プリズマ☆イリヤにテイルズの魔術をぶっこんだだけ小説   作:エタりの達人

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 漆黒の世界に僕はいる。夢の中のように一人で男の生涯を劇場として見ているのでなく、ちゃんと現実で目を開いている人間、僕も含めて三人と一緒にいる。内一人は戦闘中で、一人は完全に応援モードだ。

 

 情けない、僕の心情はそれに尽きた。ついていくだの譲れないだのと強く出るだけ出て、いざ目の当たりにしたらしたでこの体たらく。イリヤスフィールはイリヤスフィールで夢心地ではあるが僕のように恐怖に捕らわれることなく逃げ出さずに自分のやれることを暗中模索で努力をしている。だというのに、僕は何をしているのだろう。

 

 沸いてしまった恐怖が泥になってこびりついてしまっている。僕は汚れるのが恐ろしくてたまらずにそれを拭えずにいるのだ。そうしてそれを直視せずに、こうして自己嫌悪ばかりを繰り返している。

 わかってはいるのだ、このままではいけない。イリヤスフィールの足を引っ張るだけの存在など許されてはいけないのだと。だけどやはり僕は、未だ拭えずにいる。

 

 人として普通だと言われれば、それまでかもしれない。僕は安心して、それに浸かれるだろう。だけど、そうなってしまえばもう上がることはもうできない。ずっと浸かったままで、見るものを見ずに生きていくことになる。大切なことも、全部忘れて。

 そこまで分かっていながら、僕は動けない。

 

「恐怖は人を駄目にするわ」

 

 今までイリヤスフィールへのアドバイスに専念していた彼女が、僕へと意識を向けて言葉を投げ掛けてきた。

 

「人の起源は恐怖だと人は言うけれど、それだけじゃないわ。だって恐怖だけじゃ人はすぐに駄目になってしまうもの。恐怖だけじゃないから、人は今日まで生き残ってこれた」

 

 遠坂凛が膝を曲げて僕に視線を合わせた。その表情は、ステッキやトラブルに振り回されていた時のようなものではなく、ただ一つの先を見据えた、僕に忘れかけていた何かを沸かせるような目をしていた。

 

「だから、怖がったっていい。止まっちゃってもいい。でも、膝だけはついてはダメよ。屈したら、その先ずっと負け組よ。そうなったら、悲惨って言葉じゃすまないわ」

 

 それはどこか、愚かな誰か反面教師にして語っているような、何か大切な思いが込められたような言葉で語られていた。

 彼女の目はどこまでも前を見据えていた。腐っているわけじゃない、落ちた反動からでもない。ただただ純粋にその高潔さだけで先を見つめていた。そんな姿に、僕は感化されたのか、それとも僕自身思ったより能天気だったのか。目の前の恐怖よりも、もっと先のことを見つめたくなっていた。

 

「ほら、よく言うじゃない。良い未来は、良い殺る気からって」

 

「……今、大分イントネーションが違った気がするんだけど」

 

「そんな口が叩けるなら、もう大丈夫ね」

 

 彼女はどこまで高潔でいて、それでいてどこか狡猾でもある。その在り方はどこまでも人間らしくて、だからこそ彼女は強く輝いて映る。それらからよくわかることは、彼女だけは絶対に目標としてはいけないと言うことだ。

 彼女を目標にしてしまっては、絶対にどこかで居もしない彼女に心を折られる日がきっと来るからだ。僕はそこまで強く在れないから、よくわかる。

 

 つまり何が言いたいかと言うと、絶対に感謝だけは悔しいからしてやらないってことだ。

 

「ほら、やる気が出たならとっとと行動する! もうあんたのお守りなんて私は懲り懲りなんだからね!」

 

 僕だってしてほしくてしてもらったわけではないし、次があっても絶対に遠坂凛にだけは頼らないと今心に誓った。

 

 しかし動く気力を貰ったとはいえ、僕が出来ることなんて本当にたかが知れていると思う。彼女のように戦闘の経験がないから的確なアドバイスなんて出来るはずもないし、声をかけるだけでイリヤスフィールが強くなるならいくらでもしてやる所だがそれが逆に集中を切らすようなことになってこれ以上の足を引っ張ることにも繋がりかねない。

