あと、今回ほとんど進んでいません。申し訳ございません。
覚えていることがある。
記憶は断片的でほとんどなく、覚えていることなんてロクに無いけれど、あの地獄と、月下の約束は覚えている。
地獄の大火災の中、死にかけの俺を助け、まるで自分が助かったかのように喜んでいた、あの男の表情に憧れた。
月のきれいな夜、じいさんと呼ぶようになったあの男と交わした約束は、正義の味方になるという夢だけは、決して忘れていない。
☆☆
「起きるっす。シロウ」
体を揺すられながらそう言われ、俺は起こされた。
頭が何故か痛む中、俺は体を起こして声の主を確認する。
「・・・・ラウルさん?」
ロキファミリアから俺に与えられている一室、その隣の一室に住む青年が起こしに来たらしい。
このラウルと言う青年は、記憶も素性も曖昧な俺を一週間前から何かと気を使ってくれている男で、現在ではある程度会話する仲だ。
本人曰く、貧乏くじを引きやすい体質で何かと仲間から厄介ごとを押し付けられるらしい。
―――――これはシロウの知るところではないが、シロウの監視役として抜擢されたのもいい例だ。
「シロウ、もう7時っす。そろそろ朝食の時間になるっすから早く支度するっすよ。」
「あれ?もうそんな時間なんですか?」
俺はどんなに遅くとも6時には起きる。
こんなに遅くなることはそうない。
「シロウは昨日、パーティーで酔っ払ったメンバーに酒を強引に飲まされてたっすからね。起きるのが遅くなっても仕方ないっす。」
そうだ。昨日は俺の入団パーティーだった。
一週間の間に仲良くなった人たちや、記憶のあまりない俺を心配する人達、ほとんど俺と面識のない人たちと会話をしながら食事をして、それから・・・・・記憶がない。
きっと記憶のないあたりから飲まされたのだろう。
頭が痛いのも納得だ。
「そっか、ありがとうラウルさん、起こしに来てくれて。すぐに支度を済ませるから先に行ってきてください。」
そう言うと、「分かったッす。」といって、ラウルさんは俺の部屋から出る。
それと同時に、俺は寝間着から普段着に着替え始める。
ちなみに、この寝間着も普段着も俺がもともと持っていた物ではない。全部ロキファミリアが買ってくれたものだ。
素性が知れずの子にここまでしてくれるなんて、本当にいいところだ。
この恩は必ず返そう。
「にしてもオラリオに来る直前、俺は何してたんだろ?」
俺は着替えながら、部屋の机の上に畳んで置いてある、俺がもともと着ていたらしい服を見る。
俺の唯一の持ち物だったそれは、サイズは合わずぶかぶか、しかもぼろぼろな上に何かに切られたような跡や、結構な量の血痕が付いている。
・・・・・どういう状況か全く予想つかないな。
ここ一週間ずっと考えてはいたものの、こんなものでは全く分からない。
謎が深まるばかりだ。
ファミリア内で仲良くしてくれたり、心配そうにしてくれた人達がいる中で、俺を不気味そうに見ている人がいたのも納得できる。
「・・・・・分かるわけないか。」
気にしたってしょうがないと、俺はさっさと着替えを済ませて大食堂に向かった。
☆☆
「あーっシロウだ。やっほー」
大食堂に着くと同時、明るい声が俺を迎えてくれた。
俺は声のした、右奥の方へ目を向ける。
そこには露出の多い恰好をした、活発そうな短い黒髪のアマゾネスの少女(俺より年上に違いはないが)が椅子に座って手を振っている。
ティオナだ。
彼女は昨日まで行動が制限されていた(本拠の外に出られない)俺が、ラウルさんの次に仲良くなった人で、その天真爛漫で人当たりがいい性格のおかげで、あまり話した回数が多いわけでもないのに良い関係が築けている。
「ティオナさん、おはようございます。」
返事をすると、ティオナさんはこちらに来いと手招きをする。
特に断る理由もなし、俺は彼女のところに行き、近くの椅子に座る。
それを確認した彼女は、目を輝かせながら聞いてきた。
「ねーねーシロウ、シロウって魔法使えるの?」
「なんで知っているんですか?」
確かに他の人達と会話している際、魔法はあったか?と聞かれ、あると答えはしたものの、昨日のパーティーでは彼女と話した覚えはない。
姉のティオネがジュースとドワーフ酒を間違えて飲み、酔った勢いで団長に襲い掛かって行ったのを止めるのにかかりきりであったはずだ。
レベル差があるはずなのに力ずくで団長を押し倒し、行為を行おうとしていたあの姿は、少し怖かった。
「他の人に聞いたんだ。シロウは初めから魔法を持っているんだって」
なるほど、人伝えか。
「ねえ、その様子じゃ本当なんでしょ?どんな魔法なのか私知りたいなー。」
ティオナさんは興味津津といった風に聞いてくる。
「えっと、投影魔術と強化魔術で、」
「2個!?いいなあ、あたし魔法ないからうらやましー、」
「そうなんですか?」
レベル5だから1個くらいあってもおかしくないと思っていたのに、意外だ。
「だって魔法は出現しないのが当たり前だし、そのまま一生を終えるのが大概なんだよ。はあ、いいなあー、あたしも魔法つかってみたーい!
