「アルト、こっちに来い」
「どうして?教室はあっちだよ」
グレンは学院内に入ると、出入り口ではなく、東館の反対側に回ろうとする。
「普通に考えて正面を放置する奴なんていないだろ。何かしら罠があるに決まってる。裏から回るから来い」
「了解」
グレンの言うことを素直に聞き、アルトはグレンと共に裏へと回る。
「もしかしたらって思ったが、裏が手薄とはな。普通、裏口にも罠にしろ敵侵入を知らせる警報魔術式ぐらいは張るもんだぞ」
「手薄ならいいじゃん。入ろ」
「ああ」
裏口の扉を開け、学院内に侵入した二人は廊下を静かに走りながら、教室へと向かった。
学院は本来なら休校だが、グレンのクラスだけは前任の担任だったヒューイの失踪により、今日は補修。
もし人質を取るなら、教室にいる可能性が高い。
それがグレンの考えだった。
「アルト、止まれ」
「何?」
「………今、白猫の声が聞こえたような………」
「そう?」
アルトは耳を澄ませ、注意深く聞くと、微かではあるが声が聞こえた。
「本当だ。………でも、これってヤバいかも。襲われかけてる……」
「大方、刃向かって相手の琴線に触れたとかそんなんだろ。しゃーねぇ、アルト。案内してくれ」
「うん、こっち」
アルトが案内したのは教室からかなり離れた魔術実験室だった。
「ここか」
グレンは迷わずドアノブを握り、中に入る。
するとそこには、ニット帽の男、ジンがシスティに馬乗りしながら、制服を脱がしているところだった。
グレンは拷問紛いのことをされかけているのではっと少し不安に思っていたが、その光景を見た瞬間、真っ先にアルトに目隠しをした。
「すみません、間違えました」
「助けなさいよ!」
アルトを連れて下がろうとしていたグレンに、システィは叫ぶ。
グレンはアルトに、教育に悪いから目を閉じてなさいと言い、システィたちに近づく。
「なんだテメェは?」
「あのなぁ、いくらモテないからってそういうの犯罪だぞ?」
近づくグレンに、ジンはイラつき指を向ける。
「ダメ!先生逃げて!」
「助けろっつったり逃げろっつったりどっちなんだよ」
「もう遅せーよ。〝ズドン”!」
ジンは指先から〝ライトニング・ピアス”を放とうとする。
だが、魔術は発動せず、何も起きなかった。
「はっ?〝ズドン”!〝ズドン”!』」
ジンは何度も発動しようとするが、魔術は一向に発動する気配を見せなかった。
「もう発動しねーよ」
グレンはそう言って、ポッケから一枚のカードを取り出す。
「愚者の……アルカナ?」
「俺はこのカードで変換した魔術式を読み取ることで俺を中心とした一定効果領域内における魔術起動を完全封殺することができる。それが俺の
「〝愚者の世界”」
「
ジンは驚き、一歩下がる。
その隙を見逃さず、アルトは床に倒れてるシスティを助け、グレンの後ろに下がった。
「大丈夫?」
「う、うん……ありがとう」
システィはアルトにお礼を言い、グレンを見る。
(魔術の発動を無効化するなんて、そんなの無敵じゃない。略式詠唱ができなくても相手が魔術の発動ができないなら…………)
「まぁ、俺も魔術が使えないけどな」
グレンは舌を出し、へらっと笑う。
「「は?」」
さすがの二人も、その言葉を聞き、口を揃えてそう言う。
「いや、だって俺も効果領域内にいるんだからさ」
「そ、それって……アンタも?」
システィが恐る恐るアルトに聞く。
「当たり前じゃん?」
(もうダメだ……おしまいだぁ……)
システィは絶望し、とうとう泣き出す。
ジンはと言うとグレンの
「魔術師が自分の魔術まで封じ手どうすんだよ!お前、さっさとぶへあっ!?」
グレンはジンが最後の言葉を言い終える間を与えず、そのまま顔面を殴る。
ジンは鼻血を出しながら、後ろによろめく。
「て、テメー!」
ジンはグレンに掴み掛ろうとするが、グレンはそれを躱し、カウンターのように再び顔を殴る。
そして、足を引っかけ、バランスを崩すと、そのまま回転させるように投げ飛ばし、壁に叩き付ける。
「て、帝国式軍隊格闘術……だと!?テメー……何者だ!?」
「グレン=レーダス。非常勤講師さ」
「テメーが!?じゃあ、キャレルの奴はやられたって言うのか!?魔術師でありながら、肉弾戦をするような奴に………!」
「そんなに魔術以外で倒されたくないんだったら伝説の超魔術・魔法の鉄拳マジカルパンチでとどめをさしてやるよ。行くぜ!マージーカールー…………!」
グレンは拳を握り、飛び上がる。
そして――――――――
「パーンチ!」
飛び蹴りを食らわせた。
「キックじゃねーか………!」
ジンはそう言い残し、そのまま地面に倒れる。
「そこら辺がなんとなくマジカル」
次回からアルト君メインのオリジナルシナリオになります。
お楽しみに