自分が情けなかった。
この日の為に私は多くの人の協力を得てきた。全ては今日この日の為だ。それなのに……それなのにこの醜態だ。
こうしている間にもステージは進行している。もう、時間がない。
だがどれだけ立ち上がろうと足に力を込めても、頭を上げようとも余計に塞ぎ込む始末だ。
私のこの有り様を全身が嘲笑っているようだった。嗤われて当然だ。自分自身に怒りすら込み上げてくる。
(無理なのか? アイドルとは────その答えを見つける為に私はアイドルになった。だがこんなところで怖じけるようでは……)
「大丈夫かね」
「高木……社長」
いつの間にか救護室で休んでいた高木社長が私を見下ろしていた。
「緊張しているようだね」
高木社長の声色は優しかった。
「はい、情けなく……震えています」
「皆そうだよ。初めてのステージと言うものは」
「天罰でしょうか……私は今までライブ前に緊張していたアイドルたちに頑張れと言ってきましたが、それがいかに無責任な言葉なのか分かりました」
「ハッハッハッそこまで卑屈にならなくてもいいさ」
「いえ、私はやはりアイドルの気持ちを理解してはいませんでした。今日、改めて思い知りました」
(本当に最低だ……自分を殴ってやりたい)
「……来なさい武内君」
高木社長は、私をステージの袖まで連れた。
「ここから観客席を覗いてみたまえ」
私は慎重にステージ袖から観客席を覗いた。
「観客が見えるかね?」
「はい」
「大勢いるね」
「はい」
本当だった。小さな村だと言うのにとても大勢の人々が集まっていた。正直なところ前座の私のステージなどそれほどお客は入らないと思っていたが、パイプ椅子で組まれた席は全て埋まり立ち見のお客もいる満員だった。
「皆、君の観客だよ」
「それは……それは違います。春香さんたちのファンでしょう」
「確かにそれもあるだろう。だがこの時間だけは、このステージの間は君だけのかけがえの無いファンだ」
「そんな……私は彼らにはほとんど知られていないのに……」
「ライブを制すアイドルは全てを制す。トップアイドルと呼ばれる者たちはその姿で只の人を熱狂的なファンに変える。他のアイドルのファンすらも己のファンにしてしまうアイドルもいたよ」
「……」
「武内君。春香君たちも765プロも関係無い。君のライブなのだよ」
「しかし……私の実力は私が一番知っています。春香さんたちには遠く及びません。きっと観客の期待には答えられません」
「君は春香君では無いだろう?」
「え?」
「観客たちは春香君たちに求めることは春香君たちに求めるだろうさ」
「ですが……それでは私はどうしたら……どんなライブをすれば……」
「君のステージを思う存分楽しめば良いさ」
「楽しむ?」
「当然さ。観客よりもまずはアイドル自身が心から楽しめなければそのライブが成功したとは思わないな」
(楽しむ……果たして彼女たちはライブを、アイドルを楽しんでいたのだろうか?)
