いつか静かなこの海で ~1人のイレギュラーの物語~ 作:そーりゅー
----1956年4月16日 AM9:00 工作部----
ミシガンと伊井波司令の対談の翌日。ミシガンは伊井波司令に呼ばれて、キスカ島泊地鎮守府の工作部へと来ていた。
「やあ、朝早くから急に呼んですまないな。」
そう言う、何故かまだ寝間着姿の伊井波司令。
着替えて来いよ…という顔を私と同じく呼ばれてきた電…いなづまがしていた。
何故、電じゃなくていなづまかって?それは昨日の対談の後に遡る。
電は伊井波司令がケッコンカッコカリをした「電」と区別をつけるために、
電を入渠させるついでに近代化改修を行ったところ…
何と…「DD-105 いなづま」になってしまったのだ。
彼女自身はあまり驚いてない様子で、ミシガンも驚いてなく、伊井波司令のみが
驚いていた()
ということがあって、今に至るのだ。
「それで、何故私たちを呼んだのです?」
伊井波司令に自分たちを呼び出した理由を聞くいなづま。伊井波司令は穏やかに2人にその理由を話した。
「いなづま、毎年この時期に行う海軍恒例の行事って何か分かるか?」
「この時期に行う海軍恒例の行事…あっ!海軍鎮守府対抗特別大演習ですか?」
いなづまの回答に正解といわんばかりに笑みを浮かべる伊井波司令。果たして
海軍鎮守府対抗特別大演習とは一体何なのだろうか。
「あのぉ…海軍鎮守府特別大演習って何ですか?」
「ああ…海軍鎮守府特別大演習というのは毎年4月のある期間に行われる特別演習のことでな、
横須賀鎮守府・舞鶴鎮守府・呉鎮守府・佐世保鎮守府を始めとする日本海軍管理下の各鎮守府・泊地の艦娘艦隊が
同じ演習海域で同時に戦闘を行うっていう演習だ。いろいろな艦隊が同時に演習を行うから…
はっきり言って目の前にある艦隊を虱潰しに潰すって戦法が多い。で、今回は明日の4月20日に開催されるわけなんだが…
この特別大演習はその名の通りちょっと特別でな。普段の演習と違って、陸海空軍のお偉いさん、
内閣総理大臣や各国務大臣、国会議員まで視察に来るくらいの重要な演習なんだ。もちろん一般開放もされるけどね。
そして優勝した鎮守府には賞品として資材と新規開発された艦娘用兵装が贈呈される。」
伊井波の言葉に少しばかりミシガンは首を傾げた。彼女がいた世界では特別大演習のような大規模演習は行われていない。
理由としては…莫大な費用が掛かるから。しかし、この世界ではそれが行われている。
彼女にとってどうやらそれが疑問に感じたようだ。
「その様子じゃどうやら疑問に思っているようだが…この演習は普段の演習とは違う特別なもの。
この国には鎮守府に所属する艦隊のほかに、大本営直属の連合艦隊というものがある。
所属艦娘は毎年変わっていくんだが…上層部が参加艦娘の練度の高さを見極め、
翌月に結成される連合艦隊に引き抜くという選考会でもあるんだ。だからこのような大規模な演習を行わなければならない。
そして現在、ミシガンという能力未知数な艦娘がいる。ならこの演習でその能力を測ろうと思って、君を呼んだんだ。」
「なるほど、そうだったんですね。」
伊井波の言葉にミシガンは頷いた。大規模な演習を行う理由に納得できたようだ。
しかしミシガンは一つ疑問があった。ここに来てから誘導してくれた艦娘以外に
ほぼ艦娘を見ていないのだ。そんな事を考えていると…。
「その顔だと、この鎮守府にはほとんど艦娘が居ないような…的なことを考えているね。
その問題は解決されている。この鎮守府には演習時には特別に派遣されることが決まっているからね。」
なるほど、とミシガンは理解できたようだ。
「私がその演習に出場すると…あのぉ…私といなづまの弾薬の補給とかは可能なんですか?
