双つのラピス   作:ホタテの貝柱

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第十三話 二人のキャスター

殆んど車通りも無い深夜の静かな山道を、一台のバイクが駆け抜ける。不意に、無言で運転していたリヒトがおもむろに口を開いた。

 

 

「キャスターのマスターって、誰なんだろうね?」

 

「なんだよ急に?お前なら知ってるんじゃないのか。」

 

「知ってるというか…心当たりがある程度かな。」

 

「そうかよ。柳洞寺のキャスターが冬木中の人達から魔力を集めてるのも、お前知ってたんだよな?」

 

 

 

リヒトはその事に関し、把握はしていたと曖昧に答える。

 

 

「事態が秘匿できないと判断されることになればキレイも黙ってないだろうし、ぼくもキャスターを潰す口実が出来るから直接手を下しやすいけど…キャスターもそれを警戒してるっぽくてね。」

 

 

 

今、何やら物騒な発言を聞いた気がした。恐らく最悪の事態が起こらなければ、リヒトも直接はキャスター討伐に動くことはないらしい。

 

 

「リヒト、サーヴァント相手だと幾らお前でも…」

 

「そうだね、ぼくだけだとサーヴァント相手には勝ち目は無いかも。けど、彼ならキャスター相手にも互角の力で渡り合えるはずだ。」

 

「彼?」

 

「あぁ、こっちの話気にしないで…って、うわ勘弁してよ。」

 

 

 

突然、リヒトが舌打ちする。何事かと前方を見れば、道を塞ぐ様に武器を携えた無数の骸骨が行く手を阻む。

 

 

「リヒト、あれ…やばくないか!?」

 

「こっちは飽く迄、様子見だって言うのに。あっちのキャスターは臆病だね。スパルトイとか初めて見た!通さないって言うなら、強行突破だよ。シロ、振り落とされないように掴まってて…ね!!」

 

 

 

次の瞬間、リヒトは容赦無くアクセルを開き、行く手を阻む骸骨戦士相手に特攻する。物凄いスピードによる遠心力でこっちも振り落とされないようにリヒトに掴まるので精一杯だ。

 

 

「うああぁぁ!リヒト、死ぬ!!死ぬからスピード少し弱めろ!!!」

 

「無理!!」

 

 

 

リヒトに一言一蹴され、リヒトと俺の乗るバイクが骸骨戦士の群れに真っ向から突っ込む。

 

 

死ぬと思い、咄嗟に目を瞑る。途端、硬い何かが次々と嫌な音を立てて砕け散る音が何度も聞こえる。恐る恐る目を開け、後ろを振り返ると…無残にもバイクに轢き殺された骸骨戦士の残骸が遠くなる。

 

 

 

「リヒトさん?あの…ちょっと無茶し過ぎな気が…」

 

「この位、普通だよ。」

 

 

リヒトの奴、いつもこんな危ないことしてるのか!?

 

 

 

「14の時まで、キレイの代行者としての仕事の手伝いとかもして来たし。クリーチャーはそれなりに見慣れてる。」

 

 

一体、リヒトは今までどんな人生歩んで来てるんだ。クリーチャーってああいう骸骨戦士みたいな奴か?

 

 

 

「キレイがぼく位の年齢の時にはもう代行者として、立派にやってたよ。絶対なりたくはないけど、キレイのようにはなれなかったな。」

 

 

背中越しに、リヒトが乾いた笑いを漏らす。

 

 

 

「お前と言峰神父は違うだろ。」

 

「まぁ、代行者やる位の人間って狂信者レベルじゃないと務まらないから。ぶっちゃけると、神様はいると思うよ?こんなぼくでも生かしてくれてるし。」

 

「…リヒト、まだその悪い性格直ってないのか。」

 

 

リヒトは昔から生への執着が薄い。小さい頃、俺に対して自分は死ぬために生まれてきたからなんて言うようなとんでもない奴だったが、未だにその悪い性格は直っていないようだ。

 

 

 

「あ…ごめん。こういうこと言ったら、シロが泣いちゃうから言わない約束だったね。」

 

 

誰が泣くかと言いかけ、言葉を噤む。 リヒトは自分の死に対して無頓着過ぎる。監督役補佐の仕事だって、いつサーヴァント同士の戦いに巻き込まれて、死んでしまうかも分からないのに。

 

 

 

お前が死んだら悲しむ人間がいるんだってこと、もっとリヒトは自覚すべきだ。

 

 

着いたよと、いつの間にか柳洞寺の山門に通ずる入り口付近に到着しており、リヒトがバイクのエンジンを静かに切った。

 

 

 

「先に行ってて。」

 

 

バイクから降りると、リヒトが先に行っててと妙なことを言う。

 

 

 

「え?でも…」

 

