除霊士   作:永遠の二番煎じ

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留学生

太平洋の向こうから陽の光が顔を出そうとしているその頃、まるで警察の取調べのように事情を聴く。

「何を見ましたか?」

「漁が終わり、夕方から泥酔してまだ工事開発中の禁断の山に行った、そしたら黒い影が俺の視界を襲ったんだ。そして夢を見た・・・森の中で甲冑をまとって槍を持ってたんだ。夢の中では敵をなぎ倒し、騎兵隊も蹴散らす兵士だった。そして、最後は敵に捕まり打ち首にされた。目を覚ますと、体が軽快に動くんだよ、まるで若返ったかのように。いつもなら頭が痛くて体も動かない・・・だが体は勝手に動き、銛を手にして歩き回った。」

 

漁師の精神状態から洗いざらい話しているのが見受けられる。

報告書に聴収を書き込む。

ドアをノックする音が聞こえ、漁師は体がビクッと反応する。

「どうぞ。」

 

ドアを開き、関島女学院の生徒が入室する。

カッターに赤のリボン、赤のチェックスカートは膝小僧が顔を出すくらいの丈だ。

黒のリュックサックを背負っている。

 

昨日襲ってきた漁師を見て顔が引きつる。

まあ無理もない、命を奪われそうになったんだから。

 

「あなたは彼女を襲ったんですよ。」

報告書を書き続けながら漁師に罪の意識を植え付ける。

漁師は彼女に向かって地面に跪き、頭と両手を床にくっつけ、

「本当に申し訳なかった。」

潔く謝罪した。

 

引きつった顔は口を真一文字にして眉間にしわを寄せて、

「警察に突き出さないんで、二度とこの島に来ないでください。」

漁師はそそくさと逃げるように除霊担当室を出て行く。

 

根性があるな、まだ高校生なのに。

彼女は出て行かず、仕事机の前でずっと立っている。

御札を包装して報告書を添えて、時計を見る。

「学校に戻らなくていいんですか?」

仕事に集中できないので遠まわしに出て行くように促す。

 

「昨日は助けていただきありがとうございました。噂は本当だったんですね。」

彼女は頭をつむじがこちらに見えるくらいまで下げてから部屋から去って行く。

私立関島女学院高等学校の生徒はみんな礼儀がちゃんとしている印象を受ける。

正直そんなに関島女学院のことは知らないが身なりからして頭の良い高校だろう。

高校時代にあんな感じの後輩や中室正子のような優等生系と付き合いたかったな。

そんな夢は儚い過去になどない、だって小中高男子校だったしな。

 

役所から社宅に帰る途中の坂で中室と出会う。

向こうもこちらに気づいたようだ。

ゆっくりと距離を縮めて、

「あれから大丈夫ですか?」

 

前に両手で持っていた黒の手提げかばんを後ろに回し、

「はい、おかげさまで。仕事頑張ってください。」

 

と言われた時朝日が海から顔を出す瞬間を見ていた。

「ここから見る朝日は夕方に沈む太陽みたいで僕は神秘的に感じるんだ。」

 

中室も昇りゆく太陽を見て、

「前はひどいことを言ってしまいました、ここで菅さんが助けてくれたことも忘れませんよ。」

ガードレールを二人で見る。

 

あのときの事を思い出して照れ臭くなって、

「足を止めて・・・すいません。」

となぜか謝ってしまう。

ここは本来職業上そう言ってもらえて光栄ですと伝えるのが正解だがどうも女性慣れしない。

逃げるように先程歩いていた倍の速度で坂を下って行く。

 

昼頃海鳥の鳴き声や漁船の無数のエンジン音で目を覚ます。

パーカーを着てジーンズを履いてスーパーに足を運ぶ。

魚介類は避けて、肉野菜をスーパーの籠に入れる。

するとスーパーで声を掛けられる。

 