 何も思い浮かばず、呆然とポケットに手を突っ込んで考えに更けようとして、ふと気づく。

 

 あの気色の悪い感覚と、これをどうにかして繋げることが出来たなら、彼女たちの力になれることも出来るのではと。

 でも、どうやって? 今それを知ったばかりの僕にどうにかすることなど、出来るはずがない。どうすること出来ない――

 

『言を持って理と成す』

 

『――Anfang(セット)』

 

『理を持って式と成す。式は干渉を生み、万象へと混じり爆ぜる』

 

『爆炎弾三連!』

 

 そして、今まで見てきた男の姿と、その言葉。僕の中で、急速に点と線が繋がっていき、一枚の絵となり始める。

 

 言霊という言葉がある通り、口にした言葉には力が宿っていて、巡りめぐって自分に帰ってくるらしい。魔術にもその法則が当てはまるのだとしたら、夢の彼女が言っていたことはきっとまさにその通りなのだ。

 

 言霊は巡り理という現象へと姿を変える、現象は実証を重ねられ式として表される、そうして式が神秘として用いられた時、森羅万象と結び付き力となり現実に爆ぜる。彼女の論がそういうことだとするのならば、僕にもまだ道はある。

 

 僕は魔術の"ま"の時も知らない。そういう家系に生まれていないし、そもそもそれとは関係のない十年間を過ごしてきた。極々普通に平凡に暮らしてきたのだ。そんな僕にあるとすれば、魔術ではなく、夢から降り落ちてきたこの陣と陣を用いた魔術的手段だけ――!

 

『是、魔導の基本也、です』

 

 ならばそれを存分に使わせてもらおう。今を打開する切り札にさせてもらおう。この、魔導(・・)を――!

 ひび割れる音と共に、何かが弾け、遮る壁が砕け散った。

 

「――術式を解放する」

 

 自然と言葉が溢れ出た。

 

 四つ折りの紙に引かれた陣が(紅/蒼/深緑)(/黄橙/深淵)に輝く。その光と違和感に遠坂凛が気づいてこちらを振り向く、なるほど見返り美人だ。その目には疑問と驚愕の二つが浮かんでいて、彼女がこの状況を受け入れきれていないことを表していた。

 いや、それでいい。その間にこれを済ませなければ僕はイリヤスフィールのようには進めないのだから。果てより流れる雲のように、彼方から来る風のように、どこまででもやってくるその言葉を並べていく。

 

紡ぎしは蘇生、訪れぬ終焉、(彼の者を死の淵より呼び戻せ)永劫たりえる光の奇跡に名を与え、(聖光を号し、再誕願い奉る)今希望を宿せ――!」

 

「【レイズデッド】」

 

 ある世界に、男がいた。男は魔導を極め、頂点に立ち、その奇跡を持って多くの人々を救った。結果も過程も、男には必要のないものだった。人が救われればそれでよかった、そうして救われた人間が感謝もせずに同じことを繰り返そうになろうともまた救うだけ、善悪問答など男の知ったことではなかった。

 それは一方的な救い、自己満足でありながら自分だけでは満足に気持ちよくなることもできない欠陥的な欲求。男はそれに、果てを見た。ただ一つの生涯でそれらを終わらせたくないと考えた。やがてその願いは究極の魔導となり奇跡を起こし、それを叶えた。

 

 そして男の願いは永遠に引き継がれていく。時に獣へと、時に女性へと、そして時に僕のような人間へと。

 

 視界を覆いつくす光を放つのは、僕を中心に広がっている紙に記された通りの陣。地面に投影されたそれは一定の速度でくるりくるりと回っており、術式として与えられた作業を淡々と行っている。

 

「あんた、何して――!」

 

「大丈夫、すぐ終わる。これは継承だから」

 

 ――なるほど、あの男の全貌はこうだったのか。度々夢に出ては楽しませ、夢に出ては悲しませ、夢に出ては怒らせた男のおおよそを今知覚し、記憶し、網羅した。何から何までというわけにはいかないが、これで僕はあの男同様のスペックを持っている状態にはある。

 