「スパルトイはもう出ないよ。それより、早くセイバーのところ行ってあげて。あと…セイバーのこと、怒らないであげてね?君を思っての単独行動だと思うから。」

 

「…わかった。なるべく怒らないようにする。」

 

 

リヒトに促され、柳洞寺へと一足先に向かう。セイバーのこと怒らないであげてねとリヒトに言われたが、多分怒ってしまうかもしれない。

 

 

 

リヒトとは一旦、そこで別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「監督役…にしては若過ぎるわね。」

 

 

シロを行かせた後、何処からか妙齢の女性の声がした。緊張感が高まる。ここは彼女の陣地だ。

 

 

「はじめまして?キャスター。ぼくはその監督役の補佐だ。」

 

「監督役補佐がこんなところまでわざわざ何のつもり?あら…近くで見ると、かわいい顔してるじゃない。」

 

 

 

現れたのは、全身に黒衣を身に纏った妖しげな女性だった。素顔はローブに隠れてしまい、見えない。

 

 

「気になることがあったから、ご挨拶に来たよ。あのスパルトイはきみの回し者かい?」

 

「セイバーを追って、妙な魔力反応があったから向かわせただけよ。あなた、中立の立場がマスターに手を貸していいのかしら?」

 

「彼とはたまたま目的地が一緒だっただけだよ。君だってズルしてるじゃないか。あの山門に配置した出来損ないのサーヴァントは一体何だい?」

 

 

 

柳洞寺に通ずる入り口の奥、強力な魔力同士がぶつかり合う気配がする。サーヴァントに近しい気配はするが、毛色が異なるらしい。

 

 

「残りの呼び出せる枠がアサシンしか無かったのよ。」

 

「ぼくの見立てだと、あの人に魔術回路は無いはずだ。かと言って、一般人と言い切れるか怪しいけど…やっぱり君の仕業か。冬木で正規のマスターがアサシンを召喚すれば、ハサンしか呼べない筈だし。あれはアサシンだけど、アサシンじゃない。」

 

「…あなた、宗一郎の知り合い?」

 

 

 

姉さんがアーチャーを召喚した翌日、葛木先生と話をしたときに先生から僅かながら甘いかおりがした。その時のかおりと同じものをキャスターが纏っている。恐らくは薬草の類だろう。

 

 

「先生の教え子とだけ。」

 

「何の因果かしらね?あの人の教え子が監督役補佐だなんて。でも、殺すよりあなたなら私の傀儡にすれば、利用価値がありそうだわ。」

 

 

 

キャスターがゆらりとぼくに迫る。シロを先に行かせて正解だった。 キャスターの指先がぼくの頰に触れようとした間際

 

 

「幾ら王女とは言え、気安く半身に触れないで貰えるか。」

 

 

 

ぱしり、ぼくのキャスターが触るなと言わんばかりに持っていた杖で彼女の手を払い除けた。彼女は驚き、ぼくと距離を取る。

 

 

「サーヴァントですって…!?」

 

「王女自らご歓待頂けるとは、光栄の至りに御座います。太陽神ヘリオスの後裔、コルキスの女王メディアよ。」

 

 

 

キャスターはいきなり真名で彼女を呼ぶ。彼女ことメディアはぼくがサーヴァントを連れていたとは思わなかったらしい。

 

 

「ご挨拶が遅れました。しかし生憎、名乗る名前が御座いませんのでややこしいのですが…本官のことはキャスターとお呼びください。生前の貴女よりも古い時代にヘリオスとは違う、別の太陽神にお仕えしていた身故、貴女には多少の縁を感じます。」

 

 

 

コルキスの女王メディア、スパルトイを呼び出していたからギリシャの魔女の誰かとまではアタリをつけていたけどぼくのキャスターは真名まで把握していたようだ。

 

 

キャスター曰く、彼女はヘリオスという太陽神の後裔らしいが生憎、ぼくは神話にあまり詳しくない。

 

 

 

ぼくのキャスターは昔、古代バビロニアの太陽神に仕えていたから多少の縁を感じて彼女にそれなりの敬意を払っているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャスターですって…!?クラス被りの召喚はありえない筈よ!」

 

 

監督役補佐を名乗るその子に伸ばしかけた手を、杖で払い除けられた。見れば、全く瓜二つの顔。いつから?気配はしなかったのに。

 

 

 

異様な男だった。顔はその子と瓜二つなのに、纏う気配が全く違う。

 

 

「現界したとき呼び名に困りまして、聖杯戦争の魔術師のクラスに肖り、キャスターと名乗ることに致しました。生前は神官をしていたので、魔術師と似たようなものかと。」

 

 

 

キャスターと名乗った男は、私と同じキャスタークラスの適正らしい。でも、クラス被りでの現界はありえない。

 

 

