いつか静かなこの海で ~1人のイレギュラーの物語~ 作:そーりゅー
第一話 始まりの海
第一話 始まりの海
1955年4月15日。軍民合わせて約8,500万人もの犠牲者を出し、アメリカ・イギリス・ソ連が主
となる連合国が日本・ナチスドイツ・イタリアが主となる枢軸国に勝利した第二次世界大戦から丸
10年がたとうとしていた。空襲などの被害を受けた各国は、徐々に復興を遂げ、それは敗戦国と
なった日本も例外ではなかった。1950年に起こった朝鮮戦争による特需もあり、日本は完全復活
を果たした。だが、それも長くは続かなかった。
朝鮮戦争が休戦状態となった3年後の1954年、突如として太平洋ハワイ沖にある生命体が出現した。
その生命体は、アメリカ海軍太平洋艦隊司令部が展開していたハワイ州オアフ島を急襲。
数隻の駆逐艦ないし巡洋艦と潜水艦、少数の飛行隊しか配備されていなかった艦隊司令部が
急襲に耐えきれるはずもなく、ほどなくして艦隊司令部は撤退を決定。
米政府もオアフ島を含めたハワイ州の放棄を宣言した。
その後も艦隊司令部を急襲した生命体は勢力を拡大。その容姿から国連は『深海棲艦』と命名し、
国連安保理決議により、各国は深海棲艦との戦争に突入した。当初は圧倒的火力で人間が勝つと思われていた。
しかし現実は甘くなかった。何せ〝標的〟が小さいのだ。人間側は駆逐艦、巡洋艦、戦艦、潜水艦を用いて戦っているが、
これは艦隊決戦や対地攻撃の為に作られているものであり、一番小さい潜水艦でも船体は80m以上、
また一つ一つの艦砲や魚雷発射管は大きいものとなっている。これが大きいのは、
圧倒的火力を持って敵を殲滅するためである。しかし、深海棲艦は大きく見積もっても〝大人の人間〟程度の
大きさに過ぎず、艦隊決戦の為に作られた駆逐艦・巡洋艦・潜水艦の艦砲や魚雷発射管では大きすぎて
命中しないという欠点があった。
このような点から、世界各地に出現していった深海棲艦の侵攻を防ぎきれるはずもなく、
各地で敗戦を重ねていった。戦局もどんどん厳しくなり、深海棲艦に占領された国もあった。
もうだめか…とあきらめていたその時、深海棲艦との戦争に突入していた日本に救世主ともいえる生命体が出現した。
その生命体は『艦娘』と名乗り、侵攻してきた深海棲艦を撃退した。日本は深海棲艦と戦う事のできる唯一の存在として
艦娘を保護、艦娘と一緒に出現した『妖精』と言われる小人たちとともに
〝新生・日本海軍〟を立ち上げ、日本各地に鎮守府を設置した。
それから一年がたった今日。人類にとっては一番の頼りとなる存在、
そして深海棲艦にとっては一番の脅威となる存在が、この西太平洋の一角で目覚めようとしていた...。
----1956年4月15日 AM11:30 西太平洋----
周辺には見渡す限り島ひとつ無い穏やかな海が広がり、カモメの鳴き声が飛び交うこの海域で、見たこともない
艤装を付けた一人の少女が呑気に目を覚ました。
「ふぁぁ…へ?ってここどこや!」
目が覚めると私は真っ暗な空間に漂っていた。だが、見慣れた光景であるが。何だか体の感覚がおかしい。
「…体?」
私は疑問に思い自分の体を確認する。
「へ?…これは人間になってるぅぅぅ!?」
私は確か、オハイオ級原子力潜水艦のミシガンという船体だったはず。それが何故か、
乗員のような人の姿になっているのだ。ふとそんなことを思っていると…
『船体としての貴方は一度沈みました。』
...what?
そうかそうか。私一度沈んだのか…って納得できるか!!
『落ち着いてください。ですから貴方は一度沈んだんです』
なるほど~そうかぁ~だから人の姿になっているのか~っとその前に聞きたいことが、
「貴方、誰?」
いきなり『貴方は沈んだ』とか言われても理解できないよ!?
『私は貴方の艤装の副長妖精です、フクさんとでも呼んでください。』
副長か~色々突っ込みたいけど我慢する。
「それで私は一度沈んだらしいけどどういうこと?」
『えーとですねぇ。こういうことでして…」
そしてここまでの経緯を5分ほど話してもらった。
「えーと…つまり私は北にある朝鮮の奇襲を受けて撃沈したと」
『そういうことです』
とりあえず私は今、頭の中で分かったことをまとめてみる。
北にある朝鮮の奇襲を受け撃沈→艦娘として転生→そして1957年5月1日にタイムスリップした。
…ここまでのまとめて、ふと結論が出た。
「…あれ?ということは私は海の迷い子ってことか」
そうかそうか~タイムスリップして海の迷い子か~
「タイムスリップ!?」
~色々説明を受けました~
「理解した…。それでフクさん。ソナーって今、入ってる?」
とりあえず私は周囲の状況を確認するためにソナーを入れることにした。
『入ってますけど…今はソナー妖精に任せてますが聴きますか?』
へぇ…ソナー妖精も居るのか~。とりあえず私も聴音することにした。
「じゃあお願い」
頼んだ直後に耳から音が聞こえ出し、周囲の状況が手に取るように分かってきた。
一番近い反応は左舷(さげん?)前方45度、距離約3500。現在の深度は…80か。
海流の音に混じって聞こえる4つのキャビンテーション ノイズ(スクリュー音)
くぐもって聞こえる爆発音と思われる何か。
そして何かがひしゃげる音がして、スクリュー音が3つになる。
うーん…聞きなれた音だなぁ…って…
海戦の真っ最中じゃん!?
危ない危ない…何もしらずに浮上するところだった…。
詳しく聞いてみると反応は1隻と2隻のグループに分かれており2隻のほうは1隻やられたものの
速力変わらず、1隻が押されている感じだった。
「うーん…フクさん、何か分かる?」
とりあえず分からないことはフクさんに聞く方針で行こう。
『まだ音紋記録していないので何とも…』
やっぱり…艦種までは分からないよなぁ…IFF無いよなぁ…この時代。
とりあえず、潜望鏡を上げて確認するか…。
「潜望鏡深度10mまで浮上!メインタンクブロー。」
私は潜望鏡深度までの浮上を命ずる。
懸吊状態から深度70m、50、30、20…と徐々に浮き上がっていく。
そして潜望鏡深度になり、海上の様子を見てみると、そこには中破し、今にも深海棲艦に止めを刺されそうに
なっている、日本の駆逐艦と思われる艦娘が居た。
次回は戦闘回になる予定です。
<次回予告!>
日本の駆逐を救出し、保護したミシガンは「電」と名乗る艦娘から
残酷な鎮守府の現状を知る…。
そしてミシガンは決断することとなる…。
「Mk.45 VLS 1番開放!。トマホーク攻撃はじめっ!!」
次回!「第二話 決断 」