「私は……」
その時ステージ上に立つ春香さんから合図が出た。
「それでは! 今年も行います降郷村夏祭りライブの記念すべき一番手は765プロ期待の新人男性アイドル武内さんです!!」
リハーサルの流れならこの後春香さんからのコールで私が登場する手筈だ。
「どうやらもう時間が無いようだね」
「……はい。そのようですね」
「少しは君の緊張も和らいだかね」
気づけば震えは止まっていた。
「ありがとうございます。流石は高木社長です」
「私は大したことはしていないよ」
「そんなことはありません。律子さんも高木社長も、プロデューサーとしても私では遠く及びません。私では上辺でしか言えないでしょう」
「うーん……私は少なくとも君が上辺だけで物を言うような男ではないと思っているよ。君は良い男だからね」
「……恐縮です」
「過ちがあるとするならば、やはり自分で何度でも反省し再挑戦することだよ。先輩からの忠告だ」
「では皆さんご一緒に~! 武内さーん!」
「さぁ出番だ。アイドルに成ってきたまえ!」
「……はい!」
私はステージに登壇し、まずは中央に進む。客席は一切見ていない。正確には見れない。
緊張が和らいだとはいえ本番のステージはリハーサルとは比べ物になら無い圧がある。一歩一歩踏みしめる度に脳内ではリハーサル内容を反芻し混乱している。体の側面からは大勢の視線が注がれていることが理屈ではない気配として肌で感じられた。
春香さんのいるステージの中央まで進むまで時間にすれば数秒、歩数にすれば十数歩の距離だが私にとってはとても長い道のりに思えた。
「あちゃーカチカチですね武内さん、あれじゃまるで軍隊ですよ」
「うぅ……武内さん、頑張ってください~」
律子と雪歩と高木社長は舞台袖で武内を見守っていた。
「なになに律子君たちのデビューも同じようなものさ」
私は観客席を正面に見据えた。鏡がなくても分かる。きっと今の私の顔はガチガチだろう。あれだけ特訓した笑顔もまるで出来ない。
喉が渇くも唾液すら出てこないほど私の口腔はカラカラだった。
「笑顔ですよ。武内さん」
私の耳元で春香さんがマイクを使わずそっと囁いた。
「大丈夫ですよ。ね?」
彼女は私に笑いかけた。
覚悟を決めた。春香さんから渡されたマイクを握り締め一歩、前へ進んだ。
「降郷村の皆さん、初めまして。本日は私共のライブにお越し頂き誠にありがとうございます」
「今度はまるっきりサラリーマンのプレゼンテーションですよ社長」
「美しい日本語じゃないか。変だとは思わないよ?」
「そ、そうですよそうですよ!」
「先輩方には及びませんが私の歌を皆さんに聞いて頂きたいと! その思いでこのステージに立ちました。どぅか……聞いてください」
私の言葉を合図にスピーカーから何百回と聞いたイントロが流れてくる。観客の方々の様子はまだノッてはいない。
『君のステージを思う存分楽しめば良いさ』
(……私のステージ。……歌おう。私の全てを込めて)
私の何かが弾けた。
「やれやれ、ようやくアイドルの顔に成ったな」
「え?」
「なに、こちらの話さ」
よし、出だしは完璧
熱い……
あっ……ズレた
苦しいッ
子供が手を振ってる
修正……
次のキーは……
快感!
不思議な感覚だった。私の体は歌を歌っていたが心はその状況をどこか俯瞰して眺めている感覚だった。感覚が研ぎ澄まされ今なら何でも出来そうな気すらしてくる。
(あれ? もう終盤の歌詞だ。嫌だな……もっと歌いたい……もっと踊りたい……もっと……もっと……私は……)
気づけば既に終わりは近づいていた。そして同時に涌き出る欲望。
『もっとステージに立ちたい』
そして私のステージは終わった。本当にあっという間に終わってしまった。
マイクを下ろし周りを見ると観客席は静まりかえっていた。
横の春香さんもどうしたわけか私をじっと見つめているだけで予定とは違う動きだった。
(妙だな……リハーサルならここで春香さんの司会が入るはずなのに……ひょっとして私は何かとんでもないミスを!?)
