長くなりました。
書きたいから書いたっていうのが始まりではありますが、ここまで来れたのも読者の皆様のお陰です。
評価、感想をくださる皆々様方に心からの感謝を。
そして愛歌様という素晴らしいキャラクターを生みだした奈須きのこ先生と、蒼銀のフラグメンツで可愛らしい愛歌様を描写してくださった桜井光先生、中原先生に最大限の感謝を。
……prototypeノベルゲー化かアニメ化か、FGOでの愛歌様実装はよ(ボソッ
5/6 大幅に修正と加筆。
東北の方に逃げる、とはいえまったく知らない土地ではどう動くかすらも決めることが出来ないので親戚がいる関係で何度か行ったことのある青森県に行くことにした。……青森の地方の方に行くと真面目に言葉が分からなくなるので気を付けよう。
居間のテーブルに自分探しの旅に出ます云々と書いて通帳と印鑑を持ち、山籠もりするための装備一式を纏めたバックパックを担げばすぐに出れる。
携帯電話なんてものはなく、ポケベルも俺は必要ないと言って持たなかった。数年もすればガラケーが出現し、スマホが市場を埋め尽くすことになるのだから無駄金だろう、と放置していたのだが正解だったか。
ファ〇リーズは……一本だけ持っていこう。そんなに必要ない。
ああ、そういえばロマン〇ング・サ・ガ2とか結局やる暇がないといって買わなかったな。すごく好きなのに。どうにかやれないだろうか。やれないだろうな。
……まあなんだっていいか。とりあえず愛歌から逃げられればそれでいい。『俺』という人間のどうしようもない部分が露呈する前に、彼女の前から姿を消すのだ。それで、終わりだ。
「まあ、なんていうか。ほんとどうしようもないな、俺」
東北新幹線で東京から上野、上野から大宮、大宮から盛岡まで移動して……盛岡からは普通に電車か。まだ盛岡から八戸までは開通してない。
盛岡まで行ったら一回安いホテルにでも泊まる感じで行くか。
ああ。なんて、無様。
誰よりも、何よりも好きな女性から逃げ出し、全て捨てて、山籠もりするだなんて。
嗤える。こんな矮小な自分が沙条愛歌と対等であろうなんて――ましてや、その先を望もうだなんて。
滑稽で哀れで、なんて……苦しい。
「よし。まずは東京から出よう。埼玉まで行かないことには始まらない」
すっかり夜になり、暗くなった東京の町を歩く。やはり、夜の東京は好きだ。道行く人々それぞれの物語が垣間見える気がして。
くたびれた感じのサラリーマン、疲れた顔のOL、徘徊している老人、パトロール中の警官、それから――
一瞬で全身が凍り付いたように動けなくなった。いるはずがない、まだ動くはずがない、そう考えていたのに……どうして、なぜ。
「くそっ……!」
その顔を見た瞬間に湧き上がる愛おしさと安心感。それらを上回る恐怖に歯が震えた。最も見つかりたくない、見られたくない相手に出くわした――!
もはや後先は考えるまい。今はただ全力で逃げることだけを考えろ。
「待っ……!」
「お前だけは……お前にだけは、知られたくないんだよ……!」
なりふり構わず走る。制止の声も、今にも泣きそうだった顔も、今まで後生大事にしてきたもの全てを投げ捨てて走る。
――ずっと彼女と対等にありたくて、全部頑張った。誰よりも何よりも、彼女に認めて欲しくて、血反吐を吐くような思いをしながらそれでも走り続けた。
その結果手に入った、頑丈な身体と鍛えた筋肉に物を言わせて彼女から距離を取る。あまりにも重いためバックパックはさっさと放り捨てた。体は軽くなったが心はより重くなった。
――本当はずっと分かっていた。自分が凡人でしかないことも、きっと、彼女がそんな俺を認めないであろうことも。それでも諦めたくなくて、せめて傍にいたくて勉強を必死にして彼女と同じ高校に行けるように努力した。
次第に呼吸は乱れて、走ることも出来ない。だめだ。アイツならこの程度、一瞬で追い付ける。どこかに身を隠さなければ。
確かすぐ近くに廃ビルがあった気がする。ここらでは有名な『出る』スポットだが、
――彼女がいつか出会うであろう男に、何一つ勝てる気がしなかった。彼女が違う男のものとなるなどと、認められるはずもなかった。だから狂った。どうしたら沙条愛歌の『特別』になれるのかと、がむしゃらにもがいた。
「……っは、げほっ、えほっ……」
