エミヤ・オルタが転生したそうです   作:野鳥太郎

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第6話初投稿です。
前回のボブ視点です。ちょっと強引な形になってしまいましたが、前回忘れられていたキャラがチラッと出ます。


ボブは鎮圧するそうです

全速力・・・と言うわけではないが、可及的速やかにショッピングモール(現場)へと向かう。

 

この世界は伐刀者が存在する為か、常人の営みの中でも“神秘”というものは幾分身近な存在だ。しかし、オレはかつて反英霊として存在していた者。要は並の伐刀者と比べても地力が違うのだ。

全速力で走るとなれば地は砕け、進路にあるものはモノによっては吹き飛ばされる。

 

今も周囲に被害や目撃者がでないよう、建物の屋上を駆けている。転生によって受肉したため、霊体化出来ないというのはなかなか不便なものだ。

 

 

「到着まで凡そ5分。やれやれ、加減というのは難しいもんだ」

 

 

認識阻害の魔術を施しているとはいえ、下手に痕跡を残しては後々面倒になる。

 

 

「おっと」

 

 

ほんの僅かに力んだ左足の下からひび割れるような音が鳴った。どうもコンクリートの一部を踏み抜きかけたらしい。ごく僅かな範囲だったのでまあ、大丈夫だろう。

一瞬意識を足元に向けたが、走る事はやめない。そのまま次の建物へと飛び移る。

 

 

「後2分ほどか。随分とまあデカイ施設を占拠したもんだ。コレは時間がかかるか?」

 

 

視界に映るショッピングモールはそれなりに大きなものらしい。あれ程の規模だ。休日ということもあり、家族連れやらカップルやらが多く集まっていただろう。

なるほど、テロリスト共にとっては格好の餌だ。

 

 

「伐刀者が率いているとしても、かなりの人数で占拠している筈。先ずは手下共を片付けるか」

 

 

モールを包囲する警察や特殊部隊、そこから10メートル程離れたビルで停止する。理事長から許可を取っているとはいえ、堂々と鎮圧に来たと姿を現せば、モール内部の連中を刺激しかねない。ここは敵味方、誰にも気付かれることなく片付けていく。

 

 

「屋上・・・給水タンクの辺りは監視が薄いな。彼処から乗り込むか」

 

 

監視しているテロリストはどれもモールへの入り口付近に集まっている。銃器を手にし、魔力も殆ど感じないことから非伐刀者である事は明確だ。

認識阻害の魔術は魔術の初歩の1つとはいえ、極めて実用性が高い。隣に立っていても、余程感の良い奴でも無ければ気付かれないほどに。

 

 

「・・・」

 

 

中々スリルのある跳躍だ。英霊だった頃はこの程度どうということはなかったが、受肉し、そして若返っている以上幾分身体は脆くなっている。死にはしないだろうが、下手に落ちればかなりの傷を負うだろう。

そんな事を考えたが、何の問題もなく給水タンクの陰に着地した。

 

 

投影開始(トレース・オン)

 

 

投影したのは無銘の剣数本。投影位置は監視員の頭上2m。無論幻想形態だ。頭から串刺しにされる位置だが痛いだけで傷も無ければ死ぬこともない。

 

 

「ぎゃあ!」

 

 

マヌケな悲鳴をあげ、全員が倒れた。暫く目覚めることはないだろう。

 

「干将・莫耶」

 

 

屋内への扉の前で馴染んだ双銃を現出させる。

扉の向こうからは気配は感じられない。見張りはいないようだ。その代わり、モールの中央部、一階から複数の魔力を感じた。十中八九黒鉄達だろう。一箇所に固まっているあたり、身動きが取れない状況なのか。それとも機を伺っているのか・・・。

 

 

「まあいい。先ずは上層から叩く。本命は最後だ」

 

 

階段を駆け下り、4階の扉を開く。気配を殺し中を確認すれば見回りのテロリストが数人。人質は見当たらない。

 

 

「口笛を吹くだけの余裕があるか。全く、此処はもう戦場(・・)だというのに呑気なものだ」

 

 

干将・莫耶の銃口にサイレンサーを投影し装着する。今は勘付かれぬよう、迅速にことを成す。

 

 

・・・・・・

 

 

「うっ・・・!」

 

 

