続くかもしれないし続かないかもしれない。
評判によって判断いたします。
自身の魂を
まあそんな常人ではまず敵わない連中にも、生来保有する魔力量によってランク付けがされている。
A〜Fランク。Aに近いほど優秀、Fに近いほど落ちこぼれ。まあこんな感じだ。
世間一般ではこのランク付けで伐刀者の優劣が決まると勝手な解釈をされているが、実際はそんな事はない。
コレは飽くまで生来の魔力量でしか判断されないモノであって、当人の実力そのものは全くランクに反映されていないからだ。
要するに、魔力量が低くても実力さえ高ければ、自分より上のランクの相手を倒すことが出来る。生まれ持った才能だけで優劣や勝敗が決まるほど闘いは甘くない。
実際、今目の前でAランクの、それこそ規格外とされた優秀なお姫様がFランクの落ちこぼれとやらに完敗している。
「コレで馬鹿げた連中も頭が冷えるか?いや、ないか」
会場から湧き上がる歓声に紛れ、呆然としているランク主義者共を一瞥する。
「どいつもこいつも可笑しな顔をしているもんだ。本当に優秀なら相手の実力くらいある程度把握出来るだろうに・・・。滑稽なことだ」
「そう言うキミは初めからわかってたのかい、“ガングロボブ”くん?」
気配を感じさせずいきなり声を掛けてきたのは1人の女。いや、女というより少女と言うべきか。実年齢にしては酷く幼い、着物を着崩した少女。
因みにガングロボブというのはオレの通称だ。見た目がガングロでボブという愛称が馴染むからかもしれない。蔑称かもしれないが。
「普通に話しかける事も出来ないのか、アンタは」
表情は変えず、声音に僅かながら呆れを含んで言う。
「その割には冷静だよねぇ。他の連中は皆んな驚いて腰抜かすのに」
「生憎、そんな感性もとうの昔に捨てたんでね。いや、それでも多少はマシになったのか・・・?」
「ふぅん。17歳なのにだいぶ修羅場潜ってきたみたいに言うねぇ。ホント・・・オマエ何者だ?」
おちゃらけた態度から鋭い目付きに変わる女。成る程、現役KOKの花形選手というのは伊達ではないらしい。大した威圧だ。
「何者でもないさ。普通に産まれ、普通に生きて、ある日伐刀者になった破軍学園2年生“衛宮士郎”だ。恐らくな」
はっきりと断言は出来ない。今までの人生、というより今回の人生か?
それはオレにとっては酷く曖昧で虚ろなものだ。どちらかと言うとこの世界に産まれ落ちる前の方が幾分か自分の事を憶えている。
世界の抑止力、守護者の1人として存在していたオレは完全に消滅したのだろう。英霊としての記録も、霊基も失ったにも関わらず、どういう因果かこの世界に新生した。
確か、人間としてまだまともだった頃の名前も今の名前と同じだった様な・・・似通っていた様な・・・。
あぁ、多分全く同じだ。多分。
「あっそ。まあ1つ、人生の先輩として忠告しておくよ。人間、あんまり自分を腐らせると人形になる。いい様に使われて不要になったら棄てられる。そんなのは嫌だろう?」
「さて、如何だろうな。だがその忠告は受け取っておくよ、西京寧音女史」
そう言って席を立つ。この後は特に予定もないので部屋で時間を潰すことにする。
2人の試合の感想?
強いていうなら、妥当と言ったところか?