ティオナさんは無いものねだりする子供のように、足をぶらぶらさせながら駄々をこねる。
そんな彼女に俺は
「あ、あはは。」
苦笑いのような中途半端な笑みしかできない。―――と、突然俺の後ろから声がした。
「ちょっとティオナ、あんたいったい何してるの?シロウが困ってるじゃない。」
振り返る。
振り返らずとも誰かはわかるが、反射的に首を回しその人物を確認してしまう。
―――ティオネだ。
ティオナさんの双子の姉で、顔づくりや背たけは完全に瓜二つ。
しかしながら彼女をティオナさんと間違えることは無い。
ティオネさんはティオナさんと違って髪が長く、理知的な雰囲気を有しているためだ。
もう一つ決定的な違いがあるが・・・・・・・・考えるのは控えておきたい。
そういったことを考えるのは、自分にはまだ早い気がする。
「だってー、シロウはじめから魔法2個持ってるんだよ?あたしも1個くらい欲しいなあって」
「あきらめなさい。魔法なんてあんたには必要ないでしょ。私と同じで前衛張って戦うだけなんだから。」
「だけど、使ってみたいよー。魔法を使うってどんな感覚なのか知りたいしー。」
「
「あんなバカ高いの買えるわけないじゃん!」
「あんたが武器を壊さずにずっといられたら不可能じゃないでしょ。あんなすぐ壊してるから金がたまらないのよ」
「な、なんだとー!ティオネだって結構壊すくせに!」
「あんたほどじゃないわよ!」
・・・・・なんか俺、完全に空気だ
あ、取っ組み合いし始めた。
「相変わらずやなあ、あの2人は。あ、シロウおはようさん。」
完全に置いてけぼりをくらっていると、いつの間にか隣にロキが立っていた。
「あ、お、おはよう・・・なあロキ、あれ大丈夫なのか?。じゃれあいに見えるけど、2人が踏みしめてる床がみしみし鳴ってるぞ。」
大丈夫じゃないのなら、命がけでも止めなければならない。
「大丈夫や。あんなんよくあること、心配せんで構わんわ。」
・・ならいっか。
「そっか。」
「なあシロウ。話変わるんやけど、昨日のコト覚えてるか?」
「昨日?今日ギルドに行くことか?」
「そうや。その事なんやけど、冒険者登録が終わったら、シロウには中庭で魔法を発動してもらいたいんや。」
中庭?
「良いけど、なんで中庭なんだ?」
魔法の試しうちはダンジョン内でするのが常道だと、ロキは説明したはずだ。
「ダンジョンやと、他の冒険者がおるやろ?あんま余所のファミリアに魔法の情報は知られたくはないし、攻撃性がなさそうなシロウの魔法なら、中庭で試す方がええやろ。」
なるほど。
本拠を壊す恐れがないのなら、外からは見えない中庭で魔法を試すのは理に適っている。
仲間には知られるだろうが、俺は別に魔法を見せたって何の不都合もない。
「分かりました。」
「よし、決まりやな。うちからはもう用はないきん、飯貰いに行きや。もう出来とるはずや。」
それだけ言うと、ロキは自身も食事を貰いに行った。
「・・・・」
ちらりと、ヒリュテ姉妹の方に向く。
2人はまだ取っ組み合いをしている。
喧嘩という言葉の響きはすき好めないが、あの2人のそれは何故か楽しげに見えた。
これが姉妹という家族の成せるものなのだろうか?
