「ふっ!」
メイスを手に、アルトはランスに接近する。
「くっ!《大気の壁よ》!」
ランスは〝エア・スクリーン”を使い、空気の障壁を使う。
だが、〝エア・スクリーン”は物理的な力に弱く、術が消滅しやすい。
アルトはメイスを空気の障壁に向け、振り下ろす。
空気の障壁は簡単に壊れるが、ランスはすでに指をアルトに向けていた。
「《穿て》!」
〝ライトニング・ピアス”が放たれ、アルトの体を捉える。
ランスは勝ったと確信をした。
だが、アルトは手にしたメイスを無理矢理引き戻し、〝ライトニング・ピアス”を防いだ。
「なっ!?馬鹿な!プレートメイルを貫く威力だぞ!それをメイス如きで防ぐなどと………!」
「何驚いてるのさ?」
いつの間にか、アルトはランスの懐へと潜り込んでいた。
そして、メイスを大きく振りかぶる。
「がっ!?」
ランスはそのまま窓から外に叩き落される。
「逃さない」
アルトは窓から飛び降り、ランスを追いかけようとする。
「お、おい、アルト!」
すると、カッシュがアルトを唐突に呼び止める。
「何?」
アルトは立ち止まり、カッシュの方を見る。
「その……殺したり…………しないよな?」
カッシュは今のアルトの行動から、アルトがランスを殺してしまうのではと思い、そう尋ねる。
「……何言ってるの?殺すに気まってるでしょ」
アルトは淡々とそう告げる。
その言葉に、クラス全員が戦慄した。
「ど、どうして!?」
「どうしてって、アイツは敵だよ。生かせば、いつかまた襲ってくる。そうならない為にも、殺さないと」
「………例えそうでも……殺しはダメだ」
「………もう行くよ。逃げられると厄介だし」
そう言い残し、アルトは窓から外に飛び降りると、ランスを探して走り出す。
(殺すのはダメ……か。………そんなこと考えたこともなかったな)
そんなことを思いつつ、アルトはランスを見つけた。
ランスは腹を押さえながら、壁に寄りかかっていた。
(ま………いっか。あいつは―――――)
「殺してもいい奴だし」
アルトはメイスを手にしたまま、飛び上がり頭上から攻撃を仕掛ける。
そして、そのままランスの頭を叩き潰す。
「あれ?なんか軽い?」
「《穿て》!」
ランスを殺したと思ったら、背後からまた〝ライトニング・ピアス”が飛んできて、アルトはそれを回避する。
「あれ、何?」
「分身だよ。ゴーレムに着色をして、それっぽく見せかけたものだ。だが、偽物だったとはいえ、容赦なく叩き潰すとはな」
「敵なんだから容赦する方がおかしいでしょ」
「確かに。だが、貴様本当に子供か?」
「そうだよ。そして、あんたが生贄にしようとしたのもね」
メイスを片手で振り回し、アルトはメイスの先をランスに向ける。
アルトは足に力を込め、一気に飛び出す。
ランスはアルトの攻撃を躱すも、徐々に追い詰められはじめ
(くっ……重いメイスを装備しながらこの動き……!このままではやられる……!ならば!)
ランスは回避をやめ、真正面からアルトに向き合う。
「終わりだ」
アルトは突きを放つように片手でメイスをランスに向ける。
「《その剣に光在れ》!」
ランスは自身の左腕を〝ウェポン・エンチャント”で強化し、アルトのメイスを受け止めた。
いくら強化したとはいえ、左腕一本で受け止められるはずもなく左腕の肉は破れ、骨が砕ける。
ランスは強烈な痛みに耐えながらも、なんとかメイスを使い物にならなくなった左腕で抑え込む。
「この距離でメイスを抑え込まれては、反撃もできないだろ。死ね!」
ランスは指をアルトに向け〝ライトニング・ピアス”を放とうとする。
「《穿「《貫け》」
だが、ランスが言うより、アルトが言うのが早かった。
アルトのメイスの先から〝ライトニング・ピアス”が放たれ、左腕を吹き飛ばす。
肩から血を流し、ランスは地面に倒れる。
「な、何故……武具から……魔術が………!」
「ああ、気になるの?大したことじゃないよ。コイツはえっと……なんだっけ?まぁいいや。とにかくコイツには魔力の伝達率が高い金属で作られてて、俺はコイツに魔力を流して、先から魔術を放っただけ。俺、
ランスはアルトの説明に、驚き、固まる。
そして、あることを思い出した。
ある魔術師の話を………
「思い出した。……つい最近まで、帝国宮廷魔導士団にある少年の魔術師がいた。その少年は、子供でありながら多くの破壊工作や暗殺を行い、行く手を阻むものは誰であろうと、手にした深紅のメイスで叩き潰し、殺す。その少年が通った後には血の海と遺体しかなかった。その所業から裏世界から悪魔と恐れられた魔術師。………コードネームは――――《バルバトス》」
そうペンタンドに刻まれた紋章は悪魔〝バルバトス”の
「だから?」
アルトは無表情でそう言い、メイスをランスの頭に向ける。
「ふっ……俺を殺すか。流石は悪魔、〝バルバトス”だ。慈悲のない容赦の無さ。恐れ」
そこまで言いかけ、ランスは死んだ。
アルトが言葉の途中でメイスをランスの頭に叩き込んだからだ。
「長いよ」
アルトはそう言い、メイスを消す。
「さて、教室に戻ろっと」