ロクでなし魔術講師と寡黙な義弟   作:ほにゃー

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第20話 女王に会う為に

リィエル=レイフォード。

 

帝国宮廷魔導士団特務分室所属、で、〝戦車”の名を与えられた少女である。

 

ルーンの仕様に存在するバグを利用した〝隠す爪(ハイドゥン・クロウ)”と呼ばれる高速武器練成と白魔〝フィジカル・ブースト”によって、その細腕からは想像できないような怪力を利用した力押しが主な戦法とされている。

 

対してアルトの戦法も似たようなものである。

 

メイスと自身の腕力による力押し。

 

どんな魔術も正面から叩き潰し、罠も力で破壊し、力によるごり押し。

 

つまり、この二人がぶつかれば、周囲が壊れるどころの騒ぎではなかった。

 

空気は震え、窓もビリビリと震え、今にも大剣とメイスのぶつかり合った衝撃で割れそうな勢いだった。

 

「おいおい!?アルト、少し落ち着け!」

 

グレンはアルトに呼びかけるが、アルトはリィエルの相手をするのに精一杯で、グレンの声が耳に入っていなかった。

 

(ダメだ!完全に聞こえてねぇ!しかも、相手はリィエルだけじゃねぇ!)

 

グレンはリィエルの後ろに立っている男を見る。

 

アルベルト=フレイザー。

 

リィエルと同じく、帝国宮廷魔導士団特務分室所属の執行官で、〝星”の名を与えられた魔術師で、搦め手を一切使わず、正確無比な魔力制御による的確・適切な魔術運用を行うという正統派魔術師の教科書のような強さを持ち、「帝国随一の狙撃手」の異名で呼ばれている。

 

二人とも、グレンが帝国軍時代だった時の同僚だった、。

 

この二人相手にグレンは固有魔術(オリジナル)〝愚者の世界”は使えなかった。

 

〝愚者の世界”はグレンを中心とした一定範囲内における魔術の行使を完封する術。

 

錬金術で作った剣で戦闘するリィエルには効果はなかった。

 

またアルベルトは〝愚者の世界”の効果範囲外からの長距離狙撃ができる。

 

つまりこの二人相手では〝愚者の世界”は意味がなかった。

 

だからこそ、帝国軍時代はよくこの二人とグレンは組んで仕事をこなしていた。

 

未だに戦闘を続けるアルトとリィエルにアルベルトは溜息を吐き、指を向ける。

 

「アルト、避けろ!」

 

グレンはアルベルトの狙撃を察し、アルトに声を掛ける。

 

アルトが気付く頃には、すでに魔術が放たれていた。

 

飛んできた魔術にアルトは回避行動をしようとするが、それをリィエルが邪魔をする。

 

「きゃん!?」

 

アルベルトが撃った一撃はリィエルの頭に当たり、リィエルはそのまま倒れる。

 

「え?」

 

その光景にグレンは思わずそう呟いた。

 

「久しぶりだな、グレン」

 

アルベルトはそう言い倒れているリィエルを肩に担ぐ。

 

「ここでは人目に付く。付いて来い。場所を変えるぞ」

 

アルベルトにつられて、場所を移動した後、グレンは目の覚めたリィエルにいきなり襲ってきた理由を尋ねた。

 

「はぁ!?俺の現役時代にお預けだった勝負の決着が付けたかっただと!?死ぬところだったわ、この脳筋!」

 

グレンに文句を言われているリィエルだったが、グレンの言葉に耳を傾けず、アルトを見ていた。

 

そして、アルトもリィエルを見ていた。

 

(……グレンを守っていた。グレンを守るのは私なのに………)

 

(グレンに攻撃を仕掛けてきた。許さない………)

 

何故か互いに敵対心を持っていた。

 

「グレン。俺たちの任務は最近過激な同行が目立つ王室親衛隊の監視だった。実際に行動を起こす確率は低いと思っていたが、奴らはそこの娘、ルミア嬢を始末するために事を起こしている。陛下は今、親衛隊の監視下の元、貴賓席にいる。そして、親衛隊の隊長は40年前の奉神戦争を生き抜いた、二刀細剣の達人〝ゼーロス=ドラグハート”。近づくのは至難の業だろう」

