ノクトとルーナのいちゃいちゃだけでもいいので……
何でもしまむら!
彼の感情と、一部の記憶を沈めてから早いもので、もう数か月が経過した。その間の彼は平穏無事そのもので、勉強に勤しみながらもわたしに構ってくれるという素晴らしい状況になった。
ほんの少しの変化だけど、唯一青木君だけは何かが変わったことに気付いて、わたしに何かあったのかと聞いてきたりもしたのだけど、これはこれで面白いからいいという結論に達したようで、今は生暖かい目で見守ってくれている。
……そういえば、なんという名前だったかは忘れたのだけど、なにか会を立ち上げたらしい。あまり周りでこそこそと動かれるのは煩わしく思うのだけど、青木君なら変なことはしないだろうという
「愛歌? ……もしかして体調悪いか? それなら引き返して家で休んだ方が……」
「え、ええ、なんでもないの。ちょっと考え事をしてただけで、何もないわ」
「それならいいんだが……本当に少しでも体調が悪くなったらすぐに言えよ?」
少し抜けていたところを見られた恥ずかしさで声が出せずに、つい頷くだけの返事を返してしまう。それでも彼が呆れたりするようなことはなく、ただ微笑んで手を引いてくれる。
――今日は、
今年は彼の方から、祭りに行かないかというお誘いがあり、まだ浮上してきてないけどこれは最後まで行く流れ……!と完璧な準備を整えて家を出たのが数分前のこと。綾香に知られたら邪魔、もとい面倒な、彼に迷惑を掛けかねないのでちょっと寝てもらった。
ちなみに言うと、彼の方も記憶を沈めてしまったので認識的には一回目のはず。……はずよね?
うっかりやらかしてしまうことが偶にあるから、最近ちょっと不安が出てきているのだけど、大丈夫よね?
なんて心を読まれたみたいに、ぴったりなタイミングで彼が呟いた。
「去年は受験が忙しかったのもあって、
「そ、そう? でもこんなお祭りなら色々なところでやってるから、その記憶でデジャビュを感じているのかも」
「あー確かに。祭り、って言ったらこんな感じだ」
ちらりと出店のラインナップを見て、自分で言い出したことだけど首を傾げてしまう。トルコアイス、焼きそば、リンゴ飴、わたあめ、型抜き……この辺はいい。普通にどこのお祭りでも見かける。けれど、シェラスコ、焼き鯖、チュッ〇チャプス、千歳飴、モグラ叩き……どうしてここで出店しようとしたのか理解に苦しむ出店がいくつも見受けられる。
去年の記憶が大分薄いから覚えていないのだけど、こんなものがあったような気がしない。今年からそんなチャレンジャー精神溢れる人が多くなるとも思えないのだけど……?
「こんなに種類豊富でもないような気が……」
「言われてみれば、まあ。あまり見ないようなのもあるけど……楽しめればそれでいいんじゃないか? ま、祭りなんてそんなもんだろう。ほら、行こうぜ」
「え? ええ……」
それにしたってもずく屋は無理があると思うの。
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ちらりと耳に挟んだ話では近年ではあまり人が来なくなってしまったため、目新しい感じを出して人を呼び込もう、という計画のもとに今の光景が作られたということらしいのだけど……完全に失敗した形ね。
偶にいい出店があるにはあるのだけど、彼が興味を持ちそうなものでもないし、あまり時間を取らせてしまうのも申し訳ないから基本的に目の前を通り過ぎていくだけになる。
それでもリンゴ飴やチョコバナナ、かき氷なんかは買って食べていく。素晴らしいことに、あまり多く食べてしまうと夕食が入らなくなってしまうという大義名分のもと――
「は、はい。あーん……」
「ん……やっぱリンゴ飴はうまいなー。じゃあお返しにこれ。ほら、口開けて」
「ぅ、あ、あーん……はむ」
やってみたかったことの一つ、食べさせ合いが出来る。
色んな意味で美味しい状況に
本当は別にこんなことしなくても夕食が入るくらいの分量しか食べないつもりで、食べさせ合いをするなんて考えてもいなかったのだけど。
どこかで見たような若い男女が食べさせ合いながらわたしたちを追い越していって、最後に腹の立つような笑みを浮かべてこんなこともしていないのか、とでも言いたげな目をしていったのがすごく気になって、ついむきになってやってしまった。
……本当にどこかで見たことがある気がするのだけど、どこだったかしら。
ああ、でも。そんなことを覚える余裕があるなら彼の一瞬一秒を目に焼き付けることに使いたいし、気にすることでもないか。
早々に思考を断ち切って、二人で出店を冷かしたり、偶に買ったりして進んでいく。人が多くてはぐれそうになるからと、繋いだ手をぎゅう、と握りしめて。時折緊張のあまり汗ばんでいないかとか不安になって、でも離したくなくて。そんな葛藤を抱えながら歩いていると――
「……あ。これ……」
「ん? どうかしたか?」
「あ、ううん。なんでもないの。ちょっと気になっただけだから……」
安っぽい金属アクセサリーを並べた出店。黒い布で覆われた台の上に並べられたネックレスの中の一つに、一瞬目を留めてしまった。いかにも安物という感じの、シルバーアクセサリー。桔梗を模った小さなプレートのついたそれに気を取られた。
ほんの一瞬、これならいつも着ているあのドレスと合うんじゃないか、なんて考えて、これを付けている姿を想像して――そして、そんなわたしを見たら彼はどんな反応をするだろうかなんて、他愛のない想像。
態々歩くのを止めてまで買おうとか、そこまで考えていたわけじゃない。けど、ちょっとだけこんなものが欲しい……かもしれない、と思っていた。
そんな、ほんの少しの思い。でも彼は、
「……ああ。うん。確かに、これは愛歌に似合うな」
なんて言ってすぐに買って。笑いながら着けてくれて、ああ、やっぱり似合うな。だなんていうのだ。……ずるい。ずるすぎる。
こんなことばかり続いたらわたしが耐えられなくなってしまう。
熱くなった顔を隠すように俯いたところで、空に大輪の花が咲いた。
「おおーすげぇ」
「……ううぅ」
悔しさのような、嬉しさのような、複雑な感情がわたしの中に吹き荒れる。
――どうにも、ありがとう、という一言は言えそうにない。
某理系の恋愛漫画ネタで気絶王にストロンチウムがいい発色をしているな……って言わせたくなったのは内緒。
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