少し離れた位置の仲間が突然倒れた。何事かと思い周囲を警戒しても何もいない。気配すら感じない。

嫌な汗が流れるが逃げようとは思わなかった。

この世に生を受けてから、今までずっと無能のレッテルを貼られて生きて来た。そんな中解放軍にスカウトされて、漸く生の実感を得ることが出来た。

とてもじゃないが真っ当な道ではないと自覚している。それでも、今まで自分を侮蔑して来た連中を甚振ることが出来るというのは、一度味わった以上抜け出せるものではなかったのだ。そんな機会を与えてくれるから、オレは解放軍に忠誠を誓っていた。

 

それに、逃げた所で外には警察共がワラワラと集まっているし、仮に逃げ果せた所で解放軍に見つかれば即刻処断されるだろう。だったら最後まで闘って、たとえちっぽけな忠誠だろうが組織に示してやろう。そう考えた。

 

 

「この階はお前で最後か。無能ばかりで呆れるよ。まあ、その分やり易いがね」

 

 

背後から声がした。バッと振り返った瞬間、俺は意識を手放す直前だった。胸に巨大な風穴を開けられたような感覚。凄まじい激痛で視界が暗転する直前、最後に目に映ったのは黒い男だった。

 

 

・・・・・・

 

 

「1階も制圧。後は本命、と行きたいが・・・」

 

 

全ての階を制圧したものの、此処にきて視線を感じた。場所は4階から。ほんの一瞬、確かに感じたのだが、今は魔力も気配も全く感じない。

まだ残りがいたのか、それとも増援?何れにせよ放っては置けないだろう。横槍を入れられては堪ったものじゃあない。

此処にきて面倒極まりないが、4階へ跳躍した。

 

———その時。

 

 

「そこか」

 

 

干将を柱の陰に向かって発砲した。4階へ着地したと同時に一瞬だけ気配を察知した。そこに含まれていたのは驚愕。折角ここまで気配を消せていたというのに、驚いて隙を晒すとはとんだ間抜けらしい。

 

 

「なっ!?」

 

 

柱から転がり出して来たのは軽薄そうな少年。見えなかった姿は今ガラスが割れるように崩れていった魔力によってもたらされていたらしい。恐らくこの気配と姿を消すのが此奴の伐刀絶技なのだろう。

 

 

「うん?何処かで見た顔だな」

 

 

よく見ると見覚えのある顔だ。・・・そうだ、去年黒鉄を甚振っていた生徒にこんな奴がいた気がする。

 

 

「動くな、喚くな、じっとしていろ。こんな所で何をしている」

 

「それはコッチの台詞だよ衛宮士郎。なんでお前がここにいるんだ」

 

「ああ、理事長から鎮圧に迎えとでも言われたのか。ならオレも同じさ。・・・どちら様だったかな?」

 

「桐原静矢だ。去年はよくやってくれたな」

 

 

桐原静矢・・・、そんな名前だったか。どうも去年蹴り飛ばされたのを根に持っているそうだ。

 

 

「まあいい。お前はここで待機してるなり帰るなりしろ」

 

「なんだと!?」

 

「はっきり言って邪魔だ。お前に出来ることは何もないし、テロリスト共もあらかた片付けた。今この場でお前は価値なしだよ」

 

「・・・っ!!」

 

 

事実を述べてやったのだがお気に召さないらしい。そんなに手柄が欲しいのか?

なんだが既視感がある。こんな小物を何処かで見たような・・・。

 

 

「後は本命を潰すだけなんでな。時間が惜しいからオレは行くぞ」

 

 

踵を返して魔力の集まる場所へと向かう。

今僅かに感じた強い熱を帯びた魔力は恐らくヴァーミリオンのモノだろう。直ぐに霧散したことから何かあったと考えられる。

小物の事はさっさと忘れて急ぎ現場へ向かった。

 

「化け物が・・・!」

 

 

そんな震えた声が聴こえた気がしたが、気の所為だろう。

 

 

・・・・・・

 

 

「これは随分と下賎な輩だな」

 

 

目下には下着以外脱ぎ捨てたヴァーミリオンと醜悪な笑みを浮かべる男。間違いなく伐刀者だ。

 

 

「ヴァーミリオンを出し抜く力があるとは思えんが・・・。何か特異な力を持っているのか?」

 

 

視線を移し、人質と共に固まっている黒鉄たちを見る。黒鉄程の実力者が非伐刀者のテロリストに遅れをとるとは思えないが、恐らく罠か何かに嵌ったんだろう。

例えば、動こうとした時人質の中にテロリストが紛れ込んでおり、脅されたとか。

 

 

「・・・やはり、妙に頭にくるな」

 