私の困った目に気がついたのか、春香さんはようやく本来の司会に慌てて移った。
「……あっ! は、はーい武内さんありがとうございましたー! 皆さんも拍手お願いします!」
期待はしていなかった。私のライブなどあのアリーナライブで見たライブに比べればお粗末この上ない出来に違いないからだ。だが……
「兄ちゃん良かったぞ~!」
「良い歌だったよー!」
「キャー格好いいー!」
「武内さーん!」
「家の婿に来てくれー!」
「これは……いったい……?」
観客はとても熱気が沸き上がっていた。とても前座の盛り上がりとは思えなかった。
「武内さん、観客の皆さんに声をかけてください♪」
「は、はい! 皆さん! 私の歌を聴いてくださり本当にありがとうございます」
「「「イエーイ!!!」」」
観客の掛け声は最高潮に達したのではないか思うほどだった。一身に降り掛かる称賛の雨に私は戸惑いの色を隠せはしなかったが、それ以上に全身から涌き出る歓喜が口角をほころばせた。
「武内さん! ありがとうございます! それではお次は今年もやって参りました! 萩原雪歩のロックステージ!」
「武内さん、ありがとうございます。次は私に任せてくださいね」
私がステージ袖に捌けると同時にパンクロック風の衣装を身に纏った雪歩さんがステージに躍り出た。
観客は更に盛り上がり歓声は私の何倍も大きくなる。
(やはり雪歩さん、765プロは凄い。私もまだまだだな)
「やぁ良かったよ武内君」
「社長……」
「どうだったね。初めてのライブは?」
「……自分が如何に未熟か思い知りました。私は三流もいいとこです。ですが……」
「なにかね?」
「……とても楽しかったです。もう一度、いえ、何度でもライブをしたいです」
「そうかね……それが、アイドルだよ」
(そうか……私はさっき……アイドルだったんだ。そしてこれからも……)
「それでは今年の765プロ夏祭りライブもこれにて終了です。また来年も会いましょう! さようなら~!」
春香さんたちも最後の歌が終わりライブは大団円を迎えた。私はステージには立っていない。それが今の私と春香さんたちとの明確な差だ。
「お疲れ様です。春香さん」
「お疲れ様です! 武内さんすごかったですよ! あのステージ!」
「本当ですよ! 私たちが教えたかいもありますけど武内さんの頑張りが起こした奇跡ですね」
「とっても……とっても……素敵でした。私……ファンになっちゃいそうですぅ……」
「ありがとうございます。ひとえに皆さんのお陰です」
トップアイドルたちから口々に向けられる称賛に私は顔が紅くなってしまう。生まれて初めての経験だ。
「あ! いたいた、婆ちゃんいたよー」
「あなた達は……」
そこにはステージ設営の際に出会ったあのお婆さんと女性が私の前に現れた。彼女は765プロ全員のライブを心待にしていた人だ。果たして私のライブに納得してくれただろうか?
「ほら、婆ちゃん分かる? さっき歌ってた男のアイドルの人。今、目の前に居るよ」
私は女性の言葉にまさかと思いよく見ると、お婆さんの目は白く変色しており恐らく視力が殆ど無いことが分かった。最初に出会った時は分からない事だった。
「あんたがさっき歌ってた人かい?」
「は、はい。そうです、武内と申します」
お婆さんは私の言葉を聞き暫し考え込んだのち、口を開いた。
「ああ、そうだね。今の声、確かにさっき歌ってた人だよ。あんたのらいぶ……良かったよ。あたしはもうあんたの顔やだんすは見えないけど歌はちゃんと聞こえたよ。楽しそうに笑ってたね」
「ばあちゃんなにいってるの? もう見えないでしょ?」
「いんや、笑ってた。見えないけどあたしはわかるよ」
お婆さんはにっこりと笑った。
「家のばあちゃんこの前の
