『元』魔王の俺がヤンデレ女勇者と付き合っている件について 作:『向日葵』
余談ですが、初めてルビをつけてみました(今まで付け方がわからなかった)。
ーー『元』魔王たる俺ことクルトは今、この大陸、『ベルトナム』を納める『オルレシアン王国』の主……所謂国王が住む城の前に立っていた。
「『元』とは言え、なんで魔王の俺が国王の城なんぞに……」
ため息混じりにそう独り言ちるが、理由はわかっている。いや、身に覚えがありすぎて、頭痛がするくらいだ。
何故なら昨日行われた、ヤンデレ女勇者のレイカによる、公衆の面前での押し倒しキスという拷問は、やはりというかなんというか……俺の予想通り、ある程度の『事』になってしまったのだから。
何せ、魔王の俺の顔は人に知られてないとは言え、この大陸の魔王を倒したレイカの顔は、皆が知っている。……あの街でレイカが出歩いても騒がれないのは単に、レイカがあの街の住人で、皆がそれを知っていたからだ。仮にレイカが他の街に行くものなら、きっと大騒ぎになるはずさ。
だがしかし、今回ばかりもそうはいかない。何故ならそのレイカが公衆の面前で男を押し倒し、更にはキスまでしたのだ。いくら見知っている街中とは言え、軽い騒ぎにもなるだろう。
ーー更に、話がそこで終わることはなかった。
その現場……俺とレイカとのキスがいつの間にか撮られており、その写真を翌朝、つまり今日の新聞の記事に載せられたのだ。
これにはあの場をすぐさま走り去った俺達も、唖然としてしまった。特にレイカに至っては、その写真だけ切り取ってこの新聞の出版社を潰しますなど虚ろな目で言い出す始末。何とか落ち着かせた俺を褒めて欲しい。
ーー更にさらに、話はここでも終わらなかった。
俺の顔は知られてない……しかし、全てが全てそうという訳でも無い。俺に戦いを挑んでくる国王然り、その重鎮然り、俺の顔を知っている者は少なからずとも存在する。
無論、新聞を見て俺がこの国に居るということを知った国王が俺達ーー魔王の俺と勇者の関係を見逃すはずもなく、こうしてレイカ共々呼び出しをくらった、というのは必然とも言える。
「……完全なとばっちりだ」
「し、仕方ないじゃないですか!魔王様の血が悪いんです、私を悪くするんです!」
俺のつぶやきに、隣のヤンデレが答える。無論、女勇者兼同居人のレイカだ。
しかしこいつ、ここまで来る時もそうだったが、何故こんなにも平気な顔でこの城まで来れるのだろうか。魔王の俺との関係がバレてる時点で、国王などには反逆者だの何だのと思われても仕方ないはずなのに。……いや、むしろそう思われている可能性が高い。レイカもそれはわかっているはず。
「なぁ、レイカ。何でそんなに落ち着いてられるんだ?」
「?」
俺の最もな疑問に、キョトンと首を傾げるレイカ。そのあどけない様子に、少しドキッとしてしまう。……気を取り直そう。
「いや、ほら。国王がお前と俺を呼び出したってことは、明らかに俺達の関係を聞くためだろ?なんて答えるんーー「将来を誓った仲ですと答えますが何か?」ーーい、いやだから、それだとお前は反逆者扱いされるんじゃないかって話!!」
良くて追放、下手すれば死刑だ。それ程までに、レイカと俺との関係は危うく、それでいて人間には受け入れ難いことだろう。
ーー『人間』と『魔族』。『勇者』と『魔王』。
種族が異なり、尚且つ互いが互いを敵対視している……更にレイカは、人間の中でも『勇者』の位置に属する者。
そして俺は、そんな人間の敵の親玉であり、勇者ならば絶対に倒さなくてはいけない存在ーー『魔王』。
「ふふ。心配しなくても、私達の愛は永遠に不滅ですから、大丈夫ですよ魔王様」
だと言うのに。何故、この女は。こんなにも平気な顔で、俺への愛の言葉を囁けるのだろうか。
レイカのその自信満々の言葉に、俺は顔を赤くしながらふい、とレイカから顔を逸らすと、門の前でイチャつくなと言わんばかりにこちらを睨んでくる門番を一瞥しながら、中へと歩を進ませた。
ーーこの後俺は、レイカの『大丈夫ですよ』という言葉の意味を、嫌という程知ることになる。
ーーー
ーー
ー
城に入ってから早速というかなんというか、使いの者が城の中枢へと案内してくれた。
そこには予想通り、この国の王ーー確か名前は、『エーメル・パシフィック』と言ったか。兎にも角にも、国王が佇んでいた。……まぁ国王らしく、冠被って髭の生えたおじいちゃんって印象しかなかったが。
「ーーと、いうわけでして国王様。貴方の思っている疑心はなんという事でもないですし、それにもうこの方は、この国に害を成す存在ではありません。是非とも、『
「むぅ……しかし、だな。その者は紛うことなき、かの『暴魔王』クルト・グランツェフ。いつ何処で寝首を取られるかわからん。そのような者を偉大な勇者たるそなたの側へと置くなど……」
「ご心配をお掛けするのはわかっています。しかし、私とて彼を愛すーー打ち倒すために力をつけ、今では彼をこうして、私の『
「ねぇ、今愛するために力をつけって言おうとしなかった?お前今の自分の立場わかってる?ねぇ?」
何やらかそうとしてんだお前という目線をレイカに向けるが、代わりに頭ナデナデが返ってきた。ーーなんでや!!
