ロクでなし魔術講師と寡黙な義弟   作:ほにゃー

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第25話 フルカスの占い

リィエルがアルザーノ帝国魔術学院に編入してきて早一週間。

 

最初は浮いていたリィエルだったがルミアやシスティのおかげもあり、ようやくクラスにも馴染んできた。

 

そして、今現在、リィエルは人だかりの中心に立ち自分の魔術について説明していた。

 

「で……こうやって、ここの元素配列式をマルキオス演算展開して……こう。で、こうやって算出した火素(フラメア)水素(アクエス)気素(エアル)霊素(エテリオ)根源素(オリジン)属性値の各戻り値を……こっちに……こんな感じで根源素(オリジン)を再配列していって……物質を再構築……」

 

こうなったのは今日の最後の授業が錬金術で、その話の中でリィエルの錬金術の話題が出て、今こうしてリィエルから説明をしてもらっている。

 

「……わかった?」

 

「おう、まったくわからん」

 

淡々と説明したリィエルが聞くと、カッシュが爽やかに言う。

 

「リィエルって、すごいね……私も途中から何をやってるのかわからなくなっちゃったよ……」

 

「リィエル、貴女……いつもこんなことやってるの?これ一歩間違えたら脳内演算処理がオーバーフローして廃人確定よ?」

 

ルミアが苦笑し、システィが問い詰めると、リィエルはキョトンと首を傾げた。

 

「……そうなの?」

 

「そうよ!」

 

「……知らなかった」

 

わいわいと騒ぐ教室にグレンは軽く胸を撫で下ろしていた。

 

正直、あのリィエルが学生としてここでやっていけるのかに不安を感じていたが、それが杞憂に終わりそうで内心喜んでいた。

 

リィエルのことを猪突猛進、仕事を一緒にしたくない同僚、バカ、不安しかないと思いつつも、グレンはリィエルのことを気に掛けていた。

 

(まだアッサリ受け入れられてるってわけじゃないが、この分なら大丈夫そうだな………しっかし、アルトの奴が感情を露わにするとか珍しいよな、アルトの方も何とかしないとな………)

 

そのアルトはと言うと、頬杖をしながらリィエルを見ていた。

 

その目には不機嫌でも対抗心でもない、まるで何かを探るような目だったのには誰も気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルザーノ帝国魔術学院の二年生たちはある行事を行うことになっている。

 

遠征学修。

 

外の魔導研究施設を訪ねる2年次の必修単位の一つで、授業進行状況や受け入れ先との兼ね合いから各クラスごとに別々の時期・場所で行われる。

 

そして、グレンのクラスではサイネリア島にある白金魔導研究所に行くことになった。

 

生徒たちは軍事魔導研究所や魔導工学研究所の方が良かったと愚痴っていた。

 

だが、そんな不満もグレンの次の言葉で一気に無くなった。

 

「白金魔導研究所があるサイネリア島はリゾートビーチとして有名」

 

男子たちはクラスの女子の水着が拝めると大興奮だった。

 

そんな男子と講師を女子たちは冷ややかな目で見ていた。

 

なお、グレンの本心としては生徒たちを軍事魔導に極力関わらせたくなかったからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠征学修当日。

 

初日はほとんど移動に時間を費やし、次の日にサイネリア島へ船で向かう。

 

サイネリア島へ着くと、全員が止まる宿へと案内され、二日目はそれで終わった。

 

初日を含め三日間は天候などによる遅れを考慮して余裕を持たせてあり、四日目からが遠征学修の始まりとなってる。

 

宿へと着くなりカッシュを筆頭に男子は女子部屋への潜入を企み、グレンにそれを阻まれ、大騒ぎをしていた。

 

そして、三日目。

 

自由行動となっているこの日、二組は全員が海へと出ていた。

 

もちろん、全員が水着だった。

 

そのことに男子は涙を流して喜び、昨夜のグレンへの暴行を謝罪した。

 

むろん、昨夜の大乱闘にはアルトも参加しており、被害の度合いとしては男子たちの方が酷かった。

 

