武内pが訳あってアイドルデビュー   作:Fabulous

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ようやくリアルが一段落と思いきや新たな用事がポコポコ沸いてき人生の儘ならなさを感じる作者です。


夢の中

「それでは今回の○○芸能プロダクション主催、アイドル発掘オーディションの合格者を発表します!」

 

 ハイテンションな司会がマイクを握り締め会場全体にこだまするように叫ぶ。そこにいならぶ少女達は全員が緊張し祈るように司会を注視していた。

 

「合格者は~~~~~~○番! ○番の方です!」

 

 司会者の口から合格者の発表が発せられると多くの少女達が落胆の声を上げた。中にはその場に踞り涙を見せる者も居た。

 そしてその中でただ一人栄光に輝いた少女は歓喜と戸惑いが混在した表情で壇上に上がった。

 

「おめでとうございます! 合格の貴女には○○芸能プロダクションとの専属契約の権利が与えられます。どうしますか?」

 

 司会の質問に少女は動揺を隠しきれない様子で語り出した。

 

「あのっ……その、私……受かるって思ってなくて……発表を聞いたときは何かの間違いなんじゃないのかって思いました。でも……本当だって気付いて……すっごく不安で怖いですけど、こんな私でよかったら……ぜひ! デビューさせてください!」

 

 少女は感涙を流しながら声を震わせ思いを告げた。皆、拍手で彼女の決意とこれからの健闘を祝っていた。彼女の明るい未来を信じて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……夢……か」

 

 

 私はオーディション会場の控え室で目を覚ました。部屋の中は誰も居らず私一人だった。今日はオーディション当日、私もエントリーしていた。この日のために毎日レッスンを遅くまでやり続けて本番に挑んだ。

 

 

 

 

 

 結果は不合格。

 

「それではこれにてオーディションを終了します。合格者以外の方はもう帰ってもらって構いません」

 

 あまりにもあっさりとした言葉。この日のために頑張ってきただけにショックで控え室の椅子で落ち込んでいた私は連日のレッスンの疲れが一気に襲ってきてつい寝てしまったようだった。私は目を擦りながら体を伸ばす。そして今見ていた夢に思いを馳せていた。

 

 

 

(随分懐かしい夢だったわ……ほんと……懐かしい)

 

 

 あれは今の私の原点、人生の原動力、輝かしい幸福の時だったわ。今でもあの時の感覚は覚えている。あの時はいきなり周囲から注目されまるで自分がお姫様になったようで、嬉しかった。これから人生が変わると思った。結果的に、私の人生は変わった。

 それが私にとって良い変化かは別に。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、最悪ぅ。なんであんな娘が合格して私達が落ちるのよ」

 

 

 誰かの声が控え室の外から聞こえてきた。

 

「見る目が無いんですよ。××プロダクションはそこまで大手でもないですし、底が知れますよ」

「やっぱり今時は961や346や765とかじゃないと売れないよね~」

「346や961はともかく765はほとんど大規模なオーディションは行わないので門は狭いですからね」

「つーか346も、346で厳しすぎるよ~。何回選考するんだよって感じー」

「母数が多いので絞るのも大変なのでしょうね。大体は二次や三次選考で落とされるらしいですが」

「あーあ、早く私たちも星井美希や城ヶ崎美嘉みたいな可愛いアイドルに成りたいな~」

「そうですね。私は如月千早や高垣楓のような歌唱力のあるアイドルに成りたいですね」

 

「それよりさぁ、ねぇねぇ見た? あの人、また来てたよ」

「"まだ"の間違いですよ。いい加減そろそろ現実見るべきですね、あの人」

 

 

 ドキッと私の心臓が跳ねた。

 

 

「アハハッだよね~。なんかもう痛々しいよね~」

「昔デビューしてたらしいですよ、彼女」

「嘘っ、私全然知らないんだけど?」

「ま、その程度の人気だったんでしょう。実際直ぐにポシャって消えたらしいですし」

「うわ~一発アイドルかぁ悲惨~、ああは成りたくないよね~。あの人も見た目は美人なんだから結婚とかすれば良いのにね♪」

「全くですね。今更アイドルなんて私達の邪魔なだけです。彼女にとっても人生の無意味な浪費です。早く気付けば良いのに」

「どうせ、アイドルやってた頃の感覚が忘れられないんでしょ。みんなチヤホヤしてくれるしね」

「大方そうでしょうね。哀れな人です」

 

 彼女達は口々に陰口を叩いていた。そこに遠慮なんて無かった。

 

