ロクでなし魔術講師と寡黙な義弟   作:ほにゃー

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第27話 グレンの決意

夜の波止場にメイスと大剣がぶつかり合う音が響く。

 

アルトの攻撃にリィエルは怯むことなく正面から相手し、互角に渡り合っていた。

 

普段なら、アルトの方に軍配が上がるだろう。

 

だが、今のアルトは目の前でグレンが刺されたことに冷静さを保てず、周りが見えていなかった。

 

例えるなら、今のアルトは巨大な力で巨木を振り回してるようなもの。

 

対して、今のリィエルは力こそアルトには及ばないもののその背後には守るべき兄がいた。

 

だからこそ、絶対に負けられなかった。

 

「せやああああ!!」

 

リィエルはアルトのメイスを体を捻って躱すと、そのまま身体を回転させながら大剣を突き刺す。

 

大剣が深々とアルトの腹部を貫通する。

 

普通の人間なら痛みに絶叫を上げ、のたうち回るか、痛みで気絶するだろう。

 

だが、アルトは違った。

 

わき腹を刺されながらも、一歩踏み込み、リィエルの腕をつかむ。

 

そして、メイスを振り下ろそうとする。

 

振り下ろされたメイスはリィエルの小さな体を叩き潰し、ただの肉塊へと変えるはずだった。

 

だが、振り下ろそうとした瞬間、アルトは思わず振り下ろすのを躊躇ってしまった。

 

相手が敵であれば誰だろうと排除する悪魔〝バルバトス”と言われたアルトが、リィエルを殺すのを躊躇ってしまった。

 

何故そんなことをしたのかアルトには分からなかった。

 

しかし、その躊躇いがアルトの隙を作った。

 

「はあああ!!」

 

リィエルはアルトの腹部に刺さった大剣の柄を持ち、そのまま横に振る。

 

さすがのアルトも、脇腹をそのまま引き裂かれては立っていることもできず、その場に蹲る。

 

「よくやったね、リィエル」

 

リィエルの兄は、リィエルに近づき肩に手を置く。

 

「さぁ、とどめを刺すんだ」

 

リィエルは黙って頷き、アルトの心臓目掛け剣の切っ先を向ける。

 

「………さようなら」

 

リィエルはそう言い、大剣を突き刺す。

 

その瞬間、アルトは気づいた。

 

何故、自分がこんなにもリィエルを見ていて腹が立つのか。

 

(ああ、そっか………こいつ、似てるんだ。昔の俺と……)

 

それを知った瞬間、アルトはもう少しリィエルと話しておけばよかったと後悔した。

 

それと同時に、大剣は心臓に突き刺さり、アルトは命が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リィエルに腹部を刺されたグレンは生きていた。

 

だが、〝ライフ・アップ”での回復は出来なかった。

 

〝ライフ・アップ”は被術者本人の自己治癒能力を高める為のものであるため、被術者本人に回復するだけの生命力がないと効果はなかった。

 

グレンは死にかけていた。

 

だが、アルベルトとシスティによりグレンは助かった。

 

アルベルトが被術者に施術者の生命力を増幅移植する白魔儀〝リヴァイヴァー”を使い、儀式に必要な大量の魔力をシスティが消費したお陰でグレンは助かった。

 

目が覚めるとグレンは、アルベルトに状況を聞き、グレンも何が起きたのかを話した。

 

そして、白金魔導研究所の所長、〝バークス=ブラウモン”が〝天の智慧研究会”と繋がっていることと、軍はそれを知りながらルミアを餌に敵を〝釣る”作戦を知った。

 

「……その作戦、女王陛下が考えたものじゃないよな。軍の独断か?」

 

「ああ、そうだ」

 

「ふざけんなっ!お前らの都合であいつ等を巻き込むな!」

 

「軍の決断もそれに従う俺も屑だ。否定はしない。だが、リィエルが裏切ったのは間接的にお前の責任だ。お前が自己満足で真実を話さなったからだ。………俺は王女を奪還しに行く。リィエルとは敵対するだろうが、そうなった以上、容赦はしない」

 

「………俺も連れていけ。リィエルとは俺が話す」

 

グレンはアルベルトにそう言う。

 

「兄が現れた以上アイツが今更話を聞くか?」

 

「俺は教師だ!リィエルを絶対に見捨てたりはしねぇ!気に食わないってんなら、殴るなりぶち殺すなりしやがれ!」

 

「………弟が殺されても同じことが言えるか?」

 

「………どう言う意味だ?」

 

「お前がリィエルにやられた後、アルトがリィエルと戦った。だが、冷静さを欠いでた為、殺された。心臓を一突き。遠目からもわかる。即死だ」

 

「……そんな……嘘だろ………」

 

グレンは思わず膝を付き俯く。

 

「これでもまだ、お前はアイツを見捨てないと言うのか?」

 

追い打ちをかけるようにアルベルトが言う。

 

グレンは数秒無言になると、立ち上がり、真っすぐアルベルトを見据えて言う。

 

「ああ、リィエルは見捨てない」

 

「………本気か?リィエルは裏切り、王女を攫った上、アルトを殺した。敵だとわかっていながら、それでも救おうと言うのか?」

 

「言っただろ。俺は教師だ。教師が生徒を見捨てるなんて有り得ねぇ。それに………自分が殺されたからリィエルを救わないなんてアルトに知られたら、教師失格どころか、兄貴失格だ。俺は、アイツが理想としてくれた兄貴の在り方を守る!」

 

「………変わらんな、お前は。心が折れれば、少しは現実を見れると思っていたのだがな………」

 

そう言い、アルベルトはグレンを思いっきり殴った。

 

床に倒れるグレンにある物を投げ渡し、アルベルトは背を向ける。

 

「だからこそ、俺はお前に期待してしまうのかもしれん。軍を勝手にやめたことはこれでチャラにしてやる。ソイツは手土産だ」

 

グレンは殴られた頬を撫でながら、渡された物の包みを破る。

 

そこには黒光りするパーカッション式回転弾倉拳銃(リボルバー)《魔銃 ペネトレイター》があった。

 

グレンが魔導師団時代に愛用していた銃だ。

 

「条件は二つ。一つは王女の救助が最優先。もう一つがやむを得ない場合は俺がリィエルを排除する。それが条件だ。それに反しなければ、リィエルはお前に任せる」

 

そう言い残し、アルベルトは部屋を出ていく。

 

グレンは素早く準備を整えると、ベッドで疲れて寝ているシスティの頭を優しく撫でてお礼を言う。

 

「またお前に助けられたな。ありがとうな、システィーナ」

 

そして、銃を抜き、動作チェックを行い、ガンスピンしながらホルスターに銃を入れる。

 

「………アルト、こんな酷い兄貴ですまねぇ。お前の仇は討てない。でも、その代わりとは思わねぇが、俺を慕ってくれたお前との記憶だけは絶対に忘れねぇ」

 

そう言い、かつて〝正義の味方”を夢見たグレンは強い決意を胸に、部屋を出る。

 

ルミアとリィエルを助けるために。


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