ロクでなし魔術講師と寡黙な義弟   作:ほにゃー

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第24話 転校生リィエル

「今日からお前たちの仲間になるリィエル=レイフォードだ」

 

グレンは教室につくなり、真っ先にリィエルを全員に紹介した。

 

リィエルは見た目は美少女のため、男子からの人気はよかった。

 

女子からも、その見た目から可愛らしいという印象で人気だった。

 

だが、当の本人は何も言わずただ黙って立っていた。

 

「おい、リィエル。自己紹介しろ」

 

グレンはそんなリィエルに小声で言う。

 

「……リィエル=レイフォード」

 

リィエルはそれだけ言って、あとは何も言わなかった。

 

その光景に、クラスの誰もがあることを思い出した。

 

アルトの転校初日。

 

その時の自己紹介だった。

 

思わず全員がアルトの方を横目で見る。

 

アルトはと言うと、つまらなさそうに、それでいて不機嫌そうにリィエルを頬杖しながら見ていた。

 

その光景に誰もが意外そうにした。

 

アルトは他人に興味がない。

 

具体的に言うと、自身に関係ない人間には興味がない人種だ。

 

魔術競技祭以降、アルトは学院内ではちょっとした有名人になっていた。

 

錬金術に興味を持つ生徒が錬金術について聞きに来た時も、あの時助けられた生徒がお礼を言いに来ても、アルトはまったく反応せず、「あっそ」の一言で片づけていた。

 

そのアルトがここまで露骨に感情をあらわにしている。

 

誰だって意外に思う。

 

「あのなぁ、リィエル。名前は今、俺が言っただろ。他のことを言え」

 

「他の事………私は帝国軍が一翼、帝国宮廷魔導士だn「だああああああああああああ!!?」

 

いきなり素性を明かそうとしたリィエルにグレンは大声を開け、自己紹介を中断させ、耳元でボソボソと話し出す。

 

「私は、将来、帝国軍への入隊を目指し、魔術を学ぶためにこの学院にやってきた……ということで、出身地はイテリア?地方……年齢は多分十五、趣味は……読書?特技は……なんだっけ?」

 

明らかに異様な光景にクラスの誰もが何も言えずにいた。

 

「お一つよろしいでしょうか?」

 

そんな中、ウェンディが手を挙げて発言をした。

 

「リィエルさんは、イテリア地方から来たって仰っていましたが、ご家族はどうされているのですか?」

 

「っ!?」

 

「……家族?」

 

その質問にグレンは目を見開き、リィエルがほんの少し眉を動かす。

 

「家族……家族は………兄がいた、けど……」

 

「あー、悪い。実は今、リィエルには身寄りがいないんだ。察してくれ」

 

「そ、そうでしたか。申し訳ありません、リィエルさん。知らなかったとはいえ、私……」

 

「……大丈夫、問題ない」

 

そう言うリィエルだったがうつむき、どこか元気なさそうに言う。

 

「あ、じゃあさ!」

 

そんな中、カッシュが立ち上がり言う。

 

「グレン先生とはどういう関係なの?親しそうだけど?」

 

「グレンとの関係?………グレンは私の全て。私はグレンのために生きると決めた」

 

カッシュの質問に対し、リィエルは特大の爆弾を落とした。

 

クラスに女子の黄色い声と、男子の悲鳴に近い絶叫が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、「騒がしい!」と飛び込んできたハーレイ先生を追い返し、リィエルのとの関係を解いだ(と思い込んでいる)グレンは、予定が狂ったことから本来の予定を変え、魔術実践の授業を行うことにいた。

 

内容は二百メトラ先にあるゴーレムの頭、胴体、両腕、両足の六ヶ所につけられた的に向かって〝ショック・ボルト”を当てるものだ。

 

その結果、システィとギイブルの二人は6分の6と、全弾命中し、ウェンディも最後の一発をくしゃみをしてしまい外した以外、すべて当てていた。

 

他の生徒は比較的半分は当てており、カッシュは全弾外していた。

 

「えっと、あとはアルトとリィエルか。時間も残り僅かだし、二人まとめてやるぞ」

 

グレンにそう言われ、アルトとリィエルが前に出る。

 

「お前ら、わかってると思うが使うのは〝ショック・ボルト”だからな。軍用魔術は絶対に使うなよ」

 

「わかった」

 

アルトはグレンにそう言い、リィエルは無言でうなずいた。

 

新たに用意されたゴーレムを加え、二人が位置に立つ。

 

「《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒せ》」

 

最初に術を撃ったのはリィエルだった。

 

だが、〝ショック・ボルト”は的どころかゴーレムを大きく右に外した。

 