「ああそうだよ。あんた男前だね、分かるよ。あたしも昔は村一番の美人でじいさんを虜にしたんだよ。あたしがあと20年若かったらね~。来年も来ておくれ、また来年まで生きる楽しみが増えるからね。死んだじいさんにはもう少しあの世で待ってて貰うとするよ。ヒッヒッヒッ」
私はお婆さんの背に合わせしゃがみ手を両手で包み込む。
「はい、必ず。必ずまた此処で歌います」
「ありがとう。ほーれやっぱり良い男だ」
私は泣いていた。だけどこの涙は決して悲しみの涙ではない。それだけは理解している。そして、お婆さんの笑顔を、私は生涯忘れないと誓った。
「春香くん、世の中には居るのだよ。レッスンや経験では決して持つことの出来ない、アイドルとしての才能を持つ人間が。物語の主人公、シンデレラのように、人を惹き付けて止まない魔力を持った者達が。私は今までそう言った娘達をアイドルとして見出だしてきたつもりだ」
「武内さんも……ですか?」
「そうだよ。彼を一目みて感じた。此処で逃がしてはいけない。逃がせば私は一生その事を後悔する。そう思ったのだよ。今にして思えば私も彼の魅力に当てられてしまっていたのだろうね」
「なら武内さんは白馬の王子様ですね」
「彼はシンデレラにも成れると思うがね」
「あはは♪ ならとっても逞しいシンデレラですね」
「今回のライブでハッキリと確信した。まだまだ荒削りだが彼は正真正銘のアイドルだ」
「そうですね。私もビックリしました。だって武内さん、レッスンもほんの数ヵ月しかしてないのに……あんなライブをしちゃうなんて」
「逸材だよ。彼は間違いなく同世代のアイドルの中では頭ひとつ飛び出た存在になった」
「そうなったらきっと……いろいろ悩んじゃうでしょうね……」
「そうだろうね。当然そうだ。悩まないわけがない。だから私達プロデューサーが存在していると思うよ。春香くん達と彼のように」
春香は遠い異国へ旅立った男の背中を浮かべる。彼が居なければ自分は途中でアイドルを諦めていたはずだ。彼のお陰で今の自分達が居る。
「そうですね。辛いこともありましたけど、プロデューサーさんやみんなと一緒でしたから……乗り越えられました。あの時は自分の事だけで精一杯でしたけど、その分これからは私達が武内さんに精一杯協力します。武内さんはもう765プロの仲間ですから」
「春香くん……ありがとう」
「さて、ライブも終わったようだし武内君、次の出番だよ!」
「? ……まだ何かあったでしょうか」
「いやー実は君にピッタリのイベントがあるとあずさ君から聞いてね。今年も開催されるようだから申し込んでおいたのだよ」
「イベント?」
「うむ! 降郷村渋いイケメンコンテストだ!」
「それでは今年度の渋いイケメンコンテスト優勝者は765プロアイドル武内さんだ~~~!」
「コッチムイテー!」
「キャーカッコイイー!」
「ダイテー!」
「ムコニキテクレー!」
「……ありがとうございます」
私は何故か先程まで立っていたステージに再び檀上し優勝トロフィーを貰っていた。隣では降郷村に来た際に出迎えてくれた村の青年団たちが悔し涙を流しながら私を讃えていた。
「悔しいが武内さんなら負けても悔いは無い!」
「村の女性票も子供からお婆さんまで根こそぎ持ってかれては笑うしかない!」
「連絡先教えてもらってもいいですか! これからは兄貴と呼ばせてください!」
「やはり私の目に狂いは無かったよ! 律子君!」
「確かに渋いですけど……アイドルが出場して優勝するって不味くないですか?」
「まぁまぁ律子君。固いことは無しだよ。それに皆喜んでいるじゃないか」
夏祭りも終わり皆が帰路に着くなか二人の男がステージ跡に居た。
「良いライブだったな高木」
「おや吉澤くん君も来ていたのかね」
「来ると言ってしまうと武内くんに余計なプレッシャーを与えてしまうと思ってね。しかし来て良かった。まさか彼がこんなライブをするとはね」
