武内pが訳あってアイドルデビュー   作:Fabulous

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リアルが吐きそうなくらい忙しいのに投稿している作者です。(⬅アホ)



自分らしく、いつもどおりに

「写真撮影ですか?」

 

 携帯電話越しに音無さんが説明する。

「はい。事務所としても武内さんをホームページや仕事先に紹介するための資料が欲しいのですが……」

 

「つまり宣材と言うものですか……」

 

 宣材。

 

 仕事先に事務所がアイドルをオファーをする際に使う宣伝用の写真の一つ。たかが写真と馬鹿には出来ない。プロデューサーやアイドルがまだ決定もしていない仕事先に直接出向いて交渉することもあるがマンパワー的に効率が悪く相手方にも失礼と受け取られかねない。そこで多くの場合、履歴書のようにアイドルのプロフィールを掲載した書類を方々に送付して、「当社にはこのようなアイドルがおります。御社の番組や企画に是非ご協力させてください」と宣伝することで業界に顔と名前を喧伝している。

 勿論それだけで採用されるわけでもないが、極端な話顔で選ばれることも往々にしてこの業界では起こりうることであり一般論でも第一印象で良い悪いの判断は見た目がほとんどだ。ましてや直接ではなく写真での第一印象はそれだけでそのアイドルの印象がある程度決まってしまう。故に宣材はアイドルにとって非常に重要な要素だ。

 

「そうなりますね。と言うことでさっそく撮影のために武内さんには明日都内のスタジオで早坂さんに撮影してもらおうと思います」

 

「早坂さん……ですか?」

 私はそんな人が居たかと記憶の海に潜ったがいっこうに答えが見つけられなかった。

 

「ああ、すみません。武内さんにはまだ言っていませんでしたよね。早坂さんと言う人は765プロ専属のカメラマンさんのことです」

 

 合点がいった。346プロでも専属のカメラマンやメイクを多く雇っておりそのお陰でスムーズに撮影が行えたものだった。

 

「明日は11時にスタジオに来てください。場所は○○区の××……」

「そのスタジオでしたら知っていますので大丈夫です。11時ですね」

「流石ですね♪ スタジオに早坂さんが待っています。それと明日は社長や律子さんも所用で同行できないのでお一人で向かってください。ですが伊織ちゃんも明日は同じスタジオでCDのジャケット撮影がありますので分からないことは早坂さんと伊織ちゃんから聞いてくださいね」

 

「分かりました」

「初めての撮影ですが頑張ってくださいね♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 都心の閑静な地区、所謂成功者達が多く関わる場所にそれは静かに佇んでいた。

 西洋風のバロック建築に日本文化の素養も取り入れた和洋折衷の巨大な豪邸。それは知る人ぞ知る、高貴なる御方達が集う都内某所の会員制社交クラブである。

 

 たとえどれ程の財力を持っていようとも、それだけでは決してこの聖域に入ることは許されない。財力はあくまでも条件の一つでありここで最も尊重されるのは『家』

 つまり家柄という必要条件を認められた者だけが敷居を跨ぐことを許された現世とは隔絶されたクラブである。現在、この館には使用人を除き二人の男女が居た。二人は閉塞的ながらも隠然とした雰囲気を放つその館の一室にテーブルを挟み対面する形で向き合っている。その部屋にさりげなく設置されている調度品は、一見すると地味だがよく吟味すればそれがどれだけの途方もない価値があるのかが空気として伝わっており、一級の部屋が用意されているこの館の中でも、この部屋が特別であり、そしてここに居る二人の男女もまた特別であることが分かる。

 

 男は部屋の下座に座し、紅茶を傾けながら上座に座る女を見つめていた。女はと言うとどこか気の抜けた瞳で窓辺から見える空を見つめていた。

 

「いかがですか? ここは由緒ある選ばれた人間だけが通える倶楽部です。貴女にも是非楽しんで貰えたら幸いです」

「とても素晴らしいわね。北海道にこんな格式高い倶楽部はなかったわ」

「そうでしょう。私からの紹介ですので今後は好きに使えますよ。まあ紹介せずともいずれは……」

 

 男と女の会話は対称的だった。男は自信と誇りに満ちた口調で堂々と語っていたが、女の方はどこまでも社交辞令的な返答だった。端から見てもこの二人の間の微妙な距離感が伝わる。

 

 

 

 

 私は彼の言葉を話し半分に聞いていた。彼には悪いが全く興味を持てなかった。

 

 

 空には雲が漂っていた。自由なものだ、私と違って。

 

 

 

(私も結局こうなるのね……。母と同じように"最高の相手"と結婚する……)

 

 私は自嘲した。

 

 目の前の男は私の婚約者……そして近い将来生涯の伴侶となるであろう存在だ。

 不満はそれほど無い。彼の実家は日本有数の資産家であり旧華族の血を引き家柄も経済力も申し分ない。彼も生まれた身分に胡座をかかず独自の事業を立ち上げて成功を収めている。少々傲慢だがこれだけの幸せと成功を享受していればむしろ当然とも言え、それを除けば批判する事が出来ないのも事実だ。

