地球でオーブと激しい戦いを繰り広げたジャグラス ジャグラー。彼は現在とある惑星に足を運んでいた。
目的はダークリングの捜索。宇宙で最も邪悪な心を持つ者のもとを巡り、使用者の能力を増大させるという。
しかし彼の訪れた星では、戦争が勃発していた。キングジョーやギャラクトロン、インペライザー、 他たくさんのロボットがしのぎを削っていた。
家屋などは跡形もなく破壊されており、廃墟と化している。爆音とうめき声が絶えず聴こえ、血や煙の臭いが辺りを漂っており、あたかも地獄絵図のようだ。
「この戦争を起こしている者ならば持っている可能性があるな」
この惑星の情勢、気にも止めないジャグラー。彼はそう考えると、それぞれの拠点に向かうことにした。いったいどれほどの勢力が戦っているのか、何が目的の争いなのかはわからないが、一つ言えることがあるとすればそれは
「この星に高度なロボット怪獣を作れるだけの科学力はない。大方いまひとつまとまらない国情を見透かした他国の武器商人がこぞって自分の"商品"を売りにきたってとこだろうな」
この星は、自分の商品の性能を他国に知らしめる格好の試験場になっていた。
それを現地人は気づけない。どこか他所の星に領土を乗っ取られるのはもはや時間の問題であろう。
「まあ俺には何の関係もないけどな。欲しいのはダークリングただ一つ......」
ギヨ国の宮殿に近づくにつれ、警備の数も増えていく。始めこそ警備兵は彼のことを見逃していた。だが次第にそうもいかなくなった。
「新月斬波!」
魔人態に姿を変え、愛刀・蛇心剣を振り回し、技を繰り出すジャグラー。
その威力は絶大。銃を構えた歩兵数十人を、あっという間に切り裂くほどだ。
さらに歩みを続けるジャグラー。宮殿がもう目の前まで見えてきたとき、こちらに轟音が近づいてくるのを感じた。
飛んできたのは四つに分離しているキングジョーだった。
それはジャグラーを見つけると地上に降り立ち、元のロボット形態へと合体する。
「邪魔だ、そこをどけ......なんて言っても無駄か」
紅に光る斬撃・新月斬波。ジャグラーは足下にそれを放った。バランスを崩させようという魂胆だったが、キングジョーの硬い装甲の前には意味を為さない。
「倒すことは不可能か。ならば!」
ジャグラーは走った。行く手を阻む歩兵や戦車郡を、切り裂きつつ宮殿へ急いだ。
それを追うキングジョーだが、ある程度まで進みとそれ以上進むのをやめた。
「やはりな」
その機体には安全装置のようなものが備わっていた。誤って自分の拠点を破壊しないためだ。
そのためそれが解除されない限り、これ以上宮殿に近づくことはできない。
ジャグラーはそのまま侵入に成功した。ごった返す兵士を殺しつつ、幾重にも交差する防御装置を破壊しつつだ。
このまま楽に奥まで進める。ジャグラーがそう考えた矢先、一人の刀を持った兵士が、新月斬波を受け流して斬りかかった。
「なに!?」
男の上段からの振り下ろしを、なんとか防ぐジャグラー。しかしそれは重く強烈な一打だった。そのため両手がビリビリと痺れてしまう。
「ニハサエの刺客か! 我が皇帝には絶対に触れさせんぞ」
ジャグラーに"ニハサエ"の意味はわからなかった。だがそんなことはどうでもよかった。敵国の名前かなんかだろう。そう察したジャグラーは、相手の腹部を蹴り飛ばして間合いを開け、連続で新月斬波を叩き込む。
しかし男はそれを、壁を登ったりして華麗にかわしていった。
「どこにいった?」
一瞬の内に彼の視界から、男の姿が消えた。そのとき背中に強烈な痛みが走った。
男はジャグラーの背後に回り込んでいた。
「蛇心流の使い手か......なかなかやるな」
「お前こそここの原住民ではないな。何者だ?」
そう聞かれると男は、それまでの普通の人間の姿から、禍々しい宇宙人のそれへと変えた。
「戦闘民族ザムシャー族の者だ。ここに傭兵として雇われ活動をしている」
