なんだろう、なにが起きたんだ……?
一回リフレッシュも兼ねて次は閑話にしようと思います。
10/12 修整
祭囃子。
浴衣。
出店。
人々の笑いあう姿。
そんな、なんでもない光景の全てがキラキラと輝いているような錯覚。
どうやらわたしは、自分で思っていた以上にこの祭りを楽しみにしていたらしい。
いえ、より正確には『彼との』祭りという注釈が付くのだけど、それはそれ。なんにせよ祭りが楽しみなことに変わりはないのだから。
そう考えてみれば、彼とお祭りというのは初めての体験なんだけど……今まで一緒にお祭りに行ったことがない原因がわたしというのだからもう本当に、どうしようもない。
「……うう。本当にどうして今まで……」
妙な気恥ずかしさとプライドみたいな何かが邪魔をして誘えず、気付いたら夏が終わっていた――なんて、笑い話にもならないでしょう。
「――あ」
彼が来た。
まだまだ遠くではあるけれど、わたしが見間違えるはずもない。
……え、あれ? ちょっと待って。
まさかそんな格好だなんて、聞いてない。いえ、別に祭りだから普通だけど。普通だけど――そんなの、耐えられるわけがないじゃない……!
予想していた普段通りの格好ではなく、彼が着てきたのは浴衣。その、藍色の浴衣からほんの少しちらりと覗く鎖骨付近にくらりとくる。この光景が見れただけでもここに来た意味は十分過ぎるほどにあったと思う。
なんてことを考えているわたしに近づいてきた彼が驚いた表情で固まった。
「……愛歌? どうしてここに?」
「あ、え、ええと、場所と時間だけ指定された紙が入ってて、それで来たのだけど……その、あなたは?」
「えっ、ああ、その。青木に
「あっ、そ、そうなんだ……」
……っう、ええ!?
顔が熱い。
そんなことを言われたらどんな人だって照れるに決まっている。
あ、違う。実際に言われているわけじゃないから、そんなことを『思考されたら』というべきなのかもしれない。
ああ、もう。たった少し顔を合わせているだけで思考がぐちゃぐちゃになるくらい――狂おしいほどに、好き。
そうやっていつもの表情を繕って悶えているわたしの状態を知らないのにも関わらず。その思考をそのまま口に出してきた。クリティカル。
「あー、その、なんていうか。その浴衣、すごく似合ってる、と思います。はい。いつもそうだけど――今は、それ以上に可愛く見えるというか。うん、まあとにかく、すごく可愛いと思う……あれっ!? どうし、鼻血!?」
「い、いえ、なんでもないの。本当に、なんでもないから……!」
嬉しさの極みのような感情と、昂ったことで噴き出した
読む前は、結果的にいつも不意打ちの形でこんなことを言っていたけれど、読むことを許容した後からは、思考で一撃入れてから言葉で追撃してくるのだからさらに質が悪い。
……うう。
「……その、あなたも、すごく似合ってると思う。か、かか……かっこいいと思うわ」
「えっ、あっ、はい。ありがとうございます……?」
その一言を最後に、しばらく二人で黙り込んでしまう。
少し申し訳なく思いつつ覗いていた心の中で、どうやって、何を、どう話そうかと葛藤し続ける彼の姿が見えている。対するわたしも……どうすればいいのか分からない。ただの会話だって、結構久しぶりなのだから仕方ない。
二人並んで座りながら、お互い顔を真っ赤にして顔をチラチラと見ては目が合った瞬間に逸らすという行動をやり続けている。
しばらくそんなことをしていると、隣でぱしん、と頬を叩く音がした。驚いて目を向けると、よし、という声。
「あー、なんだ。……その、一緒に回る? ……って、ああ! もちろん嫌とかなら全然断ってくれてもいいし、ただ、折角だから二人で回りたいというか、そういう意図でいったわけで、決して疚しい気持ちがあるわけじゃないから安心してほしいというか!」
視線を落ち着かない様子で色々なところにやりながら、顔を真っ赤にして、うなじのあたりを右手でさすりつつ、それでもわたしを誘ってくれた。
その内心が天地がひっくり返ったと言ってもいいほどに大変なことになっているのは『視えて』いるから、というわけじゃないけど……こっちは少し余裕をもって対応することが出来た。
「っよ、よろこ、喜んで!」
……訂正しよう。全然余裕なんて持てなかった。
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二人でお祭りを回る、といっても見るものや、食べる――あるいは、お腹に入る量的な意味合いでの食べられる――ものも少なく、結果的にやることはお祭りの雰囲気を感じながら歩くということになる。
たくさんの人たちとすれ違いながら、段々と出店の少ない方へと歩く。ちら、と彼の顔を上目に見て、考えていることを視て、胸が締め付けられるような感覚に襲われる。
「……そういえば、その。なんだか気を使わせてしまったみたいなのだけど……本当にわたしとここに来て良かったの? 受験勉強、大変でしょう?」
「あー、うん、まあ。割とまずいかもしれないけど……愛歌と一緒に居たくてさ」
ほんの少し。ほんの少しだけ、引き攣った歪な笑顔。苦しくて、辛くて堪らないのに、それを必死に隠して無理矢理笑おうとして作り上げた、そんな笑顔。
そんな顔で笑わないで。あなたの望むことならなんだってしてあげるから、なんだって殺して見せるから、辛いのを隠して笑ったりなんて、しないで。……そう言えたら、どんなに楽だろう。
「ああ、そうだ。花火があるらしいんだけど、ちょっとここだと人にぶつかったりで危ないし……少し、落ち着けそうな場所でも探そうか」
泣きたくなる。辛そうな彼を前にして何かをしてあげることが出来ない自分が情けない。『 』に接続していたって、本当に大事なことには使えない。本当に欲しいものは手に入らない。なんて、無駄な力。
地面が石畳で舗装されていない剥きだしの土に変わり、木が生い茂って見通しの悪いところまで移動する。ここまでくれば流石に人の姿もなく、何をしても誰かに気付かれる心配がない。
「……うん。ここならいいかな。……愛歌にさ、ちゃんと言っておきたいことがあるんだ」
「っ、なにかしら?」
たった一言を返すだけで涙が溢れそうになるのを必死で堪え、彼の目をしっかりと見つめて、言葉を待つ。
一息。千切れそうになっていた心を無理矢理に整理すると、少しだけ身を屈めてわたしの目を真正面から覗き込んできた。
「……たとえ何が起きて、愛歌が何をして、俺が死ぬとしたって、この気持ちは絶対に変わらない。多分、これが最初で最後に伝える、俺の本心になるだろうけど。俺は――沙条愛歌のことが大好きだ。愛してる」
――その言葉が彼の口から紡がれるのと同時に、夜空に花火が咲いた。
気付いたらツイッターを三週間くらい開いてなくて草
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