あとサンディエゴと結婚したエゴ
未来を視ることも出来ず、心を覗くことも出来ず、邪魔するものを殺しつくすのは……出来るけど、そんな中途半端な状態。
昔のように、もしくは並行世界の『沙条愛歌』のようにあれたらどんなに楽だろうかと考えて、でもやっぱりそれは嫌だと思いなおしての堂々巡り。
人払いの魔術をかけたことで、誰もいなくなった校内は当然だけど閑散としていて、わたしが床を踏む音だけが響いている。窓から差し込む夕陽がオレンジ色に染め上げて、少しだけ世界の終末とはこんなものじゃないかと考えてみる。
……いけない。あまりにも彼に拒絶されたショックが大きすぎて世界を滅ぼすとか手当たり次第に殺していくとかそういう発想になってしまう。落ち着け、わたし。まだ完全に終わったわけじゃない。
まずは教室で色々仕切りなおそう。彼の知っている通りの、彼が好きになったはずの、『沙条愛歌』らしく、超然として泰然とした姿を見せなければ。
「……うん」
一度彼の愛を知ってしまったから、もう二度と離れられない。離れたくない。何処までも深く、深く包み込むような、受け止めて、受け入れてくれる彼だから。わたしはこんなにも悩んでいる。
彼の
だって――誰が悪を、それも世界を滅ぼすような邪悪を愛するというのかしら?
そうと知っていながら、それでもたった一人の存在として見てくれるというのはあまりにも嬉しく、苦しい。
だから、溺れるのは仕方がない。
「だからといって他の
……あれ? 別にそんなことを言うつもりはなかったのだけれど……なんとなく言わなきゃいけない気がした。まさか並行世界で……いやいやそんなはず。覗くべきかしら。でも、万が一そういうことだったら悲しいし、つい
気のせいと言うことにしておきましょう。
「――来た」
心臓がどきどきする。うまく喋れるかしら。髪型とか、変なところはないはずよね。え、ど、どうしよう、いつもどうやって話していたかが分からなく――待って待って、まだ開けないで心の準備が、って、あれ……?
「……沙条。その、俺には理由も分からないし、どうすれば良かったのかも分かっていない。それでも謝らせてほしい。沙条を泣かせたことは――傷つけてしまったことは、俺の所為だとは分かっているから……すまなかった」
『やっぱり愛歌はめちゃくちゃ可愛いな。ああもう、どうしようもないなこれ。なんで今まで気づかないでいたのか分からないけど――やっぱり、俺は愛歌が大好きだ』
彼の心の声とでもいうべきものが漏れ聞こえる。私が制限を少し緩めたから聞こえること自体はいいんだけど、でも、内容がおかしい。これじゃ、
もしかして、もしかしてだけど。遂に彼が好意を自覚してくれた、とそういうことなのかも。もしそうなら、ようやくセイバーへのコンプレックスにも折り合いをつけられるようになったってことで、つまりつまり、これはもはや結婚といっても過言ではないのではないかしら!?
お、落ち着くのよわたし……あくまでも落ち着いて、超然としたわたしでいないと。
「ふふっ……あなたはいつもそうね。頑固で、見栄っ張りで、怖がりで――なのに、蕩けるほどにお人好しで、優しい。……ね、頭を上げて? 全然気にしていないの。少しだけ傷ついたのも事実だけれど……それよりも嬉しいことがさっきあったから、もういいの」
「……そう、か。ありがとう。沙条はいつもそうだな。余裕で、超然として、絶対だ」
「そうでもないのよ? ただ、好きな人にはいつも見てほしい自分だけを見ていてほしいもの」
うぅ、だめだ。気を抜くとすぐに頬が緩んでしまう。気持ちが落ち着くまで彼に顔を見せないようにしないと。
そう考えて黒板の方に向かって歩き出す。なんとなく机の天板に指を躍らせながら歩いていると、彼の(心の)声。
『……やっぱり、妖精みたいだな。ああ、でも愛歌が妖精なら――俺は決して掴めない
「むっ……心外だわ……やっぱり
決して掴めない幻想じゃない。ちょっと夢見がちな根源に接続しているだけの実在する女の子であるということを分かってもらわないと。
「ちょ、待て。何をするつもりだ」
「ナニをするって……決まっているわ」
これだけ綺麗な夕焼けに染まった教室で、っていうのもそれはそれで……アリね。でも、今回は初体験だから、出来ればベッドの上でしたい。ああでも、彼が求めるならここでっていうのも拒否する気は……もう、どうして後ずさるのかしら。
「……ねえ? ここでシてみましょうか?」
「やめてくださいしんでしまいます」
『おい馬鹿待てやめろ! 今の俺じゃ拒否できそうにないんだぞ!』
なんだか楽しくなってきた。もう後ろに行くことの出来ない壁にぶつかって、慌てふためいている様子とか、夕陽のせいじゃなく、顔を真っ赤にしているところとか。これ以上なく、そそる。
「それで、誰を選ぶの? 私か、綾香か……それとも、美沙夜ちゃんかしら」
「おまっ、それ以上近づくと……!」
『うわわわ、ちょっ、まっ、近い!』
今まではどうってことなかったはずの距離なのに、自覚した途端にこんな反応をしてくるのだからおかしくってしょうがない。ちなみに質問に意味なんてない。わたしを選ぶことは分かり切っているのだし。
「……近づくと?」
「……死ぬぞ」
『主に俺が』
あえて言葉通りに受け取ったふりをしてみる。
「……ふふっ。あなたに殺されるなら、私はそれでもいいけど……?」
「ちょ、やめっ、ひぃ」
『近い近い近い! 柔い! 温かい! いい匂い!』
余りにも混乱している彼の様子がおかしくて、愛おしくて、ついつい胸元がみえるような姿勢を取る。必死に顔をそらしながらもそこに目線が行っていることを確認して、嬉しいような恥ずかしいような気持ちになる。
頬に手を当てて、軽く魔術をかけながら彼の顔をこちらに向ける。
……うん。小学校の時は加減を間違えてしまったけれど、今回は成功ね。いい感じに理性が蒸発してる。
「あなたが好きな人は……一体誰?」
「俺が好きなのは――」
『俺が、好きなのは……』
……ん、すごい。大分理性が蒸発しているのに、それでもまだ抵抗してる。意地っ張りなところは相変わらずね。
――じゃあ、もっとすごいこと、しちゃおうかな。
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