だめだ。後ろを確認するまでもなく、アイツは追ってきているだろう。根源接続なんてチート、ほんとふざけている。
屋内に逃げ込んでしまったのが運の尽きかもしれない。逃げ場がないので必然、上へ上へと昇っていく。
――分かっていて。それでもなお、自分を騙しながら傍にいたかった。本当は理解していながらそれでも、沙条愛歌の一番になりたかった。
階段を駆け上がり、時々転んで怪我をして、全身血まみれになりながら上を目指す。鍵の掛かっていない屋上に転がるように飛び出すと、大粒の雨が全身を強く打つ。
ああ、くそ。こんなことならもっと――もっと、愛歌と過ごしていればよかった。
「……っ、すんっ……」
「けほっ、こふっ……流石に、根源接続者は違うな。ル〇ラでひとっ飛びか」
いや、あれは街から街へと移動することしかできないか。
全力疾走を続けたせいで熱くなった全身を、打ち付ける雨粒が冷やしていく。荒くなった息が整ったところで身体を起こす。
どしゃ降りの雨の中、翠色のドレスに、安物のネックレスを付けた、いつもの格好の愛歌が立っていた。
全身を雨水に濡らしながら、一度も見たことのないほどに、顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。……また、泣かせてしまったのだ。
もう動く気力もない俺にゆっくりと近づき、崩れ落ちるように縋りついてきた。
「……どうして? わたしはあなたなら、いつだって……!」
そんな言葉が聞こえて。
ついに、抑えていたものが溢れ出てくる。それは、嫉妬だったり、独占欲だったり、殺意だったりと、ありとあらゆる悪感情の数々。
ずっと隠し続けた本音。
「……出来るわけないだろ、そんなこと……! ずっと怖かったんだよ! いつかお前がセイバーを召喚して離れていくんじゃないかって、本編の時間を通り過ぎたことなんてなんの気休めにもならない! いつ聖杯戦争に参加するのか、セイバーを呼びだすのか、そして――そして、恋をするのかって気が気じゃなかったんだ! 手に入らないなら、離れていくなら、深入りしないほうがいいじゃないか!」
――結局のところ。『俺』は頑固で、見栄っ張りで、怖がりなのだ。それが最善だと頑固になって、自分にすら見栄を張って、未来の可能性を怖がって。沙条愛歌を誰かに取られたくなくて、それでも勝てないと絶望して、離れようとして失敗して。
「俺はお前の可能性を知っている。最もなりえる可能性が高いであろう人生を、その結末を見た。だから怖いんだよ! お前の一番じゃないことが……お前の『特別』じゃないことが怖くてたまらない! ――ああ、認めるよ。俺は沙条愛歌が大好きだ、愛してる! この世の誰よりも、何よりも大事だ! 高々ブリテンのトップ張ってた程度のやつに奪われるなんて認められない!」
なんて。もはや自分でも何を口走っているのか分からない。とんでもないことは言った気がするけど、大したことは言ってないような気もする。
一回りして冷静になってしまった頭は状況を冷静に把握する。雨が止んで空が晴れてきたなぁ、とか、朝陽が上ってきてるわぁ、とか、雨で透けたドレスのお蔭で非常に眼福だとか。
俯いていた愛歌に殴られた。
次第にその殴るペースは速くなり、愛歌の肩が震えだす。……なんだろ、死ぬのかな、俺。聖杯戦争のこととかうっかり零しちゃったし。セイバー云々とか言いまくったから並行世界の記憶とか入ってきて恋するモンスター状態かもしれないし。
「うふふふ、あはははっ……ふふ、そんなことでずっと悩んでいたのね。でも、そうね。確かにちゃんと示さなかったわたしも悪いわ」
「え、なに。やっぱりバッドエンド?」
「ええ、そう。考えようによってはバッドエンドね」
ああ、短き我が二回目の人生よ。やっぱり絶望しかないじゃないか。
そんな俺とは対照的に、涙の跡こそ残しながらも、愛歌はくすくすと鈴の鳴るような声で笑っている。ああ、ちくしょう。やっぱり、こうでなければ。
「――ねえ、好きよ。どの世界線にもいないはずの、わたしだけの王子様」
――うん? 一体、どういうことだい? デッドバッドエンドでは?
「え、ちょ、はい……?」
「ね、もう一度聞かせて? あなたが好きなのは……一体誰?」
俺の首をがっちりと掴んで固定し、完全に動けないようにした上でくすくす嗤いながら距離を詰めてくる。……ていうか力強いな!?