 

 彼を見れば手に持ったセーヴル焼のティーカップを優雅な仕草で口へと運び紅茶の香りを上品に堪能している。

 

「アルコールは飲まれますか? ワインやウィスキーなど幅広く取り揃えていますよ」

「いえ、結構ですわ」

「そうですね、まだ昼間ですからね。そう思いまして、此方に」

 

 すると私の目の前に何処からともなく現れたメイドによってティーポットとカップが完璧な作法で置かれた。

 

 

「最高級のジャスミンティーの一番茶です。お口に合うと思いますよ」

「ありがとうございます。いただきますね」

 

 私はメイドによって注がれたお茶を口元へ運んだ。

 

 一番茶特有の柔らかな口当たりとまろみのある優しい甘さを最初に感じ、香り豊かなジャスミンか鼻腔を包み込む。確かに美味しい。こんな場所でなければ。

 

「とても美味しいですわね」

「そうでしょう。私はアールグレイが最も好きなのですが此方のジャスミンティーは偶然原産地から直輸入ができまして丁度良いと思ったのですよ」

 私は頷き再びカップを口に運ぶ。

 

(趣味も悪くないわ、少し癪に障るけど)

 

 

 男はティーカップを置き会話を続けた。

 

 

「それでこの前のお話はどうでしょうか」

「縁談の件……ですか?」

 

 彼の悪いところがまた出た。今の問い掛けも発せられる雰囲気から"問い"では無く"確認"なのは容易に感じ取れる。

 

「まだ気が早いですが父も母も、一族も、皆祝福してくれていましたよ。私達の結婚は両家の更なる絆と繁栄の象徴と成ることでしょう」

「……それはとても良いことでしょうね。父もとても乗り気ですわ」

「聞いております。大切な娘さんを貰う訳ですからね。私もお父上に恥じない夫に成るつもりですよ」

 

 彼は優しく笑い掛ける。父自ら選んだ男だ、悪い人でない事はもちろん分かっている。けど……、

 

 

 内心今日何度目かの溜め息を心の中で吐く。自分の窮屈な未来に嫌気が差す。だが、だからといってどうしようもない。

 この結婚は以前から決まっていた確定事項だ。私一人では覆せない。いや……正確には覆せなくもないが既に私達の両親が話を進めているのだ。今更私が心変わりなんて許されない、それは彼も同じことだろう。母は最後まで私の意思を尊重すると言ってくれていたがどうせ父の前では無力だろう。それに私は別段意中の相手が居るわけでも無い。端から見ればあまりにもな理想の結婚だろう。悲劇のヒロインと言うには無理がある。きっと私は家庭に入り立派な跡継ぎを産み育て社交界で夫を立てる貞淑な妻になるのだろう。……ならなければならない。

 

 

 ずっと昔からそう教わってきたのだから。

 

 

 

「すみません。ちょっと……」

「どちらに?」

「外で食事をしてきます」

「でしたらこちらのクラブのランチの方が……」

「生憎ですけどそれはいつでも食べれるのでしょう? ○○さんはどうぞ此方で」

 

 私は彼をその場に残して館を出た。外の新鮮な空気を肺に取り込み気分を入れ換える。

 

(流石に失礼だっただろうか……いえ、どうせもうすぐ離婚も出来ない夫婦に成るのよ。少しくらい我を通しても損はないわ)

 

 

 私は沈んだ気分を晴らすため町へ出た。

 

 思えばこれが、私の運命を決定付ける彼との出会いの始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 当日、私は慣れた足取りで撮影スタジオに向かった。音無さんに言われた撮影スタジオは、私が346プロ時代にも使用していた場所だった。城ヶ崎さんや高垣さん、そして彼女達ともここで多くの写真が撮られるのを見守ってきた。

 もう二度とここには来ないだろうと思っていたが、まさかアイドルになって再びこのスタジオに来ることになろうとは夢にも思っていなかった。

 

 だが私はそれよりもスタジオの脇に山のように置かれている大量の衣装や小道具が気になっていた。最初は水瀬さんの撮影衣装かとも思ったがよく見ると全て男物だった。私は嫌な予感がして水瀬さんに視線を向けると、彼女は私の戸惑いに気付いたようで得意気に語りだした。

 

「にひひっ、どう? 、驚いたでしょ? 全部今日の撮影のために私が用意したあんた専用の衣装よ!」

 

 少し目眩がした。

 

「お気持ちは嬉しいのですがこのような派手な衣装や小道具は……その……」

 

 

「なによ、不満なの? 言っておくけどその辺の店で売ってる安物のパーティ衣装じゃ無いわよ」

 水瀬さんの目尻がつり上がる。

 

「いえ、そのようなことは……」

 