 しかし力があってもまだ器が足り得ていない。簡単に言えば術技引き継ぎ二週目プレイの状態だ。使えはするが実用的でない状態、TPが足りないだとか他キャラとのコンボが前提であるとか、そういう状況に僕は陥っている。

 

 まぁいい、男のいた世界とは違って闘争は少ないから器を急速に広めることはできないが、投影していけば自然と着実に伸ばすことはできるはずだ。

 

 人を救うことに関しては、どうでもいいか。イリヤスフィールについていけば適当にそういったことになるだろうし、三の次ぐらいだな。今は、イリヤスフィールの力になろう。

 継承を表す陣が閉じられ、僕を中心に地面に新たな陣が投影される。なるほど、これは天狗にもなりたくなる。いや、実際天狗になっているか。イリヤスフィールのことは言えないなぁ。

 

 ――今淀みと戦っても、きっと僕は負ける。そもそも相手は戦闘慣れしているのに対し僕は答えが導き出せるだけだからだ。こんな莫大な力があっても応用力がなければ意味がない。

 単独で挑んだならなら最後、呆気なく無惨に腸を外気に晒したりして殺されるだろう。

 

 そう、僕一人なら。

 

「――強化魔術の陣を解放する」

 

◆◆◆

 

 その戦闘は苛烈を極めていた。放とうとも弾かれ、避けられ、かすりもしない。深い桃の魔力が馬鹿の一つ覚えと言わんばかりに放たれる。されど先程よりは学んだのか、ただの直上のものではなく当てることを目的とした広い範囲にばらまかれる散弾状の魔力弾、その速度は銃弾と変わりないことを少女は知りもしないし無自覚でそうしていた。

 

 だがまだ足りない、紫の女は蛇を思わせる変幻自在な動きと縦横無尽にかける脚で巧みに避けていく。児戯にも等しいと口を吊り上げる。あの姉達が強いてきたお仕置きこと地獄に比べればこの程度で音をあげる筈もなし。

 隙のバーゲンセールである少女へと鎖で繋がれている釘を投擲する。少女は思わず笑ってしまうほどに慌て、攻撃の手を止めその場へと頭を抱えて伏せる。確かにそうすれば釘は避けられダメージは防げる、実際今少女の頭上を釘が通過していった。だが次の手に対しては驚くほどに無防備であることに少女は気付けやしない。

 

 校庭の地面に皹を入れる脚力を持って踏み込み、一気に距離を詰める。

 

『っ。全魔力を物理障壁に――!』

 

 もう遅い、その一手は少女が立ちすくんだ時点ですべきであった。全ては礼装の慢心と少女の経験の無さが生んだ、ある意味必然の出来事。

 少女の眼にうつったその放たれる一撃は岩どころかその魔力障壁さえも砕くであろう踵落とし。今死神の鎌のように降り下ろされ、少女を頭部を無惨にも砕く。

 ――はずだった。

 

「……ほぇ?」

 

 来るべき痛みが来ない、訪れるべき終焉がやって来る気配がしない。その違和感に閉じた目を開けた少女の目に映ったのは、自身の目の前で止まる女性の脚、それと自分を遮る半透明の六角形。

 

「ッ!」

 

 そうして数瞬の後、黒の塊が弾かれたように吹っ飛ぶ。最初の一手目以来に吹っ飛んだ女性を見て少女は目を丸くし、礼装は訝しむ。遠坂凛は見ての通り校舎の影から離れていない、その表情がかなり笑える絵になる呆然としているのが気になるところ。であれば第三者と見るのが妥当だろうか。

 

 そうした推察の答えは、すぐにひっくり返ることとなる。目の前に脳内から排除していた、その張本人が立っていたからだ。

 

「ど、どうして……?」

 

「――僕にもどうしてこうなったかは、よくわからない。でも、それが一番どうでもいいことなのはよくわかる」

 

「どうやら僕も、魔術師とやらになれたみたいだぜ。イリヤスフィール」

 

 立ち上がるために手を差し伸べる彼に、少女は漠然とした安心感と、無敵感が沸き上がってくるのを感じた。




詠唱に意味はないです。ただ個人的に好きなレイズデットの詠唱を重ねただけです。そっちの方がなんかかっこいいじゃろ。

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