「この前の346のオーディションにも落ちたらしいですよ。一次選考で」

「アハハッ、そりゃそうだよ。私達だって三次選考で落とされたんだからね。てゆーか、一次選考って……」

「書類審査ですね」

「やっぱり? まあ審査員だってお馬鹿さんじゃないんだから年増のアイドルなんて要らないよね~」

「見苦しいですね。十代の私達に混ざってなんて、恥ずかしくないんでしょうか?」

「そんな羞恥心あったらとっくに辞めてるって。っていけなーいもうこんな時間。電車遅れちゃうよ。早く着替えて帰ろう?」

「そうですね。そうしましょう」

 

 少女の片割れが急いで扉を開けると小さな悲鳴を上げた。部屋の中には少女達がたった今話題に挙げていた女性が居た。

 

「…………」

 

 それはもちろん私のことだが……。

 

 

「は、服部さん……あ、はは……ひょっとして……聞いてました?」

「…………なんの事? 私、疲れて寝ちゃって、たった今起きたところよ。何かあったの?」

「な、なーんだ。あはは……何でもないですよ? それじゃ私達レッスンがあるんで~」

「オーディション、次は受かると良いですね」

 

 見え透いた取り繕いとお世辞をは言い残して二人の少女はそそくさと着替えて控え室から出て行った。

 

「…………」

 私はその姿をじっと見続けていた。

 

 

 

 彼女達の姿が見えなくなった後、私は壁にもたれ部屋の天井を眺める。

 

 

(もう怒りも感じない……だって、本当の事だから……)

 

 

 彼女達の言っていた事は酷い中傷だけどそれほど間違っていない。

 

『アイドルに成りたい』

 

 ほんの僅かな時間だったけど……もう一度あの場所へ戻りたい。その思いで今日まで必死になって努力し続けた。

 努力なら誰にも負けない自信がある。さっきの娘達とは比べようもない量と質の汗をかいてきた。実力だってさっきの娘達になんて全く負けていない自負がある。

 

 だけど現実は残酷だ。レッスンをすればするほど、オーディションを受ければ受けるほど、痛感する……私に才能が無いことを……。

 私がアイドルだった時に出会ったアイドル達、そして現在活躍しているアイドル達を見ても分かる。みんな私には無い才能を持っている。私があの年代の頃にあれほどの歌を歌えただろうか? あれほどのダンスを踊れただろうか? 

 なによりあれほどの歓声を集められたのだろうか? 

 

 

 無理だ……あの時の私にそんな実力も才能も無かった。

 

 

 それに今は才能だけが問題じゃない。

 もう何年も前から若い娘達に体力で勝てなくなってきたと感じている。技術では負けるつもりは無いが若さ故の爆発力や勢いには負けてしまうことも事実だった。

 

 昔はそれを認めたくなくてより努力を重ねた。年齢で衰えるものがあるならと技術を磨いた。ボーカル、ダンス、ビジュアルのレッスンを行ってきた。誰よりも。絶対に努力は裏切らないと信じていた。がむしゃらだった、周りの忠告なんて気にせず突っ走ってきた。

 

 

 

 そして気付いたら25歳になってた。

 

 

 

 私は未だ、アイドルに成れない。とっくに私のプライドはボロボロで、もう夢を見てはいられない歳だ。夢を叶える為と耳障りの良い言葉で今までごまかし続けていた自分の将来、家族、生活、これまで思考の隅に押し込んでいた色々な考えたくないものが、いよいよはち切れそうに膨らみ限界になっていた。

 

 今年が私のラストチャンスだった。

 

 今年で芽が出なかったら今度こそ……諦める。その覚悟を私は持っていた。

 だから、中傷に一々傷付く暇はない。レッスンを頑張りオーディションに受かりアイドルに成らなければならない。

 

 

(……けれど、……けれど私と言う人間をどれだけ肯定的に評価しても、端から見れば……いい歳にもなっても未だにアイドルを目指している痛い女だ)

 

 

 先程のような中傷はもう慣れた。けれどいつまでも結果を出せずに時だけがただただ流れるのは、じわじわと私の心を削いでいくようで日増しにイライラが溜まっていた。

 

 

 

「……私も帰ろ」

 

 

 

 

 私は私服に着替え駅へと向かった。まだ辺りは明るく、多くの若者が思い思いの目的で町を歩いていた。その道中、様々な広告が目に入ってきた。そこには今をときめくアイドル達がそれぞれの個性を出し商品を、そして自分達を宣伝していた。八つ当たりなのは自分でも分かるがはっきり言って見たくも無かった。