 私は困ってしまう。宣材写真の重要性は理解してはいるがどう考えてもキラキラのスパンコールが散りばめられたヒラヒラ衣装は私には似合わないしもっと言えば着たくない。

 

「そ、そうですね……例えばこれなど……」

 

 

 私は取り合えず衣装の山から手探りで掴んだ服を水瀬さんの前に差し出した。

 

 

「あら、それはチャイルドスモックね。可愛らしくていいわね」

 

「すみません、間違いました」

 

 これを着たらきっと何か大切なものを失ってしまいそうだ。急いで他の衣装を引っ張り出す。

 

 

「先程のよりこれなど……」

 

「ナイトメアブラッドじゃない♪ あんた用の男物に特注したのよ。新人にはちょっと露出が多いけどあんたはガタイも良さそうだからきっと見映えが良いわよ?」

 

「……やっぱり別のを」

 

「なによ? 注文が多い新人ねっ」

「……すみません」

「いちいち謝らないでよっ!」

「すみま……あっ……」

「だ~か~ら~!」

 

 

 

「あはは……これは前途多難ですね」

 

(全くだ……せめて水瀬さんの撮影だけは邪魔しないようにしよう。……ん?)

 

 私は二人しか居ないはずのスタジオで謎の三人目の声を聞いた。

 

 

 

「あら、そらじゃない。何時から来たのよ」

 

「ついさっき来ました。わぁ~この人が新しいアイドルですか?」

 

 

 そこにはカメラを携えた若い女性が居た。

 

「貴方はひょっとして……音無さんが仰っていたカメラマンの方ですか?」

 

 

「はい♪ 765プロ専属カメラマンの早坂そら、と言います。よろしくお願いしますね、えーと……」

「武内です」

「ああ! そうでした。武内さん、今日からよろしくお願いします」

 

「さあ、挨拶も済んだんだしさっさと撮影するわよ」

 

「はい! 任せてください。じゃんじゃん撮りますよ~!」

 

 

 

 

 

 そして時間は今に至る。

 

 

「武内さーん。笑ってくださーい」

 

「……こう、ですか?」

 

 私は精一杯の笑顔をレンズに向けてする。

 

「馬鹿ね、それじゃお客さんが泣いちゃうじゃない」

 

 

 ……どうやら酷かったようだ。

 

「はーい、にこー」

「……ニゴォ……」

 

「どこのホラーよ!」

 

 

 それから私にとって永遠とも言える30分が経過してとうとう水瀬さんが痺れを切らしてしまった。

 

「まったく、笑顔の一つも出来ないなんてアイドルをやる気有るのかしらっ?」

「う~ん、今のところ一枚も使えそうな画は撮れてませんね」

 

 どんどん自分が小さくなっているような感じだ。

 

 元々……昔から余り笑わない奴だと言われてきた。自分では笑っているつもりでも周りからはそう見えなかったようだ。学生時代はそれでも交友を広めようと努力したが、笑顔だけは上達しなかった。

 

 

「はぁ、もういいわ。そら、木偶の坊は一旦ほっといて私の撮影をすませましょ」

 

「え……でも……」

 

 早坂さんが困ったように此方を見つめてきた。

 

「お二人がそれでいいなら私は大丈夫ですけど……」

 

「早坂さん、お願いします。私のせいで水瀬さんをいつまでも待たせるわけにはいきませんので」

 

「あら、感心だわ。先輩はきちんと立てないとね。ま、私の華麗なポーズを見て参考にしなさい♪」

 

「う~ん……分かりました。ではまず伊織ちゃんの写真を撮っちゃいますね」

 

 

 水瀬さんの撮影はまさに順調だった。早坂さんの要求に答えてポーズをとり直ぐ様次のポーズに移行する様は流石だ。更に要求されたポーズ以外でもアドリブでポーズをとりそれも水瀬さんのイメージにピッタリなポーズなので見とれるしかない。

 

「はい、終了です。水瀬さん今日も完璧ですね」

 

「当然よ♪ 私はトップアイドルの水瀬伊織ちゃんよ」

 

 水瀬さんは胸を張って答えた。時計を見れば30分があっという間に過ぎていた。私の時の30分とは大きな違いだ。

 

「もう12時ね。お昼にしましょう」

「しかし私の撮影がまだ……」

「どうせ今撮ったってさっきと同じになるわよ。外でご飯でも食べて気分転換でもしましょ?」

「私は朝御飯を遅めに食べたのでお二人でどうぞ。機材のセットも直しますから」

 

「決まりね。近くに良い店が在るのよ。もちろん私の奢りよ♪」

 

 

 私は水瀬さんに連れられて近くのホテルのレストランに来ていた。

 レストランと言ってもファミレスではない。ドレスコード必須の超が付く都内有数のレストランだ。基本いつもスーツを着用していて良かったと安心していたが水瀬さんは慣れた足取りでレストランの扉を開くと近くに居たウェイターが慌てて近寄ってきた。

 