「《雷精の紫電よ》」

 

そんなリィエルをよそに、アルトも術を撃つ。

 

だが、アルトの〝ショック・ボルト”はゴーレムの足元に落ちた。

 

その後二人とも撃ち続けるが、二人とも的どころかゴーレムにすら掠らなかった。

 

(リィエルが黒魔術の攻性呪文(アサルト・スペル)を使ったところを見たことがなかったが、まさかここまで下手だったとはな………そういえば、アルトも黒魔術の攻性呪文(アサルト・スペル)を使うときは必ず接近してたっけ。まさか、アルトまで下手だったとはな………)

 

グレンがそう思ってると、とうとう二人とも残り一回しか術を撃つチャンスはなかった。

 

「……ねぇ、グレン。これって〝ショック・ボルト”じゃないとダメなの?」

 

「ダメとは言わねーが、……この距離じゃ、他の攻性呪文(アサルト・スペル)じゃ届かねぇぞ?」

 

「つまり、呪文自体は何でもいい?」

 

「まぁ、一応……」

 

「わかった」

 

リィエルはそれを確認すると、呪文を唱えだす。

 

「《万象に希う・我が腕手に・剛毅なる刃を》」

 

リィエルは得意の高速錬金術で大剣を作り出す。

 

「まっ!?リィエル、お前何を!」

 

「いいいいいいいいいやあああ!!」

 

グレンの言葉も聞かずに、リィエルは大剣をぶん投げる。

 

大剣はゴーレムの腹部に命中し、そのままゴーレムごと破壊する。

 

「ん、6分の6」

 

「お、おい、リィエル……」

 

「今のは錬金術で生み出した剣だから立派な攻性呪文(アサルト・スペル)

 

そう言うリィエルにグレンは何も言えなかった。

 

「それぐらい、俺にも」

 

突如不穏な言葉が聞こえた。

 

グレンが慌てて隣を見ると、そこにはメイスを取り出してるアルトがいた。

 

「ちょ、アルト!?お前まで何を!」

 

「ふんっ!」

 

その掛け声とともに、アルトはメイスを投げ飛ばす。

 

もちろんゴーレムは砕け散り、そのまま地面を抉った。

 

正直、リィエルよりも威力がやばかった。

 

「俺も6分の6」

 

「勘弁してください」

 

グレンは一人顔を覆って、涙を流した。

 

なお、競技場の床の修復費はグレンの給料から引かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業の一件から、リィエルはクラス全員から避けられていた。

 

『怖いやつ』『変なやつ』『危ないやつ』

 

それがリィエルに張られたレッテルだった。

 

またあまり感情を見せない処から、誰もが話しかけ辛かった。

 

「ねぇ、リィエル。もうお昼だけど、リィエルはどうするの?」

 

そんな中、ルミアがリィエルに話しかけていた。

 

「必要ない。私は三日間何も食べなくても平気」

 

「それじゃダメだよ。ちゃんと食べないと体にもよくないし、お仕事に支障が出ちゃうよ」

 

「……一理ある。でも、何を食べたらいいのかわからない。今回の任務には野戦糧食(レーション)が支給されなかったし」

 

「じゃあさ、私たちと一緒に学食に行かない?」

 

すると今度はシスティが話しかけてきた。

 

「学食?よくわからないけど、行く」

 

リィエルはルミアとシスティに連れられて学食へと向かった。

 

「アルト、俺たちも飯に行こうぜ」

 

するとカッシュがアルトに話しかけ、昼食に誘った。

 

ちなみに、魔術競技祭の一件でアルトは少しではあるがクラスメイトから徐々に受け入れられつつある。

 

「うん、いいよ」

 

アルトも立ち上がり、カッシュと他のメンバーと一緒に学食へ向かう。

 

学食につくとカッシュたちは自分達が食べたいものを注文する。

 

「俺もいつもの。あと、イチゴタルトね」

 

「あ、悪い。今日はイチゴタルトもうねぇんだわ」

 

アルトが注文すると、厨房からコックが申し訳なさそうに言う。

 

「え?」

 

「さっき、青い髪の女の子が全部注文しちゃってな。悪いな」

 

アルトはイチゴタルト以外のものを全部受け取ると、席を見渡す。

 

そして、大量のイチゴタルトを食べているリィエルに気づく。

 

するとアルトは今までにないぐらいに不機嫌になった。

 

「あ、アルト?」

 

「カッシュ。悪いけど、俺今日一人で食べる」

 

アルトはそう言い、カッシュたちと離れる。

 

「くっそ………なんでこんなに腹が立つんだろ………」

 

一人そう呟き、アルトは黙々と昼食を食べた。


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