双つのラピス   作:ホタテの貝柱

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名無しのキャスター頑張る
第九話 七割の冗談と三割の本気


「リヒトー!今日、暇?バイト無いならどっか寄り道してかね?」

 

「えーどうしよ。」

 

 

学校終わり、帰り支度をしていたら同クラスの友人に遊びに誘われた。今日はバイトも無いし、行ってもいいんだけど迷う。

 

 

 

今日は私が夕飯作るから、絶対真っ直ぐ帰って来なさいよ?と姉さんに言われてる。夕飯までに帰ればセーフだとは思うけど。

 

 

「わかった、けど夕飯の時間までには帰るよ。」

 

「やりぃ!わかったよ。じゃあゲーセン行こうぜ?新台が今週入ったんだって。」

 

 

 

友達と連れ立って教室を出ようとしたとき、廊下にて背後からとっても聞き覚えのある声がした。

 

 

「言峰君?」

 

「!?」

 

 

 

あれ?姉さん、先に帰ってなかった?先に教室を出たのは確認済みだ。恐る恐る振り返れば、姉さんが桜を連れて腕を組みながら仁王立ちでぼくを待ち構えていた。

 

 

「え、遠坂と、一年の間桐…?」

 

「ね、姉さん…桜も…どうしたの?」

 

 

 

友達は二人の意外な組み合わせに呆気に取られる。ぼくも姉さんの約束を破って、寄り道しようとしたことがバレて声が我ながら震えてる。

 

 

「言峰君は私たちと先約があるの。折角誘ってくれたのにごめんなさいね?また今度、誘ってあげて。」

 

 

 

姉さんはいつもの猫被りモードでぼくと先約があるなんてありもしないことを言い出す。先約なんて無い無い!

 

 

「何だそうだったのかよ。遠坂と先約あるなら先に言えっての!また今度なー。」

 

「ごめん、今度埋め合わせする。」

 

 

 

姉さん相手には友達もさっさとぼくを引き渡した方がいいと判断したらしい、あっさりぼくとの遊びの約束はまた今度と先に行ってしまう。

 

 

「遠坂先輩、言峰先輩にも付き合いが…」

 

「今日は真っ直ぐ帰って来なさいって私が先に言ったんだから、先約は取り付け済みよ?桜が気にすること無いわ。」

 

 

 

姉さん、それ先約に入るの?桜がぼくに対して、とても申し訳無さそうだ。ぼくも言いつけすっぽかして、遊びに行こうとしたのは悪かったけどさ。

 

 

「リヒト、夕飯の買い出しに行くわよ。今日は私が腕によりをかけて、夕飯作るって言ったでしょ?」

 

 

 

どうやら、姉さんは夕飯の買い出しの荷物持ちをさせる為にぼくを待ち構えていたらしい。桜も一緒のようだ。

 

 

 

「今日の献立は中華だから「ぼく、麻婆豆腐は無理だからね!?」

 

 

姉さんが献立の内容を口にしかけ、中華と聞いて麻婆豆腐は無理だと思わず大きな声が出てしまう。駄目だ、中華と聞くと反応してしまうからよくない。

 

 

 

「言峰先輩、中華苦手なんですか?遠坂先輩、やっぱり献立の内容、洋食に変更しませんか…?今なら間に合います。」

 

「びっくりした〜!急に大きな声出さないでよね。大丈夫よ、桜。リヒトが苦手なのは麻婆豆腐限定だから。他の中華は食べれるから、麻婆豆腐は作らないから杞憂よ。リヒトの分は香辛料も控えめにしといてあげる。」

 

 

 

ぼくは麻婆豆腐だけはどうしても苦手だ。大方の原因はキレイにあるんだけど…他の中華は食べれる。でも麻婆豆腐だけはどうしても駄目だ。

 

 

「言峰先輩は香辛料が強い料理と麻婆豆腐が苦手なんですね。ちゃんと覚えておきますから安心してください。」

 

「あ、ありがと桜…麻婆豆腐だけは本当苦手なんだ。あと香辛料きつめの料理も正直きつい。」

 

「じゃ、行きましょうか?」

 

「はい。」

 

 

 

