ロクでなし魔術講師と寡黙な義弟   作:ほにゃー

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第28話 復活の悪魔

グレンとアルベルトはルミアが誘拐された場所へと向かっていた。

 

グレンを助ける前に、アルベルトはエレノアと戦い、その戦闘中にエレノアに隠蔽性の強力な魔力信号を発する術式を付与(エンチャント)していた。

 

アルベルトはその信号をたどり、ルミアが連れていかれた場所を突き止めた。

 

秘密研究所に乗り込むと、大量の合成魔獣(キメラ)に襲われたが、二人は溢れ出る合成魔獣(キメラ)を相手に取りながら一歩も引かずに戦った。

 

そのまま宝石獣と言う最強の合成魔獣(キメラ)も〝イクスティンクション・レイ”で葬り、二人はある部屋に着いた

 

その部屋には、人の脳髄が謎の液体で満たされたガラスケースに収められていた。

 

それを見たグレンは思わず胃の中の物をすべて吐き出しそうになったが、それを堪えた。

 

ガラスケースには異能力名が書かれたラベルが貼ってあり、その脳髄が異能者のものだと知った。

 

バークスは典型的な異能嫌いであり、異能者のことを人間と思っていなかった。

 

だからこそ、ここまで残忍な事ができた。

 

そんな中、グレンはガラスケースに入れられた少女を見つけた。

 

助けようとしたが、少女は四肢を切り落とされ、全身を無数のチューブに繋がれて、魔術的に生きさせられている状態だった。

 

その光景に、グレンは自身の手が砕けんばかりの力で拳を握った。

 

ガラスケースに入れられた少女は唇だけを動かし、二人に言葉を伝えた。

 

「ころして」

 

グレンは読唇術に自信はなかったが、少女がそう言ったのだと理解できた。

 

アルベルトがグレンの前に出て、聖印を切り、聖句を唱える。

 

アルベルトは司祭の資格を持っている。

 

少女の魂が安らかに眠れるようにせめてもののの救いを与えようとした。

 

「〝真に、かくあれかし(ファー・ラン)”」

 

最後の聖句を唱えると同時に、詠唱済み(スペル・ストック)の〝ライトニング・ピアス”を起動し、少女に苦痛を感じさせずに、命を奪った。

 

「とんだ牧師がいたものだな。……軽蔑するか?」

 

「……いや………悪い、嫌な役を任せちまったな」

 

二人の間に何とも言えない感傷が漂う。

 

そこにバークスが現れ、罵声を二人に浴びせる。

 

「貴様らが今、壊したアレは魔術的に貴重な実験材料(サンプル)だぞ!それが分からんのか!」

 

人を人と思わない発言。

 

そして、罪の罪悪感すら感じていない態度。

 

バークスンにグレンは完全にキレていた。

 

そんなグレンをアルベルトが止めた。

 

「この(クズ)は俺が相手をする」

 

アルベルトの瞳は普段より数倍鋭さを増して、バークスを見ていた。

 

「らしくねーな。だが、任せたぞ!」

 

グレンは走り出し、アルベルトの援護もあって、バークスの脇をすり抜け、奥の通路へと進む。

 

グレンは走りながらアルベルトに言われたことを思い出していた。

 

『リィエルが裏切ったのは間接的にお前の責任だ。お前が自己満足で真実を話さなったからだ』

 

(分かってんだよ、そんなこと!俺にはリィエルを救う資格も権利もねぇ……。だが、可能性があるのにそれを切り捨てる利口な大人にはなりたくねぇ!それに――――)

 

「ここで諦めたらアルトに顔向けができねぇんだよ!これは教師として、兄貴としての意地だ!」

 

そう叫び、グレンは扉を蹴り破る。

 

そこにはルミアとリィエル、そしてリィエルの兄がいた。

 

「さぁ、この馬鹿騒ぎ終いにしようぜ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレンがアルベルトともにルミア救出を始めていたその時。

 

夜の波止場にフォルネスはいた。

 

アロハシャツを海水で濡らし、濡れ鼠状態だった。

 

煙草を胸ポケットから取り出し、マッチで火をつけようとするが湿気たマッチでは火を点けることはできなかった。

 

煙草をあきらめ胸ポケットに戻し一人ため息を吐く。

 

「たっく。シンリィの奴になんて言い訳しようか………」

 

フォルネスは頭を掻き悩んでいた。

 

実を言うと、アルトがリィエルと戦っている時、フォルネスは遠くからではあるがその様子を見ていた。

 

戦いに参加しなかったのは、参加したところでアルトの応援になるどころか、足手まといにしかならないからだ。

 

