プリズマ☆イリヤにテイルズの魔術をぶっこんだだけ小説   作:エタりの達人

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BBちゃん強すぎて禿げた


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 僕は、夢を見ている。光を放ちながらも愚に手を染める、男の夢だ。いつも通り男の光輝く物語をまざまざと見せつけられるのかと思いきや、どうやら今日は違うようだ。

 いつもより視線が低い、いや僕にとってはいつも通りの視線の高さと言えるだろう。どうやら今回の夢はある日男の子の日常らしい。

 

 目の前には僕も描いたことがある火の陣が映し出されていて、男の子はそれを使おうとしているようだが、何か悪いのか陣はうんともすんとも言わない。

 しばらく挑戦するも、ついには投げ出してしまった男の子の視界に、誰かが入る。それは美麗な女性だった、見た目からは分からないが目に入る雰囲気からは彼女が教師であろうことがわかった

 

 すっかり拗ねてしまった男の子に、女性が口を開く。

 

『言を持って理となす。理を持って式となす。式は干渉を生み、万象へと混じり爆ぜる。己として喰らい熱する。これ即ち魔■の基本也、です』

 

『……?』

 

『ふふっ、まずは言葉に出して覚えてみましょうか? さん、はいっ――――』

 

 目の前が、景色が薄まっていく。暗く染まった意識が明るく浮上していくのがわかる。どうやら今夜の夢は、ここまでのようだ。

 

◆◆◆

 

 小学校だからと言って授業を侮ってはならない。確かに僕より歳を重ねた人達からすれば小学校の授業というのはとても微笑ましく、暖かに見えるだろう。けれどそれは重ねた分だけ知っているという相対的なアドバンテージを持っているからにすぎない。

 僕ら小学生にはそれがないから、目の前のこれがどれだけ難問に映るかは、同じ授業を受けているクラスメートにしかわからないだろう。

 

 作者の気持ちを答えなさいってなんなんだよ一体。書いたことに対して思っていることなんて書いた本人にしかわからないに決まっている、それを僕たちが一方的に押し付けるのは所謂愚策、悪いことなのではないだろうか。

 

 先生がよく言う、自分が嫌だと思うことは他人にしちゃいけないという理論に当てはめて考えるのであれば、僕は書いた内容について勝手な妄想をされ、勝手な解釈をされ勝手に採点される。これほど嫌なことは自分にとってあるだろうか、いやない。僕には僕の意思がある、伝えたいことがある。それを勝手にねじ曲げ、あまつさえそれを本人に見せず点数をつけるなど愚の骨頂。悪しき文明、作者への冒涜!

 

「――つまり作者の気持ちを代弁する権利など僕たちにはないのにこの問題を解くことを強いる事自体悪いこと、従ってこの問題に解く価値はなんてものはいってぇッ!?」

 

「小学生が拗らせた考えを持って怠慢を正当化するなんて愚の骨頂! さっさと解きなさいっ!」

 

 糞が。己れタイガー畜生め。獣の癖にいい正論吐きやがる。だが僕は絶対に挫けないぞ、この主張をなんとしてでも認めさせてやる――!

 

「そしてそこ、制裁!」

 

「ふぎゅ!?」

 

 生かしておこうか逃がそうか、と考えている間に同級生に居眠りがバレたらしい。これまた馬鹿らしいほどあざとい悲鳴を出して起きる彼女にタイガーがしかめっ面で説教をすると、同級生が眠たげな返事を返す。それだけのことで、教室は笑いに包まれた。皆馬鹿の所業が面白くて仕方がないのだろう、全くの同感である。

 さて、笑いに現を抜かしている暇はない。この難問どもを解かねばならないのだから……。

 

「おうコラ、文句の問題飛ばして進めるな!」

 

「いった!?」

 

 別にそれは個人の自由じゃないのか。僕は突き上げる怒りを、抑えかねていた。

 

◆◆◆

 

 夜の帳は再び開かれる。自然の摂理であるそれが訪れるのは必然である、もし逆らってそれを逆転できる存在があるとすれば、正しく攻略不能な存在にも等しく扱われるだろう。六章……正門……不夜……うっ頭が。

 

 さて僕が散歩好きであることは百も承知であろう諸君らだから、僕が今どこにいるかも察してくれていることだろう。そう、僕は星空の元にいる。住宅街にいるわけではないから回りにLEDライトの光が少なく、煌めく星々がよく見える。

 

「あの子、遅いわね……。ちょっと、なんで一緒に来なかったのよ」

 