今気付いたんだけど、三人で出かけるのって下手したら十年振り以上じゃないか?姉さん、ぼくが居なくても別に桜と二人っきりで話せないって訳ではないんだろうけど、わざわざぼくに声をかける為に待っててくれたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉さん、余計なものまで買い過ぎないでよ?」

 

「必要な物しか買わないわよ!」

 

 

スーパーに入るなり、姉さんは中華系の食材売り場に足早に向かって行く。その様子を桜が楽しそうに見送りながら

 

 

 

「遠坂先輩、すっかり張り切ってますね。」

 

「ああいうとき、要らんものまで買い込んで結局使い切れずに捨てちゃうから心配でさ。」

 

「神父さんと兄さんが一緒に住んでた時、神父さんがよく姉さんの作った中華料理の味見してましたよね。」

 

「キレイなら大抵の辛い料理は美味しいって好んで食べるからね。懐かしい。」

 

 

桜からふと、昔の話が出る。キレイが辛いの好きだから、姉さんがたまに自分の作る中華料理を毒味…いや、味見させてたのは懐かしい。

 

 

 

「桜、姉さんの前でも兄さんって…呼んでいいんだよ?」

 

 

桜はぼくと二人の時だけ、ぼくのことを昔の様に兄さん呼びする。二人以上の時は言峰先輩で統一してるから、少し違和感がある。

 

 

 

「ごめんなさい、もう癖になっちゃってて…私はもう間桐の人間だから。これは私なりのケジメなんです。」

 

 

桜がマキリの家に養子入りする前夜、ぼくは遠坂家のことなのに絶対に嫌だと何度も泣き叫んで嫌がり、桜を離さなかった。その時、痺れを切らしたキレイが最初で最後にぼくに手を上げたからよく覚えてる。

 

 

 

「部外者のお前が首を突っ込むな。これは遠坂家の問題だ。」

 

「こんなのオカシイよ!!なんで桜がよそのお家の子にならなきゃいけないの!?」

 

「聞き分けなさいリヒト!これは時臣師が決めたことだ!」

 

 

終にはキレイに手を上げられ、ショックを受けて放心状態のぼくに対し、最後に時臣さんがぼくを説得するかたちでぼくはようやく桜を離したのだ。

 

 

その朝、桜はマキリの家に引き取られて行った。今思えば実姉である姉さんだって、桜のことを素直に送り出したのに部外者のぼくがおかしな話だ。

 

 

 

「リヒト兄さん?」

 

「……あ、ごめん。なに?桜。」

 

 

昔を思い出し、桜に声をかけられるまでボウっとしてた。あれ以来、聞き分けの出来ない悪い子のコトミネリヒトはいなくなった。桜が心配そうにぼくの顔を覗き込む。

 

 

 

「やっぱり、お友達と遊びに行きたかったですよね?遠坂先輩はリヒト兄さんに甘え過ぎです!先輩が優しいからって…」

 

「埋め合わせはするって友達にも言ったから、大丈夫だよ。元々、ぼくが姉さんに言われたことすっぽかそうとしたのが悪いんだし。」

 

 

 

にっこり笑えば、桜もホッとした様子で笑ってくれる。ああ、今日ばかりは姉さんに感謝だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食の時間、リヒトが急に席を立つ。どこに向かうのかと思えば、何故か台所からお盆と小分け用の皿を持って来た。

 

 

「言峰先輩?」

 

「リヒト?どうしたんだよ、急に。」

 

「ごめん、シロ。今日は客間で食べる。お盆とお皿借りるね。」

 

「リッちゃん、どうしたの?折角だし、みんなで食べましょうよ。」

 

 

 

藤ねえのリヒトに対する呼び方がすっかり、リッちゃんで定着してしまった。それにはリヒトも完全に諦めたらしく、藤ねえには申し訳無さそうな顔ですいませんと言うだけだった。

 

 

リヒトは盆に自分の分を載せ、それとは別にもう一人前を小分け用の皿に取り分け始める。ん?これじゃあ二人分だぞ。

 

 

 

「ちょっとリヒト!あんたの分、香辛料控えめにしたんだけど…やっぱりキツかった?」

 

 

突然のリヒトの行動に、遠坂が心配気に尋ねる。

 

 

 

「ぼくでも食べ易いし美味しいから、それは大丈夫だよ。今日は客間で食べたいだけだから。」

 

 