 そんな中、大通りのショーウインドーに大きく貼られた広告を目にした年頃の少女達が道の真ん中で騒いでいた。

 

「ねぇねぇ♪ あのポスター見てよ。城ヶ崎美嘉だよ!」

「ほんとだ~やっぱり可愛いよね。私も髪の毛染めよっかなぁー」

「アハハ♪ じゃあ私は美嘉ちゃんが持ってるコスメ買おっと」

「あ~私も私も~」

 

 流行りのアイドルに影響されそのアイドルの持っている商品を買おうとする。彼女達は見事に城ヶ崎美嘉を起用した企業の戦略に嵌まったようだ。

 

『城ヶ崎美嘉』

 

 ド派手なピンクの髪にこれまたド派手な衣装を身に纏った346プロのアイドルだ。私には理解できないファッションだけど若者からはカリスマギャルとして少し前から注目を集めている。確かにビジュアルは可愛いけどあのファッションセンスでどうして人気が有るのかはやはり理解できない。……私も年をとってしまったのか……そんなことを考える自分に嫌気がする。

 

 

 

 ちょうどスクランブル交差点に差し掛かり信号が変わるのを待っていると、辺りで最も大きなビルの液晶画面に今最も注目されているアイドルが写っていた。  

 

 

「高垣……楓」

 

 

 人気モデルからアイドルに転身してそこでも人気を博している異例のアイドル。近頃は雑誌やテレビでも引っ張りだこのようでアイドル業界に新規参入した346プロの経営方針を不安視する声を一蹴させた346プロアイドル部門のエースだ。

 

(たしか私と近い年齢だったはずよね。だけどあっちは皆の人気者、私は崖っぷちの元アイドル、彼女と私、何が違うの? もう成功している仕事を1度捨ててまでアイドルに成るなんて……どうしてそんなことが出来るの? 私なんて……私なんて……)

 

 

 暗い気持ちに沈んでいると、信号が青になっているのに気付きあわてて周りの動きに加わる。私は高垣楓の液晶画面を見ないように視線を落とすが、よく周りを見るとそこらかしこに高垣楓の宣伝広告があり笑うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 最悪な気分で私は通っているレッスン教室にその足で向かった。休んでいる暇など私には無い。最低で最悪だが今は一刻も早く気持ちを切り替えてレッスンに励むことだ。

 

 

 

「遅れてすみません」

 

 私はトレーナーさんに謝罪しレッスン室に入ると、ふと、見慣れない人物が視界に入った。その人物、彼は私同様動きやすい格好でトレーナーさんの横に立っていた。私やトレーナーさんより遥かに大きい。

 

(……新しいトレーナーかしら? それにしても大きいわね)

 

 私に気づいたトレーナーさんが横の彼について説明した。

 

「服部さん、良いところに来ましたね! 紹介します。今日からここで服部さんと一緒にレッスンをする武内さんです。服部さんも先輩なので色々教えてあげて下さい!」

 

 

「……え?」

 

「宜しくお願い致します、服部さん。色々と勉強させてください」

 

 

「え? え?」

 

「それじゃ、先ずは基礎からいきましょうか。服部さんには悪いですけど、武内さんは新人だから最初は付き合ってあげて下さい!」

「ご迷惑をお掛けします」

 

「え? え? え?」

 

「頑張って鍛えましょうね!」

「はい、もちろんです」

 

「……えぇ?」

 

 

 私の未来は依然、不透明だ。そして今日は更に、霧が出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃじゃーん! どうですか武内さん。よく写っていますよ♪」

 

「まぁ本当。渋いイケメンさんですね」

「まことに武内殿の良さが表れていると感じます」

 

 

「……ありがとうございます。皆さん」

 

 私は事務所のパソコンで765プロのホームページに掲載されている"私の"画像を見つめていた。それは新たなる765プロ所属アイドルとして、社長の指示で小鳥さんが作成した私のプロフィールだ。そこでは私の姿がホームページに大々的に掲載され詳細なプロフィールが掲載されている。使われている写真は先日765プロ専属カメラマンの早坂さんに撮影して貰った写真だ。

 

 

 プロフィールには私が元346プロプロデューサーであることが載っていた。

 

 

 当初、私が元プロデューサーであることを公表することを躊躇っていた。彼女達と過ごした時間をいたずらに詮索されたくはなかったからだ。

 そんな私を諭してくれたのは高木社長だった。

 

