『君の名は。その後・続編(二次小説)』~奇跡をもう一度~「絶対に瀧君を助ける!」そこに現れたのは、、、 作:えー・あーる夢見
第3話
大学病院の内科。
いったん検査の結果待ちになった三葉。
診察室から出る時に、閉まる引き戸に、左手の指先を、少し挟んでしまった。
「痛っ!、、全く、我ながらドジ!」
、、そう自分に呆れて、左手の指先をさすりながら、すぐ近くのイスに腰を下ろした。
さすっていた左手の手のひらに目が行った時、三葉は、瀧と再会後に、もう一度、あの場所へ行った時の事を思い出した。
付き合って半年ほど経ったある日、瀧から
「もう一度、糸守に行かないか?」
と言われ、小旅行を計画した2人。
あの二つになった隕石湖に向かい、歩いている、、 紅葉と緑と青空の、美しい景色はそのままだ。
とても、この近くで、村を一つ飲み込む程の隕石が落下したとは思えない。
瀧が、木漏れ日に手をかざしながら言った。
「時々さ、『あ、この景色とこの感じ、夢で見たかも、、』なんて思う事、あるだろ?
三葉と付き合ってからは、余計に、三葉が話してくれる宮水の家での事とか、友達の話とか、、まるで自分が体験したみたいに、うなづける事があるんだ。
少しだけど、入れ替わっていた時の事を思い出せる様になってからは、その感覚が、益々ハッキリしてきた。
やっぱりあの奇跡は、ただの夢なんかじゃなくて、本当に起こった出来事だと思う、、。」
そして、この美しい、動く日本画の様な景色を見渡して、
「三葉のお婆ちゃんをおぶって、四葉と宮水の御神体まで行った時は、俺が三葉と入れ替わっていたんだ。
お婆ちゃんの話を聞きながら歩いたお陰で俺は、あの場所を知る事が出来たし、三葉を助けたいって思った時に、あそこが奇跡を起こす特別な場所だって、思えたんだ。」
「不思議やね、『思い』って。
私ね、いつも思うんやけど、、例えば、音楽って、『空気に色をつける絵の具』みたいなもんやなぁ、、って。
仕事をしてても、遊んでいても、そこに音楽がかかっているだけで、楽しさが倍になったり、逆に、悲しみも増したり、、
その場の空気が、キラキラ輝く好きな色に感じたり、幸せな、柔らかいピンク色に見えたり、透き通るブルーに見えたり、、
そんな『音楽に絵の具の力を持たせる』のも、一人一人の『思い』なんやろなぁー。」
そんな話をする三葉の横顔を見つめる瀧。
「私が、大人になって、初めて東京に出てきた時にね、眩しい街の景色が、懐かしく思えたんよ。瀧君になって、東京で過ごした時のワクワク感がね、その時に街で聴いた音楽を聴くと、たとえ違う場所でも、蘇るんよ!」
瀧は、三葉の、こんな風に、おおらかに、ふんわりと自由に物を捉える考え方が好きだった。
情報まみれのウルサイ都会ではなく、自然に囲まれた環境で育ったせいなのか?
三葉は、やたらと東京に憧れを抱き、都会を意識する所があるけれど、東京にドップリ浸かったタイプの女の子でなくて良かった、、とつくづく感じていた。
2人で、思い出せる限りの、入れ替わっていた時の話をしながら歩いた。
「体を触ったか?否か?」
『口噛み酒』の意味を知っていたのか?等々、、
時に、三葉がプリプリと怒ったり、顔を真っ赤にして恥ずかしがるのを、瀧がからかったりしながら、、。
空には、真昼の月が、顔を出していた。
「見て三葉、月がもう出てるよ。 三日月だね。
三葉、覚えてる? 入れ替わっていた時の、学校のノートに、お前がメモした三日月の話、、。」
「三日月?なんやろ、、あ!また私、何か変な事を?!」
「ううん、違うよ。あのね、 『満月よりも、私は欠けた三日月が好き。 だってそこには、唯一、地球の影が映って見えてるから』って書いてあった。」
「あ、、確かに、そんな事を考えてた事、あったかも、、」
三葉が、耳の脇の髪を、指でクルクルとねじるクセを出しながら、少し恥ずかしそうに思い出していた。
「あのメモだけは、なぜか忘れずに、心に残っていたんだ。
なんで、地球の影が映って見えてるから好きなのか? その理由は書いて無かったから、三葉の感じ方とは違っているかもしれないけど、、
俺は、その一文に『地球の大きさ』を感じた。 逆に、人間の小ささも感じたから、それ以来、小さな事で悩みそうになった時には、『くよくよするな!大きな地球で!』って自分を元気づけて来た、、。」
「良かった。私のメモが、瀧君の役に立ってたんやね。」
三葉が瀧の手を握り、2人は手を繋いで歩き続けた。
その感触に、瀧は三葉の存在の大切さを、改めて感じていた。
2人の前に、あの二つの隕石湖が現れた。
あれから数年が経ち、一部は、かなり近くまで行ける程、整備されていたが、まだまだ災害の大きさを感じさせた。
しばらく、その景色をボー然と見つめる瀧と三葉、、。