そう言って、リヒトは二人分の食事を手に居間を後にした。リヒトの突然の退席に一同は戸惑うばかりである。急にどうしたんだよ?リヒトの奴。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セイバー?」・「騎士王?」

 

 

同時に同じ声が二つして、何事かと目を覚ます。同じ顔が二人、私を覗き込んでいた。リヒトとメイガスだ。

 

 

 

「…どうしたのです?二人共。」

 

 

起き上がれば、何やらいい匂いがした。見れば、何処からか持って来た収納タイプの机の上に食事が用意されてる。

 

 

 

「セイバー、お昼から何も食べてないでしょ?夕食、まだ作りたてだからあったかいよ。」

 

 

リヒトが笑う。どうやら、リヒトがここまで食事を運んで来てくれたようだ。

 

 

 

「ぼくもここで食べるよ。客間で食べるってシロ達には言ってあるから。」

 

 

そう言って、リヒトは私の向かいに座る。

 

 

 

「半身よ、本官の分は?」

 

「君はぼくが食べれば、食事しなくてもいいでしょう?…わかったよ、半分あげる。」

 

 

メイガスが恨めし気にリヒトを見れば、リヒトは折れたように半分あげると言い直した。メイガスは食事を必要としないのに、案外食い意地が張ってる。

 

 

 

「騎士王、相変わらず貴殿も大変だな。霊体化が出来ないというのも。」

 

 

同じ顔二人と食卓を囲むのは、とても変な感じがした。メイガスは私のことを騎士王と呼ぶから、見分けだけはつく。

 

 

 

「霊体化というのは死んだ英霊だからこそ出来る芸当です。」

 

「そう言えば、なんでセイバーって霊体化できないの?ずっと気になってたんだ。」

 

「半身よ、セイバーはまだ死んでない。彼女が契約を交わしたとき、彼女はアラヤに或る契約の条件を提示した。その条件のせいで、彼女はまだ死んではいないのさ。」

 

 

メイガスは私が何故聖杯を求めるのか知っていることもあり、私が霊体化できない理由も何と無く察しているらしい。

 

 

 

「ふぅん、キャスターの言う事はよく分からないけど大変なのは分かった。霊体化できないと、一般の人の目にも触れ易いから困るよね。」

 

「だからシロウは、凛とリヒト以外の人間がいる時は此処にいろと言ったのではないですか。」

 

「……だからって、セイバーも一人で食事するのは寂しいでしょ?シロも気にしてたみたいだからさ。みんなで食事してる時、セイバーを一人にさせるの。」

 

「シロウが?しかし、私はサーヴァントです。別に一人で食事位、どうってことありません。」

 

 

 

シロウは何故か、私をやたらと人間扱いしたがるから意味がわからない。私はサーヴァントだ。

 

 

「でも、食事は一人で食べるより二人以上の方が美味しく感じるよ。ぼくもそうだもん。」

 

 

 

まぁ…一人で取る食事より、この方が賑やかでそれなりには悪くない。リヒトもシロウ程ではないが、どこか私を人間扱いしている節がある。

 

 

「メイガスからもリヒトに言ってください、私たちを余り人間扱いしないで欲しいと。」

 

「半身よ、余りサーヴァント相手に入れ込み過ぎるとロクなことにならないぞ。本官のことも道具程度に思ってくれて構わないといつも言ってる筈だ。」

 

 

 

メイガスの場合、本当に心からそう思っているのか怪しいが。

その時、不意に廊下から慌ただしい足音が聞こえて来た。メイガスが何かを察したのか、スッと姿を消す。

 

 

「リヒト!やっぱりセイバーの所にいたのか。客間にいないから、最初どこか行っちまったのかと思った。」

 

「シロ、セイバーとごはん頂いてる。」

 

「セイバーにごはん運んでくれて、一緒に食べてくれてたのか…悪い、ありがとな。セイバー、やっぱりおまえを藤ねえと桜にも紹介するから来てくれないか?」

 

「え?シロウ?」

 

 

 

食事中にも関わらず、シロウは私の手を取るなりそのまま居間へ…去り際、リヒトがよかったねセイバーと笑うのが見えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんた、セイバーとごはん食べてたの?」

 

 

