いつか静かなこの海で ~1人のイレギュラーの物語~   作:そーりゅー

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第四話 新たな故郷

第四話 新たな故郷

 

 

ーキスカ島泊地鎮守府 執務室ー

 

「そこの席に座ってくれ。」

「は、はい」

 

伊井波はミシガンを用意した席へと座らせた。保護された電は入渠中である。

ミシガンとこの世界の軍人との対談が今、始まった。

 

「改めて紹介しよう。私がここキスカ島泊地司令官の伊井波慎也だ。もう一度自己紹介を頼めるかな?」

「私は米海軍太平洋艦隊キトサップ海軍基地所属のSSGN-727 ミシガンです…。」

 

 

米海軍…そう聞こえた瞬間、司令とその隣に居る秘書艦だと思われる電は顔をしかめた。

それはそのはず。連合国によって数多くの日本艦艇が沈められたのだから…。

 

 

「米海軍…君は1956年現在の米海軍なのか?」

「えーと…違うんですよね。」

 

そして数秒の間が空き…

 

「え?どういうことだ?」

 

彼女は直ぐに否定した。やはり米海軍という単語を聞くとそう反応してしまうのだろう。

この世界を生きる人間にとって米海軍は1956年現在の米海軍しか知らないのだから。そして彼女自身、それを否定している。

司令はそのことについて気になっていた。

 

 

「恐らく…伊井波司令の頭に浮かんでいるのは1956年現在の米海軍。私の所属は75年後の米海軍です。」

 

そしてミシガンは気づいた。あ、しまった…。と。

 

『『75年後!?』』

 

この反応はそれもそのはず。本来ならこの世界に存在しないはずの艦娘なのだから…。

 

「えーと…つまり君はこの世界の艦、いや艦娘では無いと…?」

 

ミシガンは少し考えて返答する。

「まあ、そういうことになりますね。タイムスリップ…いや転生だと私は理解しています。」

 

 

司令は何かを考えた後、ミシガンにある質問をする。

 

「ふむ…なら話は早い。75年後ということはこの世界と君の世界の科学技術は君の世界のほうが進んでいるだろう。それを見込んでお願いがある…。」

 

何だろうとミシガンが思っていると…。

 

 

「我々に協力してくれないか?」

 

 

司令から強い意志と少しの願望がこもった真剣な声でそう言われた。協力…つまりこの世界の日本海軍の

指揮下に入り、作戦行動を共にするということ。それはこの世界の日本にとってとても有利なこととなる。

ミシガンの能力をこの世界の軍の関係者や艦娘たちはまだ自分の目で見たことが無い。

この能力をふんだんに発揮すれば、第二次世界大戦時の兵装で互角に戦う深海棲艦など容易く倒せる。

しかし、指揮下に入るということは上からの命令を聞かなければならない。

もしも彼女の兵装について『技術提供をしろ』と命令されたら、技術提供をしなければならない。

そんなことを考えているミシガンをよそに司令は話を続ける。

 

 

「日本…いや世界は今、窮地に立たされている。1年前に出現した深海棲艦のせいで我々は地獄を見ているのだ。

日本は鉱物資源の採掘・食糧の生産に関してお世辞ながらもいい状態とはいえない。まぁ、自給率が低いってことだな。

にもかかわらず深海棲艦は日本のシーレーンを分断し、日本を孤立化させようとしている。

日本軍も西太平洋における制海権・制空権を失ってしまい、保持しているのは日本近海だけなのだ。

その日本近海にも最近は深海棲艦の泊地ができたり…このままでは

日本は『餓島』と化してしまう。だから君にも協力を要請したい。」

 

 

ここまで言われてはさすがにかわいそうだと感じてきたミシガンだったが、やはり協力となると

指揮権はどちらにあるのか。そこが悩みどころだ。

日本軍の指揮下に入るか、太平洋を彷徨う漂流者になるのか。選択肢は二つに一つだ。

 

そして彼女はある事を考えたうえで一つの答えを出した。

 

 

「…わかりました。私の艦娘です。条件付きで協力しましょう。」

「おお!協力してくれるのか…え?条件…?」

 