全員が海で泳いだり、ビーチバレーをやってる中、アルトは一人海から離れ、森の中にいた。

 

「シンリィとドウェインに続いてフォルネスまでどうしてここに?」

 

「いや~、やっぱアルトにはバレるか」

 

そう言ってアロハシャツを着た金髪にサングラスをかけた軽薄そうな男が現れる。

 

フォルネス=フィークス。

 

見た目からは考えられないが、この男もれっきとした帝国宮廷魔導士団特務第二分室の所属で〝フルカス”の名を与えられた魔術師。

 

「なんでここにきてるの?まさかとは思うけど」

 

「いやいや、そう警戒するなって。確かに仕事で来たに過ぎないがお前らとは別件だ。ただ、偶然町でアルザーノ魔術学院の生徒が遠征学修で来てるって聞いたからな。もしやと思って見に来ただけだ。久しぶりだな、アルト、元気そうだな」

 

「そうだね。フォルネスは?」

 

「いつも通りだよ」

 

フォルネスはにししっといった具合に笑い、アルトの格好を見る。

 

「制服、結構似合ってるじゃないか」

 

「そう?」

 

「ああ、それにしても学生か~。いいねぇ~!俺も、学生時代に戻りたいぜ。しかも、アルザーノ魔術学院の女子の制服ってエロいよな」

 

「そうかな?」

 

「そうだって!………で、どうだ?好きなことかはできた?気になる子とかは?」

 

肩を組んできて笑いかけてくるフォルネス。

 

そんなフォルネスの質問に、アルトは一瞬だけリィエルの顔を思い浮かべる。

 

好きか嫌いかはともかく、現段階でアルトが気になる女子ではある。

 

「恋愛的な意味じゃないけど、気になる奴ならいるかな」

 

「マジか!?どんな子だ?」

 

「見てると腹が立ってくる」

 

「え?」

 

まさかそういう意味での気になるとは思っておらず、フォルネスは固まる。

 

「なんでかはわからないけど、とにかく腹が立つ。でも」

 

「ん?」

 

「なんか妙に気になるんだよね」

 

思えばここ数日、アルトはリィエルに対して不機嫌になるときもあれば妙に気になる時があった。

 

決して好きになったとかそう言うのではない。

 

なぜか気になっていた。

 

「………そうか、なら、ここは一つ!俺が占ってやろう!」

 

そう言うとフォルネスはタロットカードを取り出す。

 

「俺、占いとか信じてないんだけど」

 

「まぁまぁ、知ってるだろ?俺の占いは百発百中だ」

 

そう言いフォルネスはカードをアルトにシャッフルさせ、カードを引かせる。

 

フォルネスが行ったのはスリーカードと言う占いで、カードを、上から三枚引き、左から順に横に並べる。

 

左から、過去・現在・未来となり、過去=質問の原因、現在=今の状況や今やるべきこと、未来=質問の解決策や結果となる。

 

「結果が出たぜ。お前さんがその子のことで腹が立ったりするのはその子のことをよく知らないからだ」

 

そう言い逆位置の〝皇帝(THE EMPEROR)”のカードを見せる。

 

「だがそれも、助け合いで変わる」

 

今度は正位置の〝正義(THE JUSTICE)”を見せる。

 

「つまり、お前さんはその子といい関係が築けるってことだ」

 

そう言って結果として現れたカードをアルトに投げ渡す。

 

「やるよ。お守り代わりにでも持ってな」

 

「こんな結果、本当に当たるの?」

 

「信じろよ。なんせ、〝フルカス”の名を与えられた俺の占いだ。ま、心にとどめておけよ、別に悪い結果じゃねぇからよ。じゃあな、俺は仕事に戻る」

 

フォルネスはそう言い残し、その場を去る。

 

アルトは渡されたタロットをポケットにしまい、ビーチへと戻った。

 

そして、グレンに言われるがままビーチバレーに参加し、圧勝しまくった。




フルカス

ソロモン72柱の悪魔の1人で、20の軍団を率いる序列50番の地獄の騎士

博識な悪魔であり、哲学や修辞学、論理学、天文学、占星術などを教えてくれる

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