全員が海で遊んだ翌日。
今日は、白金魔導研究所への見学の日となっている。
白金とは白金術のことで、白金術は白魔術と錬金術の複合魔術である。
そして、白金魔術は生命を扱う分野のため、新鮮な生命マナで溢れている処でないと研究ができない。
そのため、二組は全員で山道を汗だくで登っていた。
アルトはと言うと平気な顔で登っていた。
「うるさい!」
突如、リィエルが大声を上げた。
行き成りのことに全員が歩くのを止めてそちらを見る。
「うるさいうるさいうるさい!関わらないで!もう私に関わらないで!イライラするから!私は、貴方達なんて大っ嫌い!」
急に子供のように喚き散らしてリィエルはそのままシスティとルミアに背を向け歩き去っていく。
アルトは二人に近づき声をかけた。
「どうしたの、あいつ?」
「わからないわ。急に怒鳴っちゃって」
「リィエル……嫌だったのかな?私たちとは違う世界に住んでるのに、私がお節介で振り回して………無理して付き合ってくれてたのかな?」
憂いと悲哀に満ちた表情で、ルミアは言う。
「そんなことねーよ」
そんなルミアにグレンは声をかける。
「悪いな。俺が昨日、アイツを怒らせちまってまだちょっと不安定なんだ。これで愛想尽かさないでやってくれ。アイツは、見た目以上にまだ子供なんだ……」
「………めんどくさい奴だな」
アルトは誰にも聞こえないよう、ぼそりと呟いた。
その後、リィエルの行動に疑問を持ちつつも、生徒たちはグレンの呼びかけで再び歩き始め、二時間掛けて研究所についた。
この時点で平然としているのはグレンとアルト、そして集団から少し離れた位置にいるリィエルのみだった。
「全員いるか?はぐれた奴とかはいないな?」
座り込んでいる生徒たちの数を数えていると、一人の老人が現れる。
「わざわざ遠路遥々、ようこそ我が白金魔導研究所へ。所長のバークス=ブラウモンです」
「あんたがバークスさんか。今日一日、うちのヒヨッ子供がうるさいでしょうけど、我慢してください」
「はっはっはっ!いえいえ、お気になさらず。今日は私が研究所を案内しましょう」
「えっ!?所長のあんた自ら!?いいんですか?」
「構いませんよ。私としても研究ばっかで気が滅入ってしまいますし、偶には若者と触れ合うのもいいものです。それに、私ならば普段は立ち入ることの出来ない区画を紹介することもできます。やはり、未来ある彼らには最新の研究を見て、たくさん学んでほしいですから」
最新の研究を見せてもらえることもあり、クラス全員が盛り上がっていた。
そんな中、ルミアはバークスに何かを感じたが、特に気に留めずそのまま研究所の案内を受けた。
バークスが研究所について説明をしている中、アルトはずっとリィエルを見ていた。
いくら見ていると腹が立つとはいっても同じクラス。
嫌でもクラスに居る時の様子は見える。
その時の様子からアルトはリィエルはシスティとルミアと仲が良いと思っていた。
そして、それは遠征学修の間も続いていた。
少なくとも昨日、海で遊んでいる時はそうではなかった。
いくらグレンが怒らせたからと言って、周りに当たり散らすような奴なのか?
アルトはそこが気になっていた。
(ま、案外そう言う奴だったのかも)
だが、きっとそう言う奴なんだろうと自己完結し、研究所の見学をつづけた。
見学が終わるころには外はすでに日が沈み始めていた。
最初は白金魔導研究所の見学に乗り気ではなかった者たちも、見学が終わるころにはその研究内容に興奮し、感銘を受けていた。
だが、リィエルだけはやはり集団から少し離れた位置で立っていた。
「ねぇ、リィエル。これから皆でご飯食べに行くんだけど良かったら一緒に「やだ」
露骨に拒絶するリィエルにルミアは悲しそうにする。
そんなリィエルにシスティは苛立ちを募らせていた。
グレンもこれ以上は看過できなかったため、いい加減にしろと声を掛けようとした。
「あのさ、いつまでそうしてるのさ」
だが、グレンよりもアルトが先にリィエルの前に立った。
「……あなたには関係ない」
「あるよ。少なくともこのままだとルミアの護衛に支障が出る。お前が勝手やって勝手に死ぬのはいいけど、ルミアまで死なせるようなら俺は許さないよ」
「……うるさい」
「そんなんでよくグレンを守るなんて言えたね。今のお前じゃグレンどころか誰だって守れやしないよ」
「うるさい!」
リィエルは拳を握り、アルトを殴ろうとする。
だが、その拳をグレンに止められた。
「いい加減にしろ、リィエル!悪いが、アルトの言う通りだぞ!いつまで一人で拗ねてやがる!」
「くっ……うるさい!」
グレンの腕を振り払うと、リィエルはそのまま走り出し、路地裏へと入り、そのまま姿を消した。
「あのバカ……」
「先生、追いかけてあげてください」
頭を悩ませているグレンにルミアがそう言う。
「私たちは大丈夫ですから、今はリィエルの傍に居て上げてください。私たちが行っても逆効果でしょうから……」
「すまん」
ルミアに頭を下げ、グレンはリィエルの後を追い掛ける。
それを見て、アルトは軽く溜息を吐く。
「俺も行ってくる」
「アルト君?」
「グレン一人じゃ見つけるの大変だろうし、それにちょっと言い過ぎたかも」
そう言うアルトにルミアは思わず笑みを浮かべた。
「アルト君、なんやかんや言ってもリィエルのこと、心配してくれてるんだね」
「別に。そんなんじゃないし」
アルトはルミアの方を見ずにグレンの後を追い掛けた。
「たっく、一体どこまで行ったんだよ、アイツ」
アルトはサイネリア島の旧開発地区を歩きながら、リィエルとグレンを探していた。
「島はあらかた見たし、ここを見て居なかったら一度戻った方がいいかな」
そう思った瞬間、アルトは遠くから人の声が聞こえてくるのに気付いた。
その声はグレンのものだった。
何を言ってるかまでは聞こえなかったが、アルトはきっとリィエルを見つけたのだろうと思い、声がした方へと向かった。
「グレン、見つかったの?」
声を掛けながら、その場所にたどり着く。
そして、そこでアルトは見た。
リィエルが大剣で、グレンの体を突き刺しているのを。
「………え?」
アルトは何が起きたのか理解出来なかった。
「グレン、今までありがとう。私は、そこにいる兄さんのために生きる。さようなら」
「あ、兄貴……?お前、何を……!」
グレンは口から血を吐きながら、リィエルに問い掛けるがリィエルは何も言わず、件ヲ横に振る。
そのままグレンの体から剣が抜け、グレンはそのまま暗い海の中へと落ちて行った。
「ありがとう、リィエル」
するとリィエルと同じ青い髪の青年はリィエルに優しく声を掛ける。
「辛い思いをさせてしまったね」
「……別に。私はただ、兄さんのために………」
青年を兄と呼ぶリィエル。
何のことかアルトにはわからなかった。
否、それどころではなかった。
自分の
アルトはすでに冷静ではなかった。
メイスを出し、そして跳躍した。
「お前ええええええええええ!!」
アルトの咆哮が夜の街に響き渡った。
メイスをそのままリィエルに向かった振り下ろす。
リィエルはメイスを大剣で受け止め、応戦する。
「絶対に許さない!」