 

条件付きなら協力しても良い。そう考えた彼女は、どんな条件を突きつけられるかわからなくて

焦りを隠せない司令にその条件を打ち明けた。

 

「じょ、条件って…?」

「はい。私の艤装・兵装技術に関して日本国軍及び日本国の軍事技術を研究…その他軍事に関する専門機関に

技術情報提供を一切認めないこと。私の艤装・兵装の補給に関する物資・支出に関して日本国がそのすべてを負うこと。

また、艤装・兵装の補給に際して必要な情報の提供は私が認める者のみとすること。私の艤装・兵装に関して貴官らの命令は

一切認めないこと。また、保護した電を一時的な休養を要求。また、他鎮守府への異動を認めないということを

要求します。これらの条件がもし守れず、私の要求が破られた場合私はあらゆる手段を用いて滅ぼします」

 

ミシガンは自分がこの世界で彼らと協力できるギリギリのラインを穏やかに提案した。

さもなくば、この世界の軍事バランスが大いに崩れてしまうからだ。

75年後の艦がホイホイと自分の技術を提供してしまっては一巻の終わりだ。

 

そしてこの条件を聞いた司令と秘書艦はだらだらと汗を流している。彼女がそんな恐ろしいことを穏やかに

言ってきたことに恐れを抱いているのだろう。

そして…

 

 

「それからもう一つ。私と貴官らの関係はあくまで同盟関係のようなもの。私はアメリカ海軍太平洋艦隊の原潜として

様々な作戦に参加していました。ですので…自分でいうのもなんですがアメリカ海軍の原潜という名誉ある私の経歴を

捨てることはできません。私があなたたち日本海軍、そして日本海軍に所属する艦娘と一緒に戦うのであれば、

私は日本海軍の艦娘ということではなく、日本海軍と同盟関係を結ぶアメリカ海軍の艦娘として戦います。

多少は伊井波司令の指揮下に入ることになりますが、あなたがた日本海軍に完全編入されることは認められません。

というより許されることではありません。このことについても守ってください。もしもの対応はさっきと同様です。」

 

 

ミシガンはそう断言した。これは自分の艤装のこと以外に決して譲れない絶対の条件の一つだ。

彼女が艦娘としての生を受けてからいろいろなことがあったが、彼女がこの世界に転生してからまだ数日しかたっていない。

そして旧帝国海軍は何よりも結果を尊重する。それは対深海棲艦用に設立された日本海軍も同じだ。

日本海軍は旧帝国海軍の伝統を受け継ぎ、日本海軍軍人の中には旧帝国海軍軍人の者もたくさんいる。

というより、伊井波司令がその一人だ。これは海上自衛隊にも言えることだが、アメリカによって制限を張られている

海上自衛隊より、在日米軍やGHQが撤退し何物にも縛られない日本海軍は言い換えれば旧帝国海軍そのものだと言える。

そのような現代にはない危険思想を持つ組織に身をゆだねるのは、誰でも難色を示す。

 

「…わかった。君にも事情があるんだな。上に掛け合わせておくよ。」

「あなた方は知らないかもしれませんが、このような条件を提示するのは私はそれくらい危険な存在なのです。

もしかしたら私みたいな艦娘は今まで出現しなかったかもしれないし、これからも出現しないかもしれない。

しかし、あなた方はパンドラの箱を開いてしまった…だからこれくらい守ってくれないと、

私の判断一つであなた方の生活すら変貌してしまいます。その点をどうぞお忘れなきように。」

 

「そうか。では、ミシガン。今後ともよろしくな。ともに国を守る者同士、頑張っていこう。」

「こちらこそ。」

 

 

これを以てミシガンはキスカ島泊地という新たな故郷で新たな人生の一歩を歩み始めたのであった。脅迫という概念から…ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




何とかこれで海軍鎮守府特別大演習に間に合うな…。

<次回予告!>
新たな故郷、キスカ島泊地に所属することになったミシガン。
電の近代化改修。
他艦娘との交流。

そして新たな任務を全うすることになる。

次回! 「第五話 新たな任務」

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