〝天の智慧研究会”
それは、政府と敵対する帝国最古の魔術結社であり、魔術を極めるためならば何でもするような外道の集まりで、組織に所属する優れた人間こそが世界を導くべきでそれ以外の人間は家畜にすぎないという考えを持つ外道魔術師の集団である。
三人の男たちは、その結社の魔術師で、彼らは学院になんなく侵入すると、グレンたちの教室へと向かった。
男たちの狙いはルミアだった。
ニット帽をかぶった男、ジンは〝ライトニング・ピアス”で生徒を脅し、挙句、生徒の一人を殺そうとしだす。
ルミアは立ち上がり、自分がルミアであることを言い、おとなしく連れ去られた。
それと同時に、ジンは自分に歯向かってきたシスティを連れ出し、残りの生徒達には部屋から出られないように強力な魔術で拘束をした。
これで学院内では男たちとルミア、システィ以外で動けるものは誰一人していなかった。
ルミアが連れ去られるより、少し前。
広場では人々が騒いでいた。
その広場はつい先ほど、グレンとアルトが、襲われた場所だった。
二人を襲ったのはキャレルという男で、彼もまた〝天の智慧研究会”の一員だ。
キャレルは酸と毒を同時に用いた致死性の高い魔術、錬金改【酸毒刺雨】という猟奇的な手段で人を殺すことを好み、今まで多くの人間をその魔術で見るも無残な姿へと変え、殺してきた。
「ひどいな……警備官はまだ来ないのか?」
「アイツ、生きてるのか?」
「生きてたとしても、このまま死んだ方が本人にとってマシだろ……」
「な、なんでえげつないんだ………」
「酷い……酷過ぎる……見るに耐えられん………!」
「悪魔だ……悪魔の所業だ………」
人だかりの、その中心には一人の男がいた。
全身をボコボコに殴られ、素っ裸にひん剥かれ、亀甲縛りにされ、体中に悪意に満ちた落書き、そして、股に『短○』と書かれた張り紙を張られたその男、気絶しているキャレルがいた。
「いったい何が起きてやがるんだ!?」
キャレルを返り討ちにしたグレンとアルトの二人は急いで、学院に向かうと、学院は何者かが張った結界により、入ることができなかった。
何者かが結界の設定を書き換えたらしく、関係者であるグレンとアルトも弾かれていた。
「この割符に書かれた呪文で中には入れそうだけど、どうする?」
アルトに尋ねられ、グレンは近くで縦に切り裂かれた警備員の遺体を見る。
「この斬れ味……恐らく〝ウインド・スライス”だな。反撃した様子もないから、躊躇いも警告もなしにやられたんだろう。…………はっ、無理無理。俺の手には負えないっての。一度応援を呼びに戻って」
その瞬間、学院の壁を貫通する光を、グレンは目撃した。
「あれは〝ライトニング・ピアス”!?」
〝ライトニング・ピアス”は軍用魔術と呼ばれ、軍に属する魔導士が使用する戦争用の魔術。
そんな危険なものを学院側が教えるはずがない。
ゆえに、今の魔術はテロリスト側の誰かが使ったものである。
「………はっ。関係ないね。上に連絡する。それが最善策だ」
「本当にそれでいいの?」
警備官の詰め所に向かおうとしたグレンの背中に、アルトが呼びかける。
「当たり前だろ。俺とお前で何ができるってんだよ?」
「できるよ。グレンなら必ず」
「あのな、アルト。お前は俺のことを過大評価し過ぎだ。俺は何もできねぇんだ」
「そんなことない。グレンはいつだって凄い。俺の憧れで、俺の自慢の義兄さん。だから………命令して、グレン。俺は……何をすればいいの?」
アルトは真っすぐグレンを見ていた。
どこまでも純粋な目で、グレンからの命令を待っていた。
(……なんで、お前はそんな目で俺を見るんだよ。………俺はお前のその目に弱いんだ。その何かを期待するかのような目を…………その目を………俺は裏切れない!)
グレンはアルトから割符を引っ手繰るように取ると、呪文を読み上げる。
そして、グレンはアルトの手を取り、結界をくぐる。
「アルト。俺をその気にさせたんだ………お前にも動いてもらうぞ」
「ああ、もちろんだよ。命令をくれ、グレン」
「よし、行くぞ」