「僕だってあいつと四六時中一緒にいるわけじゃない。金魚の糞か何かと思われているのなら心外だ」

 

 校庭には二つの影がある。一つは僕と、もう一人は魔術師(笑)である遠坂凛氏その人である。理由は遡れば面倒くさくなるから回想描写はしないけれど、イリヤスフィールがこの魔術師にラブレターに偽装した脅迫状を送りつけられ、今この時間に来るようにと指定されていたのだ。

 それを見た僕が同行を提案、もちろんステッキルビーだかエメラルドだかに警告はされたがそれしきで引き下がる僕ではない。強く出たのが項を制したのか無事同行する権利を得た僕は指定された通りにここに在るっていうわけだ。

 

「それで?」

 

「は?」

 

「私はあんたを確かに巻き込んだけれど、流石に無力な子供まで駆り出そうとは思わないわ。あんたも無駄に賢いからそれを分かってる、のに来たってことは目的があるんでしょ。例えば、聞きたいことがあるとか」

 

「……」

 

 僕は時計塔というものが何かはわからない。そもそも彼女の言っていることが全て嘘である可能性だってあるのだ、首席であるという部分も含めて。しかし、その部分だけに関しては今疑いが晴れた。この頭の回転の速さだけは嘘として騙せるようなものではない。

 

 同行を提案した理由は二つある。一つはカード捜しなのだから人数はあった方が安全でかつ早く済むだろうという考えから。そしてもう一つは、個人的な理由だ。

 彼女が本当に魔術師であるというのであれば、僕は何かの手がかりを得ることができるかもしれないのだ。

 

「……見てほしいものがあるんだ。あんたが魔術師であるという言葉を信じて、だ」

 

「ふぅん。いいわ、見せてみなさい。あんたみたいな人間が魔術師に見せる物が何か、気になるわ」

 

 一つ頷いて、懐から一枚の用紙を取り出して見せる。そう、僕が夢で見たものを映写した陣だ。

 

「――――、」

 

 魔術師が息を飲んだ。その意味がどういうことを意味するのか、僕にはまだわからない。だがこの表情は、これの価値を紙切れではないということを端的に表していた。

 

「あんた、これどこで手に入れたの?」

 

「これは、僕が書いた物だ」

 

 遠坂凛の眼差しが鋭くなる、刺さる視線には警戒と猜疑心。これはもう、ただの紙切れのゴミなんかじゃない。時計塔首席を唸らせることができる、恐ろしく価値を秘めた魔術的意味を持った陣なのだ。

 

「正確には夢で見たものをそのまま書き写したものだ。僕自身の発想で作られたわけじゃない。僕はこんな夢を、もう五年は見ている。見覚えのない人間がいて、見覚えのない存在がいて、見覚えのない世界が広がっているんだ。なぁ、あんたこれが何か分かるんだろ? なら、僕の夢は一体何なんだ。何の意味があるんだ!」

 

「落ち着きなさい。こんな物を見せられて、私が混乱しているぐらいよ」

 

 嗜める言葉に口を閉じる。言葉の節々からはイリヤスフィールの部屋にいたときから感じられなかった凄みが感じられる。恐らくこれが、今目の前にいるのが本当の遠坂凛。魔術師遠坂凛の姿なのだ。

 

「いい? あんたの言葉が全部真実だとするなら、残念だけど私に答えは出せないわ」

 

「そう、か……」

 

「確かに相手の夢を対象に発動し、内容を操作する魔術は存在するわ。淫魔の類い、インキュバスやサキュバスが使うとされる能力を模倣したものがね。でも内容を印象づけることが出来るほど強いものじゃないわ、それ以外となると相伝された魔術ということになるけど……これほどくっきり残るともなれば魔術師に誤魔化せるようなレベルを越えているわ。五年前の私とはいえ、そんな物に気づけないほど無能じゃないし」

 

「…………つまり、僕の夢は魔術的じゃないってことか?」

 

「それもわからない。……貴方、両親は? 親が魔術師であるなら夢を見る理由が少しは分かりそうなんだけど」

 

 僕はその質問に答えなかった。いや、答えたくなかった。あんな出来事(・・・・・・)があった以上、僕が両親を語るのは傲りがすぎるというものだろう。少なくとも、許されるようなことじゃない。

 雰囲気で察してくれたのか、遠坂凛はすぐに引いてくれた。彼女もきっと、親にはそれなりに思うところがあるのだろう。

 

「今のところ害はないのね?」

 