そんなことを思いながら、俺はロキに続いて食事を取りに向かった。
☆☆
俺は今、ギルドに向かっている。
同伴するのはリヴェリアさんで、本来はロキが一緒に同伴してくれる予定らしかったのだが、どうやらリヴェリアさんもギルドに用があるらしく、ついでということで彼女が代わりに同伴役になったのだ。
(・・・・見られてるなあ)
俺は自分に浴びせられる視線に少しまいっていた。
今通っているのは北西のメインストリートで、冒険通りと呼ばれているらしい。
ここには冒険者にとって必要不可欠な武器屋や道具屋、そして彼らが愛してやまない、酒場がたくさんあり、自然、オラリオ内の冒険者が最も往来する場所であることが、そう呼ばれる所以だそうだ。
そんな場所であるが故、世界でもほとんどいないらしい、レベル6のリヴェリアさんには自然と視線が集められ、彼女と一緒にいる自分もまた、リヴェリアと一緒にいるこいつは誰だ?と言うような視線を、かなり受けていた。
「すまない。私のせいで不快な思いをさせているようだ。」
歩きながら突然、リヴェリアさんが謝ってきた。
どうやらこちらの心情に気づいたのだろう。
「いや、気にしないでください。リヴェリアさんは何も悪くないんですから」
これは仕方のないことだから気にしないでほしい。
そういうと、彼女はクスリと微笑み、
「君は本当にやさしいな。一週間前からずっと、何かにつけて誰かの手伝いをしようとしていたし、今朝だって皿洗いを手伝っていた。ファミリアの者の何人かは、すでに君に心を許しているのも納得だ。」
そう褒めてくれた。
「・・・・・・」
つい、顔を赤らめてしまった。
美人の微笑と言うのは、こうも心を揺さぶるものなのか。
「どうした、顔が赤いように見えるが?」
こちらの気を知ってか知らずか、リヴェリアさんは覗き込むようにこちらをうかがう。
俺は気恥ずかしさのあまり、「な、なんでもないっ」と敬語を忘れて、彼女の顔から逃げるように顔を背ける。
「?」
視界の端で、リヴェリアさんは訳が分からないという風に首をかしげる。
この人もしかして天然が入っているのだろうか?
いや、単純に俺が子どもだからだろう。
子どもがそういったことは考えないと、たかをくくっているに違いない。
これは仕方のないことだろう。
すると
「あれは、」
顔を背けたおかげか、俺が向いている先に、武器、特に剣ばかりが販売されている店を見つけた。
俺は不思議と剣に魅せられる性分らしく、ファミリアの中でも剣を身に着けた人を見ると、ついその剣を見て、その構造を視てしまう。
故につい、そこに置いてあるいくつもの剣を見て、目が釘付けになってしまった。
「シロウは剣が好きなのか?」
そんな俺に気づいたのか、リヴェリアさんは聞いてくる。
「好き・・と言うより、興味がある、の方が近いのかもしれません。」
「ほう、それはどうして?」
「どうしてと言われても、」
特に理由なんてない。
けれど、
「構造を視るのに、剣が一番よく分かるから、ですかね」
「まて、構造を視る?シロウはモノの構造が分かるというのか?」
足を止め、眉を顰めながら聞いてくる。
「あれ?普通、物を見たらその構造とか材質は分かるもんじゃないんですか?」
「いや、普通の者ならそんなもの分からんぞ。鍛冶に知識のあるものなら分かるかもしれんが」
ちょっと注意深く見ていたら当たり前のように視えていたため、それが何でもないことのように思っていたが、どうやら違うらしい。
俺はもともと鍛冶師だったのだろうか?
いや、それにしては指がきれいすぎる。
「だが、記憶喪失のシロウにはそんな知識は無いだろう?君の目には、あの店に置いてある剣はどういう風に写っているんだ?。」
「えっと、店の右端に立てかけられてあるものは全部、鋳型に鉄を移しこんだ量産品。思いも大して込められてない。左端に立て掛けられているのは、ちゃんとした物で、素材も良いし、金属を打って技術も申し分ない。真ん中に置いてあるのは、力作といった感じで、技術だけでなく、込められた思いも凄く強いです。」
「技術だけでなく、思いまで分かるのか。」
リヴェリアさんは独り言のようにそうつぶやくと、顎に右手を当てて、何か考えるように歩き始める。
もう少しあの店の剣を見てみたかったが、俺も置いて行かれないよう、彼女の隣を歩き始めた。
士郎の設定
記憶は12歳以降のものは完全消去。
肉体も12歳のそれに戻っているが、肉体が経験したことは体に染みついているせいで、魔術回路が一本しかないと勘違いしている状態でありながら、27本すべてが使えていた状態のことを覚えている矛盾状態。
戦闘技術も維持している。
神の恩恵を受けたことにより、凛の宝石のような効果を受け、もう27本すべて使える。
無限の剣製は、士郎の能力低下と記憶喪失により表記されていない。
一応、登録された宝具はそのままだが、士郎はこの存在に気づいていない。