“ニセモノ”が“ホンモノ”に変わるとき 作:似非恋
お久しぶりです。
ゆっくりですが、進めていきます。
感想をくれた方、評価をつけてくれた方、ありがとう御座います。
夏、真っ只中。学期末のテストも終わり、夏休みへ突入していた。
外では蝉が後世へ繋ごうと短い命を燃やしている。この刹那の一瞬にどれだけの想いが込められているのだろうか。まぁ俺は人間だから知る由もないが。
十数年と繰り返した夏であるのに突拍子にそんなことを思ってしまうのは何もすることが無く暇であるからだろう。
本当に暇だ。積んでいた本も消化し終えたし、新しく買いに行こうにも外の陽炎を見る度に行く気が失せる。
母ちゃんや小町から『バイトしたら?』とよく言われるが、しなければならないほど経済的に困ってないし、月々の小遣いとお年玉で足りているのが現状だ。
兎にも角にも暇なのである。
部活は週二回から週一回へ変わっている。加えて、この夏休みという期間では無断で休んでも何も言われないらしい。まぁ休んだことないけど。ホントだよ?ハチマンウソツカナイ。
ピロリン、と夏休みに入ってから全く鳴らなかったスマホが突然音を出して振動した。スパムメールはドメインしているため、知己からの何かである事が判る。
開いてみるとメールではなく、LINEの通知であった。名前には『小咲』と表示されている・・・小咲?誰?美人局?
『突然追加しちゃってごめんね!小野寺小咲です!』
謝罪から入ってくる文章は後々大火傷するって八幡知ってる。見らぬが吉だったのに既読を付けてしまった。
さて、“おのでら”と言えば俺が所属している“茶道部”がお得意様になっている和菓子屋の名である。部長がその店の和菓子にハマったのが理由だが、紹介したのは俺の同輩である宮本だ。その店の看板娘(口コミ)が宮本と旧き仲だと初めて伺った時に知った。
そう言えばその
返信に困っていると更にメッセージが送られてきた。
『えっと・・・和菓子屋“おのでら”で働いている小野寺小咲です。るりちゃんからLINEを教えてもらいました』
どうやら予想通りらしい。だが宮本、俺に一言断りを入れるのが筋じゃないんですかね?俺にもプライバシーがあるんですよ?無いですか。そうですか。ちなみに茶道部のメンバーのLINEは知っている。半強制的に追加された、が正しいが。
それはさておき、なぜ小野寺が俺のLINEを知りたかったのか、という問題が浮上した。いくら考えても答えが出ない。
『それで何か用か?』
『比企谷君、怒ってる?』
『いや別に怒ってない。驚いただけだ。夏休みは誰とも連絡取ってないからな』
取る相手がいない、が正しいですけどね!テヘペロ(涙)
まぁ剣豪将軍とかいう名前の奴からは毎日の様に迷惑メールの如くメールが送られてきているが通知はOFFにしている。
『はは・・・そうなんだ』
これはちょっと引かれちゃってますね、うん。
その後のスタンプが『気にしないで!』って小野寺さん追い打ち掛けてますからね?優しさは時に残酷なんですよ?
『それでね、比企谷君に相談があるの』
『相談?』
小野寺の様な美少女から相談とな。あの見る者を幸せにする笑顔の裏にも悩み事はあると言うことだ。まぁ人間だから悩み事の一つや二つはあるだろうが。
然しなぜそれを俺に相談するかが判らない。会った回数も両指で足りるし、そもそもあっちからしてみれば時々来るクライアントってだけだ。必要以上の会話もしていない。というかあんな美少女と話せない。
『えっと・・・夏休みの間だけウチでバイトしない?』
『ウチって“おのでら”で?』
『うん。アルバイトの方が腰痛めちゃって。男手が欲しいところなの』
小野寺の話によるともう直ぐお盆の時期に差し掛かるから猫の手も借りたいレベルで一気に忙しくなるんだと。一刻も早く従業員を確保してお盆までに使えるレベルまでにしないといけない、と裏事情まで聞かされた。
『どうして俺なんだ?』
『和菓子屋のバイトだから多少は和菓子のことを知っている人が助かるの。私って男友達少ないから・・・』
それで俺に白羽の矢が立ったと。宮本を通じれば俺の連絡先も分かるからってところか。
然し、だ。幾ら美少女の頼みとは言え、働いたら負けだと自負している俺は梃子でも動くつもりは無い。働かざること山の如し。違った、動かざること山の如し。
『いや俺もアレがアレでアレだから・・・バイトは無理だ』
