メイドオルタと頼光さんは絶対引きたいのだ……
あの夏祭り以降、彼は変わった。
まるで鋼のように冷たい表情で、笑うことが無くなった。……いえ、薄く笑うことはあるのだけど、そこに感情はなく、ただ表情筋を動かしただけ、というような。
本当の意味で笑うことも、怒ることも、泣くのも、全部、全部無くなってしまった。心が――感情が欠落してしまったように、勉強をしている。
お義母様もそんな様子に気付いていて、わたしに何かあったのか、と聞いてきたりもしたのだけど……誤魔化すことしか出来なかった。
だって、そうでしょう? わたしが招いた事態だもの。
彼はどうしようもなく、セイバーを恐れている。……その、より正確に言うなら、セイバーが現れて、わたしが離れていってしまうことを、ということになるのだけど。それだけ想われているというのはそれこそ飛びあがりたいほどに嬉しいけれど、同時に彼を苦しめていることで並行世界を滅ぼしたくなる。
「……ええ、そう。
……それでも。彼は苦しんだ。苦しんで苦しんで、わたしへの想い――すごく嬉しくて恥ずかしいけれど、所謂ところの恋や愛と呼ばれる感情だ――を、一部の記憶と共に心の奥底へと封じ込めた。絶対にセイバーに敵わない、という強迫観念にも似た思いと、それでも沙条愛歌が好きだという感情の板挟みで、狂ってしまうと思ったから。そうして狂ったら最後、わたしに何をするか分からないから、だから忘れた。
でも、それでまた彼は苦しんでいる。忘れた、と思い込んでいるだけ。その実思い出さないように、気付いていないように、錯覚しているのだと、自分に言い聞かせているだけ。結局彼は、どう足掻いてもいつか狂ってしまうだろう。
――いえ。気付いていないだけで、すでにもう狂っているのかも。
わたしだったらどうだろうか、と考えて……思わず周囲の空間を捻じ曲げかけた。仮に――仮に、彼に好きな人がいて、その人が絶対に敵わないと思う人だったら……悲しみと絶望のあまり全部滅ぼしてしまうかも、いや、する。
であれば、未だ常識を残し続けている彼が、自らを律するために強力な自己暗示をかけて心を守ったのも、それでまた苦しんで、感情そのものを捨て去ろうとするのも、そうおかしな話ではないと思う。
結局失敗しているけれど。
「だから……ね? そのまま苦しんで壊れていくあなたを見つめるよりは、悲しいけれどこうするのが一番でしょう?」
愛おしい。ただ一つだけ浮かぶその感情を隠すことなく、言葉に乗せながら、眠る彼の頬に触れる。
数日ぶりに触れた彼は、少し痩せて睡眠もあまりとれていないようだった。それだけ、苦しんでくれた。それほどにも悩んでくれた。ただその事実があれば、わたしはいつまでも待てる。
「あなた自身の望み通りに、少し隠すだけ。奥底に沈めたそれに気付けるのは、あなたを縛るものが無くなった時。意地っ張りで、見栄っ張りで、それでも素直なあなたなら――きっと、すぐ。それまではわたしも待ち続けるわ」
深く、深く、無意識と呼ばれる領域の、さらに根底に。隠すのではなく、気付かないふりをするのでもなく。ただ、『当たり前のこと』として沈める。灯台下暗しというか、そんな感じで。当たり前だから、自覚できない。それが『普通』だから、理解できない。そんな具合に彼の中に潜り込ませる。
いつか彼がセイバーという鎖を引きちぎれるようになった時が、本当の始まり。あまり長く待たせ過ぎると我慢できなくなって、それこそあなたの危惧の通りに世界を滅ぼすかも……ね?
……それはそれとして、一体どうやって並行世界に
愛歌様大誤算の始まり
PS4proに買い替えるための資金に手を付けそうなくらいガチャを回したい……
次の話は?
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