ぼっちは六花を謳歌する。   作:すのどろ Snowdrop

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12話

ひ、人が多すぎる……。アスタリスクに来てまで満員電車に乗ることになるとは思わなかった……。

それに……

 

「ひぅ……ひ、比企谷君……動かないでよ……」

 

隣で押し潰されている陽乃さん。

助けたいんだが、身動きすらままならない状況でどうすればいいのだろうか。

圧縮?圧縮すればいいのか?

 

「陽乃さん、ちょっと我慢してください」

 

俺はそう言うと陽乃さん側にちょっと詰め、陽乃さん以外に触れないようにする。

 

「ひゃうっ……」

 

「圧縮」

 

陽乃さんが圧縮され、小さくなる。

 

「え、なに!?比企谷君!?」

 

小さくなった陽乃さんを胸ポケットに入れる。

 

「すみません、陽乃さん。界龍までに入ってきた人が多すぎたので避難先として胸ポケットの中に入れさせていただきました」

 

「せめて説明してよ……すっごく驚いたんだからね!?」

 

そりゃいきなり圧縮され小さくなったら誰だって驚くだろう。

 

「いや、それはすみません」

 

実は心の底からは反省していないのだが。

 

「でも、ありがとね、比企谷君」

 

「いえ、別に……」

 

もう少し気の利いたセリフでも覚えようかね。こんなところを小町に見られたら呆れられるだろう。

 

そういえば戸塚は元気だろうか。戸塚のことを思い出したら癒しが足りないことに気がついた。

うーん、今日の夜あたり陽乃さんに聞いてみるかなぁ。戸塚の連絡先。俺は覚えてないから連絡がとれない。

 

「ところで比企谷君、どうやってでるの?」

 

「次の駅で降りて人が少ないところで解放します」

 

俺が即答すると陽乃さんがぽかんと口を開ける。

 

「それまでそこにいてくださいね」

 

陽乃さんの小さくなった頭を指先でそっと撫でた。

 

**********************

 

界龍とガラードワースの説明を受け、今は中央区の星武祭総合メインステージ前にいる。

巨大なドーム状の建物は収容人数はおよそ10万人。星武祭開催期間中はここがギャラリーで埋め尽くされるらしい。

そんなところに入ったら吐きそうだな。

また、中央区には地上を走る交通機関はなく、地下鉄が中心となっている。これは学生同士の決闘などが交通機関に影響しないように配慮した結果らしい。

 

「ここがアスタリスク最大規模のメインステージだよ。ここ以外にも大規模ステージが3つ、中規模ステージが7つ、さらに野外ステージが数え切れないほどあるんだよ」

 

「そうなんですか。なのに街中で決闘するんですか……。どう考えても危険ですよね?」

 

つまりここで俺が星辰力解放をすればまわりの人はいとも簡単に飛んで行ってしまうのか。あの時は夜の公園で良かった。

 

「ここの住人は覚悟の上らしいけどね。観光客もそうだけど、誓約書にサインしないとアスタリスクにはこれないらしいよ。それに店舗や家が壊れた時は一応保証されてるからね」

 

ほーん。まぁ俺が自分の学園以外で決闘するとかありえないからな。

 

「俺はそんな街住みたく無いですね」

 

「そりゃね」

 

お互い苦笑しながら言った。

 

「ところで比企谷君、お昼はどうしようか」

 

今は14:21。お昼というには少しばかり遅い時間である。どちらかというと3時のおやつ。

あぁ、甘い物が食べたくなってきた。

 

「甘い物が食べたいです」

 

「甘い物かー。ならあそこかなぁ」

 

あそこってどこだよ。

陽乃さんに手を引かれ、商業エリアの最も賑わっているメインストリートに向かった。

人多すぎだろ……。

 

「ここだよ」

 

うん、確かに甘い香りが漂ってきてる。うん。それはいいよ。でも……

 

「は、陽乃さん、ほんとにここに入るんですか……?」

 

女子多すぎ。この店の7割は女子である。入りたくねぇよ……。

 

「でも美味しいよ?」

 

「わかりました……」

 

カランコロンと鐘の音を鳴らし、店の中に入る。

 

「予約した雪ノ下です」

 

え、いつの間に予約なんてしたの?

 

「いらっしゃいませ、雪ノ下様ですね。こちらになります」

 

いつの間にか予約していた陽乃さんと店員に付いていく。

通されたのは個室だった。ありがたい。すごくありがたい。

 

「陽乃さん、いつの間に予約なんてしたんですか?」

 

「さっき比企谷君がお手洗いに行ってる間にちょちょいとね」

 

「はぁ、そうですか。でも個室はありがたいですね」

 

しかもテーブルには端末が置かれ、そこからも注文できるようになっているようだ。

 

「たまにはね。さて、注文はどうする?私はチーズケーキとコーヒーにするけど」

 

「コーヒーとモンブランで。あとあれば練乳をお願いします」

 

「さすがに練乳はないと思うよ……。あ、でもマックスコーヒーあるよ」

 

「お願いします!!」

 

マッ缶があるならそれを頼むまでだ。

でもさすがにここには1人で来づらいからどっか人が少ないところを探しますか。再開発エリア近くだと1番楽かもしれない。

 

「比企谷君は相変わらずだね……」

 

「ソウルドリンクですからね」

 

やがて、先に飲み物が運ばれてくる。

久しぶりでもないマッ缶を……。

はふぅ、美味い。生き返るわ……。

 

「比企谷君、私にも1口くれない?」

 

か、間接キスになるから恥ずかしい。なんて言っている場合ではない。このままだと勘違いして告白して振られちゃう。陽乃さん相手にそれは困る。朝起こしてくれるのはありがたいからな。

まぁ、間接キスなんて今更っぽいけどな。

 

「どうぞ」

 

「うっわ、あっま!何これ、よく飲めるね」

 

「ソウルドリンクですからね(2回目)」

 

ドヤ顔で言い放つと、向かいの陽乃さんからため息が漏れた気がしたが気の所為だろう。

 

 

 

 


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