思ったより反響あってびっくりしました。
というわけでもちっと続けてみたいと思います。
「今年の七星剣武祭校内選抜は棄権可能な全校参加か。非才にも機会を・・・。成る程、御大層な考えだ」
始業式で新宮寺理事長の話を振り返る。客観的に考えて一教育者として素晴らしい思想だとは思うが、モノがモノだ。
伐刀者同士の闘い、幻想形態ならまだしも実像形態を用いた闘いは命の危険を伴うものだ。小心者の連中に、この機会とやらは傍迷惑なものだろう。
棄権という道が許されているだけまだマシか。
しかし、新宮寺理事長を純粋に評価出来るところもある。低ランクの生徒達にも機会を与えたということは、伐刀者ランクだけが伐刀者の優劣を決めるものでないと理解しているということ。
世界で闘ってきた故、そういったことを身を以て知っているのだろう。
「さて、去年はDランク故声すらかからなかったがどうしたものか・・・」
去年は伐刀者ランクの高い者からのみ代表を選抜していた。低ランクに入る自身が選ばれる訳はないのである。
そして今回の校内選抜だが、現状別に出てもいいか程度に考えてはいる。
と言うのも単に暇だからだ。去年は一度の非公式な模擬戦を除いて闘いの場に立ったことは無い。というか闘う機会がそれしかなかった。
前世では長らく守護者として遣われていた所為か、他所からきっかけが示されない限り出張る事がない様になっていた。そのきっかけが示されたのが去年の模擬戦だ。
その時の感想?
ああ、中々複雑だったよ。御大層な甘い信念を持った奴を倒した時は精々しいものだったが、どういう訳か酷く虚しくもなった。終わった直後に白けて興味は失せたがね。
ーーー話が逸れていた。まあ今回の選抜戦は気が向けば出ることにする。何もせず鈍るだけというのもなにかこう、しっくりするのだが不愉快でもあるのだ。何もしないよりはいい、そんな感じでいこうと思っている。
・・・・・・
「あれは・・・」
始業式を終え、これから教室に向かおうと廊下を歩いている時彼が視界に入った。
「イッキ?どうしたの・・・って何アイツ?ていうか黒!?」
隣で歩いていたステラが驚いているが、まあ無理はないと思う。
僕も初めは同じ日本人とは思えなかったからだ。
彼に失礼かもしれないが、真っ白な髪は妹がそうなので兎も角、真っ黒な肌で純日本人とかインパクトがあり過ぎる。
「彼は衛宮士郎、僕の同級生だよ。まあ僕は留年してるから一応先輩って扱いになるのかな」
「同級生、ね。なんで廊下の真ん中で突っ立ってる訳?」
「時々あんな感じで考え事をしてるんだ。気味悪いっていう人もいれば哀しげっていう人もいた」
因みに僕が感じたのは後者の方。理由はよくわからなかったが、何処と無く寂しげに見えた。ただし、それは飽くまで表面上のものであって本質が見えている訳じゃない。
「仲、良いの?」
「うーん。よく話はしてたけど、深く交流を持っていた訳じゃないかな。彼自身1人の方が落ち着くって話してたし」
「へぇ・・・強いの?アイツ」
「恐らく。でも去年一度も模擬戦に出てなかったから詳しくはわからない」
去年校内で行われた模擬戦は、当時の僕の立場もあって直接見ることはなかった。理事長が神宮寺黒乃に変わってから少しずつ当時の模擬戦記録を閲覧しているところだ。
そしてその記録の中に衛宮士郎のものはないため、彼は一度も模擬戦をした事がないと考えている。
それでも、直感的に強いと感じることはできた。今までの経験で人を見る目にはかなり自信があるからだ。
なのに、隙のない立ち姿や妙な威圧感というのはあるが、それ以外彼からは
直接会話をしても、悟られぬ様観察してみても、彼の考えている事やその在り方が全く読み取れなかった。空っぽの器、それが僕から見た衛宮士郎への感想だ。
「何か用か」
彼が此方に気付いたらしく声を掛けてきた。結構背が高いのと筋肉質なこと、あと真っ黒なこともあって中々威圧感がある。
表情こそ友好的な笑みを浮かべている様に見えるが、その金の瞳はとても虚ろに思えた。
「久しぶり衛宮・・・先輩って言った方が良いのかな?」
「気にするな、いつも通りで構わん。そもそも本来なら同じ2年生だろう。・・・それで?」
衛宮が視線を向けたのはステラ。ニュースでもだいぶ話題になっていた彼女を見る目は、若干興味深げに見えた。
「ステラ・ヴァーミリオンよ。貴方はエミヤシロウでしょう」
「ほう、かの姫君に認知されているとは光栄だ。衛宮士郎だ、衛宮でも士郎でも好きな様に呼んでくれ。まあ多くの連中にはガングロだのボブだの呼ばれているがね」
「ガングロ・・・ボブ?・・・あぁ、成る程ね。なんかしっくりくるからボブって呼ぶわ」
ステラは納得した表情で言った。当の衛宮はもう慣れたと言うように苦笑している。
見た目や得体の知れなさの割に妙な親近感が湧いてくるのが衛宮の不思議な所だ。
「ステラもそう構えなくて良いと思うよ。こんな
「善人・・・善人か?」
「去年も困った人をよく助けてたじゃないか。気味悪がってた人も居るけど、大半の人は衛宮の事意外と好意的に捉えていると思うよ?」
「・・・」
「イッキが言うならそうなんでしょうけど・・・。やっぱビジュアルの問題かしら・・・。ねえボブ、こんなところでどうして突っ立ってたのよ」
「単に校内選抜について考えていただけだ。昔から考え込むと周りが見え辛くなるものでね。不気味だとよく言われるのは確かだ」
そう言って彼は自嘲気味に笑った。うん?校内選抜?