「こんな時ばかりは、自分の力の無さを恨みたくなるな」

 

自嘲するように笑い、フォルネスは立ち上がる。

 

「さてと!じゃあ、力が無い者は無いなりの戦いをしますか!」

 

そう言って、隣に置いてあった海水と血で濡れたアルザーノ魔術学院の男子用制服を手に取り、フォルカスは戦地へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまん、許せ!」

 

「あぐっ!?」

 

グレンとリィエルの戦いは、グレンが勝った。

 

もともと、グレンは魔術戦が強いのではなく上手いのである。

 

そのため、どんな不利な状況でも最善の結果が出るように戦う。

 

リィエルの攻撃を躱すことに徹し、白兵戦は避けて銃での遠距離からの攻撃だけをする。

 

そして、言葉を使いリィエルを揺さぶり、銃を撃つと見せかけ、無防備な頭に銃を投げつけた。

 

そのまま組み伏せ、〝グラビティ・コントロール”で動きを拘束し、最後に頭突きでリィエルを倒した。

 

圧勝とは言えないがグレンからして見れば十分な結果だった。

 

グレンはそのままリィエルの兄を問い詰め、リィエルの兄が『Project: Revive Life』、通称『Re=L計画』の儀式をしようとしていたことを突き止めた。

 

それを聞き、リィエルも自分がイルシア=レイフォードと言う少女のジーン・コードと記憶と人格データ、アストラル・コードを統合したことで生まれた魔造人間だったこと、そして本物の兄、シオン=レイフォードが既に死んでいることを思い出した。

 

そして、リィエルの兄を名乗った青年はライネル。

 

シオンと共に『Re=L計画』を進めていたが、シオンが自らの命の代わりにライネルとイルシアの二人を帝国に亡命させようとしていることを知り、シオンとイルシアを殺した。

 

ライネルは自由を得るより、組織でのし上がることを選んでいた。

 

術が解け、茫然と立っていたリィエルはその場に膝から崩れ落ちた。

 

その顔は絶望に染まっていた。

 

「研究所を逃げ出すとき、リィエルの記憶をこちらの都合がいいように改竄しといたのにな。……結局、ガラクタはガラクタか」

 

「テメー……いい加減にしろよ」

 

「はっ!ガラクタはガラクタだ。もう要らない」

 

「テメー!《猛き雷帝よ・極光の閃槍以て・刺し穿て》!」

 

グレンはライネルに向かって〝ライトニング・ピアス”を放つ。

 

だが、それは突如現れた何者かによって阻まれる。

 

それはリィエルだった。

 

衣服は黒のボンデージの様な格好だが、顔、体格、使用している大剣までもが同じだった。

 

「まさか!?成功したのか!?」

 

「残念だったね!この子たちは完璧だ!面倒臭い感情は全部取り除いたからね。僕だけの操り人形だ。やれ、そいつらを始末しろ!」

 

命じられた三人のリィエル・レプリカは一斉に二人に飛び掛かる。

 

二人がグレンと戦い、もう一人が膝をついて絶望してるリィエルへと向かった。

 

「リィエル!?」

 

グレンは助けに向かおうとするが、二人のリィエル・レプリカに阻まれ助けに行けなった。

 

大剣がリィエルの眼前に迫る。

 

リィエルは反撃や防御するわけでもなく、ただ茫然とその剣を見つめていた。

 

バキィン!

 

だが、大剣はリィエルを斬らなかった。

 

剣が当たる直前、大剣が折れ、リィエルに当たらずに済んだ。

 

リィエルの前に立つ人の姿があった。

 

その者が来ている黒い服は、リィエルやアルベルトが来ている帝国宮廷魔導士団特務分室の執行官の服と似た形状をしていた。

 

そして、手には深紅のメイスがあった。

 

その者は手にしたメイスを振りかぶり、容赦なくリィエル・レプリカの腹部を殴打する。

 

リィエル・レプリカは殴り飛ばされ、地面を何度も叩き付けられ転がる。

 

「あのさ、俺、コイツに言いたいことがあるからさ、ちょっと黙っててくれる?」

 

メイスを肩に担ぎ、その者はいつもの淡々とした表情で言う。

 

「………アル……ト?」

 

現れたのはアルトだった。

 

アルザーノ魔術学院の制服ではなく、かつて着ていた帝国宮廷魔導士団特務第二分室の執行官の服を身に纏い、悪魔の公爵(アルト)は現れた。




タイトルが城之内死す!並のネタバレになってる………

次回でこの話は一段落します。

しかし、原作四巻は終わりません。

アルトが無事な理由は最後辺りで明かします

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