「い、いらっしゃいませっ! 水瀬様っ」

 

「お久し振りね。支配人は居るかしら?」

「は、はい! 直ぐにお呼びします。水瀬様はいつものお席に……」

 

 ウェイターは額に汗を滲ませながら私達を席に案内した後、店の奥に消えていった。そして私達がメニューを見ていた頃、支配人とおぼしき人物が満面の笑みでやって来た。

 

「これはこれは水瀬様。いつも当レストランをご贔屓にして下さりまことにありがとうございます」

 

「あんまりのんびりもしていられないから彼には私と同じものを頂戴」

 

「かしこまりました。お連れ様はアルコールはお召し上がりに成りますか?」

「い、いえ……まだ仕事がありますので、水で結構です」

「あら、少しくらい酔ってたほうが良い写真が撮れるんじゃない? 最高級のシャトー・ペトリュスもあるわよ」

「……お気持ちは分かりますがご心配なく」

 正直、アルコールに頼っても難しいと自分では思う。

 

 

 しばらくして料理が運ばれてきた。

 

(……牛や貝のスープならまだ分かりますが……海亀のスープって……美味しいがさっぱり分からない)

 

 私は目の前の見たことのない料理に目を丸くしていた。取り合えず口に運ぶも美味しいことしか分からない。

 

 

「別に食レポじゃないんだから普通に食べなさいよ」

「あ、すみません。……あっ」

「もういいわよ、それ」

 私は恥ずかしくなり俯いてスープを啜る。

 

「……あんた、前から思ってたけど全然笑わないわね。何か不満なの?」

 

「……いえ、不満などありません。笑わないのは……昔からです」

 

「そ、なら良いわ」

「良いのですか?」

 

「アイドルがみんなへらへら笑ってたら気持ち悪いわよ。その理屈なら千早なんて即クビよ」

 

「では、私は……」

 

「個性は大事よ。でも、アイドルにとって大事なのは自分らしくいることよ」

 

「自分らしく……ですか?」

 

「あんた346プロでプロデューサーやってたんでしょ? その時はアイドルになんて言ってたのよ」

 

「……私は、アイドルの個性を大事にしていました。歌やダンスに限らずそのアイドル一人一人の人間性に着目しました」

 

「ならニコニコするのがあんたらしいの?」

 

「……違い……ます」

 

「なら変に笑わなくたって良いじゃない。あんたらしくカメラに写れば良いのよ」

 

「そう……ですね。そうですね。その通りです」

 

「はい、お仕事の話は一旦終わり。ランチの続きをしましょ。ここのメインのハンバーグは有名なのよ♪」

 

「……ハンバーグは好きです」

「あら? 今、ちょっと笑ったわね。今のは良かったわよ」

 

「……」

 

 私は首に手を当てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう? 美味しかったでしょ?」

「はい、とても美味しかったです」

 

 水瀬さんの言う通りハンバーグは絶品だった。

 

「さて、スタジオに戻りましょうか」

「そうですね、おいくらですか?」

 

「何言ってるのよ。私が奢るって言ったじゃない」

「いえ、さすがに水瀬さんに奢ってもらうわけには……」

「何でよっ」

「私の方が年上ですし……」

「私の方がアイドルの先輩よ!」

「あの……その……」

「せ、ん、ぱ、い、の私が奢る。いいわね」

 

「……はい。ごちそうになります」

「にひひっ、分かればいいのよ」

「あの、水瀬さん」

「何よ、しつこいわね」

「いえその事ではなく、今回のアドバイス……ありが……」

 

 その時私の携帯が着信を知らせた。画面には765事務所からだった。

 

「もしもし、武内ですが」

「あ、武内さんですか。音無です」

 

 電話の、相手は音無さんだった。

 

「どうかされましたか?」

「はい、実は今そらさんから連絡がありまして、カメラの調子が悪いそうで一旦自宅に戻って予備のカメラを持ってくるため、もう一時間ほど待って貰いたいとの事でした」

「分かりました。スタジオの使用時間は大丈夫ですか?」

「安心してください。今日の17時まで使用できるので大丈夫です」

「そうですか。分かりました。後一時間ほど時間を潰します」

「よろしくお願いします。では」

 

 

 

「水瀬さん。後一時間ほど時間が出来ました。スタジオで待ちますか? それともここら辺で時間を潰しますか?」

 

「そうねぇ。なら私はもう一度支配人と話してくるわ。昔からの知り合いなの」

 

「分かりました。では私は近くの公園に居ますのでお戻りになる際に連絡下さい」

「分かったわ。それじゃあね、いい気分転換になると良いわね」

 

 水瀬さんをレストランに残して私は近くの公園まで歩いて行った。

 

 公園は平日の昼間と言うこともあり幼稚園児達が先生に見守られながら無邪気にはしゃいでいた。

 不意に園児達のスモックが目に入り嫌な事を思い出して憂鬱になってしまった。

 

(しかし平日の昼間だからか子ども達やそれ関係の人以外見当たらないな……ん?)