洗い物をしながら、リヒトはうんと頷く。士郎が士郎なら、リヒトもリヒトだ。桜と藤村先生は帰ったし、士郎とセイバーは今頃部屋にいる。

 

 

 

「私はてっきり、あんたが補佐役のこと気にして私たちと距離置こうとしてるのかと思った。」

 

「シロの家にいる間、ぼくはいつものコトミネリヒトだよ。けど、君らに他のマスターやサーヴァントのことについて話さないし、手助けと捉えられるようなことは一切しない。日常と聖杯戦争は別で分ける、それでいいでしょ?」

 

「それ、詭弁じゃない。」

 

「ぼくを無理言って連れ出したのは何処の誰?ご不満ならぼくはいつでも此処を出て、キレイのところに戻るよ。」

 

「それは駄目!」

 

 

 

気が付けば、リヒトの腕を強く掴んでいた。リヒトがきょとんとした顔で私を見る。あぁ、多分教会に戻れば……リヒトは二度と戻って来ない。

 

 

「綺礼に戻らなくていいって言われたなら、無理して戻らなくていいじゃない!前も言ったでしょう。」

 

「姉さんさ、やたらとぼくを教会に行かせたがらないよね。何で?一応、あそこがぼくの実家なんだけど。」

 

 

 

う、言葉に詰まる。リヒトはあの教会が実家だと言うけど、私はそうは思ってない。

 

 

「あんた、教会より遠坂の家にいた期間の方が長いでしょ!?」

 

「姉さん、それ理由になってない…」

 

 

 

もう教会にリヒトの居場所は無い。居場所の無い場所に弟をわざわざ戻らせるほど、私だって馬鹿じゃないもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらず、君は努力家だなぁシロ。」

 

 

土蔵に気配も無く現れたリヒトに、びっくりして肩を硬ばらせる。土蔵に僅かながら射し込む月光の所為か、リヒトの瑠璃色の目が一瞬金色の光を瞬かせた。

 

 

 

「どうしたの?」

 

「いや、おまえが急に来るからびっくりして…悪いか、もうこの鍛錬も8年は続けてる。」

 

「8年も?これでは自殺の練習だよ。自身を苛む苛烈な修練の向き不向きは人それぞれだが、いずれ下手を打てば君は死ぬぞ。」

 

 

 

またこいつは小難しいことを言ってる。あまつさえ俺の鍛錬方法を自殺の練習だとまで言い放って溜息を吐く始末だ。

 

 

「魔術の第一歩は死を容認することだろ?そういうリヒトだって、最初は魔術回路つくるときしんどかったんじゃないのか。」

 

「つくる?いや、あぁ…まぁ多少はね…けど、物心つかないような小さい頃に無理矢理開かれたから、痛みとかそういう感覚ではなかったな。」

 

 

 

無理矢理開かれた?一瞬、リヒトが何を言っているのか理解できなかった。だって、魔術回路は修行とかで自らつくるものじゃないのか?

 

 

「魔術回路のつくりかたにも色々あるんだよ、シロ。ぼくは早く馴染ませるためにも、人為的に回路を開かれたからさ。」

 

「馴染ませる?人為的にって…言峰神父がそれを「キレイじゃないよ、別の人たちさ。」

 

 

 

別の人たち?リヒトが何を言っているのか、やはり分からなかった。けど、聞いてはいけないような気がして、躊躇われた。

 

 

「君が気になるなら…と思ったが、やめておこう。頼むから、ここで変死体にはならないでくれよ。鍛錬、がんばってね。おやすみ。」

 

 

 

今のはリヒトなりの励ましの言葉と捉えていいんだろうか?リヒトは

ひらりと俺に手を振り、土蔵を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたは一々、白々しいな。」

 

「何の話だい?」

 

 

屋根の上へと難無く登って来て、先輩はリヒトの姿から元の姿へと戻る。衛宮士郎のことだと言えば、先輩はわざとらしく首をかしげる。

 

 

 

「あの子が傭兵に無理を言ったんだ、傭兵はあの子に魔術の教えを手解きする気は無かったと言うのに。」

 

 

先輩が土蔵から出てくるのが遠目がちに見えた。差し詰め、衛宮士郎に冷やかしにでも行っていたのだろう。わざわざリヒトの姿をしてだ。

 

 

 

「リヒトが教えてやればよかったのではないか?」

 