「僕がキチガイ扱いされる以外には、特にね」

 

「なら、もうそれはそれとして楽しんじゃえばいいんじゃないかしら。箸が転んでも面白く感じるのが小学生ってものでしょ」

 

「僕はそこまで幼くないつもりだけど……まぁ、あんたの言う通りかもな」

 

 どうやら僕が趣味の欄に書く内容はしばらく変わりそうにないらしい。もう五年も付き合ってきたんだ、あと十年ぐらいは余裕さ。まぁ、もしかすると更にその十倍は見ることになるかもしれないが。

 

「それで、この陣はなんなんだ?」

 

「少なくとも、現代のものではないわね。世に出れば封印指定もありえるほどの、高度に創案された魔術陣。これほどの物が作れる人間がいるなら、とっくの昔に魔法に至っているでしょうね」

 

「……単語の意味はわからないけど、とにかく僕が爆弾を抱えているってことだけは理解できたよ」

 

「それだけの危険を認識しているのなら十分。まぁあんたには魔術回路とかも無さそうだし、それは家の中で厳重に保管しておきなさい」

 

 その言葉を聞いて、持ってきたときと同様に四つ折りにしてポケットの中にしまった。爆弾を抱えたと僕は表現したが、正確には不発弾と言った方がいいかもしれない。彼女の言っていた魔術回路がこの陣を発動するのに必要なものだとすると、僕にはそれがないと彼女は言った。

 だから僕にはこれを自発的に発動することなどできない。そう、できないはずだ。

 

 なのにどうして、夢に出てきた彼女の言葉が一々頭を過るのだろうか。

 

「っと、来たみたいね」

 

 その言葉に、初めてイリヤスフィールがこちらに近づいてきていることに気づいた。遠目であるから細かくは視認できないが、なんかもう既に色々とやばめな格好をしていることだけはわかる。ファンタジーもファンタジー、最近のプリティなアニメですらあんな格好をするのかと言われれば首を捻るぐらいには、魔法少女っぽかった。

 

 いやしかし本当に酷いなこれは。あれが魔術の一つで、イリヤスフィールのイメージで形成されているのだとしたら、アイツの未来が途方もなく心配になってきた。鳥っぽいような気がしないでもない(ミニスカートである)を揺らしながら駆け寄ってきた彼女に遠坂凛が声をかける

 

「よしよし、ちゃんと来たわね」

 

「まぁ、あんな脅迫状を出されれば……」

 

「――?」

 

 あぁ、そういえば僕のところにも来ていたな。脅迫状。定規を使って筆跡を特定されないようにするやり方なんて普通の手紙の出し方ではないし、サスペンスや推理好きでもない限り知らないような知識を使っておいてこの反応は、少しおかしなような気もする。

 修正はあったが、あの迷いない筆跡からかなり手慣れているとは思うのだが……もしかして喧嘩番長か脅しの匠なのかもしれない。

 

 しかし、ひどい格好だ。

 

「……ね、ねぇ。さっきからすごい見てくるけど……なに?」

 

「いや、全然似合ってないなって。あと犯罪臭がやばいなって」

 

「い、言うことかいてそれ!? もうちょっとこう可憐だとか、素敵だよとか、色々あるじゃん!」

 

「それを言うの? 僕が? はっ」

 

 なによそれと奇声をあげながら怒鳴り散らすイリヤスフィールを華麗にスルー。言葉を選べと抗議をしてくるが馬耳東風、その手の苦情は受け付けておりません。

 というか口は勝手に動くものなのだから僕にはどうしようもないのだ。だからお前が望んでいるようなものは今後一切あり得ないから期待しないように。

 

「……ねぇ、あれで隠してるつもりなの? っていうかなんでどっちもあぁなの?」

 

『ルビーちゃんには分かりかねますけど、いいんじゃないでしょうか。私にはとっても面白く見えますし【●REC】』

 

「嗚呼……あんたはそういう奴だったわね」

 

 うるさいぞそこ。

 

◆◆◆

 

 世界は無限に連なっていて、そのどれもが少し異なっている。例えば先ほどの僕がイリヤスフィールを絶対にありえないだろうが万が一、いや億が一兆が一に褒めていた場合、それは大本は一緒でも今とは異なる道を歩んでいることだろう。

 

 今と限りなく同一で、どこまでも剥離している世界。人はそれを、パラレルワールドと呼ぶ。

 