「本番に強いとでも言うのかね。明らかにB……いや、Aランククラスのパフォーマンスだったよ」
「驚きだね。初ライブなのだろう、彼?」
「ああ、私も嬉しさ半分驚き半分だよ」
「あれは化けるな。間違いない」
「良い記事は書けそうかね?」
「はっはっは! もちろん記事にはおべっかも遠慮もしないが期待はしていてくれ。久し振りに書きたいと思えるアイドルだからね。こんな気持ちになったのは春香くんたちや音無くん、それにあの人くらいだよ」
吉澤が語ったあの人と言う人物が誰を指すのか、高木は当然一人の女性が頭に浮かんだ。
「吉澤記者に彼女と比べて貰えるとは彼も光栄だ。だがそれでこそだ。私の目標は彼女を越えるアイドルをプロデュースすることでもあるからね」
「おいおい……少しは遠慮を持て高木。いくらなんでも目標が彼女じゃいつか潰れてしまうぞ? それこそ最悪彼女に潰される」
「私は全ての人を笑顔にしたいのだよ。アイドルの力でね。まぁ見ていてくれたまえ。伊達に社長じゃない。会長の意思は決して無駄にはしないよ」
高木の言葉を聞き吉澤はやれやれと頭を振った。
(武内君。君も大変な男の元でアイドルになったな。だがこの男はきっと最後まで君の味方だ。頑張れよ。私は私なりに応援するよ)
この日、降郷村で行われたアイドル武内の初ライブが、後に始まる彼の伝説の幕開けとなることをまだ誰も知らない。だがこの夜の一幕の子細は吉澤記者による記事で、不特定多数による動画で、日本中・世界中に瞬く間に拡散していった。
「ふひひ★さっすが~武内きゅん♥️貴方の一番のファンの私もこれからもずっとずっと応援してるよ★」
「お姉ちゃん……だから武内ってだれ?」
「冬馬くん冬馬くんこれ見た? 噂の765プロの男性アイドルだよ!」
「ああ? あんなへたっぴなパフォーマンス見るまでもねーな。デビューしたときの俺以下じゃねーか」
「まった~強がっちゃって♪ 悔しいんでしょ?」
「さっきしっかりパソコンで動画を見てたよな、冬馬」
「なっ……う、うるせー! 商売敵になるかもしれねーんだぞ! 見ちゃ悪いかよ!」
「えへへ。ジュピターの皆も見たんだ。羨ましいよねーカッコいいなー武内さん。僕もあんなアイドルになりたいなー♪」
「いや涼には無理「だろ」「でしょ」「だね」」
「ぎゃおおおおん! みんな酷いよー!」
「高木社長。我が315プロに対抗するためとうとう男性アイドルを擁立しましたか。しかもなんと驚くべき才能だ! モニター越しからでも君の熱い熱情が伝わってくるぞ! ……だが望むところです。こっちには弁護士からサタンのシモベまでいる無敵の軍団だ! 我が社は君に負けんぞ武内くん!」
「WRYYYYYYYYY!! おのれ高木め! 性懲りもなく男性アイドルなど小癪な! どう追い落としてやろうか……そうだっジュピターを……はう!? そうだった……あいつらはもういないのだ……もういないのだー! おのれ高木ぃぃ嫌みか貴様!!!」
「フフッ、まぁまぁ落ち着きなよ社長。アタシも見たけど良いライブだね。今後が楽しみだな」
「ぬぅ……そんなことはあってはならないと思うがいずれ君を脅かす存在になるかもしれんのだぞ?」
「意見が合ったね。貴方も彼の才能は認めているって訳だ。社長のそう言う確かな目をアタシは結構凄いと思ってるよ」
「笑い事ではないぞ! 頂点は常に一人! それこそが真のトップアイドルなのだ!」
「もちろん半端な輩に譲る気はないよ。それにアタシも彼もアイドル。全てはステージで決めるよ」
「ワハハハハ! みんなこの動画を見ろ! 俺の元同僚なんだぜ? 武内って言うやつでな。凄いんだぜこいつはなぁ……」
「まゆpさんいつにも増して元気ですね。何かあったんですか?」