「この通り、私の『呪い』の一つーー『
頭を撫でられ、頬をつつかれ、ついでにぷにぷにと優しく抓られ……もう、なんかやるせなくなってきてしまった。
そんな俺の様子を見た国王とその周りの者達は、揃いも揃っておおっ、と感嘆の声を漏らす。……恥ずかしい、死にたい。でも死ねない。
……と言うより、なんか、レイカの瞳から段々と色彩が消えていってるように見えるのは、俺の気の所為なのだろうか。いや、そうだろう。きっとそうだ。そうであってほしい。
「そもそもの話をしますがーー魔王を倒したならば、私の願いを出来うる限りで叶えてくれる、という約束をいたしましたよね?この方の保護という名の所有権をーー所有権を私に譲るのは、出来うる限りに入っている筈です」
「ねぇなんでそのまま言ったの!?ねぇなんで!?」
もうちょいオブラートに包めやてめぇ!!
俺の渾身の問いかけに、無反応を貫き国王を真っ直ぐ見据えるレイカ。何さ、所有権って……俺はお前の物かよ。あ、いや、お前のものだったわーーって何言わせんの!?
しかし、ここでいくら文句を言った所で状況は変わらず、『契約書』の力も変わることは無い。……っていうかこの女、まさか『呪術』まで極めているとは。
はぁ、と諦めの意味を込めてため息をつくと、ちらりと隣のレイカに目をやる。
メガネ越しのその瞳にはしかし、相も変わらず色彩がない。あぁ、俺は知っている……この時のレイカは、もう止まらない、と。
「ですから、国王様?ーー
「……わ、わかった。許可、しよう」
こ、この女!脅しやがった、自分の国の国王を!!
なるほど……冒頭から妙に落ち着いていたのは、こうなることがわかっていたからか。対策は出来ているから、大丈夫ですよなんて言えたのだろう……まったく、末恐ろしい。
「ありがとうございます、国王様!必ずや他の大陸の魔王を倒してみせましょう!そして、それ相応の褒美として、私の言うことを聞いてもらいますが、宜しいですか?」
「む、むぅ……この際、仕方あるまいて。魔王との同行を許可するのだ、もう他のことでもそれほど驚きはせん。なんでも言うが良い」
「ーーじゃあ、魔王様と結婚することを許可してもらいますね!!」
ーーへ?
国王のみならず、その周りの人間も、そして俺自身もポカンとしてしまった。
その隙を見計らったのか、それとも言質を取ったからもうここに用はないのか……レイカは俺の手を取るとすぐさま近くにあった外へと繋がる窓めがけて走り、俺の不安通りーー突き破った。
投げ出される我が身と、ヤンデレ女勇者レイカ。後ろ、というより最早上からだが、国王らしき者の声が聞こえるが、しかし落下する際の風切り音で内容までは聞こえない。
あぁーーこれは、まさか。全部、レイカの計画通りなのか。
そんなことを思っていた矢先、俺の手を握っていたレイカは、興奮冷めないようなワクワクとした顔で、こちらへ言い放つ。
「やりましたやりましたやりました!!えぇ、えぇ、全部上手く行きました!!さぁ、さぁさぁさぁ!!これからの旅が楽しみですね、魔王様!!ーーいいえ、未来のあ・な・た♡?これから二人の幸せを切り開いて行くための旅の始まりです!!頑張って他の魔王を○○しましょう?ねぇーー魔王様!!」
そう、全てはヤンデレ女勇者の手のひらの上だったというわけさぁ!(な、なんだってーーー!?)
というわけで、次回から新章ですね!章なんてつけてませんがね(`・ω・´)キリッ!
感想、批評、評価等心よりお待ちしております!批評とかなら、ここが悪い、またはこうした方がいいなどの意見もあると凄く嬉しいです!
それでは皆さん、グッバー!