ロクでなし魔術講師と寡黙な義弟   作:ほにゃー

18 / 34
第16話 二人の旧友

「《雷精の紫電よ》!」

 

「ほっ!」

 

学園の中庭でアルトはカッシュと戦っていた。

 

カッシュが『決闘戦』に向けて戦いの練習をしたいと言い出し、アルトがその特訓の相手をしている。

 

「ふんっ!」

 

「ぐほっ!?」

 

カッシュの〝ショック・ボルト”を躱し、間を詰めて拳をカッシュの腹に叩き込む。

 

「いてて……!」

 

「ごめん、カッシュ。大丈夫だった?」

 

「あ……ああ、大丈夫だ。それにしても、やっぱアルトはつえーな」

 

「カッシュも十分強いと思うよ。『決闘戦』、きっといい所まで行くと思うよ」

 

「俺は魔術使ってるのに、アルトは一回も魔術を使ってないだろ。そんなんじゃダメだ。お前に魔術を使わせるぐらいまで強くならねぇとな」

 

カッシュは腕を叩きながらそう言い、アルトはそんなカッシュが面白いと思いながら笑う。

 

「よし!アルト、もう一回だ!」

 

「いいよ」

 

所定の位置につき、二人が構える。

 

その時、アルトは何かを感じた。

 

「(この感じ………まさか)ごめんカッシュ。ちょっと用事思い出した」

 

「え?」

 

「悪いけど、あとは自主練してて」

 

「あ、おい!アルト!」

 

カッシュの言葉を気にも留めず、アルトは中庭を離れる。

 

そのまま学園を出て、街に出ると、アルトは辺りを見渡し、そして走り出した。

 

(間違いない……この感じはアイツらだ。でも、どうしてここに?)

 

気配を追いながら走っていると、アルトはいつの間にか薄暗い路地裏に着いていた。

 

「……誘導されたか」

 

「その通りよ」

 

その時、頭上から声がし、アルトは上を向く。

 

そこには一人の少女が一対の剣を振りかぶりながら落ちてきたいた。

 

アルトは後ろに転がるように下がり、攻撃を回避する。

 

少女が手にした剣はそのまま地面に突き刺さり、爆発を起こした。

 

「双剣に、〝ブレイズ・バースト”を付与させた一撃………やっぱりシンリィか」

 

「そうよ。久しぶりね、アルト」

 

シンリィと呼ばれた少女は、服に焦げ目を付け、爆煙を掻き分けながら現れる。

 

「どうしてここにいるのさ?」

 

「決まってるでしょ」

 

そう言いシンリィは剣を回転させ、走り出す。

 

「アンタに会うためよ!」

 

「ちっ!《我が手に悪魔の戦棍を》」

 

アルトはシンリィの攻撃を躱しながら、メイスを取り出し剣を受け止める。

 

アルトのメイスとシンリィの双剣がぶつかるたびに、金属音が鳴り響き、火花が散る。

 

さらに、ぶつかったことによって生み出される衝撃波が辺り一帯の空気を震わせる。

 

「あのさ、戦うなら後でいくらでも相手するから、今は退いてくれない?俺、今忙しいんだ」

 

「ふーん。私の相手より、学校のイベントだ大事だっていうの?随分変わったじゃない」

 

「魔術競技祭のこと知ってるの?………あ、もしかしてここに来たのってそれが理由?」

 

「流石はアルトね。今の言葉でそれだけのことを瞬時に理解するなんて」

 

「まぁ、そっちが任務なら構わないけど、俺のこと巻き込まないでくんない?俺、もう〝第二”の人間じゃないし」

 

アルトがそう言うと、シンリィは眉根を動かす。

 

「アンタって奴は……私がどんな思いで……一回死ね!」

 

メイスを弾き、シンリィはアルトの首を狙おうと剣を降る。

 

その瞬間、巨大な槍斧(ハルバード)が飛んで来てシンリィの剣を弾く。

 

「あっ」

 

弾かれ、飛んでいく双剣の片割れを眺めながらシンリィは言葉を漏らす。

 

そして、シンリィの背後に、一人の男が立つ。

 

「おい、シンリィ」

 

「げっ!」

 

「お前、何やってんだ!」

 

そして、シンリィの頭に拳骨が落とされる。

 

「ぬおおおおっ!!?」

 

シンリィは殴られた頭を押さえながら地面を転げまわる。

 

「悪いな、アルト。無事か?」

 

「ドウェインも来てたんだ」

 

「まぁな。ちょっと話いいか?」

 

背の高い、一目で鍛えているとわかる肉体をした男、ドウェインの言葉に、アルトは頷く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へー。王室親衛隊に不穏な動きが………」

 

「ああ。特務分室からは〝戦車”と〝星”の二名が監視の為に派遣された。室長はその応援として俺とシンリィを派遣してきたが………応援なんて形だけだろう。あの室長のことだ、絶対に裏で何かやってる」

 

「だろうね」

 

そう言いアルトとドウェインは、胡散臭い笑みを浮かべる室長の顔を思い浮かべる。

 

「でも、事はそれだけじゃないの。室長が言うには〝暗部”も介入してくる可能性もあるって」

 

シンリィは未だに涙目になったまま頭をさすって言う。

 

「〝暗部”まで?」

 

〝暗部”は帝国軍にある〝暗殺部隊”の略称で、魔術こそ使えないものの暗殺に特化した集団の集まりで、また軍の一部でありながら、その存在は知られておらず、世間的には存在しない部署とされている。

 

そのため、一度暗殺指令を何者かに出されれば、例え王族の命令であっても止まることはない。

 

「〝暗部”まで来るなんて。一体何が目的なのさ」

 

「ルミア=ティンジェル」

 

ドウェインの言った名前に反応する。

 

「世間的には三年前に死んだことになった王女。それが生きていた。ましてや異能者ともなれば、国がどれだけ混乱するかわかるだろ?暗部は王族の命令であっても止まることはないが、全員が国に忠誠を誓っている。国のためならば、どんなことでもするだろう」

 

「つまり、任務的には特務分室に王族親衛隊を、私たちは暗部の方監視ってことになるわ」

 

「一応お前にも忠告はしておく。気をつけろよ」

 

「わかった。気を付けとくよ」

 

「ならいい。行くぞ、シンリィ」

 

「えっ!?ちょっと待って!私まだアルトと話が!」

 

「いいから宿に戻るぞ!おとなしくしろ!」

 

「アルトー!助けてー!」

 

ドウェインに引きずられながら去っていくシンリィに、アルトは無言で手を振り、見送った。

 

「暗部か………面倒な奴らに目をつけられたな」

 

アルトはそんなことを思いつつ、路地裏から引き上げていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、グレンはというと

 

「俺のクラスが優勝するに給料三ヶ月だ!」

 

一組担任のハーレイに生徒たちのことを馬鹿にされ、つい金もないのに無茶な賭けを吹っかけていた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。