頼む。
風を切る音を鳴らし拳を放つ。
右、
左、
右、
右、
左、
右、
右、
右、
左、
ジャブ、フック、ブロー、ストレート、アッパー。
場所をステップで変えながらひたすら拳を突き出す。
段々と速度を上げ放たれる拳は何もない空間の空気を殴り打撲音をあげる。
「〜〜〜〜〜ッッッ!!!!!」
力一杯腕を振りかぶり鉄拳発射!!
とてつもない拳圧が衝撃の砲弾となり壁を砕く。
「──…あ」
「また壊したんですか貴方わぁ!!!」
「うお!ヤッベ逃げろ!?」
「待ちなさぁーい!!」
そして鉄の義腕をつけた少女に捕まりしばき倒された。
「くそ、何もあんな本気で殴らなくても」
黒髪赤眼の少年、ルシウスは友人のクラウスと談笑していた。
「酷くないか、あの鉄腕王女?
絶対20万馬力はあるって」
「なんですってぇ?」
「ヤッベ逃げろ!!」
「待ちなさぁーい!」
既に何十回も見た光景に苦笑するクラウス。
「てぇーい!」
「グボォワァァア!!?!?!」
王女に殴られ空を舞う少年。
まことに見慣れた光景だった。
「
『『『
「えい♪」
「イギャアアアアア!?!?」
セフィロ───オリヴィエ聖王女の神聖歌(笑)をシュトゥラの兵士達と共に謳う少年を幼き麗しい王女がブチのめした。
「お、おおぉおぉおおお!
腕が、俺の腕が曲がって捻れてやがる。
メディックメディーック!!」
いつもの如く医療班の魔導師が回復魔法で治療されるシオン。
「お、お前。
拳闘士は腕と拳が命なんだぞわかってんのか」
「まったくもう。
あんな事しないでいつも言ってるじゃない!」
「無視ですかそうですか」
「なんで私のいうこと聞いてくれないの」
「だってオリヴィエ殿下ぐふぇ!
…う、うぐぅ、おりゔぃえってラスボス感あるよな───いえ、オリヴィエ様の素晴らしさシュトゥラに広めようと思い致しまして」
目元を陰で隠し、燃え猛る炎のような虹彩の
常に正直者ある事は良き事では無い。時にはその場を紛らわす話術も必要なのだ。
「…………///」
なんとかなったようだ。
赤く、そして熱くなった頬に手を添えオリヴィエ王女。
自国では蔑ろにされシュトゥラに『留学』という建前の元人質交換されたオリヴィエ。
彼女はとても素晴らしき人格者である事を少年は知っている。
だから
「よし、クラウス殴り合おぜ!!」
「だから私はアインハルトですって!!」
時は移り、古代ベルカの英雄『拳闘士』の子孫、シオンは古代ベルカに名を轟かせた『覇王』の血を引く少女ハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルド。
同級生であるアインハルトはシオンを一目見た瞬間理解した。覇王
結果は苦勝。
だがそれ以来
今はなんとか勝ち越せているが正直危なかった。
「オラァ!いつもの場所行くぜクラウス!!」
「わかりました!わかりましたから引っ張らないでください!!」
「拳闘は終わらぬ…。
我等の胸に最果てへの野心がある限り…!」
大公園。
未発達の幼き肉体を魔法で擬似的に成熟され魔装衣を身に付けた。二人の戦士は互いに向き合う。
黒髪の青年は両拳を握り、碧銀の覇王は固有武術の構えを取る。
拳での打撃を戦闘の主体とする拳闘士であるシオンは格闘家のような構えを無い。両手を前に翳し拳を握るだけだ。
先に仕掛けたのシオン。
拳を握り直線状に駆け出し拳を振り抜く。
腕と手の甲を覆うナックルを纏った拳がアインハルトに流され空を切る。
拳闘士、地球でいうところのボクサーに近い彼の長所はラッシュにある。
多彩な拳打を休む暇なく放ち続ける
祖先が遺した覇王流を修めきれてない彼女と違い、彼の武闘に技や奥義は無い拳を握って繰り出すだけ。必要なモノは直感で理解出来る。
日々の鍛錬にて技術を磨き奥義を修めるアインハルトと違い、実戦により実力を高めるシオンに防戦一方になる。
ひたすら捌き、躱し、避けて、防ぐ。
「ハッハァ!今度は俺が勝たせてもらうぜ!!」
「く、負けません!」
無理矢理にシオンを払いのけて拳を放つアインハルト。
屈んで避けて拳を握る。
「重く、いくぞぉ!」
シオンのブローがアインハルトを穿つ。
カハァ!と息を吐き出すアインハルトにシオンは追撃をかます。
鳩尾辺りを攻めるブローの連打、
ラッシュラッシュラッシュ!
そこからフックに変わり左右を連打、顎に一撃入れて一歩下がり大振りの一撃を振り抜き。
むにゅん
「あ」
「───!?!?」
「ぐひぃ」
シオンの拳が変身魔法で豊かになった双丘の片方を突いた。
アインハルトは羞恥と驚愕に悲鳴のような声をあげて過去最高の一撃をシオンに叩き込んだ。
衝撃がシオンを突き抜け大気を揺らした強大で鋭利な一閃は動揺したシオンの意識を一瞬で刈り取った。
この戦い、覇王の子孫アインハルト・ストラトスの勝利である。
なんとも締まらない勝利である。
ベルカ編の英語はセフィロスのテーマ『片翼の天使』の歌詞です。
Olivierは違いますが。