「すいません。」

と声を掛けてきた男性は金髪で襟足は首を隠しもみあげはエラ顎を隠す。

前髪は眉毛にかかるくらいで目は大きく瞳は青い。

白文字で『強』と書かれたデザインの黒Tシャツで青のジーンズの恰好。

銀の十字架のネックレスが身包みを抑えて一番主張している。

 

パッと見はヤンキーに見えたが、アングロサクソンの白人だ。

輸出入業者だろう。

「なんですか?」

すいませんは完全に何年も日本に住んでいる外国人の発音だ、だから日本語で聞く。

 

「名産品って何ですかね?」

「カモン。」

魚介島産の新鮮な魚が生で置いてある場所に案内する。

 

「ディス、ディス。」

と右手の人差し指で魚たちをなぞる。

「アリガトウね。」

と言って白人の男は右手を出す、それに答えるように握手する。

 

握手した瞬間お互い驚く。

白人の男は一瞬口を大きく上げるが何もなかったかのように笑顔でもう一度こう言った。

「We will meet some time soon.」

 

白人の男は魚を選ばずに売り場からひょうひょうと姿を消した。

 

暗闇が広がる頃、社宅に取り付けてある電話子機にピーピーピーと音が鳴る。

野菜炒めをフライパンで炒めている最中だったがコンロの火元を消す。

 

「はい、こちら除霊担当課の菅霊太郎でございますが。」

「あの名刺をいただいた者なのですが。」

若い女の子の声が電子音を通して聞こえる、おそらく十代か二十代だ。

 

「何か相談事でしょうか?」

「はい、今すぐ相談したいんですが・・・」

「分かりました、いますぐ行きましょう。」

今すぐ除霊担当課に用件があるなんてただ事じゃないな。

昼スーパーで遭遇した金髪の白人男性が頭をよぎる。

半生野菜炒めをお皿に移してラップをして冷蔵庫に保存する。

そして急いでスーツに着替える。

 

関島女学院の校舎に入って女子寮に繋がる廊下で待つ。

部活帰りの女子生徒たちが通るたびにこちらに目を向ける。

時計を見ていると1人の女子生徒に声をかけられる。

 

「おまたせしました。」

電話の主は漁師に襲われているところを救った女子生徒だった。

「どうしたんですか?」

 

「とりあえず、ここで話すのは目立つので寮に来てもらえますか?」

女子寮にあまり知らない男を?正気なのかこの生徒は?それとも曇った心がないだけか・・・

よし、抵抗しよう。

 

「話なら役所で聞きますから。それに男が女子寮に入るのはなんか許されないいや法はおかしてないけど。」

とごたくを並べて遠まわしに拒否を伝える。

「友達のレベッカが憑りつかれ中毒的な、なんと説明すればいいか。」

憑りつかれ中毒、これはやばい、確実に何か事件が起こる。

顔を引き締めて堂々と女子寮を歩く感じをかもす。

 

二人で歩いていると前から生徒会長が来る。

生徒会長は腕を組んで立ちはだかる。

「菅さん、何しに来たのですか?」

「察してくださいよ。」

そしてこういう時に限って依頼主の女子生徒は口を紡ぐ。

 

「石蔵さんも、風紀を乱してるんですよ?」

怒られて菅のスーツを掴む。

それを見た生徒会長はあきれて寮に戻る。

 

もう明日からこの学校に入ることは許されないかもしれない、だが目の前の人を救う・・・

石蔵の寮に入ると、説明を受ける。

同じ寮のレベッカという生徒はイギリスのチェスターハイスクールの交換留学生らしい。

夜7時から夜10時まで二人でアニメやドラマを見ていたらしいが、最近はこの時間姿を見ないらしい。

「分かりました。後は任せてください。」

 

部屋を出ると壁にもたれて腕を組んで目を閉じている中室がいる。

「私は生徒会長なので一緒に行きます。」

「規則違反にならないんですか?」

「本校の生徒がいないのは私の監督責任でもあります・・・」

顔を下げる。

どうやら盗み聴きしていたようだ、だがそんな大きな声では会話していないぞ。

どれだけ壁が薄いんだ。

 