「これはこれは。ザムシャー族の戦士に会えるとはなんて光栄なことなんだ! 私の名はジャグラー。以下お見知りおきを」
ジャグラーは敵の素性と実力を知るやいなや、引き込むために芝居を始めた。
「そうと知らず大変失礼なことを致しましたことをお許しください」
「そ......そうか。ならばこの星からすぐに立ち去れ!」
「とどめは刺さないのか?」
「降参した相手に追い討ちをかけるなど掟が許さない」
「そうか......ところで......えぇっと......名前なんだっけ?」
「我々には個人名というものがない」
「なら、ザム! ダークリングというものを知らないか?」
「聞いたことはあるが詳しくは知らん......それがどうしたんだ?」
「俺はそれを探しているのだがよかったら手伝ってくれないか? もちろんザムの望むものは何でも与える」
「しかし仕事が......」
「どうせこの国はもう駄目だ。それにたとえ勝てても他星に制圧されるのがオチだ。ここのトップにそこまで肩入れする義理もないだろう」
「それもそうか。わかった、協力しよう」
ジャグラーは見事ザムを率いれることに成功した。彼等は早速ギヨ国の皇帝に、ダークリングのありかを聞いた。だが手掛かりを得ることはできなかった。
宮殿を出たとき、ジャグラーは思い出した。
「キングジョー忘れてた......」
キングジョーは宮殿の前に、依然として突っ立っている。つまり自分達が出た瞬間、襲いかかってくるということだ。
「どうしたジャグラー? 進まないのか?」
「あ......あれを見ろ」
「キングジョーか......それがどうかしたのか?」
ザムは巨大化すると、キングジョーを一刀のもとに仕留めた。
「マジか」
「ジャグラーは身長を変える術を持たないのか」
「そういう訳ではないが、あまり目立つ行動はしたくなかったのでな」
彼等は次に、ニハサエの本拠地へ行った。ここはこの星で一番国力が高い。
その道中、泣いている子どもを発見した。
「戦争孤児か。行くぞザム」
「あぁ」
二人は彼女を無視して歩いた。
しかし言葉とは裏腹に、ジャグラーはそれ以上進むことが出来ない。
「どうかしたか?」
「何でもない......」
「だ......れ?」
五歳くらいの女児が、ジャグラーに問いかける。
ジャグラーは無言で振り向いた。そして威嚇するように顔を豹変させた。これで女児はどこかへ逃げると思われたが......
「あはははは! お兄さん面白い!」
「はっ?」
「どういうことなんだ......ジャグラー?」
逆に好かれてしまったようだ。
「どうするんだジャグラー? さっきからついてきてるぞ」
「ルンルルン!」
「どうするって......切ればいいだろ。俺はしないけどな」
「お嬢さん? ついてくるのは危険ですよ?」
丁寧な言葉遣いで女児に語りかけるジャグラー。
「でも一人でいるより安心だもん。あと私はこよみ!」
「ザム......こりゃ無理だ」
「仕方ないな。それじゃあ適当な福祉施設にぶちこむか」
「面倒くさいな」
「お前が素通りせずに反応したのが原因だろ!? 少しは責任をもてよ! お前何がしたいんだよ!」
「どおしたの?」
「......わかったよ。やりますよ!」
「こよみ、俺から絶対に離れるなよ」
「うん!」
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ロナハス国には、機械怪獣を売っている集団がやって来ていた。一団の長の名はムルナウ。ガイとの面識もある人物だ。
ロナハス皇帝は彼女の持つ"物を宝石に変える力"に惹かれ、沢山の兵器を購入していた。
「このダークリングのお陰ね!」
そうである。現在ダークリングを持っているのは彼女なのだ。
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翌日、一行はニハサエ国へ到着した。ジャグラーの背中では、こよみがまだ眠っている。
「おはよう......ここどこ?」