『武内くん。誰にでも隠したい過去はある。だが君も分かっていると思うがこの仕事をする上では隠し事は必ず暴かれると考えた方がいい。ならばいっそのこと最初から此方で公表することが一番だ。大丈夫だ、何かあっても765プロと言う名の盾が君を守ろう』

 

 

 高木社長の説得によって私は退職の経緯をプロフィールに公表することにした。

 己の力不足を感じ会社を退職しその後高木社長に出会いデビューと言うのが私のプロフィールの内容だ。

 

 さすがに彼女達との詳細なやり取りは私だけの一存では掲載できなかったが大まかな流れは語れた。それだけでも私としては勇気がいる行為だったがとにかく語れたことは私としてもどこかスッキリした気持ちになれた。

 

 

 影響はすぐに表れた。

 公式に765プロとして私のデビューが告知されたことによって少なからず業界もざわついたのだ。

 あの765プロがアリーナライブでバックダンサーを担当したアイドル候補生とは別に、新たに男性アイドルをデビューさせたと聞けば誰でも気になる。業界人なら尚更で同業種ならば新たなライバルの誕生と当然警戒する。私だって研究する。あの765プロが才能の無いアイドルをデビューさせる筈が無い、と。 

 

 

 実際の私はただの新人アイドルなのに……。

 

 

 

 かくして私は不本意ながらも実力以上の過大評価をされ今に至っている。もし肝いりの男性アイドルが大したことの無いアイドルだと知られればそれだけで765プロの経営方針が疑われてしまうことに繋がり延いては765プロ全体に迷惑をかけてしまうことになってしまう。

 しかし残念ながらそれは事実であり、私のアイドル経験など皆無に等しく実力もEランク以下の素人に毛が生えた程度の実力だ。そんな私が業界をざわつかせていると知り最近少し憂鬱気味でいつ私が素人のアイドルだと世間に露見しないか胃が痛かった。

 

 

 

 私の事をホームページで公式発表する前、高木社長に私の不安を正直に打ち明けると、

 

 

 

 

『ならば実力を付ければ良いのだよ!』

 

 

 

 と、高木社長に言われその日から765プロのレッスン室でみっちりレッスンを行うことになった。

 なんとその際は、765プロの皆さんがレッスンの講師を担当してくれた。

 ボーカルはあずささんや千早さんが、ダンスは響さんや真さんが、ビジュアルは美希さんや雪歩さんがわざわざ私のために僅かな筈の空いた時間を使ってレッスンを指導してくださった。そんな765プロの皆さんのおかげもあり、私の現在のアイドルとしての実力は当初とは比べようもなく上達した。腹式呼吸やステップの基本も覚え、歌やダンスも簡単なものなら一曲通せるようにもなり私自身確かな手応えを感じられるようになっていた。

 

 

 

 

「武内さんを取材したいと各雑誌社や新聞社、それにテレビ局からもオファーが来てますよ。すごいですね♪」

 

「取材ですか……しかしまだ仕事と呼べる仕事もしていないのでほとんど話すことが無いのですが……」

 

 これが私の現在の一番の悩みだ。確かにそれなりの基礎は身に付けた。しかし私は未だ一般のお客様の前に出るような仕事をしていない。これまでにした仕事と呼べるものは伊織さんとの撮影だけであり、それ以外はほぼレッスン漬けだった。しかもその撮影自体宣材撮影の為であり765プロから支出しか生み出さないものであるから今のところ私は765プロに負債しか与えていない。現在も芸能界で大人気の765プロのトップアイドル達の時間はまさに価千金の価値がある。その彼女達からの直接レッスンなど費用換算すればとてつもない投資が私にされていることが元プロデューサー故に嫌でも子細な計算ができてしまう。

 

「いいじゃないですか。皆さん武内さんのことが知りたいんですよ」

 

「みう……あずささん……やはりまだ実感が湧きません。そもそもこの仕事のオファーは私の力ではなく皆さんのおかげがほとんどです。正直……複雑です」

 

 

 2番目の悩みは何度も言うが私に対する世間の評価だ。

 

 ある雑誌では『あの765プロから新たなるアイドル誕生! しかも初の男性!! 男性アイドル業界一強の315プロに対する刺客となるか!?』

『765プロからの新たなるトップアイドルの誕生の予感、ポストジュピターと成りうるか!?』

 

 と、雑誌らしく誇張的な表現ながらも私や765プロに期待する記事が多い一方で、

 