「もしかして参加するのかい?」
「一応はな。お前達と当たることもあるかもしれん。その時はお手柔らかに頼むよ。世辞抜きでお前達は強いからなぁ。
真っ直ぐすぎる奴ほど出鱈目なもんだ」
「まるで自分は真っ直ぐじゃないみたいな物言いね」
「さて、如何だろうな。貫くだけの信念があるわけでもないし、夢も目標もない。だからといってこのまま何もせず終わるというのもどうも癪に触る」
「でも去年は一度も模擬戦に出なかったよね?」
「機会がなくてな。だが一度だけ非公式の模擬戦はやったよ。ついでに勝った」
「非公式?一体誰と?」
「東堂刀華だったか?確か“雷切”などと呼ばれていた気がするが」
「なっ、東堂刀華だって!?」
「え、ちょっとイッキ?」
流石に驚愕した。東堂刀華と言えばこの破軍学園序列1位、つまり学園最強。昨年の七星剣武祭ではベスト4位だった秀才だ。それを非公式の模擬戦とはいえ衛宮が倒したと言うのだから驚くに決まってる。
「それ、本当なのかい?」
「嘘をつく意味がないだろう。何故いたのかは知らんが、新宮寺理事長や西京女史も見物していた筈だ」
「えーと、アタシ話がよく見えないんだけど・・・」
驚きでステラの事を完全に忘れていた。
彼女も校内選抜に出るので東堂刀華について話をしておこうか。
「ああごめんステラ。東堂さんは去年の七星剣武祭でベスト4位だった人なんだ。学園での序列は1位、つまり学園最強の人だよ」
「え、つまりボブは学園最強を倒したってわけ?」
「本人の言う事が事実ならね。なにせ非公式らしいし確証が・・・」
「まあ事の真偽は理事長に聞けばはっきりするだろう。・・・さて、話し過ぎたな。オレは教室に向かうことにするよ」
衛宮はがそう言うと同時に予鈴がなった。
気付けばだいぶ長い時間話していたようだ。
「じゃあまた今度。衛宮の闘いぶり、楽しみにしてるよ。東堂さんに勝ったっていうその実力、観させてもらうからね」
「お手柔らかにって言ってたけど、当たったら容赦出来ないからね」
「ああ、そいつは残念だ。期待せずに待っているよ」
踵を返した衛宮はさっさと歩いて行ってしまう。最後の方で皮肉げな笑みを浮かべていた気もするが真意はわからなかった。
「なんか、ずっと年上の奴と話してるみたいだった」
「すぐに慣れると思う。あと、困った事があったら彼に相談してみるといいよ。ああ見えて意外と親切にしてくれるからさ」
「なんか想像出来ないんだけど・・・」
「僕も初めはそうだったさ。けど、荷物を運んでくれたり、学校の備品を直してくれたりでさ。僕も時々世話になってたよ」
早足で歩きながらステラと2人で教室に向かう。ようやく
・・・・・・
オリエンテーションが終わり、自室に戻った頃に生徒手帳へメールが届いた。どうやら早速初戦の相手が決まったようだ。
「3年桃谷、
この男の試合は見た事などないが、聞いた話によれば、全身に展開される鎧型の固有霊装による突進と高い防御力が売りだったか。
「やれやれ、初戦から脳筋と当たるなんてな。まあやりやすいから良いんだが」
相手の情報について特に調べる必要はない。相手の守りがいくら硬かろうが、その固有霊装は飽くまでも人間の範疇に留まっている。
内包された神秘なんざたかが知れているのだ。膂力においても、扱う神秘についても。磨耗し朽ち果てたとはいえ、刻み込まれた経験は消えはしないのだ。人間を殺めた事もその覚悟もない青臭い餓鬼に、オレのような
ーーーあの馬鹿みたいに真っ直ぐな剣鬼でもない限りは・・・
オリキャラなんてどう作ればええんや・・・。
というわけで本来のステラの初戦の相手をボブが相手取る事になりました。
まあどうせ桃谷はモブキャラやし大丈夫やろ(楽観視
因みにこのボブは幾らか人間性が戻ってます。