「ようやく起きたか。次はここで探す」
この国は主戦場になっていないためか、特に 傷ついている様子はない。しかし閉まっている商店や、手入れの行き届いていない家屋から疲労の様子が感じられた。
「ここだな」
しばらく歩いていると豪華絢爛な建物が見えてきた。
いかにも古い王朝のような建造物だ。彼等は臆せず侵入する。
当然兵士達が襲いかかってくる。それを先陣のザムが鬼神のような活躍で倒していく。そのため、ジャグラーとこよみは簡単に突破することができた。
ちなみにこよみは、ジャグラーの左腕に振り下ろされないように必死にしがみついている。
「話を聞こうか」
彼らが走っていると、前から一人の老人が現れた。賢そうな顔立ちをしており、知性を感じさせる。
「お前......ダークリングというものを知ってるか?」
ジャグラーは刀の切っ先を老人の首もとに向け、聞いた。
「ダークリング......もっとも邪悪な心を持つ者の前に現れ、それの能力を増大させるというあれのことか?」
「それだ。何か知っているようだな」
「確か物を宝石に変える術を持った武器商人が持っていたはずだ」
「ほう......そいつは今どこにいる?」
「それはわからない......ただロナハス軍と我が軍が戦っていたとき、一夜にして敵、味方問わずに死体が何の痕跡も残さず消え去っていて、代わりに宝石が散乱していたことがあった」
「つまり死んじゃった人が宝石になっちゃったってこと?」
「ロナハス国か....ご苦労だったな。お前は生かしてやる」
ジャグラーが蛇心剣を鞘に納めた。三人はその国をあとにして再び歩き続けた。
「ダークリング......冗談じゃない! これは同じ星内でいがみ合っている場合じゃない。速やかに休戦してあいつらを倒せねば!」
老人はすぐさまこの事を皇帝に伝えた。すると皇帝は他の兵士の証言などを根拠に彼の言葉を信じ、他の二国と講和することを決めた。
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それはギヨ国でも同じであった。ここでは実際に皇帝がジャグラーの姿を見ていたため、疑いの余地は無いとされたからだ。
実際に倒したのはザムとはいえ、自慢の新型兵器であったキングジョーを一撃で撃破されたのもこの決断に追い討ちをかけた。
皮肉にもジャグラーの存在が、分断されていたこの星を一つに纏めあげられかけていた。
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そんな政情などつゆ知らず、ジャグラー達はロナハス国への道を進んでいた。
そこは怪獣の姿こそ無かったものの、兵士がごった返しており、足下には死体がごろごろと転がっている。
「ここは激戦区だな!」
こよみを左腕に、蛇心剣を振り回し、敵を切り裂いていくジャグラー。
そこに魔方陣が出現した。中から現れたのはギャラクトロン。
「ここにも怪獣が現れたか!」
するとザムは巨大化。勇敢にも立ち向かっていった。
魔方陣から放たれる光線を避けつつ近づき、星斬丸で斬りかかるザム。しかしその攻撃はすべて、ギャラクトロンの左腕に受けられてしまう。
「こいつは......今までの奴とは格が違う!」
ロナハス国の宮殿では、現れた巨人(ザム)の対応に負われていた。
ここの皇帝は、講和の呼びかけを自分を陥れる罠と考え、これまではスルーしていた。ところが実際に現物を見てしまい一変。考えを改めるしかなくなった。
三国の代表は、すぐさまテレビ電話越しに会議を開くことになった。このテレビ電話もそれぞれの武器商人から伝えられたものだ。
「なんだ? バラバラだった各国の兵士が力を合わせ始めただと?」
もちろん彼等に、政情などは伝わっていない。しかし元々は一つだったことや、呉越同舟的な要因が重なり、このような奇跡が起こったのだ。
「こよみ、しっかり捕まっていろ。新月斬波!」