 

深く親交を持ったわけではないが、知人が屈辱に合っているのを見ると無性に腹が立つ。

かつての自分ならどうでもいいと切り捨てるはずだというのに・・・。

 

 

投影開始(トレース・オン)

 

 

去年の黒鉄の件と同じだ。思考と身体の動きが合致しない。確かに友人を救うためにここに来たが、もう少し慎重に動こうとしていたのだ。

だというのに、相手の隙も伺わぬままオレは剣を降らせていた。

 

 

「無能共が、雁首揃えて・・・」

 

4階から飛び降り着地する。

なってしまった事は仕方がない。人質を取り囲むテロリストは片付けた。後は本命と・・・まだ人質に隠れている筈の手下だ。

 

 

「衛宮・・・衛宮なのか!?」

 

「騒がしいぞ黒鉄。仕事中だ。それに、オレは今気が立っているそうだ」

 

 

驚いた黒鉄が声を掛けてくるが取り敢えず黙らせる。さて、さっさとゴミを片付けるとするか。

 

 

「さて、随分としてやられたらしいなヴァーミリオン。紅蓮の皇女の名が泣くぞ?」

 

 

呆けた顔をしている姫君を一瞥し、人質の1人、正確には紛れ込んだテロリストを撃ち抜く。バレないとでも思っていたのだろうか?

 

 

「な!?衛宮どうして!?」

 

「人質の中に伏兵が居たんだろう?そいつら全員がいっぺんに出てくるとは限らない。

念には念を、不測の事態に備えて予備の人員を入れておくのは別に可笑しな話じゃあない。しかし、演技が下手にも程がある。目は若干泳いでいるし、呼吸は不規則。素人の連中しかいないのか?世界を股にかける解放軍の連中は。・・・そこ、お前もだ戯け」

 

 

此方を警戒し、一瞬何かを取り出すそぶりを見せた者を撃ち抜いた。懐から転がったのはサバイバルナイフと手榴弾。

これ以上不審な気配はないため、今ので最後だったらしい。

 

となれば、

 

 

「それで?」

 

「っ!?」

 

 

残るは本命の伐刀者。如何にヴァーミリオンを下したのかは知らんが、両手から感じる。奴の固有霊装によるものと考えるのが妥当だろう。もしかすると、既に伐刀絶技を発動しているのかもしれない。

その割に随分と焦っているようだが。

 

 

「随分とオレの友人で遊んでくれたみたいだなぁ。何故か無性にお前が潰したくなってきた・・・」

 

「見張りの・・・」

 

「うん?」

 

「見張りの連中はどうした。一階から四階まで全てのフロアにいた筈だ」

 

 

なんだこいつは。状況からして全滅している事なんざとっくにわかっているだろうに。

「あぁ、連中なら先に片付けたよ。安心しろ、死んじゃあいない。幻想形態なのが残念だが、命令だからなぁ。お前達みたいなゴミ屑は脳髄ぶち撒けさせないと納得できないんだ」

 

「チッ!無能共が。そんで、俺をどうする気だ?捕まえるのか?」

 

 

捕まえる、なんて事はしない。それは他の連中の仕事だ。オレは飽くまでお前達テロリスト共を倒すだけだ。

 

———これ以上の問答は無用だ。

 

問いの返答として、莫耶を発砲した。普通ならこれで詰みなのだが・・・

 

 

「無駄だよ」

 

「うん、吸収された?」

 

 

射出と同時に男は左手で弾丸を受け止めた。いや、正確には左手に取り込んだと言うべきか。

 

 

「俺の固有霊装大法官の指輪

(ジャッジメントリング)

は左手で攻撃を“罪”として無力化し、右手で“罰”として放出する。こんな風になぁ!」

 

 

ああ、ヴァーミリオンが出し抜かれたのはこれか。彼女のことだ、全力で切り掛かって強烈なカウンターを受けたんだろう。

男の右手から射出された莫耶の弾丸は、真っ直ぐ此方に飛んでくる。

 

確かに強力な力だ。流石のオレでも、英霊すら屠る自分の攻撃を受ければかなりのダメージは受けるだろう。だが、その程度の事なら対処は容易だ。

 

 

「それで?」

 

「な!?」

 

 

オレは銃弾を受け止めた(・・・・・)

僅かに衝撃と痛みはあるが、“防弾加工”による防御の強化は確りと発現していた。

 

 

「お前の能力はわかった。態々説明までしてくれて助かったよ。それで、だ」

 