「半身も傭兵から、あの子に魔術の類は一切教えるなと事前に言い含められていたからな。あの子はそれを今でも破ってない。」

 

 

リヒトがその気になれば、衛宮士郎に魔術の一つや二つ、教えることは造作も無いだろう。

 

 

 

「それであの男はあんなことをずっと続けているのか?」

 

「8年もだぞ?自殺の練習じゃないかと言ったら、魔術の第一歩は死を容認することだろと至極当たり前なことを言われてしまったよ。」

 

 

先輩は呆れた様子で肩を竦めた。どうにも衛宮士郎は気に食わない。何れ、直接顔を合わせる日が来るのだろうが。

 

 

 

「アーチャーよ、」

 

「…なんだね?」

 

「この家に来てからの貴殿を見るからに、どうにもあの子が好かないようだな。」

 

 

 

またしても先輩は白々しい質問をしてくる。その顔は、またやけに愉しそうだ。

 

 

「貴殿と彼は“初対面”だろう?まるで、親の仇のようにあの子を見るから気になっていたんだ。」

 

「衛宮士郎が私の親の仇だと?妙な事を言わないでくれ。ただ、ああいう奴は気に食わないだけだ。」

 

 

 

先輩は何を察しているのか、私を見る目は何処か含みがある。あれが親の仇か、喩えはあながち間違っていないかもしれないが…違う。

 

 

「あの子は傭兵のようになりたいと思っていた節があるからなぁ、半身とは正反対だ。半身は神父を反面教師にして育ってくれたからよかったよ。」

 

 

 

衛宮士郎とリヒトを対比的に喩えながら、先輩はさも良かったと言わんばかりに溜息を吐く。

 

 

先輩がリヒトを見る目には、たまに父性のような温かみを感じるから不思議だ。

 

 

 

「神父のような男は二人もいらない。」

 

「守護者が父親の真似事かね?あなたとあの子にどのような関係があるのかは知らないが。」

 

「父親か、そうだな。本官の実父は神からの神託にあっさりと生まれたての我が子を差し出すような男だったから、父親がどういうものか本官にもよく分からないんだ。」

 

 

つい、いつもの先輩に対する仕返しの積もりで言った皮肉が……予想外に返されてしまった。神に差し出された?

 

 

 

「以前、生前は妻を持たなかったと貴殿に言っただろう?だから、結局我が子もこの手に抱いたことはついぞ無かった。」

 

「す、すまなかった…あなたを傷付ける積もりで言った訳では…」

 

 

 

先輩からの予想だにしない返しに、しまったと思い慌てて謝罪した。自分の手のひらを見つめながら話す、先輩の顔がどこか物寂しそうで、いつものように皮肉で返してくれればそれで良かったのに。

 

 

「……ならばアーチャー、貴殿が本官を貰ってくれ。」

 

「は?」

 

 

 

待て、どうしてそういう話になる。

 

 

「貴殿のように料理上手で、気配りも出来ていれば配偶者には申し分無い。少々皮肉屋なところがたまに傷だが、完璧でない方が本官も「待て!あなたも私も男だ!!」

 

「それがどうした?本官の兄上も唯一の友とそういう意味ではスレスレだったぞ。なに、本官は魔術師だ。弊害も取り除こうと思えば容易い。」

 

「人の話を聞け!先輩!!」

 

 

 

この人のことだから、あながち何とかなってしまうかもと思うと恐怖した。それがどうした?と真顔で言うから、こちらが動揺してしまう。

 

 

「聖杯戦争が終わったら婚儀を上げるか?アラヤも社内恋愛ならうるさいことは言わないさ。」

 

「それを人は死亡フラグと言うんだ!社内恋愛とは何だ!?意味がわからな「ぷ、くっく…」

 

 

先輩の肩を掴み、強く揺すりそうになったところで先輩がにわかに肩を震わせる。あぁ、やっといつもの先輩だ。先輩は笑いを押し殺しながら、私の耳元で恐ろしいことを囁く。

 

 

 

「…安心しろ、アーチャー。七割は冗談で三割は本気だ。」

 

 

その三割が洒落にならないんだと、内心身震いした。

 

 

 

 

 




ギルガメッシュ叙事詩も読み様によっては萌えの塊らしい。見方によっては最古の同人誌。

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