ジャグラーも圧倒的数的不利のなか、己の信念のために蛇心剣を振って戦う。
「危ない! ジャグラー!」
ギャラクトロンの後頭部の触手が伸びた。それがジャグラーに近づいていた。
反応の遅れたジャグラー。彼はそれでもかわそうとした。だが紙一重で間に合わず、こよみに絡み付いてしまった。
「助けてー!!」
「はあぁぁぁぁ!」
「うわぁぁぁぁ!!」
全力で触手を斬り裂こうとするがそれも叶わず、とうとうギャラクトロンの内部に囚われてしまう。
「なんてことだ......」
「行くぞ、ザム」
ザムが振り向いた。するとそこには、自分と同じ高さまで巨大化したジャグラーの姿があった。
「俺は以前にもあれを見たことがあるが、中は大爆発が起きても平気なくらい頑丈だ。だから遠慮なく攻撃しろ」
かつて、ナオミを乗せたギャラクトロンがオーブサンダーブレスターのゼットシウム光線によって激しい爆発を起こしたことがあった。そのときも結果として、ナオミは一命をとりとめた。
ジャグラーはその体験から、ザムにこうアドバイスをした。
「そうか......とても闇の力を持つ者の台詞とは思えないな」
「......無駄口を叩くのはこいつを倒したあとだ!」
二人の魂のこもった剣が、振り下ろされる。だがそれも左腕に防がれる。
さらにそれが回転。展開された刀の横凪ぎの払いに、ジャグラーは吹き飛ばされてしまう。
(こんなとき......ガイならどうする? もしあいつなら......)
ジャグラーはギャラクトロンの光線をかわした。それからジャンプして、後ろに回り込んだ。そして後ろの髪の毛のようなパーツを引きちぎる。
一方でザムに対して右腕をロケットパンチのように飛ばして攻撃したが、勢いを利用され、星斬丸の前に一刀両断にされた。
「ふん! だぁぁぁ!」
ギャラクトロンは残った左腕で、ザムとお互いの剣を激しくぶつかり合わせている。
「新月斬波!」
だが背後からのジャグラーの攻撃は、もはや防ぎようがなかった。その隙にザムの剣撃も当たっていく。動きが鈍くなっていくギャラクトロン。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そして無防備になったギャラクトロンの頭部に、深々と刀を突き刺したザム。
「今だ! ジャグラー!」
「蛇心剣抜刀斬!」
素早い居合いからの連撃。必殺技を繰り出すジャグラー。それは以前より格段に威力が上がっていた。ギャラクトロンを切り刻み、バラバラにすることができた。
二人はついに、撃破に成功したのだ。
「キャァァァァァァ!!」
投げ出されたこよみ。その身体は元の姿に戻ったジャグラーにしっかりと抱き抱えられた。
一行は宮殿にやっと到着した。しかしそこで聞かされたのは、ムルナウがすでにどこかへ行ってしまったということだった。理由はザムとジャグラーのことを、自分達に敵対するものと誤解したからだ。
彼女の次の行き先は地球。そう告げられると、ジャグラーはそこから宇宙船を強奪した。
「短い間だったが世話になったな」
「ジャグラー、お前にこれを渡そう。俺が持っていても使い道がわからないしな」
ザムから、二枚のカードを渡されたジャグラー。
それはゼットンとパンドンの怪獣カードだった。
「ありがたく頂くぜ」
「ここはこの先どうなるんだろうな、ジャグラー」
「さあな。でもそうやすやすと侵略されるとは思えない」
「ジャグラー行っちゃうの?」
「そうだ。俺の目的はまだ果たされていないからな」
「ザム、こよみを頼んだ」
「任せろ」
ザムの言葉を聞いたジャグラー。彼はそれに安心したのか、彼らに背を向けると宇宙船に乗り込んだ。
そしてその後振り返ることなく、三日月の綺麗な夜空の中に消えていった。
「バイバイ! ジャグラー!」
その光景をこよみはずっと眺めつつ、小さな体を大きく動かして手を振り続ける。
おわり
ジャグラーとザムシャーって色々似てますよね。
見ていただきありがとうございました。