 

 その時私は公園のベンチに女性が座っているのに気付いた。

 

 

 

 その女性は公園という場所と不釣り合いなドレスを着て近くのファーストフード店で買ったと思われるハンバーガーを片手に園児達が戯れる噴水を眺めていた。

 

 

 それより私が気になったのは女性がとても美人だということだ。私の元プロデューサーとしての感覚が告げている。彼女は逸材だ。

 

 

(どうする……声を掛けてみるか? しかし私は仕事中ですし……)

 

「そこのあなた」

 

(以前にも高木社長にプロデューサーとしての未練を見抜かれたがそう何度もスカウトしていては346を辞めてアイドルになった意味が……)

 

「そこのスーツのあなた!」

 

「はっ、はい!」

 

 自分を呼ぶ声に気付くとベンチに座っていた女性が私の前に立っていた。

 

 

「やっと気付いたわね。人をジロジロと見ていったい私に何のようかしら? まさか彼からの監視じゃないわよね」

 

 

「監視? なんのことでしょう。私はただ貴女に……その……」

「私に?」

 

 ここは正直に言うべきだろう。

 

「失礼しました。ご不快な思いをされたのでしたなら謝罪します。ただ、私は……貴女に見とれてしまいまして」

 

「……面白くない冗談。随分紳士的なナンパね」

 

「ああ……いえ、その……見とれると言うのはそう言う意味では……いや、そう言う意味もあったのは事実ですが決して邪な思いで貴女を見ていたわけではありません。私は仕事でアイドルを……」

 

「仕事……ああ、スカウトなのねあなた。悪いけどそんなアイドルなんてくだらないものに興味はないわ」

 

「くだらない……ですか」

「くだらないわ。所詮アイドルなんてコネさえあればそれなりに売れるつまらない存在よ」

 

 私はその言葉に少しばかり怒りを覚えた。

 

「そのように見られることはあります。ですがアイドルは決してそんな単純な存在ではありません。アイドルは日々レッスンに励み努力を重ねて最高のパフォーマンスをし続けています。全てはファンの為に、です」

 

 

「綺麗事ね。どれだけ努力したって結局報われるのはほんの一握りの成功者だけ。夢の世界なんてウソっぱち、残酷な世界よ」

 

 

「はい、それは貴女の言う通りです」

 

「え?」

 

「アイドルは数多くいます。皆が皆、トップアイドルには成れません。底辺があるからこそ頂点があります。上に登れば登るほどそこから落ちてしまう人も増えていきます。私も……そんなアイドルを見てきました」

 

 

「……ほら見なさい。だからアイドルなんて……」

 

「だからこそ、アイドルはコネなどでは決して頂点には立てません」

 

「…………」

「コネが有効なのは否定しません。無いより有る方が当然有利でしょう。ですが、アイドルを評価するのはファンです。そしてファンは決してコネなどでアイドルを評価しません。最後の最後、アイドルを助けるのはそのアイドルが今まで何を積み上げてきたのか。真の実力主義の世界。私はそう考えています」

 

 

「真の……実力主義」

 

「貴女は……そういったものに興味が有るのですか?」

「! ……何故そう思ったのかしら?」

 

「貴女の言葉がそう言っている、と感じたので」

 

 

「ご名答ね。私は今まで評価されたことなんかないわ。少なくとも正当な、ね。私にとって真っ当に生きるなんて本当にくだらないわ。何をしても誰も私自身を評価しないわ」

 

「……私も人のことをとやかく言えるほど生きてきた訳ではありません。ただ、自分に嘘を吐いて生きるのは嫌でした。だから今この道にいます。ですから貴女も……」

 

「ありきたりな言葉ね。そんな軽い言葉聞き飽きたわ」

 

「それでも、私の言葉に偽りはありません」

 

「口ではなんとでも言えるわ。それに結局は私と貴方は赤の他人よ。良いわね、気楽に言えて」

「はい……確かに私と貴女は他人です。ですがありきたりな言葉でも、軽く言ったつもりはありません」

 

 

 私は彼女に思いの丈をぶつける。

 

「私は今まで夢を諦めざるを得ない人達を多く見てきました。彼等彼女等は皆必死で夢を目指していました。汗を涙を人生の一時を削って夢に突き進みました。それでもっ……それでもっ……駄目でした。今まで進んできた道を変えざるを得なかった。だからこそ私は考えます。ボロボロになって、精魂尽き果てたその時こそ、夢を諦める、それが許されると」

 

「……」

「だから……失礼を承知で正直に言います。貴女の事は全く知りませんが挑戦を、夢を、諦めるには貴女はまだ早すぎます」

 

 

「! ……なんですって?」

 

 彼女の目付きが鋭くなる。当然だろう。だが譲れない。私が見てきた人達の為にも、なにより彼女達の為にも。

 

 

 

「戯れ言よ。いったい私にどうしろと言うの?」

 

「頑張ってください」

 

「な!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は目の前の無礼な男の言葉に未だかつて無い苛つきを感じていた。

 

 

 この男は私の事を散々好きに言ってくれたが、そう言う自分はどうなのだ。ただのスカウトのくせに。

 目の前のこのいかにもなサラリーマンに言われる筋合いなんてない。結局この男も自分が出来ないことを他人に押し付けているだけ……その程度の男なのだ。

 

 

「私は以前サラリーマンでした。ですが今は……アイドルをしています」

 

 

 

 

「……え?」

 

 なんだ、今この男はなんて言ったの? アイドル……? 

