『元』魔王の俺がヤンデレ女勇者と付き合っている件について 作:『向日葵』
なんかすごくお気に入り増えててビックリしましたよ!こんな拙い作品を、ありがとうございます、皆さん!
「ーーえいっ」
そんな可愛らしい声と裏腹に繰り出されたのは、地面を砕き、木々を薙ぎ倒し……今日の依頼の目的である巨大な魔族の体を粉々にしていくような、控えめに言って凄惨なものであった。
その光景を間近で見ていた俺としては、乾いた笑いしか出てこない。
正真正銘、この技……いや、技と言える代物なのかどうかすらわからない力技を繰り出したヤンデレ女勇者たるレイカはーー間違いなく脳筋である。
「今日は愛しの魔王様が見てるんです!私、張り切っちゃいますから!!」
その言葉の通り、レイカの振るった剣戟は更に激しさを増した。
おいおい、まだ威力が上がるのか。あれは最早『暴魔王』の俺の力に匹敵するレベルだぞ。あの女、身体低下の魔法を俺にかけなくても、そのままで戦えてたんじゃないのか?
レイカの勇者としての仕事を初めて見る俺としては、そんな考えが頭の中を埋め尽くしていたのだが……それと同時に吹き飛ばされていく元同胞の魔族を見て、心の中で南無阿弥陀仏。なにせ相手が悪いのだ、安らかに眠るが良い。
ーーそもそも俺は、魔王になりたくてなったわけではない。
元々好戦的な性格だった俺は、この大陸で強いと言われてる魔族に挑み続け、そして勝ち続けた。その結果が魔族の頂点ーー魔王。
所謂、好きで戦ってたら勝手に魔王になってました、ということだ。
まぁ俺も強い強いと言われることに嫌な気持ちを抱かず、流れるがままに魔王になったわけだが、その末路が孤独。
『くっ、この化け物がぁ……っ!!』
『折角戦力が揃いかけてたのに、何処から人間に嗅ぎつかれたんだ!!』
『く、来るなぁっ!!ーーグァァァァァァッッ!!』
だからこそ今目の前で起こっている、レイカによる魔族達への惨劇に対して同情を抱くことはあっても、助けようとは思えない。別に、こいつら魔族に対して義理立てする理由もないし。
戦闘が始まる前は四、五十といた魔族の軍勢は、しかし今ではもう数匹だけしか残っていない。他はレイカの手によって瞬く間に無残に葬り去られた。
……そもそも俺という、『暴力』でしか自分の存在意義を見いだせないような魔族が頂点になっていた時点で、この大陸の魔族達は遅かれ早かれ終わっていたのだ。
それに終止符を打ったのが、ヤシロ・レイカという女勇者であっただけで。
『くそっ、そこの黒ローブを捕らえて人質にしろ!その勇者の仲間だろ、利用価値はある!!』
俺の顔は魔族の殆どに知れ渡っているが、そんな俺も今は黒ローブを羽織って尚且つ顔を隠しているため気付かれない。
故に俺を狙い、レイカの動きを少しでも制限させようと動く魔族達。
……だが、無駄だ。
俺に手を出そうとしたら時点で、こいつらは……『終わっている』。選択肢をミスっているのだ。そう、何故なら。
「ーー汚らわしい手で……一体、誰に触れようとしてるんですか?」
何故ならこいつらが相手にしているのは、俺が関わると最強最悪になるーーヤンデレ女勇者なのだから。
ーーー
ーー
ー
「魔王様!どうでしたか、私の戦う姿は!」
「あぁ、控えめに言ってーークソだな」
俺に褒めて欲しいと言わんばかりに目かずきを輝かせながらそう聞いてきたレイカに、ハッキリと現実を突きつける。
その事にレイカは、がーんといった効果音が似合いそうな顔をすると、何でですかと講義の声を上げた。
いや何でですかって……そりゃね?あんな酷い脳筋を見せられたら誰だってクソって思うわ。ってか他でもないあの魔族達がそう思ってたろうに。……まぁ、もうこの世にいないけども。
「酷いです魔王様……今日の晩ご飯は野菜オンリーにします」
「あぁ、たまには野菜だけというのもいいかもしれないな。楽しみにしてる」
別に俺は野菜も好きだし、むしろレイカが野菜でどういった料理をするのかも気になるしで全然OKだ。
そんな俺の様子が気に食わなかったのか、魔王様のベジタリアンー!などと訳の分からないことを叫んでいつもの八百屋へと走っていったレイカ。とりあえず俺もあとを追う。
ーー所変わって、いつもの街中。
冒頭で行われたあの戦い、いや、一方的な惨劇は所謂、俺が姿を消してバラバラになっていた魔族や魔物達がまた集まり始めており、その集まりの一つを潰してくれという国が頼んだ依頼。
ーー『オルレシオン王国』。それがこの国の名前であり、レイカの住んでいる国である。
そしてレイカが住んでいるということは必然、俺も住んでいるわけで……とどのつまり、半年前から強制的に移住させられた場所でもある。
そんなこんなで国からの依頼を終えた俺達は、今日の晩飯の準備のためにこの八百屋を訪れた、というわけだ。……何故かこの前の女従業員の姿が見当たらないが、きっと体調が悪いだけだろう。うん、きっとそう。
「ーー今、他の女のこと考えてませんでした?」
「神に誓ってそんなことはないと宣言しよう」
ついでに言うなら首筋に当てられているひんやりとした……具体的に言うなら剣先の感触なども、俺の気のせいだ。うん、きっとそう。
「ーーっておい、血が少し出てきたぞ!切れてる切れてる!」
「あぁ、ごめんなさい、ついうっかり……これが、魔王様の……」
俺の血がついた剣先をポーッとした顔で見つめるな!特にお前がやると危険な匂いしかしないし何かこっちまで変な気分になるから!