 

さて、この無能を片付けるとしよう。その力の弱点は既に見切っている。なに、単純な事だ。勘のいい奴なら誰でも気付く程に。

 

 

「お前、そんなもの

(・・・・・)が本当に強いなんて思っているのか?」

 

 

嘲笑と共に再び莫耶を発砲する。男が左手で受け止めると予見して、だ。

 

 

「だから無駄だと」

 

 

同じ手は通じない、ならばなにかしらの策を練ってくる。そんな事すら考えられないのだろうか。

 

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

「何!?」

 

 

左手に着弾する前に銃弾を崩壊させ、内部の魔力を暴走させる。あまり魔力は込めていないので威力こそ大したことはない。だが、目くらましには十分だ。

 

閃光と小さなものとはいえ、至近距離での爆風で奴は突き出していた“左手”で顔を覆った。

 

獲った。

 

 

「確かに真正面から突っ込んでくるやつには強力かもしれないなぁ。しかし、攻撃を捉えられないなら意味はないだろう?態々左手で迎え撃たなきゃならないんだからなぁ。要は、目くらましや奇襲に相性が悪過ぎる」

 

 

間髪入れずに干将で“左腕”、その肘を撃ち抜く。これで奴は左手を上げることはできない。傷は無くとも激痛は襲ってくるのだ。

 

 

「ぐっがぁ!?」

 

「喚くな、ゴミはゴミらしく黙ってるのがお似合いだ。それでも喚くなら・・・豚小屋にでも入っておけ」

 

 

本人の人間性を体現するような醜悪な悲鳴。

思わず耳を塞ぎたくなる。さっさとトドメと行こう。

 

計4発放ち、全てを頭部に命中させる。これが実像形態なら真っ赤な花が咲いていたんだろうが・・・。

 

 

「頭が悪いのか、それとも性根が悪いのか、或いは両方か。随分と焦らすのが好きだったみたいじゃあないか。テロリスト失格だな」

 

 

テロリストとして相手に揺さぶりをかけるのは常套手段だが、単に自分の欲を満たす為に時間を割るのは失策だ。

 

 

「その結果ヘマかく訳だ」

 

相手が完全に沈黙したことを確認し、固有霊装を消した。さて、先ずは随分と開放的な格好のやつの目を覚ませるとしよう。

 

 

「おい、呆けてないでさっさと服を着ろ」

 

 

下着姿のヴァーミリオンに、転がっていた衣服を投げ渡す。

 

 

「へ?あ!わ、わかってるわよ!」

 

 

ふむ、女の身支度は長いものだと思っていたが、どうやらそうでもないようだ。数秒で着替えを終えていた。

 

 

「黒鉄、有栖院、お前達もだ。さっさと避難誘導してやるなり、外に知らせに行くなりしろ」

 

「え、ええ・・・」

 

「わかりました・・・」

 

 

確かに不意を打つような登場をしたが、ここまで呆けられるのも心外だ。闘いの場で何が起こるか予測はできない、そんなことくらいわかってるだろうに。

 

 

「わかったよ・・・。えっと、衛宮?」

 

「なんだ?」

 

「どうして此処に?」

 

 

折角助けに来てやったというのにその問いか。内心呆れた。

 

 

「理事長に許可はとってある。序でに下手に暴れたり相手を殺さないよう命令も受けた。しっかり守ってるだろう?何か問題があるか?」

 

 

そう言うと、黒鉄は神妙な面持ちで聞いて来た。

 

また(・・)、助けてくれたのかい?と。

 

そういえば、確かに黒鉄を助けたのは2回目だ。どちらも誰に頼まれるわけでもなく、自主的に。

 

 

「あぁ、客観的に見ればそうなんだろう。

しかしまあ、皆無事でよかったよ」

 

 

状況を考えて、上辺のものとはいえそう言った。どんな顔で言ったのかはよく覚えていないが、黒鉄達が驚愕していた理由は分からなかった。

 

さて、取り敢えず事態は収束した。これから理事長から色々追求されるだろうが、流石に全てを話すつもりはない。

 

全て語れと言われたが、オレの素性は常人の理解の範疇からかけ離れているし、僅かに契約から背く形で話をする事になりそうだ。

 

語る事は全て事実。だが核心的な部分は全て語らない。語れば後々厄介な事になるのは明白だ。第一、オレが固有霊装を偽っている(・・・・・)など知られたら何をされるかわかったものではない。




1週間以内に次投稿出来たらなぁと

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