この世界に無い技術ですし…」
ミシガンが気になること…それは自分の艤装・兵装の補給に関することであった。
彼女も艦娘である以上、何かしらの整備や補給を受けなければならない。彼女自身が戦うと決めた以上、
それは必要不可欠なことだ。だが、彼女がいた世界とこの世界とでは、約70年もの技術格差が存在する。
この世界では彼女が持つ兵装など常識の範囲内におけるものではない。
だから彼女の艤装・兵装を複製できるかどうかも怪しい。
「補給?それなら大丈夫だ。君の艤装には艤装妖精っていう妖精がいるだろ?」
「まぁ…いますけど…その妖精がどうかしたんですか?」
「実は鎮守府の工廠にも工廠妖精というのがいてな…その工廠妖精の力を借りれば、たとえ時間がかかろうとも、
大抵の兵装なら複製可能だ。ここは工作部だから工作妖精だな。」
伊井波は彼女の不安を物色するかのように言い放った。
「そ、そうなんですか!?」
「ああ。だから君に搭載している兵装の一部を工作妖精に提供してくれたらいい…
もちろん対談の時に提示された条件の通りにする。君の兵装は我々の立場からしたら喉から手がほしいものかもしれない。
だが、君が提供してくれなければ君が使用した弾薬の補給は100%不可能だ。
なるべく早く提供してくれるとこちらも大助かりだ。」
「…分かりました。今、渡せば良いですかね?」
「ああ、頼む。」
そう伊井波司令が言うと、工作妖精が近づいてきた。
彼女は艤装を展開する。いなづまも同様に艤装を展開した。
彼女は米海軍のサマーホワイトと呼ばれる夏用軍服の海軍准将用軍服を着用していた。
これがミシガンの艦娘としての正装だ。
いなづまは海上自衛隊の第3種夏服を着用していた。
「えーと…解析してほしい兵装っていうのが…艤装妖精!Mk.48とトマホーク1発ずつ取り出してくれる?」
そう命令すると、待っていましたと言わんばかりに整備員妖精がMk.48魚雷とトマホークを1発ずつ取り出した。
「取り出しましたよー」
「じゃあ、それを工作妖精に渡してください」
「了解ですー!」
整備員妖精たちは取り出したトマホークとMk.48魚雷を工作妖精に渡した。
いなづまも同様に3種類のミサイルと機関銃弾と砲弾を手渡した。
「確かにもらいました…けど、これはいったい何なんです?片方は魚雷って分かりますけど…」
「まぁ…未来の兵装とだけ言っておきます。詳しくは言えません。ですが、それぞれ使用用途が違うので、
くれぐれも間違えないようにしてください。あと工作部外への持ち出しも…できればご遠慮いただきたいです。」
「分かりました。一日あれば工廠妖精さんが解析してくれるので、待っててくださいね。あ、あとこれ。
明日の演習で使う弾頭の材料であるペイントです。明日はこれを使って演習を行うので弾頭を
これに変更をしておいてください。できなかったら私がやりますから。」
分かりました、と言うとミシガンといなづまは工廠を後にした。
----4月16日 PM2:00 ミシガンといなづまの部屋----
工作部に兵装解析を頼んだ後、ミシガンといなづまは伊井波司令が用意してくれた
部屋に戻っていた。
いなづまは疲れたのか寝ていた。
「それにしても明日から海軍特別大演習があるのか…副長、どうやって戦ったらいいかな?」
「そうですね…やっぱりトマホークによるアウトレンジ攻撃しかないんじゃないですか?自衛兵装は、魚雷と囮魚雷しかありませんし…」
「だよねぇ~」
「まあ…とにかく敵に見つからなければ良いんじゃないですかね?余程、見つかることは無いでしょうし。」
「そうだよね。演習相手を発見次第、トマホークを叩き込もうか!」
「結構ガチなんですね、ミシガンさん。」
そう副長妖精に言われると、ミシガンは立ち上がり、ガッツポーズをしながら言った。
「だって、今回の演習は私が艦娘というものになって初めての実戦形式で行われる戦いだよ!そりゃあ燃えるでしょ!」
「確かにそうですけど…まぁミシガンさんがそこまで意気込んでいるのでしたら
私たち艤装妖精も全力でバックアップします!」
「うん!よろしくね!」
そういうと彼女たちは明日の特別大演習のために作戦会議を進めるのであった。
「はぁ…弾頭変えるのめんど…」
「そないなこと言わずに…」
大演習で新たな出会いがあるとはこの時は誰も予想していなかった…
次回は演習回なのです!
海軍鎮守府特別大演習
・毎年4月のある時期に開催。今回は4/17~。
・ペイント弾頭を使用。実弾を使用した場合は軍規違反で逮捕。
・全艦隊一斉に演習開始。目の前にある艦隊を虱潰しに潰すという戦法が多い。
・毎回使用可能な編成が違う。今回は連合艦隊編成。水上打撃部隊と空母機動部隊 が
使用可能。
・一般公開。マニア多し。
・陸海空軍上層部、内閣総理大臣、各国務大臣、国会議員も視察。
・特に艦娘を戦場に行かせるなと訴える野党国会議員の演説が毎回の名物。だが、
演説途中に艦娘たちの流れ弾が命中して全員ペイントまみれになる。
おそらく意図的。
・大規模侵攻の際に出撃する大本営直属連合艦隊の選考会も兼ねる。
・優勝賞品は資材と新規開発された艦娘用兵装。
・みんなガチ
<次回予告なのです!>
海軍鎮守府特別大演習に参加することになったミシガン。
ミシガンはどのような戦術で戦っていくのか?
そしてミシガンは懐かしの出会いをすることになる…。
次回! 「第六話 演習っぽい!」