・・・・・・
「奴は如何だった」
「うーん。やっぱ手遅れって感じかなぁ」
Fランク伐刀者がAランク伐刀者を打ち負かした一件は大いに学園内を騒がせた。しかし、今話題に上がっているのはその件ではない。
ガングロボブこと衛宮士郎と会話をしたのは今回で四度目。しかし、相手の本質に探りを入れる様話したのは今回が初めてだった。
「眼が死んでるのは初対面の頃からわかってたけどさ、魂まで死んでるっていうか腐ってるよアイツ。しかもなんていうか、ずっと歳上と話してるみたいな感覚でさぁ」
「私も奴と話した時はそんな気分だったよ。
17歳にしてはエラく成熟している。寧ろ発酵してるな」
「結論はおんなじって訳か。んで、くーちゃんは一教育者としては如何思ってる訳?」
気怠そうな顔をするこの破軍学園理事長兼この西京寧々の腐れ縁、新宮寺黒乃に尋ねる。
「あの歳であそこまで破綻しているんだ。教師として放っては置けないさ。問題は“何故ああなったのか”だ。彼奴の両親が言うには生まれつきだと言うが・・・」
「生まれつきぃ?ホントはなんか虐待でも受けてたんじゃない訳?」
「いや、ないな。私も親だから解るものがあるんだよ。衛宮夫妻はそれこそ親の鑑というものだ。とてもじゃないが虐待なんかする人間じゃあない。それに、普通の一般人が伐刀者相手に手を上げられるか?」
「そりゃそうかもしれないけどさぁ・・・」
「まあ両親共々初めは困惑したそうだ。なにせ純日本人からあんな黒い肌の子が産まれたんだからな。旦那の方は妻の浮気を疑ったらしい。DNA検査で白だとわかったらしいがな」
「独り身だけどなんとなく気持ちわかるわぁ。困惑どころか気味悪がるよアタシ」
新宮寺黒乃が衛宮士郎の両親が問題ないというならそうなのだろう。
しかし、これでますます彼が破綻している理由がわからなくなった。
まず昨年見せた敵対者への無慈悲さ。
伐刀者と言えど大半は良識を持っている。実像形態での闘いでもそう何人も死亡することはない。瀕死の重傷を与えようとも、初めから相手を殺そうなどと考えることはしないからだ。
だが衛宮士郎という青年は幻想形態でも相手を“精神的”に殺害できるであろう威力を持った一撃を躊躇いなく放った。あの時は相手が並外れた精神力を持っていたから大事にはならなかったが、常人であれば精神を砕かれて廃人になっているほどの一撃。
彼にとって闘いとは、飽くまで殺し合いであると示していた様だった。決して優劣を決めるものではないと語る様に。
そして何かを諦めた様な、何かを悟っている様なあの顔は、何によってもたらされているのか。
とても17歳のものとは思えない虚ろな眼と無表情は後天的な原因がなくては説明がつかない。
彼の固有霊装と伐刀絶技、魂の具現化であるソレを一度見たからこそ、その謎は深まるばかりである。
破軍学園2-2 衛宮士郎
伐刀者ランクD
黒乃の持っている端末に記された伐刀者ランクは高いとは言えない。しかしそれは飽くまで魔力量によるランク。彼の実戦能力はハッキリ言って異常の一言。
伐刀者であることを加味しても異常な膂力、状況によって形状を変える異様な固有霊装。そして、昨年の非公式な模擬戦かつ、幻想形態によるものであったものの、学園最強とされる東堂刀華を一撃で屠った伐刀絶技・・・。
「思い出したら気分悪くなってきた。アタシも人のこと言えないけどさぁ、対人攻撃であんなエグいの見たことないよねぇ」
「“
「まあくーちゃんがいればなんとかなるだろうけどさ、それでも幻想形態であの威力じゃん?“雷切”の子には同情するわぁ」
昨年の模擬戦で最後の締めと言わんばかりに放たれたソレは、今はもう完治したものの東堂刀華の精神に甚大なダメージを与えた。
あの時の彼女の失策は衛宮士郎の“銃弾”を迎撃したこと。
それまで彼の撃ち出していた銃弾と同じ様に対処した事が運の尽きだった。
非公式故見物人は限られた者達だけだったが、それは寧ろ幸運だったかもしれない。
少なくとも、“体の内側から無数の剣群に串刺し”にされた少女を多くの人間は見たくないだろう。ましてや実像形態だったならば、串刺しどころの話ではない、細切れの完成だ。
「んで今回の校内戦、ガングロボブも出るんでしょ?」
「恐らくな。強制参加ではないから断言は出来ないが」
仕事が増えるだろうなぁと頭を抱える黒乃を苦笑しつつ酒を煽る。
「そう言えば、衛宮士郎は前理事長に実像形態で銃口を向けた事があるそうだ」
「ふぅーん・・・は?」
暫く無言の時間が経った後、黒乃がとんでもないことを口走ってきた。
「いやいや、何やってんのアイツ!?」
「まあ落ち着け、飽くまで噂だ。私が理事長に就く一月前のことらしくてな。衛宮本人も覚えが無いと言っているし何より証拠が無い」
「それ、くーちゃんが前理事長と取り巻き追放したからじゃない?」
衛宮士郎は破綻してはいるが、見境のない凶暴性を持っている訳ではない。相手が襲いかかってきただとか模擬戦など正当な理由や許可が下りている場合のみ固有霊装を発現させる男だ。
巷を騒がせる
そんな彼が屑だったとは言え地位以外実力のない、ましてや己に害を与えていない相手に実像形態で銃口を向けるなど流石にあり得ないと考える。
「まあ本当だったらそれこそ事案になっていただろうしな。・・・少し酒が入りすぎたか?こんなくだらん話をするなど」
「まだ3杯しか飲んで無いよねぇ。なんか思うことあったんじゃ無いの?」
「・・・さぁな」
「“錆びた剣弾”ねぇ。そのまんまだけどしっくりくるわぁ」
“雷切”との模擬戦の後与えられた彼の二つ名。その力が再び振るわれる日は近いのだろう。
あんまボブ活躍しないなぁってまだ序盤やし大丈夫やろ・・・(冷や汗