制服のワイシャツをちぎって包帯代わりにし、アルトはランスに斬られた左腕に巻く。
そのままジャンプで割れた窓から教室に入る。
入った瞬間、クラスメイトは戻ってきたアルトに怯えたような眼をしていた。
何故ならアルトの頬にはランスの頭を潰した時に飛び散った血がついていたからだ。
アルトはそれを特に気にせず、黙々と全員を縛ってるロープを切り、解放していく。
「もう大丈夫だよね。じゃ。俺はグレンを助けに行くから。皆はここで大人しく待ってて」
「お、おい!アルト!」
教室を出て行こうとするアルトに、カッシュが呼びかける。
「ん?なに?」
「えっと……さっきのテロリストは……どうした?」
カッシュに尋ねられ、アルトはすぐに答えた。
「殺したよ」
その言葉に、全員が息を呑んだ。
「ど、どうして……!」
「敵だから殺した。敵を生かしておけば後々面倒になる。だから、殺した」
「だからって人の命を奪うなんて間違ってる!」
カッシュは人としてまともな感性を持っていた。
カッシュだけでなく、クラスの全員がそうだった。
だからこそ、アルトが容易に人の命を奪うことが許せなかった。
だが、アルトにはその感性はなかった。
敵は殺す。
それは戦闘では当たり前のことであり、仲間を助けるためである。
アルトは、生まれた時からそう教え込まれた来た。
カッシュにそう言われ、アルトは内心、面倒だなっと思いながら頭を掻き、言い訳をしようとする。
その時、あることに気づき、メイスを取り出す。
「伏せて」
抑揚のない声で、メイスをそのまま投げ飛ばす。
クラスメイトは慌てながら頭を抱えて蹲る。
メイスを投げ飛ばした先には、一人の男がいた。
その男は投げ飛ばされたメイスを片手で受け止め、そのまま地面に落とした。
「ふむ。白魔〝フィジカル・ブースト”を使っているにしては、不自然な力の入れ方だな。もしや……素の腕力か?」
「あんた誰?」
「〝天の智慧研究会”所属、アルキナ=ゴードウィン。ルミア=ティンジェルの確保に来た者だ」
「三人じゃなかったってことか」
「その通りだ。しかし、このメイス………錬金術で生み出したものと少々違うようだが………」
「そんなの知らないよ。それは俺の武器だし」
「……まぁいい。どうやら、貴様を排除せねばならんようだ。悪いが、その命、奪わせてもらおう。《剣をこの手に》!」
アルキナはそう叫ぶと、教室の床から一本のロングソードが現れ、アルトに斬りかかる。
アルトはその攻撃を躱しながら、投げ飛ばしたメイスを回収しようとする。
しかし、アルキナはそれを許さず、アルトをメイスがある場所から遠ざけていく。
「どうやら、あのメイスがよほど大切らしいな」
「ちっ……しつこいな」
アルトは舌打ちしながら、手を男に向ける。
「《雷精の紫電よ》」
〝ショック・ボルト”を放つが、アルキナは
剣はアルトの足を斬り、アルトが膝を着く。
「終わりだ」
剣がアルトの体の中心をとらえ、貫かれる。
その瞬間、アルトは右手を前に突き出す。
「《我が手に悪魔の戦槌を》」
すると後方にあったメイスが回転しながら飛び、アルキナの体に当たる。
「がはっ!?」
アルキナは口から血を吐き、そして、アルトに重なるように倒れる。
アルトはアルキナの体をどかし、立ち上がり、メイスをつかむ。
そして、メイスの先をアルキナの心臓に向け、振り下ろそうとする。
「やめろ、アルト!」
だが、それをカッシュが止めた。
「離してよ、ソイツが殺せない」
「殺すのはだめだ!今からでも遅くねぇよ!殺しはやめろ!」
カッシュは訴えるようにアルトに言う。
だが、アルトは訳が分からないと言いたげにする。
「ふっ……はっはっはっは!」
するとアルキナは急に立ち上がり、そして壁に寄りかかるように立つ。
「テロリストである俺を殺さないように頼むか。……少年、君はまともな感性を持っているようだな。だが!敵を生かしておくというのは、時に殺すよりも、敵に屈辱を与える!覚えておけ!」
そう言い、アルキナは服を破り、胸元をさらけ出す。
そこには魔導起爆符と言う、魔力を送り込むことで爆発を起こす魔導具があった。
「失敗には死を!〝天の智慧研究会”に光あれ!」
割符が光り出し、爆発する予兆を見せる。
アルトはとっさに飛び出し、カッシュを押しのけると、そのままアルキナの体をメイスで突き刺すように攻撃し、そのまま壁を破壊し、アルキナと共に外へと落ちた。
その直後、爆発が起き、アルトはその爆発に巻き込まれた。