身の危険を感じた俺は、すぐさま剣先の血を自分の指で拭い、口の中に入れる。
それと同時に広がる、鉄の味……久しぶりにこの味を経験した。半年前に、レイカと戦った時以来だ。
まぁ流石のレイカも、俺の血を欲しがるようなマネはーー
「ーーんっ」
「ーーっ!?ん、んむっ!?」
そんな考え方をしていた俺が甘かった。あろう事かこの女、こんな公衆の面前で俺を押し倒してキスをかましてきやがったのだ。
舌が思いっきり俺の中に入り込み、先程取り込んだ血を探してると言わんばかりに艶めかしく動き回る。
無論周りの人間にもこの光景は見られており、そこかしこからキャーだのマジかよだのと言った黄色い声が上がる。……その中で一際目立ったのが、あの勇者様が!?スクープですこれは!という声なのだが、如何せん当事者の俺はそれどころではない。
ーーいつの間に魔法を使ってたんだよこいつ!!
抵抗が出来ない、力で負けてしまう。周りに見られているということもあり、俺の顔はもう真っ赤もいい所だ。恥ずかしすぎて死にたくなるレベルだぞ。
……そもそも、何故こいつはこんな所でこんなことを出来るのだろうか。恥じらいは何処に行った、おい。
数秒……いや、数十秒?ともあれば数分とも言えるかもしれないが、レイカとのキスは、ようやく終わりを告げた。
「ーーぷはっ。ふふ、魔王様……言いましたよね?あなたはもう、私のものですと」
「う、だ、だからなんだよ……」
「だから魔王様の心も体も……そして血の一滴でさえ私のものなんです。だから、勝手に自分の中に戻さないで下さいね?」
微笑みながらそう言うレイカに、言いようのない恐怖を感じたが……しかし、それと同時に、よく分からない感情も混じって、俺の頭はごちゃごちゃになっていた。少なくとも、やはり俺はこいつが嫌いではない。
「……はっ!」
「ーーん?」
そんなことを思っていると、ふと我に返ったような様子でレイカが俺から体を離した。顔は真っ赤に染まっており、表情はわなわなとしている。
……おい、レイカ。お前、もしかしなくてもさ。
「わ、私、こんな場所でなんてことをっ……!?」
「やっぱりかー!?」
こ、この女、先程まで正気じゃなかったのか!?
いやおかしいとは思ってたんだよ、普段誘ってるようなことばかりするくせにいざそんな雰囲気になると顔真っ赤にして俺をぶちのめすレイカが、今回は自分から仕掛けてきたりしたのがさ。
あれか、俺の血が悪いのか!?そう言えば俺の血を見たあたりからポーッとしてたもんなぁ!?俺の口ごと舐めとって正気に戻りましたってか!?
「あ、あっ、あああっ……!?」
「ま、待て!!落ち着けレイカ!!落ち着いて、その右の拳を静かに下ろして、このマウントポジションを解くんだ!!」
そんで俺とキスした後に我に返って、公衆の面前でキスをしたという事実を改めて思い知り、羞恥に顔を染めて身体を震わせ、こうやって右拳を俺に向けてからのーー
「式はいつにしますかぁーーーーーっ!?」
「いやマジで意味わかんなーーぶべらっ!?」
完全に自業自得なのに、この理不尽な暴力。いやほんと、意味わからない……でもな、レイカ。これだけは言わせてくれ。あの戦闘もそうだったが、毎朝といいお前の自業自得とかの今といい誰がどう見てもお前は間違いなくクソッタレのーー
「この、脳筋、勇者がぁっ……!!」
「わ、わたっ、私はっ!子供が二人は欲しいですけど、あ、あなたが望むなら、何人でもーーって何言わせるんですか魔王様のエッチーーーー!!」
マウントポジションを取ってタコ殴りにしながら言う言葉ではないと切に思ったよ、この脳筋ヤンデレ女勇者。
女勇者ちゃん脳筋すぎぇ……魔王受けすぎぇ……。
感想、評価、批評等心よりお待ちしております!出来れば、出来ればでいいですけどここがダメとか、こうした方がいいとかそういうのもあればぜひとも言ってください!
それではごきげんよう!
追記
最後の終わり方変更しました。すいません。