断り方がアレだがアレだから仕方ない。うん、仕方ない。
それに男手が欲しいという事は力仕事が殆どなのだろう。貧弱な俺には到底無理な話だ。
『わかった。考えてくれてありがとね♪』
暫くして返ってきたメッセージはスタンプと共に俺に対して考えてくれた事への感謝が述べられていた。罪悪感が凄まじいが心を鬼にしてこの件を終わらせよう。
『また今度寄らせてもらう』
『ありがとう!これからもご贔屓に』
その言葉と共に送られてきたスタンプは三色団子を食べている頭にゼンマイが付いた侍らしきキャラクターだった。
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「お兄ちゃーん、ごはーん!」
「んー」
ラブリーエンジェルこと妹の小町から夕飯が出来たといつもの如く呼び出される。
我が母校である総武高校の夏服に白のエプロンを上に纏った姿はいつ見ても眼福である。悪魔には聖水、屁怒絽にはローション、腐った目には小町のエプロン姿、もう本当に浄化される。
『いただきます』
今日の夕飯は冷麺である。薄切りされた卵焼き、キュウリ、ハム。
シンプルであるが暑い夏にはどうしても食べたくなってくる一品だ。そうめんに並んで夏の食卓によく並ぶ料理だ。
「お兄ちゃん」
「ん?どうした?」
「さっきね、中学の時の友達から相談されたんだ」
「男じゃないだろうな?」
「違うよ・・・目が怖いしキモいよお兄ちゃん」
「うぐっ!!」
冗談だと分かっていてもキモいという言葉は男にはよく刺さる。・・・冗談だよね?
小町はというとハァと肩が上下するほど大きく溜息をついている。
「溜息つくと幸せが逃げるって言うぞ」
「小町はお兄ちゃんの将来を想像して溜息ついたの。お兄ちゃんの代わりに溜息ついてあげたの」
「俺の幸せが逃げてるじゃねぇか」
なんてことしてくれるんだこの妹は。
「もういいよ。それでね相談って言うのはアルバイトの相談なの」
「ほーん」
「従業員の一人が腰痛めちゃって大変なんだって 。それで夏の間だけ男手が欲しいっていう相談だったんだ」
・・・どこかで聞いた話だなぁーどこだったかなぁー。それにしても変な偶然もあるもんだなぁ(遠い目)。
「で、お兄ちゃん。バイト行ってきて」
「は?」
何言ってますの?この妹は。
俺の耳が聞き取った通りの情報ならバイトに行けと申したようだが。聞き間違いだよね?
「どうせ暇でしょ?お兄ちゃん」
「ほら、お兄ちゃんアレがアレでアレだから・・・」
「暇じゃんか!ほら国民の三大原則を果たしてきてよ!」
「勤労の義務が言いたいんなら国民の三大義務だ」
「あれ?そうだっけ?」
おぉ妹よ、高校生なっても情けない。というかお兄ちゃんとても不安です。
ちなみに三大原則が国民主権・基本的人権・平和主義で、三大義務が教育の義務・勤労の義務・納税の義務である。
「どっちでもいいの!もう、話はつけているから明日から行ってきてね!」
「小町ちゃん?ほう・れん・そうって知ってる?」
「ベーコンと炒めたら美味しいやつでしょ!知ってるよ!野菜のこととかどうでもいいから明日行ってくること!いい?」
「小町ぃ・・・・・・」
お兄ちゃん、自分の将来より小町の将来が不安だよ。社会の常識ぐらい知っておいておくれ・・・あと横暴すぎる。
「その子も働いているから。くれぐれも失礼の無いようにね。小町の交友関係にひび入れないでよ?」
「はぁ・・・わかったよ」
俺には無い小町の一種の才能を俺の所為で潰すわけにはいかない。まぁ・・・結局いつになっても兄という存在は妹に抗えないものである。
「これがバイト先の住所と電話番号ね。頑張ってね、お兄ちゃん♡」
「・・・・・・・・・おう」
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翌朝、小町を課外授業へ見送りした後に、指定された持ち物と必要不可欠な物を準備してバイト先へと向かった。
携帯の位置情報サービスを使って歩く。
「はぁ・・・・・・・・・・」
小町が指定したバイト先は和菓子屋“おのでら”だった。
全く進まねぇ・・・久し振りの一話、いかがでしたか?
補足。
剣豪将軍のメールはOFFしているけどきちんと返信はしています。律儀です。
全く物語自体が始まってないのですが、早くそれまで行けるように執筆頑張りたいと思います。
ではまた次回。感想と評価、お待ちしてます!!