中室に近づいて左手を掴む。

「な、何するんですか?」

嫌がるそぶりを見せるが心の奥底では少し照れている。

中室の左手首にスーツのふところから取り出した数珠を巻く。

「この数珠は何ですか?」

念を中室の左手首の数珠を触りながら念を送る。

数珠は光を放ち、中室はまぶしさのあまり顔を背ける。

 

「これから行く場所は危ないですし、例えこの数珠をしていても憑りつかれるかもしれないですよ。」

「覚悟は出来ています。」

 

各々ヘルメット電灯や懐中電灯を点けて、学校を出て気配のする禁断の山の方に歩いていく。

中室も良くない空気を山に向かうにつれて感じ始める。

建物はなくなり、工事現場に到着する。

中室は反射的に右手で菅の左袖を掴む。

「まだ戻れますよ。」

 

中室は自分の無意識さに気づいて菅から1人分距離を取る。

「心配かけてすいません。」

すると森に続く道と開発現場の境にいる人影を見つける。

 

懐中電灯の光を当てる中室は、

「スタークさん?」

と人影に呼びかけると森に走って行く。

 

「待って!」

中室は逃げた人影を追って森中に駆け込む。

いきなり森中に行ってしまった中室を追いかける形で禁断の山に初めて入る。

 

木々が生い茂る中を無作為に走る中室。

生徒会長として生徒を守るために危険を顧みず入山禁止の森を走る。

すると地面を踏めずに落ち葉に埋もれる。

一瞬わからなかったが落とし穴にかかったのだ。

 

「大丈夫ですか?」

「はい、手を貸してもらっていいですか。」

電灯の光が地面から空に放っているのを見つけてなんとか合流出来た。

手を貸す。

地面に上がった中室は制服についた落ち葉や泥を掃う。

「相手は狩人と狼が憑りついています、気をつけてください。」

 

すると真ん前に人影が立っている。

菅と中室は同時に人影を照らす。

長い金髪と前髪は頭の上で団子にしていて瞳が青い。

カッターのえりにはユニオンジャックのバッジが付けてあり、赤のリボン・赤のチェックスカートは太ももがかなり主張しており丈が短い。

 

「スタークさん、心配したんだから。」

と中室は近づくと脛にロープが当たる。

上から丸太が落ちてくる、間一髪で中室を抱えて飛びこける。

息つく暇なくレベッカは雌豹のようなポーズで四足歩行でこけている菅に飛びかかる。

ほんの一瞬、相撲を取るかのような体勢に憑りつかれたレベッカと菅がなり、菅はレベッカを投げ飛ばす。

 

ダウン気味のレベッカに近づいてスーツのふところから御札を出そうとするが持っていない。

 

中室は目を覚ますと真ん前に御札が二枚落ちている。

近くで菅とレベッカが向き合っているのを目にして、御札を触る。

すると御札から静電気摩擦の何十倍もの電流が一瞬流れた感覚を味わう。

だが菅やレベッカのため、

「菅さん!」

レベッカは耐え難い痛さを我慢して菅にめがけて一枚だけ御札を投げる。

 

御札は菅の近くに落ちる。

菅がジャンプして前転して受け身を取り、再び飛びかかってくるレベッカに御札を貼った。

レベッカは気絶する。

 

心配して中室の方を向くと倒れている。

「中室!」

うつむけから仰向けに体を起こそうとする。

「中室、中室、中室。」

必死に揺さぶって叫ぶが起きない。

 

胸に耳を当てると心臓の鼓動が聞こえない。

両手を胸に当てて定速で押しては、気道を確保して人工呼吸する。

必死に何回も繰り返した。

すると、

「ゲッホ、ゲホゲホ。」

と息を吹き返した。

 

命が助かり、ギュッと抱きしめる。

「良かった・・・」

安堵の表情を浮かべる菅。

 

「スタークさんは大丈夫ですか?」

「君のおかげだ。」

 

その後レベッカの体から悪霊二体を御札二枚に閉じ込める。

石蔵の寮に連れて帰ると、石蔵は何度もお礼を言った。

 


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