 

 

「つ、つまらない冗談ね……笑えないわ」

 

「いえ、冗談ではありません。サラリーマンを辞めて今はアイドル活動をしています。此方、私の名刺になります」

 

 

 私は渡された名刺を受け取る。確かに名刺には『765プロ所属アイドル 武内』と印刷されていた。と言うか765プロ? 

 天海春香や如月千早など私でも知っている有名人気アイドルが数多く所属している新進気鋭のアイドル事務所だ。

 

 

 アイドル? この男が? それも765プロの? 

 

(どうかしている。確かに見てくれはそれほど悪くはないがだからと言ってアイドル? 狂っているわ)

 

 

「なぜそんな馬鹿なことをしてるのかしら?」

 

「やりたいからです」

「コンビニのバイトじゃないのよ。あなた今言ったじゃない。誰でも出来るものじゃないって。分かってるの?」

「厳しい世界なのは嫌と言うほど知っています」

「だったらそんな馬鹿なことしてないで……」

「ですがやりたいのです」

 

 彼の目が訴えていた。本気だわ、この男。

 

「確かに私も不安です。ですがそれ以上に、今の私は……以前に比べて幸せなんです。これからどんな世界が待っているのか……堪らなく怖いですが期待している私が居るのも事実なのです」

 

 

「失敗したらどうするのよ。子どもじゃないのよ? 貴方の失敗は貴方だけの責任で負えるものじゃないはずよ。沢山の人が困るのよ」

 

 そうだ、私だって家に、父に迷惑は掛けられない。

 

 

「……貴女の言う通りです。私にも両親は居ますし生活があります。会社の皆さんにも迷惑を掛けてばかりです」

 

「ほら、夢なんて追いかけたって良いことなんか無いわよ」

 

「ですがそれでも、私はアイドルに成ります。そして必ず……答えを得ます」

 

「答え?」

 

「私はアイドルを知りたいのです。真のアイドルとは何かという答えを」

 

 私は目眩を覚えた。

 馬鹿もここに極まったようだ。この男はそんな不確かで訳の分からないことを探すために安定した仕事を辞めてアイドルをやっている。

 

 知りたいから。探したいから。やりたいから。

 そんな理由で……。

 

 

 不意に怒りが込み上げてきた。先程とは違う怒りが。

 

 

 

 不愉快だ。とても不愉快だ。なんなのだこの男は、突然現れたかと思いきや好き放題言ってのけて、この男の言い分はまるで私がなんの努力もしていないかのようじゃない。

 

(冗談じゃない。私だって努力した。運命に逆らうために必死で努力した。なにも知らない人間が分かった風な事を言わないで!)

 

 

 ……そう言い返せたらどれだけ良かったか。

 

 

 私は何もしていない。常に父の機嫌をとってきた。父の理想の淑女たるよう様々な習い事をした。髪も伸ばした。丁寧な言葉使いに礼儀作法も学んだ。努力した。だがその努力は全て家の為父の為、逆らわず期待に応え、良家令嬢を演じ続けた結果だった。それに私が何をやっても周りは誉めてくれた。でも……いつも、いつも、いつも、私を評価する人たちは私じゃない……家を、黒川を見ていた。みんな寄って集って褒め称えた。流石は黒川のお嬢様だ、と。誰も私の事を見ていなかった。私の努力は"黒川"の一言で片付けられてきた。

 それが嫌だった。本当に苦痛だった。でも、いつしか私はそれをどこか冷めた目で見るようになっていた。

 友人と称する人達とそつなく付き合って、大人達のご機嫌を伺って、競争の障害は難なく倒す。そんな日常を私は嫌っていた、だが今はそれを受け入れようとしている。

 

 

 私には夢が無かった。教師、建築家、画家、何でもいい、何か一つでも私に夢と言える夢が有ったならば、父に反抗出来たかもしれない。けど、私と言う人間には何の夢も希望も無かった。

 

 自分が恵まれていることは勿論分かっている。恐らく一生涯お金には困らない生活が約束されている人生に不満があると思うこと自体傲慢な事だとも分かっている。

 

 だけど、それでも、ただ唯々諾々と周りの期待に応える人形、それが私だ。

 

 

 この無礼な男の言う通りだった。

 