「……さぁ? 智絵里さん、どうしてでしょうね。ウフフ、まゆのプロデューサーにあんな顔をさせるなんてとっても悪いアイドルさんですね。た・け・う・ちさん? ウフフフフフフフ」
「うわぁ……すごいなこの人。キラキラ光ってる。私もこの人みたいなアイドルになりたいなぁ」
「島村さん、今日もレッスン始めるわよ」
「はい、頑張ります!」
「ねぇねぇこの動画見た?」
「……なんのこと? お母さん」
「知らないの? 今TwitterとかYouTubeで結構人気の動画よ、武内って言う765の新しいアイドル。良い男なのよ~」
「ふーん……そう」
「それだけー? もう、あんたいっつも興味無い顔するわよねー。結構イケメンでワイルド系なのに」
「お父さんがいるでしょ」
「アイドルは別よ~グッズ買っちゃおうかな~」
(アイドルかぁ……私には縁は無いよね)
「ふお! これだよ! これぞ私の目指すモテモテの超人気のアイドルってやつですよ! 私もうかうかしてられないなー何処の事務所に応募しよっかなー♪」
「姉ちゃんそんなこと言って結局いつも応募しないじゃん」
「う、うるさいなー! 私にピッタリの事務所をじっくり吟味してるんだよ!」
「武内くん……良かった。ライブ、成功したのね。私もこれからは346のアイドルとして頑張らないとね」
「ふふふ。貴女も彼を知っているのね同期さん。でも彼は渡さないわ。私の獲物よ」
「あっ貴女は!? 何を言ってるんですか! 武内くんは私の後輩で一緒にレッスンを頑張ってきた大切な仲間よ! ……それで……それで……私の……」
「貴女も浅からぬ仲のようね。でも残念。私の方が根が深いわ」
(た、武内くん……貴方、彼女と何が!?)
(ふっふっふっ……漸く貴方と同じ世界に来たわ。でも今の私では貴方に無様に敗北してしまうわね。でもね、私は優秀なの。すぐに追い付き追い越すわ。あぁ……楽しみよ……貴方に勝つ私。私に負ける貴方。どんな慰めが良いかしら?)
「……流石は765プロ。常に新たな挑戦を図っている。我が346プロも名門に胡座をかいてはいずれ時代に取り残された廃墟になってしまうな。日本に帰るのを少し早めるか?」
「失礼します。日本本社からの情報が此処に。何でも武内と言うアイドルは我が社の……」
「なに? ……ほう……成る程な。どうやら私が日本に戻っての最初の仕事は人事担当の給与査定を見直さなければならないようだな。我が社にとって貴重な人材流出だ」
「早速そのように取り計らいます。それと彼の上司は今西部長のようです」
「……どうせあの人の事だ。情を切り捨てられなかったのだろう。だからいつまでも部長止まりなのだ。彼も給与査定に……いや、それよりもこの武内と言うアイドルの分析だ」
「差し出がましいですがたかが新人アイドル一人に何故そこまで危機感を? ライブ一つ成功させたくらいではまだ海のものとも山のものとも判断できません」
「私も父程ではないが目は鍛えているつもりだ。危機感? とんでもない、それ以上だ。この男は我が社のアイドル部門だけではない。城の姫を脅かす毒リンゴになる可能性を持っている」
(君のアイドルとしての背景、成り立ち、歩んできた人生。すまないが丸裸にさせてもらうぞ)
「お母さーん! ただいまー!」
「お帰りなさい早かったわね」
「お仕事頑張って早く終わったんだよー! あれ? なに見てるの?」
「うん? ああこれ? YouTubeよ。アイドルのライブ見てるの」
「へー珍しいね。お母さんがアイドルのライブ見るなんて!」
「そうねー確かに珍しいわよね。本当に……ね」
(高木社長も随分
「それでも這い上がってきたなら……私が食べちゃうのもアリよね♪」
「何の話?」
「晩御飯の話よ。今日はハンバーグにしましょっか!」
「わーい! ハンバーグ大好きー!」
次はパッションキャラ出そう。