抵抗しようにも、下手にしたら首が大変なことになるので動けない。
もう知られてしまっていることだし、その辺諦めたからもういいや、と半分自棄になって言い放つ。ただ、顔を見ていうのはハードルが高いので目を全力であらぬ方向に逃がしながらになるが。
「俺が好きなのは……沙条愛歌、ただ一人だ」
「ええ。じゃあ結婚しましょう?」
え。
衝撃のあまり声も出ず、目を反射的に顔へと向けたところで。
愛歌の唇が、俺のものと重なった。
柔らかい。それと、甘い、ような。
長く、長く口づけを交わしたことで酸素が無くなり、意識が朦朧とし始めたところで愛歌が離れる。
名残惜しさを感じるが、この行動でようやく――遅すぎる気がしなくもないが――俺たちが両想いだということを理解した。
つまり、今のは告白であり、プロポーズまでされたということであり……ということは先程のあれはそういうことで……
「あ、無理」
「ふぇ?」
一瞬にして血が集まり、鼻血が噴き出す。大量の血液を失ったことで意識はすぐに闇へと溶けていく。
なんとも情けないが、体質である。というか愛歌の方もそれを分かっていて俺が状況を理解する前にことを済ませた感がある。
ああもう、ほんと、これだから根源接続者というやつは。
目が覚めたときにはいつの間にか自分の家のベッドに全裸で寝かされていて、ひょっとして今までのは全部夢だったんじゃないかとか、吐きそうになるくらいの恐怖に襲われた。
安心したくて愛歌の姿を探して、周りにいないことが分かった。
そもそも愛歌という存在そのものが夢だったんじゃないかとか、より最悪な方向に妄想が膨らんだところで、やけに体が重いことに気付いた。
「って、そんなとこに……ん?」
何故だか知らないが、愛歌は俺の下腹部を抱き締めるようにして寝ていた。……全裸で。
それを知覚した瞬間、過去にないような速度でもってシーツで包んだ。まだ心臓がバクバクいっている。
金色の髪、白い肌、緩くカーブを描く胸と、その先の……まずいまた気絶する。
なんてことをやっていれば当然起こしかねないわけで。
「んっ……ふぁ……」
「すみませんすみません、まじすみません、見る気はなかったっていうか、見ようと思っていた訳じゃなくて、いや、そりゃ多少は俺も男だから見たいと思ってたけど、いざ見るとなるとちょっと心の準備的なものがですね……」
「それじゃあ、準備が出来るまではおあずけね。お酒の力を借りてもいいのだけど……やっぱり最初はちゃんとしたいじゃない?」
「やっぱり起きてやがったな! ちくしょう、俺の純情を返せ!」
やっぱり分かっててやってやがった! ドキドキしてたこっちの身にもなれよ! ええい、やっぱり『幼馴染様』で十分だろう。
「……むぅ。わたしが恥ずかしくないとでも思っているのかしら」
「恥ずかしいならより一層やめとけよ!? おかげで朝から大変なことになりそうだったじゃないか!」
「そうね、その……大変ね」
「おいやめ、どこに手を伸ばして、ちょっ、あひぃ」
寝起きで大変なことになっていたものが更に大変になっていたのが触られて大変なことになっている。もはや俺も何を言っているのか分からない。
というか、その前にやらなきゃいけないことがいくつもあるだろう。
「お父さんに報告、とか?」
「そういうの、済ませてからじゃないとダメだろう。……っと、そうだ。言わなきゃいけないことがあったんだ」
「……?」
どうしてもこれだけは言わなくては気が済まない。俺の行動で起きた結果は、きちんとケジメを付けなくてはならないものだ。
「お前から逃げようとして、悪かった。それから、また泣かせてごめん」
「――ふふ。やっぱりあなたは変わらないのね。頑固で、見栄っ張りで、怖がり。でも、それを上回るくらいお人好しで、優しい。そんなあなたが好き……いえ、大好き、ううん、愛してる!」
「なっ……」
唐突に抱き付かれてキスを見舞われた。長く、深く、強く、絶対に離さないとでもいうようなそのキスに、意識が飛びかけながらも応える。
――全身どこもかしこも柔らかくて、すべすべで、温かくて。誰がどう見てもただの女の子なのに、根源の姫で、絶対無敵で、恋するモンスターで、半ゾンビで、ファ○リーズ様という恐ろしいもので。
それでもなお、俺は沙条愛歌という少女が大好きなのだった。
つ”ぁーお”わ”っ”だぁぁぁぁぁー!!!
本当に色々ありがとうございました。日間三位とか、一位とか、本当、なんていえば良いのかもう……!(ブワッ
あ、すいません二日くらいお休みください。寝たい。
あ、あと結局一度も玲瓏館の人々を出していないことに気付いたんです……!
あとで優遇してやろうへっへっへ……
話数少ないんである程度ご指摘いただいたりしているところを修正しつつ、エピローグと閑話からの第二部スタートというコンボを始めるよ!
なんかもうだいぶ情緒不安定ですが、ありがとうございました!これからもよろしくお願いします!
次の話は?
-
スイート
-
ノーマル
-
ビター
-
デーモンコア