ロクでなし魔術講師と寡黙な義弟   作:ほにゃー

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第19話 戦車と星

アルトはメイスを手に走っていた。

 

いつも着ている学院の制服ではなく、かつて愛用していた執行官の服でもない、黒いコートを身に纏い、そして、手にしたメイスで殺す。

 

フードを被ったその者を殺し、アルトはそのフードを捲る。

 

そこにあった顔は―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………夢か。嫌な夢だったな」

 

アルトはベンチから起き上がると、掻いていた寝汗を拭き、立ち上がる。

 

「寝すぎたな。もう午後が始まってるし、そろそろ戻らないと」

 

急いでクラスの所に戻ろうとすると、遠くであるものが見えた。

 

それは、ルミアが王室親衛隊に囲まれている状況だった。

 

アルトはドウェインに言われた事を思い出し、急いで走り出す。

 

「何者だ!止まれ!」

 

兵士の一人が剣を抜き、アルトに向けるがアルトはお構いなしに走り、そのまま跳躍してルミアの前に立つ。

 

「ねぇ、これってなんの真似?」

 

「貴様に語る理由はない!そこをどけ!」

 

「嫌だね。理由もなしに、友達が殺されるのを黙って見過ごすなんて出来ない」

 

アルトはいつでもメイスを取り出せるように構え、王室親衛隊を睨み付ける。

 

「アルト君、駄目!」

 

そんな中、ルミアは声を上げる。

 

「この人たちには向かったら、アルト君まで国家反逆罪に問われることになる。私のことはいいから、放って置いて」

 

ルミアは覚悟を決めていた。

 

アルトは何があってこのような事態になったのかは分からなかった。

 

だが、ルミアが死を覚悟しているのは理解できた。

 

だからこそ、簡単には引けなかった。

 

「悪いけど、他が助かるなら自分はどうなってもいいって考えは嫌いだな」

 

「でも!そうしないとアルト君は!」

 

「ルミアの覚悟はただの自己満足。ルミアがいなくなったらシスティもカッシュも、皆悲しむよ。その辺、考えてる?」

 

アルトがそう言うと、ルミアは、はっとし、俯く。

 

「自己犠牲なんてするぐらいなら、意地汚く足掻いた方がいいと思うよ」

 

「ああ、その通りだ。アルト!」

 

何処からが声が聞こえる。

 

アルトは自分とルミアの目を覆うように肩についてるマントで、視界を遮る。

 

その直後、強烈な光が王室親衛隊とアルト、ルミアを襲う。

 

だが、アルトとルミアは視界を塞いでたので光を直視せずに済んだが、光を直視した親衛隊はそうもいかず、目を押さえ蹲っていた。

 

「黒魔“フラッシュ・ライト”。いくら耐魔術装備してたって、強烈な光までは防げなかったな」

 

グレンが木の上から跳び降りて現れ、親衛隊たちを殴り倒していく。

 

「先生!?ど、どうして………?」

 

「自分の生徒が殺されるってのに暢気に気絶なんてしてられるかよ。それに……約束したからな」

 

最後だけ呟く様に言いグレンは頭を掻く。

 

「で、グレン。何があったの?」

 

「ああ、それなんだが「居たぞ!」

 

親衛隊が現れ、ルミアの姿を見るなり大声を上げる。

 

「同士たちが倒れているぞ!」

 

「おのれ!大罪人に与する不届き者どもめ!」

 

「同胞たちの無念!必ず晴らして見せる!」

 

親衛隊たちは殺気立ちながら三人に向かって剣を抜き、走り出す。

 

「ちっ!訳は後で話す!今は逃げるぞ!」

 

「きゃっ!?」

 

「了解」

 

グレンはルミアを抱えると、呪文を唱える。

 

「「《三界の理・天秤の法則・律の皿は左舷に傾くべし》!」」

 

アルトも一緒に唱え、三人は一気に飛び上がり塀の外へと逃げる。

 

黒魔“グラビティ・コントロール”

 

自身又は触れた対象らにかかる重さを軽減させたり逆に重くさせることが出来る黒魔術で、グレンとアルトはこれを使い自身とルミアノ重さを軽くし、跳躍した。

 

三人は親衛隊たちからある程度離れるとグレンはアルトに事情を話した。

 

なんでも、昼の時間に、女王陛下のアリシア7世がルミアに会うためにセリカの魔術で姿を晦まし、訪れた。

 

その時ルミアは、かつて捨てられた恐怖から女王の下をすぐに離れてしまい結局二人は話すことができなかった。

 

午後の部が始まって間も無くルミアの姿が見えなかったためグレンが探しに行き、ルミアと話、ルミアがようやく決心して女王と話そうと思った矢先に、親衛隊が現れ、ルミアを女王暗殺を企んだ下手人として捕らえ、女王の勅命だと言って処刑しようとしたそうだ。

 

「いくら勅命だからって裁判もなしに処刑なんてしないと思うけど」

 

「そこは俺もおかしいと思ってる。ま、きっと何かの間違いだろう。陛下に直接会って誤解を解いでもらえば……ってそんなことしなくても良いじゃねぇか」

 

グレンはセリカとの通信用の宝石を取り出し連絡を取ろうとする。

 

セリカは現在女王と一緒に貴賓席にいる。

 

だから連絡さえ取れれば、こっちの勝ち。

 

グレンはそう思った。

 

だが、セリカは事情を知っていながら、何も出来ないし何も言えないと言い、グレンになんとしてでも女王の所に来いと言い、通信を切った。

 

「くそっ!一体どうしたってんだよ!」

 

「グレン落ち着いて。大丈夫、俺とグレンなら出来るよ」

 

アルトはグレンにそう言う。

 

「……そうだよな。とにかくここで悩んだってしょうがねぇし、なんとかして陛下の元に行く方法を」

 

その時だった。

 

突如背後から二人分の足音が聞こえる。

 

グレンとアルトはルミアの前に出て構える。

 

そこにいたのは帝国宮廷魔導士団特務分室の執行官の服を着た、長身に黒い長髪の鋭い目をした男と、同じく帝国宮廷魔導士団特務分室の執行官の服を着た、手入れのしていない淡青色の髪をうなじで結んだ瀬の低い少女が居た。

 

「なっ!?アルベルトにリィエル!?」

 

グレンはその二人を知っているらしく驚いた表情になる。

 

その直後、少女、リィエルは何かを口走り、地面に触れる。

 

すると紫電が爆ぜ、リィエルの手には大剣が握り締められていた。

 

「グレン、見つけた。斬る!」

 

そして、グレン目掛け走り出す。

 

「くそっ!《白銀の氷狼よ・吹雪纏いて・疾駆け抜けよ》!」

 

グレンは黒魔“アイス・ブリザード”を使い、リィエルの動きを止めようとするが、リィエルは血を凍らせ、心臓を止める勢いの凍気をものともせず、目だけを腕で庇いながら、グレンに斬りかかる。

 

が、アルトが咄嗟にメイスでリィエルの大剣を受け止める。

 

「お前、グレンに何する気だ?」

 

「そこを退いて。私はグレンと決着を付ける必要がある」

 

「嫌だね、退かないよ」

 

「なら、貴方を倒す。邪魔をするなら容赦しない」

 

「上等だね」

 

二人は同時に、相手の獲物を弾き、後ろに下がると、まだ踏み出し、メイスと大剣をぶつけあった。


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