『新765男性アイドルの今後を辛口大胆予想! 自社先輩トップアイドルにおんぶにだっこで成功は安泰!?』

『765迷走! か? 安易に男性アイドルに手を出した代償はいかほど!?』 

 

 など懐疑的や中傷的な記事も少なからず見受けられた。私に対する批判ならば幾らでも堪えられるが私のせいで高木社長や765プロの皆さんまでも面白可笑しく記事にされるのは申し訳ない気持ちで一杯だった。

 それに記事の内容もあながち間違っていない。私に対する取材と言ってもそれは私の実力ではなくあの765プロからデビューした初の男性アイドルだからだ。私自身の力など何処にもないと正直なところ感じている。

 

「よろしいでしょうか? 武内殿」

「……貴音さん」

 貴音さんが真剣な面差しで私に近づいてきた。

 

 

 

「武内殿の戸惑いも分かります。私自身、確かに己で勝ち取ったものにこそ価値があると考えています。ですが今は堪える時。どんな形であれ、仕事には誠実に努めあげなければなりません。それに……」

 

「それに……何でしょう、貴音さん?」

 

「武内殿は決して己の力を過信せず、この状況にも舞い上がらず冷静に己を見つめています。それは素晴らしい美徳と言うものです」

 

「美徳など……実際に実力が無いだけですよ」

 

「いいえ、私はそうは思いません」

 貴音さんはパソコンに写るホームページ画面を指差した。

 

 

「このほぉむぺぇじに写っている写真からは、武内殿の覇気が伝わってきます。アイドルに真摯に打ち込んでいるその意気込みが。見るものが見れば分かる確かなものです。此度のおふぁは、決して私達だけの力ではありません」

 

「貴音ちゃんの言う通りよ。武内さんだってアイドルとしてしっかり力を付けているんですよ。それはちゃんと周りに伝わっていると思いますよ」

 

765(うち)としても取材全部は受けられないので此方で幾つかピックアップしておきます。大丈夫ですよ。変な所の取材は事前にお断りしましたから」

 

 

「皆さん……分かりました。取材、頑張ります」

 

 

「そうと決まればレッスンをもっと頑張ってどこに出しても恥ずかしくないアイドルに成らなければな!」

 

 

「社長、いつのまに?」

「先程戻ってきたのだよ。そんなことより武内くん。取材までは少し期間がある。その間武内くんのアイドルパワーを更に向上させるために765プロ以外のレッスン教室に通いたまえ!」

 

「と言うと外部のアイドルスクールでしょうか」

 

 

「うむ。やはり身内だけではどうしても甘えが出てしまう。ここは思いきって大海に出ようじゃないか! 既に準備は万端だ。さっそく明日から行ってくれたまえ」

 

 

 いつも思うが高木社長の行動力はまさに疾風迅雷の如くだ。即断即決はリーダーシップに必要な要素だと分かっているがこの力が765プロを一躍有名にした経営手腕なのだろうか? 

 

「分かりました。765プロの名に恥じないよう頑張ります」

 

「そしてだ。何事も本番のために練習がある。武内君、君のデビューライブが決まったよ!」

 

「ライブ……ですか?」

 

 私はいつか来るであろうと思っていたライブの名に体が強張る。

 アイドルとして活動するならばライブは必須のイベントだ。新人アイドルの課題は当然ながらファンを増やすことだ。大手であろうが零細の芸能プロダクションのアイドルも、初めは小さな仕事からコツコツとファンを増やしていかなければならない。その中でライブと言うのはアイドルの魅力をダイレクトに観客に伝えられるためファンの増加に繋がりやすい。しかしその逆もまたしかりであり失敗すればファンの減少にも繋がる諸刃の剣だ。

 

「場所はどちらでしょうか? 新しく建設した765シアターですか?」

「いや、それも当初は考えたがシアターアイドル達にとっても大事な時期でね。劇場はシアターアイドル達に優先させることにしたのだよ。だが安心したまえ。劇場に負けない武内君の初舞台を用意した!!」

 

「ちょっと社長! 私も聞いてませんよ~?」

「つい先程決めたからね小鳥君。後で手続き頼むよ」

「も~勝手なんですから~」

 

「あの……それで……場所は?」

 

「おお、そうだった。武内君の初ライブ会場は……」

 

 私は固唾を飲んで高木社長の言葉を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その名も……降郷村夏祭りライブだ!!」

 

 




またもやクール。もっとハピハピしたほうがいいのだろうか?
よし、次はクールにしよう(錯乱)

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