 私は私の為に努力なんてしていない。全て他人の為だ。

 境遇を嘆いてばかりで自分の血を流す覚悟も無い臆病者、それが私だ。本当はずっと前から分かっていたことだ。だが、それを認めてしまえば、もう本当に、私はどうしようもない女になってしまいそうで……否定した。私と言う女はいつからそんなに女々しくなったのだろうか。

 

 

 

 

 

「……はぐらかさないで。失敗したら……どうするのよ。貴方の人生が無駄に消費されても誰も責任なんて取ってくれないわよ。精々慰められてお仕舞いよ」

 

「……その時は」

 

 

 彼は首に手を掛けて思案している。当然だ。誰だってリスクは回避したい。出来るだけ安全な道を行こうとする。威勢の良いことを言っているが所詮この男も臆病者に決まっている。

 

 

「その時は……また、やり直します」

「……え?」

 

 

「私にとってアイドルとは、既に人生を賭けるに値する価値があると思っています。それで失敗しても私はまたやり直します」

 

「ばっ……馬鹿じゃないの……後悔したって遅いのよ。十中八九後悔するに決まってるわ!」

 

「もちろん、後悔するでしょう。ですが今の私も既に後悔だらけです。悔やんでも悔やみきれません。ですがそれでもやりたいのです。月並みな言葉ですが、それで傷付いても何かを失っても、やらない後悔よりはマシだと思います」

 

 

 私の精神は混乱の渦にいる。ぐるぐると自分の人生とこの男の言葉が混ざりあっていく。

 

(やめて……これ以上……私の、私の中に入ってこないでっ!)

 

 

 今まで考えては泡沫に消えていった希望が、今再び姿を現そうとしていた。

 

 

 

(無理よ……無理に決まっているわ。だってそうじゃない……夢なんて……持つことも諦めてたのに、私は……私は……)

 

 

「それに、こんな私の馬鹿な夢に力を貸してくれる人もいます。私は一人ではありません。頼もしい方々がいます」

 

(仲間……仲間なんて……居ない……私には、黒川を棄てた私に仲間なんて……)

 

「私がお力になります」

「!」

 

「もし、貴女が本当に目指すべき夢を持ったなら。夢を叶える為に力が必要なら、私が微力ながらご協力します」

 

 

 

「あ、あなたは……」

 

 

 その時甲高い女性の声が響いた。

 

「ちょっとあんた! いつまで油売ってるのよ!」

 

「み、水瀬さん……何故?」

 

「何故もへちまも無いわよ。散々連絡したのになんの返信もないから私がここまでわざわざ来たのよ!」

 

「す、すみません。失念していました」

「全く、ちょっと優しくしたらすぐ気を抜くんだからっ。ほら、早くスタジオに行くわよ」

 

「あの、その」

 

 

 彼は突如現れた少女に首根っこを掴まれそのまま消えていった。

 

 

 

「な、なんだったの……?」

 

 

 

 

 奇妙な出会いだった。

 

 僅かな時間であったが私は控えめに言って混乱している。

 

 

 先程の男のこと

 

 家のこと

 

 彼のこと

 

 私のこと

 

 

 

 

 私の中にはある種の葛藤が巡っていた。

 

 

(彼は夢を追う為に将来を捨てた。なら私は? 私は捨てれるの?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私のミスで撮影が遅れてしまってごめんなさい!」

 

 水瀬さんに連れられスタジオに戻ると早坂さんが開口一番に謝罪した。

 

「機材の不調は仕方がありません。スタジオの使用時間もまだありますので気になさらないで下さい」

 

「そうよ、謝る暇があるなら早く撮影を始めましょ」

 

 

「う~お二人ともありがとうございます。それでは武内さん! 撮影開始しましょう。撮影衣装に着替えますか?」

 

「……いえ、ありのまま(スーツ)で大丈夫です」

 

 

「……大丈夫? 最悪、無理に今日撮らなくても大丈夫だと思うけど」

 水瀬さんが少し心配そうに問い掛ける。屈辱とは感じない。むしろ、私を気遣うその気持ちはとてもありがたいと思う。思えば水瀬さんは言葉こそ厳しいが常に私を意識して発言していてくれた。食事に誘ったのも、笑顔が出来なかった私を思ってのことだろう。

 

 

「ご心配には及びません」

 

 

 

 

 私はとくに着飾るでもなく、カメラの前に立ち真っ直ぐに正面を見詰めた。

 

(水瀬さんは怒るでしょうが一回り年下の少女にここまで気遣われて結果を出さなかったら……男ではない)

 

 

 

「あっ、その表情いいですね! 1枚撮らせてください!」

 

 

 

 

 

「はい。ありがとうございます! 最初より良いショットが沢山撮れましたよ!」

 

 

「そうですか、よかったです」

 

「私も最近女の子ばかり撮っていたので男性の写真を上手く撮れるのか不安でしたけどこの写真ならきっと沢山の人に武内さんの魅力が伝わると思います♪」

 