 だが今目の前に広がっている光景、どこまでも同一でどこか異なる部分を見つけられないこの世界を、僕はなんと呼べばいいのか。

 呆然としている僕たちに、遠坂凛が口を開いた。無限に連なる会わせ鏡の世界、鏡面界と呼べるそこの一つの鏡の中に僕たちはいるのだと。そこにこそ求めるカードがあるのだと。

 

「さぁ、話は終わりよ。――構えて」

 

 かけられた言葉に疑問として返そうとしたその時だった、暗く沈んだ夜の校庭の真ん中に黒い淀みが宙に湧く。僕がいるのは現実ではなかったのかと錯覚するほどに生々しさを感じる空想的光景に目を疑う。

 

 最初に生まれたのは、腕だった。淀みを突き抜け、何かを求めるように蠢く腕はやがて地面を知り、それに触れる。続いて見えたのは一つ目のマスク、次に顔、紫の長髪、妖艶的なスタイル、そうしてすらりと伸びる無駄なき足までがすっぽりと生まれ落ちた。

 

 あれが、あんなのが僕たちの求めるカードだと言うのか。 人ではないあれが、カードから成ったとでも言うのか。

 

「あれがクラスカードから実体化した存在……報告通りね」

 

 淀んだ存在が笑みを浮かべる。それは人に会えたことによる安堵や喜びからくるような純粋なものではなく、どこまでも猟奇的な、不純な存在だった。

 

「来るわよッ!」

 

 グッと引っ張られGをかけられる感覚が襲った時には、それはもう在った。鎖で繋がれた釘のような刺す凶器を二本持った淀みが、地面にそれを降り下ろす光景が。

 見えないとか、そんな次元ではない。動物の心情を人間の尺で話すようなものだ、それを感知するにはあまりに人間は慢心がすぎる。

 

 これが魔術の世界。世俗を抜け、人間を止め初めて語ることが許される次元。それに、アイツだけでなく僕まで片足を突っ込んだと言うのか。

 

「――――Anfang(セット)

 

 僕を抱え宙を飛ぶ遠坂凛が言葉を紡いだ。手にもつ三つの宝石を光らせる彼女からは何かが突き刺さる音と共に感じたこともない、聞いたこともない力が彼女から沸き上がるのを感じた。

 なんて、なんて気持ちの悪い感触と感覚。吐き気と共に上ってきた確信が、僕に告げる。今から見せるこれが魔術である、と。

 

「爆炎弾三連!」

 

 どくりと宝石の輝きが歪み、鼓動を始めたかのように輝きの中で炎が上がる。そうして同時に放たれた宝石は揺らめきを纏い、淀みを屠らんと襲いかかり、触れる直前に爆発を起こす。

 現実の尺では計り知れない現象に目をひんむかざるを得ない。夢で見た男のように詠唱を簡略して魔法を放っている、しかも男とは違って理を示す陣も無しに。

 

 普通の人型ならば肌が焼けるどころか四散し、内の筋や神経、内蔵まで焼き尽くされるであろうその威力。しかし膨れ上がった炎が晴れた先には火傷どころか焦げすらしていない淀みの姿。それどころか、笑みを浮かべているじゃないか

 ゾクリと恐怖に全身が鉄筋でも仕込まれたかのように硬直する。あれは人間ではない、分かっていたようで、やはり僕は分かっていなかったのだ。どうしてもファンタジーとリアルを切り離せずにどこか疑いの念を持っていたんだろう。だからこそ突きつけられて恐怖する、こんなのが現実で襲いかかってきたのだと。

 

「無傷か……結構高い宝石だったんだけど」

 

「ど、どうするんですか!?」

 

 情けないイリヤスフィールの声に同意の声すら上げられない。

 なまじ賢く気取ってきたからよくわかる、あんなのに勝てる訳がないのだ。それこそ、夢のような夢の男を連れてでも来ない限り。

 

「……あんたがなんとかしなさい。じゃ、任せたから! わたしはこいつと影に隠れるから!」

 

「え、えぇーーーー!!?」

 

 まさに脱兎の如く。巻き込まれないようにか、それとも自身の身を優先してか。遠坂凛の心情など僕に知る由もないが、そうして逃げ出してくれたお陰で僕は淀みと距離を離すことが出来た。落ち着いて心情を整理できる時間が生まれたのだ。

 

 建物の影に入っても、遠坂凛は何も言ってはこない。僕の心情を推し量れたからこその思いやりなのか、はたまた失望から興味を無くしたのか。格好悪く震えているだけの僕には、まだ分からない。

 

 ――ともかく、時間が必要だ


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