何より、同じ顔が二つ…特定の姿形を持たず、マスターの身姿を模倣する英霊もいると聞くけど。そしてキャスターを名乗る男が纏う、隠しようがない厄介な呪いの気配。

 

 

 

「あなた…生前に神官をしていたと言っていたけど、何か神を怒らせるようなことでもしたのかしら?その厄介な呪い、隠せていないわよ。」

 

「反逆を起こした際、呪いを受けまして。その時、名前と神格を剥奪されたのですよ。」

 

 

名無しの英霊なんて強さもたかが知れていると思ったけれど、この男余程、マスターとの相性がいいのか魔力が満ち満ちている。

 

 

 

「半身よ、身体を少し借りるぞ。」

 

 

男が突然姿を消した。途端、そばに居た監督役補佐を名乗るその子の纏う気配があの男のそれになる。見開かれた金色の瞳は愉しそうな色を浮かべ、男は口元を歪ませた。

 

 

 

「試すか?」

 

 

男のその一言が合図となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真下を見遣れば、気が遠くなりそうな高さだ。

 

 

メディアから放たれた無数の魔弾がぼくに憑依したキャスターを襲う。キャスターが短い詠唱を呟けば、障壁を生じさせ、メディアの放った魔弾は障壁の中へと尽く吸い込まれてしまう。

 

 

 

「…すごいな、これだけの魔力量を弾に変えて撃ち出すとは。さて、お返しだ。」

 

 

キャスターの生じさせた障壁が一瞬、もやのように揺らいだかと思えば先ほど障壁が吸収したメディアの放った魔弾をそっくりそのままメディアに向けて容赦無く放出する。

 

 

 

メディアが持っていた杖を一振りすれば、弾き返された魔弾は山へ着弾し大きな爆発音がこだまする。

 

 

キャスター!!君が周辺に被害出してどうするのさ!?キャスターとメディアの追いかけっこが始まってから、まだ30分は経ってない筈だけど、周辺は散々たる光景になりつつあり頭が痛い。

 

 

 

「あなた、一体何処の英霊よ?名無しの英霊と聞いて、強さも大したことないと思っていたのに。」

 

「あなたの時代より多少古い程度ですよ。正確な年代は本官も把握しきれないのですが。まぁ、本官のような無名の英霊もどきの話は一先ず置いておきましょう。」

 

 

そう言ってキャスターはメディアから逃げるように、物凄い速さで空中を飛翔する。それを、纏うローブを翼の様に変化させたメディアが追う。

 

 

 

「待ちなさい!さっきからちょこまかと鬱陶しいわね…!」

 

「本官はそもそも、貴殿と戦いに来たのではありませんからね。それよりも女王メディア?余り出過ぎた真似はなさらない方がよろしいかと。」

 

 

ふと、キャスターが逃げるのをやめた。

 

 

 

「…監督役側の指図なんて従う必要は無い筈よ。」

 

「束の間の平穏を少しでも長く享受したくば、大人しくしていた方が賢明ですよ。」

 

「…お黙り。あなたに私の何が分かるというの?」

 

 

キャスターが何を言っているのかぼくも分からないが、これは恐らく彼なりの忠告だろう。束の間の平穏?メディアを見るからに、彼女は余り平穏とは似つかわしくない。彼女も何か思うところがあったのだろうが、結局キャスターの言葉を一蹴した。

 

 

 

「……やはり、聞き入れては貰えませんか。全く、何故皆して本官の忠告に耳を傾けてくれないのですか?もう帰ります。あちらもそろそろ逃げ果せた頃合いでしょう。」

 

「待ちなさい!逃さな…「さようなら、女王メディア。」

 

 

キャスターが指先で何もない空間を一線描くと、空間に一筋の切れ目が走る。メディアが放った魔弾を難無くかわし、キャスターはその空間の切れ目にその身を滑り込ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャスター、きみ…まさか時間稼ぎのつもりでメディアと「何の話ですか?」

 

 

キャスターから返って来たのは、白々しい返答だった。シロはセイバーを連れて、一足先に柳洞寺を後にしたらしい。

 

 

 

「この辺り一帯、柳洞寺の領地だ。明日の朝にはちょっとした山火事程度のニュースが流れるだけだから安心したまえよ。」

 

 

……あれでちょっとした山火事程度?

 

 

 

「ところで半身よ、教会へ行くのか?」

 

「一応…今日の一件は綺礼に報告する。」

 

「そうか。なら身代わりは引き受けよう。あの乗り物も回収しておくから、転移で教会まで送ろう。」

 

 

ぼくは今日中に教会まで綺礼に報告を入れねばならない。もう眠気が限界の中、バイクの運転は危険だ。

 

 

 

 

 

 




オリ主②の性格はとても白々しい。仕えていた神兼義父に似たのか性格は基本善良。FGOにシャマシュ実装来ればネタは広がる。

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