 

「ゼーロス……厄介だな」

 

「厄介なのはそれだけじゃない」

 

すると、今度は建物の屋上から二人の人影が降り立つ。

 

それはシンリィとドウェインだった。

 

「なっ!?シンリィにドウェイン!?お前たちまで来てたのか!?」

 

「久しぶりだな、グレン」

 

「やっほー、愚者。おひさー」

 

二人はグレンに挨拶をするとアルベルトとリィエルを見る。

 

「貴様らか。何故〝第二”が此処にいる?」

 

「俺たちも任務だ。ま、お宅らと違って、俺達は〝暗部”の監視と排除だがな」

 

暗部という言葉に、グレンだけでなく、アルベルトも反応する。

 

「暗部か。ゼーロス以上に厄介だな」

 

「なんで暗部まで出てくるんだよ!?」

 

「それほど、そこの廃棄王女が邪魔なんだろうよ。親衛隊にしろ、暗部にしろ、王家への忠誠心は本物だ。王家の為にとか考えて暴走してもおかしくはないだろ」

 

「だが、陛下がいる前で不敬罪を犯してまでする意味が分からん」

 

「確かにな。やるなら密かにやるべきだ」

 

大人三人組が真剣に話し合ってる横で、子供三人組は険悪な雰囲気になっていた。

 

「ちょっとアンタ。何アルトのこと睨んでるのよ?」

 

「睨んでない。私はただ彼を見ていただけ」

 

「それを睨んでたって言うのよ」

 

「シンリィ、落ち着いて。らしくないよ」

 

正確にはアルトを睨んでいたリィエルに対し、シンリィが喧嘩腰になり、それをアルトがなだめていた。

 

「それよりグレン。私にいい考えがある」

 

リェイエルがグレンの方を向きそう言う。

 

「なんだ?言ってみろ」

 

「まず私が正面から敵に突っ込む。その後にグレンが正面から突っ込む。最後にアルベルトが正面から突っ込む。どう?」

 

真剣な表情でそう言うリィエルにグレンは頭が痛くなっていた。

 

隣にいたドウェインもあきれたように溜息を吐く。

 

「グレン、お前が居なくなった後の俺の心労がわかるか?」

 

「うん。ごめん」

 

「ひどい作戦だね」

 

アルトがそう言うとリィエルは不機嫌になり、アルトに指を突きつける。

 

「なら、そっちが作戦を考えて」

 

「いいよ。そもそも、単騎による正面突破自体が愚策」

 

そう言うアルトに思わずグレンはおおっ!っと言いそうになった。

 

アルトの考えはまさしくその通りだった。

 

アルトは軍にいた時から作戦を考えることが苦手だった。

 

だから、この成長にはグレンだけでなくシンリィ、ドウェインも驚いていた。

 

「だから全員で正面突破。これなら最初の一人がやられても、次の人が敵を倒せる。これならいける」

 

それを聞き、全員が「ああ、やっぱりか……」と言いたげな目をした。

 

そんな中、リィエルだけはそれがあったか!と言いたげに目を見開いていた。

 

「リィエルとアルトの作戦はともかくとして、とにかく俺たちは陛下に直接会わなくちゃならない。それが突破口になる」

 

「その根拠は?」

 

「セリカがそう言った。一人でも事足りる程の力を持つアイツが動けないのはわからないが、意味のないことは言わない奴だ」

 

「俺はグレンの言い分を信じようと思う。このままじっとしててもしょうがねぇしな」

 

「いいだろう。俺もお前を信じる。では、俺たちはどのように動けばいい?」

 

「今回の競技祭での優勝クラスの担任講師は代表生徒と共に表彰台で陛下から勲章を賜れる。それを利用するんだ。この時ばかりは、親衛隊もマークを外さなきゃならねぇ。勲章を下肢する瞬間を妨げるのは、陛下の威光と面子を潰すことになるからな。その時、俺たちが怪しまれずに陛下の前に立つ方法。それは――――――――――」


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