「水瀬さん、いかがでしたでしょうか?」

 

 

「……ふんっ。少し誉められたからって調子に乗らないでよね!」

 

 

「はい、勿論です。私はまだまだです。これからも水瀬さん達に少しでも追い付けるよう頑張ります」

 

「なっ……ま、まぁそれなりに頑張ったんじゃないの。わ……悪くはなかったわよっ」

 

 

「ありがとうございます。水瀬さん」

 

「……伊織でいいわよ」

 

「え?」

 

「前から気になってたけどわざわざ水瀬さん水瀬さんなんて呼ばないで伊織でいいって言ってるのよ!」

 

 

「は、はぁ……その……ありがとうございます、い……伊……織……さん」

 

「……まぁ良いわ。他の皆も名前で呼びなさいよね」

 

「……努力します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 撮影が終わりスタジオから出ると辺りを夕陽が照らしていた。

 

 

「伊織……さん。帰りまし……」

「奇遇ね。アイドルさん」

 

 振り返ると先程公園で出会った女性がいた。

 

 

「あら? 黒川さんじゃない」

「お久しぶりですね、水瀬さん」

 

「伊織さん、お知り合いなのですか?」

 

「えぇ。家のパーティで何度かね」

 

 

 伊織さんのご実家のパーティに出席していると言うことは彼女もそう言った人なのだろうか? 

 

 

「……私、別れてきたわ」

「え?」

「たった今、彼と別れたわ。もう家に帰れないわね」

 

「ど、どういう……」

「そのまま聞いて頂戴。私も貴方に倣ったのよ」

「はぁ……」

「今のままの私の将来なんてたかが知れるし私が望んだ将来じゃないわ。婚約解消よ。すっきりしたわ」

「だ、大丈夫なのですか?」

「大丈夫なわけ無いでしょう? 電話越しの父はもうかんかんよ。彼や彼のご両親にも最悪に失礼だし、なにより方々に婚約の事はもう伝えてたから後始末の事を考えると頭が痛いわ」

 

「そ、それは……気まずいですね……」

 

 彼女は私を見つめる。

 

 

「貴方のお陰よ」

 

「……まだよく状況が掴めませんが貴女が望んだ結果ならそれで……」

 

「勘違いしてもらっては困るから言っておくわ。私、怒ってるのよ」

「え?」

 

 予想外の返答に思わず疑問の声をあげる。

 

「私にあれだけの辱しめをしておいてそのままなんて私のプライドが許さないわ」

 

 

 辱しめ? 辱しめとはいったい……ひょっとして先程の公園でのやり取りだろうか? 

 

 

「そ、それにつきましては」

「絶対許さないわよ。覚悟しなさい」

 

 

 はっきりと言われた断罪の言葉に喉がひきつる。これでは何やら勘違いされてしまう。

 

「あの……」

 

「必ず貴方を見返してあげるわ。そして今日の非礼を心から後悔して貰うわ」

 

 

 

「ちょっとあんた! 黒川さんに何したのよっ!」

「いえ……決してやましいものではなくて……その……」

 

「ふふ♪ 安心して水瀬さん。私の中に無理矢理入って来て散々好き放題したのは怒ってるけど感謝もしてるわ。新しい悦びを感じられたからね」

 

 

 

 なんのフォローにもなっていない気がする。

 

 

 

「呼び止めてごめんなさい。貴方には仕事があるのでしょう。アイドルのね」

「は、はい。あの……貴女はこれから?」

「さあ?」

「さあ? ……って、本当に大丈夫なのですか?」

「だって本当に分からないんですもの。それが自由と言うものでしょう? 大丈夫よ、自分の面倒くらい自分で見れるわ。それに私、今とっても幸せよ」

 

「幸せ、ですか?」

 

「だってそうでしょう? 私をここまで夢中にさせたのは貴方が初めてよ、逃がすわけないわ。絶対に……ね」

 

 

 ゾワリと背中に寒気が走った。

 

 

 

「…………改めまして、私は武内と申します」

 

 

「あら、そう言えば私、名乗ってなかったわね。私は黒川千秋よ。よろしくね、武内さん♪」

 

 

 

 かくして私の宣材撮影は終わった。

 他にもいろいろ終わってしまったような気もするが兎に角、終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は全てを捨てた

 

 はっきり言って現状は言葉以上に深刻だけど私の心は穏やかだった。長年の重石が取れたように軽やかな気分だ。

 

 彼に私の気持ちを伝えるとみるみる困った表情になった。意外と可愛らしいと感じてしまう。だがここで優しくするつもりはない。

 

 

 

 

 

「復讐は蜜より甘い……。覚悟しなさい。貴方を見返すまで、私は一生付きまとってあげるわ。ふふ♪」

 

 

 

 一人の女性が笑みを浮かべて、夕焼けの町に消えていった。

 

 




他にも登場させたい346アイドルが居ますが私の趣味なのか皆クールで二十歳超えになってしまい只今修正中です。

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