殺さないまま近接戦ができるよう軽量化されていて威力はメイスと変わらず、細身な形状でメイスの様なギミックは無いが、側面で打撃すれば装甲を粉砕し、振り下ろせば装甲を切断できるメイスと太刀の性質を持った武器。
敢えて名を付けるならそれは〝ソードメイス”。
「これなら………殺しきれる……」
アルトはそう言い、メイスを捨てると、一気に動き出す。
目では追えきれないスピードでアインを翻弄し、ソードメイスでアインの足を殴りつける。
「がっ!?」
足の骨が折れる処の騒ぎではない、尋常ではない痛みがアインを襲い、アインは痛みに悲鳴を上げそうになる。
アルトはそのまま組み付き、至近距離で攻撃しようとする。
だが、アインも負けじと反撃をする。
翼でアルトに攻撃をする。
アルトは致命傷以外の攻撃はすべて無視し、アインにソードメイスでの攻撃をしたり、拳で殴ったりする。
「この……悪魔めがっ!」
アインは黒魔《ゲイル・ブロウ》を使い、アルトを吹き飛ばすと、翼でアルトの右肩を深く突き刺す。
「アルト!?」
グレンは思わず声を上げるが、アルトは涼しそうな顔で一言、「大丈夫」とだけ言い、そのまま肩に刺さった翼を弾くと、飛び上がり、ソードメイスを投げつける。
アインはそれを翼で弾くが、その間にアルトはアインの背後を取り、左の翼を引き千切る。
翼が千切られても、アインはその痛みを死ぬ思いで耐え、残った一枚の翼で攻撃を仕掛ける。
アルトはそれを拳で殴って弾き、指をアインの腹に向ける。
「《貫け》」
〝ライトニング・ピアス”がアインの腹を貫き、アインはその場に膝をつく。
アインが膝をつくのを見て、アルトは投げ飛ばしたソードメイスを掴み、そのまま先端をアインへと向ける。
「終わりだ」
「くっ……まだだ……まだだ!」
アインは最後の力を振り絞り、翼をアルトへと向ける。
そして、翼とソードメイスの先端が交差し、翼はアルトの右胸をえぐるように突き刺さり、ソードメイスはアインの胸の中央を深々と凹ませていた。
「………大丈夫だよ、グレン。もう、終わったから」
アインの体がその場に崩れ落ち、地面に横たわる。
アルトは全身血塗れになりながら、まるで痛みを感じてないと言わんばかりに涼しい顔でそう言った。