幼馴染が根源の姫だった件   作:ななせせせ

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結局誘惑に負けてストロベリーアイスを食べてしまった……
まあFGOでは剣式さんレベル100フォウマなんで許してください……

10/12 修整




 ――わたしはイラついていた。

 いや、実際はこれがわたし自身にもよく分からない感情で、イラついていると形容するのが一番近い気がするからイラついている、と言っているだけなのだけど。

 未来視が使えなくなってようやく、人らしい感情というものを理解できるようになったとはいえ、あまりにも複雑怪奇なこの今の感情をどう形容すればいいのかは分からなかった。

 

 その原因は今も隣を歩いている……

 

 

「んー? どうかしたか?」

「……っ、いい加減その惚けた表情とか、やめてくれる?」

「ひでぇ……」

 

 

 ……この男だ。

 保健室であんなことを言っておきながら、戻ってきても素知らぬ顔でずっと接してくる。おまけにわたしの額に手を当てて熱があるんじゃないかとか、好き勝手言ってくれるのだ。

 

 

 一体、誰の、せいだと、思って、いるの、かしら!

 

 

 ああ、腹が立つ! 好きだと言ったくせに、何でもないことのように振る舞って! わたしだけかき乱されて!

 

 

「むぅ……!」

「おいやめろ、殴るなって! 右肩が!」

 

 

 このもやもやとした内心を吐き出すように延々と殴り続けていると、手を握って固定された。そういう余裕の態度が本当に頭に来る……!

 

 

「……自分で言ったくせに」

「え? ……ああ、保健室の? 冗談か本当かで悩んでるなら、間違いなく俺の本心だよ」

「ふぇっ!?」

 

 

 小さい声で聞こえないように言ったはずの言葉を聞きのがさず、しかもすぐに何のことか察したっていうのに。

 そんなことを言いながらいつもの表情ってどういうことなのか。その辺の心の機微というものを分かってほしい。

 

 ――ああもう、本当に。訳が分からない。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 昔のわたしたちを思い出してつい、笑ってしまう。よくもまあ見事にすれ違っていたものだと、昔のわたしながらに感心してしまうほど。

 

 可笑しくて、くすくすと笑っていると隣を歩いていた彼が身を屈めて目線を合わせてくる。危ない危ない。間抜けな姿なんて見られようものなら一度世界をやり直す方がマシだもの。

 

 

「愛歌?」

「ふふ、なんでもないの。それで……次は、どこに行くの?」

「……本屋寄りたいんだけど、いいかな」

「ええ、もちろん。あなたと一緒なら、どこへ行くのも楽しいもの」

 

 

 恥ずかし気に目線を逸らされた。それと、少し手を握る力が強くなった。

 温かい、手の感触。並行世界のわたしの知ることない心地よさ。断言しよう、この『わたし』が全わたしの中で最も幸せである、と……!

 

 

「えへへー」

「うっ……その、あんまり引っ付かれるとだな」

「……引っ付かれると?」

「いや、なんだ、その、な……?」

「……当ててあげましょうか?」

「当たってる、当たってるから大変なことになってるんだろうよ!」

「ふふ」

 

 

 なんて。一度視ているやり取りでさえ、愛おしい。

 このショッピングモールに来ることも、今の会話も視たけれど……それでもわたしの心を躍らせる。

 

 

「あら……?」

「ん?」

「いえ、なんでもないの。ただちょっと、前にお話した人が見えた気がして、ね?」

「ああ、まあ、これだけデカいショッピングモールが近くにない、あそこの人たちはみんなここ来るだろうから……知り合いに会う可能性も高いんだろうな」

 

 

 遠くに一瞬だけ見えた、大学生くらいの男と、手を繋いで嬉しそうに歩く中東風の見た目の女性。少し辿れば出てくる記憶では、『お話』して、すぐに分かってくれたいい主従だったという思いがある。

 ちょうどその日は彼が三割り増しくらいで構ってくれた日で機嫌が良かったこともあって、従者の方の望みを軽く叶えてあげたりしたのだった。

 

 ――ああ、そういえば。名前……忘れてしまったけれど、別にいいかな。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 倒れた日から回を重ねるごとに、彼は確実に成長していた。前のように走り終わった後に倒れることは無くなったし、それどころか――

 

 

「……っ」

「……ひゅぅ……ぉぇ」

 

 

 わたしが速度を上げてもさらについてくる。誰がどう見ても限界なはずなのに、それでもついて来ようと必死で走る姿が……妙に気になる。ああ、全く。どうしてこんなにもわたしの心が乱されるのか、その理由が分からない。

 分からないから気になって、気になるから心が乱されて、まさしく悪循環。

 

 結局。最後の最後まで引き離すことが出来ずに終わり、彼はまた走り終わった勢いをそのままに水道に走って朝食を戻す。それも、時折戻すことなく走り終わる日もあって、そういう日はなぜだかちょっともやもやが少なかったりする。

 

 

「ああ、くそ。また追い付けなかったか……」

 

 

 悔し気にしているけれど、今回はさらに速くしていたのに引き離せないだなんて。またそのせいでもやもやとした感情が募る。……わたしの人生は彼によってずっと狂わせられすぎだ。

 

 

「……だから、言ってるでしょう? そもそも身体の性能(スペック)が違うのだから諦めればいいのにって」

「あのな、言ってるだろ? 好きな女の子と対等にありたいって考えて、頑張るのはそんなに変じゃないだろう」

「っ……知らない!」

「あ、おい!」

 

 

 顔が熱い。それから、心臓もどきどきしている。

 そんな様子を気取られたくないから早歩きで顔を見えないようにする。ええ、どうせそうと知ったならこの男は風邪か、なんて言ってわたしの額に、手を――

 

 

「~~っ!!」

 

 

 顔の火照りも、鼓動の速さも、それから――それから、つい緩んでしまう頬も、しばらく治りそうになかった。




気絶王(まだ小学生だし、何を言っても忘れたりされるだろうしなー、別に何言ってもいいか)
愛歌(えっ、えっ、やっぱりわたしのことが好きって……でもやっぱり冗談なのかも……なんだろう、胸がもやもやするわ……?)

次の話は?

  • スイート
  • ノーマル
  • ビター
  • デーモンコア

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