ロクでなし魔術講師と寡黙な義弟   作:ほにゃー

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第13話 アルトの過去

アルト=レーダスについて話をしよう。

 

彼にはもう一つの名前があった。

 

それはかつて暮らしていた家で呼ばれていた名だ。

 

生まれた時、アルトの両親はアルトが生まれた事を心の底から喜び、大切に育てた。

 

父は第六階梯(セーデ)、母は第五階梯(クインデ)の魔術師であり、誰もが尊敬する優秀な魔術師だった。

 

魔術師として一切の妥協を許さない両親だったが、家に居るときは優しく、温かい存在。

 

そんな両親がアルトは好きだった。

 

欲しい物は与えられ、素晴らしい教育をされ、アルトには俗に言う幸せであった。

 

だが、アルトには一つだけ不満があった。

 

それは外に出られないということだった。

 

家の中は自由に動けたが、窓には鉄格子が嵌められ、外につながる扉には物理的にも、魔術的にもロックが掛かっていた。

 

アルトはそれを不思議に思ったが、両親がすることに間違いはないと信じ、両親に聞くことはなかった。

 

アルトが四歳になった日。

 

アルトは両親によって、家の地下に連れてこられた。

 

そこには縄で拘束された男が居た。

 

誰なのかと思っていると、父からあるものを渡された。

 

それはナイフだった。

 

料理などで使う様なナイフではなく、戦闘とかで使う様な物だった。

 

「○○○、この男を殺しなさい」

 

その言葉に、アルトは耳を疑った。

 

あの両親からそんな言葉が出るとは思ってもいなかったからだ。

 

アルトはナイフを捨て、それを拒んだ。

 

その直後、父に殴られた。

 

今まで一度たりとも殴られたことのなかったアルトは驚き、震えた。

 

母はというと、そんな父の暴力を目の当たりにしても何も言わず、むしろ殺そうとしなかったアルトを蔑む様な眼で見つめていた。

 

「ナイフを拾え。殺すんだ」

 

アルトは恐怖に震えながらもナイフを拾い、そして、拘束されている男に近づき、ナイフを振り下ろした。

 

ナイフは男の肩に刺さり、男は痛みで地面を転げまわる。

 

「よくやったな。だが、次は肩じゃなくて首を狙いなさい」

 

父の言う通り、男に近づき、ナイフで首を切った。

 

男の首から血が溢れ、男はそのまま息絶えた。

 

「よくやった。流石は俺たちの子だ」

 

「ええ、本当によくできたわね」

 

父に頭を撫でられ、母に抱きしめられる。

 

まるでさっきの様子が嘘のように思えた。

 

「これからは魔術以外にも人を殺す(すべ)も教える」

 

「頑張りなさい。いずれ貴方は、私たちの息子として大導師様にお仕えするんだから」

 

「「全ては我ら〝天の智慧研究会”の為に」」

 

そう、アルトの両親は優秀な魔術師であると同時に、〝天の智慧研究会”のメンバーだったのだ。

 

アルトの両親は、帝国に仕える身でありながら、〝天の智慧研究会”の一員でもあった。

 

正確には〝天の智慧研究会”の一員であり、帝国軍にはスパイとして送り込まれていたのだった。

 

だが、アルトにはそんなことどうでも良かった。

 

両親の言葉に従っていれば、怒られない。

 

こうして、アルトの日常は血で塗られていくようになった。

 

最初の一人は殺すのを躊躇った。

 

二人目は恐る恐るではあったが、殺せた。

 

三人目、四人目、五人目と数をこなして行く内に、アルトは心を閉ざして行き、十人目から何の迷いもなしに殺せるようになった。

 

両親はそれを喜び、そして言った。

 

「悪魔の子の完成だ」

 

それからアルトは両親によって外に連れ出されるようになった。

 

両親の仕事につき合わされ、〝天の智慧研究会”の邪魔となる者の暗殺、不要となった者の抹殺、ありとあらゆる裏の仕事を行ってきた。

 

既にアルトの意思はなかった。

 

両親に命じられるまま、殺しを行う。

 

それがアルトに許されたことだった。

 

だが、アルトに一筋の光が現れた。

 

それはグレンだった。

 

グレンは元帝国宮廷魔導師団特務分室の執行官で、執行者ナンバー0・コードネーム《愚者》と呼ばれていた。

 

グレンの任務は魔術起動を完全封殺する固有魔術(オリジナル)《愚者の世界》を駆使し、外道魔術師の暗殺することだった。

 

両親はグレンの手によって殺された。

 

いくら第六階梯(セーデ)第五階梯(クインデ)の魔術師であろうとも、初見でグレンの固有魔術(オリジナル)に敵う筈もなく、殺された。

 

そして、グレンはアルトも手にかけようとした。

 

だが、子供であるアルトを手に掛けることができず、またアルト自身、命令がなければ殺しも、戦いもしないことからきちんとした管理の下であれば無害だと判断し、そのまま保護した。

 

これで、血に塗れた日常が終わる。

 

そう思われた。

 

上の人間はアルトを危険とみなし、即刻処分する様に命じた。

 

グレンは何とかしてアルトの処分を回避できないかと悩んでいた。

 

そんな時、ある人物が現れた。

 

帝国宮廷魔導師団特務第二分室室長にして〝バエル”の名を持つ魔術師だった。

 

男はアルトに新たな戸籍を与える代わりに、その力を軍で使うことを条件として提案してきた。

 

グレンはアルトが二度と殺しに関わらない様にするために保護したのに、また殺しに関わらせることを良しとせず、拒んだ。

 

だが、それ以外にアルトが生き残れる道がないのも確かだった。

 

結局、アルトはその提案を受け入れ、帝国宮廷魔導師団特務第二分室に所属することになり、〝アルト=レーダス”と〝バルバトス”の二つの名を授かった。

 

そして、自分を救い、選択する自由を与えてくれたグレンを信頼し、グレンに付き従い、グレンの為に再び殺しを行った。

 

それはグレンが軍をやめるまでの間続いた。

 

それがアルト=レーダスの過去だった。


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