モチベが零だったんです。
「咲き誇れ、赤円の灼斬花!」
凛とした声が響くと同時にユリスの周囲から紅蓮の炎が吹き上がる。
それは竜巻のように渦を巻きながら、見る間に空中で円盤状へと形を変えた。しかし……
「変換、星辰力」
その十数個の円盤は八幡の一声に全て消された。正確には八幡の星辰力に変換された。それはつまり、八幡の星辰力が増えるということ。使った星辰力が回復するということ。
しかし、これにも弱点はあり、変換は何故か武器や校章に対してだけは効果を発揮しないのだ。能力で作り上げられたものや建物には絶大な効果を発揮するが。
「はぁっ!」
綾斗は黒炉の魔剣を上段に構え、突進をする。
「ふっ」
しかし、いつの間にか抜き放たれていた目に見えない銃に撃たれ、攻撃力は低いものの、命中した時の衝撃がかなり大きいのだ。
「くっ」
だから綾斗はその衝撃により、突進は失敗に終わる。
「暗闇の中でもこれができるようになれればいいんだがなぁ……」
八幡は気配消すのは得意だが、気配を読むのはそこまで得意ではないのだ。
「比企谷君、十分だと思うよ?」
八幡の後ろでのんびりしていた陽乃に呆れ口調で言われ
「能力者の敵だな」
ユリスはどこか呆れた顔で八幡を睨み
「懐に入り込めれば勝てそうなんだけどね……」
衝撃で飛ばされて尻餅を付いた綾斗に苦笑された。
「………剣も使えるけどな。現に左側のホルダーに入ってるし」
「なら次は剣だけでの勝負を」
「ごめんなさいそれは無理です許してください」
「「「早い!?」」」
八幡の剣の技術ではさすがに綾斗には勝てないだろう。それが分かっているからこそ即答できたのだ。八幡はまだ剣は初心者。銃も初心者だが。
「じゃ、暗闇行ってみようか。みんなで」
「「えっ(なっ)」」
「闇夜に連なる神々よ、かの者達を暗黒の世界へ誘え」
陽乃以外の視界が真っ暗になり、黒一色に染め上げられた。
「ちっ、咲き誇れ、赤円の灼斬花!」
何も見えない暗闇の中、ユリスはとりあえず360度に灼熱の戦輪を撒き散らした。味方である綾斗の事を考えずに。
「ちょっ、ユリス!?」
綾斗もこれにはさすがに驚いたようだ。当然の反応だろう。八幡だって暗闇の中迫り来る熱気に少々慌てている。主に綾斗の心配で。
「解放」
爆発的な星辰力が八幡から吹き上がり、こちらに向かってきた灼熱の戦輪は全て消え去った。
「舞え」
八幡から吹き上がった星辰力はその一声でトレーニングルーム全域に広がった。そしてその星辰力は八幡の神経となる。つまり、
(右後ろに陽乃さん、右前10mにリースフェルト、左前12mあたりをこちら側に疾走しているのが天霧か)
どこに誰が居るのか分かるようになる。
八幡は剣型煌式武装をホルダーから抜き、ユリスに向って走りながら起動させる。そしてすれ違いざまに一閃。
『校章破損』
「なっ」
ユリスの焦った声と校章からの機械音声で八幡が暗闇の中でまともに動けることを綾斗は理解した。しかし、ふと、綾斗を微風が襲う。
『決闘決着!勝者比企谷八幡、雪ノ下陽乃!』
「そして彼らに光が戻る」
急に戻ってきた光に陽乃以外の3人の目が細められる。
「比企谷、何故私達の場所がわかった?」
「言わなきゃ駄目?」
「「当たり前だ(でしょう)!」」
ユリスと陽乃の声が被る。暗闇の中まともに動けないはずの八幡が見事に校章だけを真っ二つに斬ったのだ。当然の反応と言える。
「俺も聞きたいかな」
綾斗も説明を求めた。
「はぁ。俺が動き始めたのはいつ?」
「星辰力が爆発的に増えた時か?」
「違う」
「星辰力が増えた後の舞えってとこかな?」
「正解です。俺の星辰力は神経の代わりになるようで」
しばらく無言が続く。
「比企谷」
「なんだ」
「「「暗闇の中でも十分動けるじゃん(じゃないか)(けてるよ)!」」」
3人の絶叫がこのトレーニングルームに響いた。
今回はこれくらいで……