回転割砕の魔導右腕(ライトアーム)   作:変色柘榴石

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苦難の末、分割しました。


B&G6「正体不明の夢幻姿豹(ジャバウォック)」(Part:A)

 術式を効率よく使用するにはどうすればいいか。究極的に言ってしまえば、自ら覚え、長い年月をかけて改良、短縮、最適効率まで改造するのだ。

 しかし、ひなたたちに残された時間は一秒すら惜しく感じるのが現状だ。

 

「そこでカートリッジなんだ」

【はい。カートリッジシステムを取り入れているからこそ行える荒業ですが、事実、使用例は残されています】

 

 前例がないわけではない。そう言うレイジングハート言う先には、準備運動を念入りにしているひなたの姿。その傍には一本のカートリッジがある。これこそ、封印術を封じ込めた特殊プログラムカートリッジが一つだ。

 術式の調整などに長けたシャマル、リイン両名の手によるもの。しかし選ばれた主力メンバーである二人……ひなたと聖刃のデバイスのカートリッジシステムは少々オリジナリティが高く、通常のカートリッジ規格では合わなかった。ひなたのカートリッジが六連弾倉式でシリンダーそのものがカートリッジとなっている、一発六連カートリッジ。聖刃はデバイス三本全てが同一規格ではないカートリッジシステム故に聖刃本人『に』カートリッジをロードさせる必要がある。

 そこで出されたのが後付け式カートリッジシステム……つまりカートリッジシステム単体による外付け発動装置。

 

『【『OC-28N』、ナックルタイプデバイス用外部カートリッジシステム。『OC-17B』、ブレードタイプデバイス用外部カートリッジシステム。ベルカ自治区発祥のカートリッジ使用機器ですね。ベルカ名家でカートリッジシステムの予備として親しまれ、近代ベルカが浸透しつつあるミッドチルダでも扱い始めたオプションデバイスと記録されています】』

「そんなんあったのかよ……」

 

 通信越しにエイミィのデバイス、オペレーション・コマンダーが出自諸々を語るが、何やら聖刃が衝撃を受けているが気にはしない。

 何故あるのかと聞けば、一種の試供品らしい。各艦船に五個らしい。

 

『とりあえず試験作動用に一本ずつ。本作戦用に各一本ずつ保存してあるから、クロノ君とカガミちゃんと一緒に動作確認用の模擬戦をしてもらうよー』

「そういう訳で、二人ともよろしく頼むぞ」

「何気に管理局組と戦うの初めてでオラわっくわっくしてきたぞ」

「あれ、そう言えば俺もか」

 

 その瞬間、急な寒気がクロノを襲う。それはひなた達から向けられており、その目は正しく狩る者の目であり、一歩間違えれば自分は狩られる者のまま終わることを察した。

 

 ――なればこそ、負けてなるものか。年上として、執務官としても。魔導の先達としても。

 

「手加減は不要だ。後輩に負けるほど、執務官は甘くないことを教えてあげるよ」

 

 その場にいる三人の男子の口角が上げる。

 カートリッジの動作確認など、もはや口実に過ぎないだろう。

 それを見るカガミの目は『男ってバカよねー』と言わんばかりに呆れかえっている。

 

『言っとくけど一対一、一対一だからね!? 一本先取制だからね四人とも』

「「「わかってるよ/って/さ」」」

「私まで巻き込まないでほしい」

『顔と言葉が一致してないけど!?』

 

 

 

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「んじゃ、よろしくな。クロノ」

「……君の……いや、『君たち』の特異性には何度も助けられたな」

 

 何かを思い出すかのように話すクロノの言葉に思わずきょとんとするひなた。

 

「ジュエルシードの事件から始まり、続く闇の書事件。普通の執務官でも、ここまで規模のでかい事件に遭遇することは滅多にないと思う」

「えーっと……ジュエルシードの事件の時、下手したら地球危なかったんだっけ。闇の書も言わずもがな」

 

 ジュエルシード一つでも暴走すれば次元断層を引き起こすパワーを持っている。それが総数21個ともなれば、確実に滅ぶ。

 

「そうだ。まして君たちみたいな多数で強力な民間協力者がいるなんて天文学的確率すら霞むんじゃないか?」

「そんな事件がぽんぽんあったら滅ぶわ。後者だってそんな多くいたら管理局いらずじゃね?」

「確かにな」

 

 皮肉気に笑うクロノ。だが、しかしと続けた。

 

「守らなければならない。力なく、罪なき人を守り。人の道を外れ、周囲を害する者を捕らえ。厄災の種となりかねない物を保護、管理する」

 

 それが先人たちの目指した、本来の姿であるが故に。

 

「先のプレシアテスタロッサのことも、本局で燻ぶる(くすぶる)悪も。変えて往かないといけないだろう」

 

 生半可では蹴落とされてしまう茨の道だとわかっている。

 それでも、死んだ父や退役した師、今尚頑張る母の姿を見て思わないはずがない。

 

「変える。変えて見せる。正義でも大義でもない。人々を支え、守れる管理局に」

 

 ――青く、水のように冷静な炎。ひなたはそれを、クロノの瞳に幻視()た。

 今までの事件で、その目標を確固たるものにしたのだろう。思うところがあったのだろう。

 だからこその、自分自身に対する決意表明。

 

 今までの事件で関わっていた中心のほとんどは、民間協力者であるひなたやなのは達だ。

 その一人であるひなただからこそ、この決意の言葉が出てきたのだろう。

 

「じゃあ、その決意で以って、始めようぜ。クロノ! プログラムカートリッジ、『ミドガルドシュランゲ』……ロード!」

「来いッ!」

 

 

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「先手必勝ァッ!」

 

 初撃はひなた。フィンブースターを一瞬放出の後に溜めて一気に解き放つ。爆裂したかのようなエネルギーと共に突撃を仕掛けるが、クロノはそれを後方にステップ、連続してサイドステップで安全圏へ移動。

 それだけならひなたが勢いそのままに空中前転、逆さのままガンレイドで蜂の巣だろう。動き一つ一つが次に繋がるのがひなたの強みの一つだ。

 ――しかし、クロノはそれを容易に断ち切る。

 

「ちょ、バインド!?」

 

 突っ込んできた体勢のまま水色の鎖がひなたの体を縛り上げる。――ディレイドバインド。クロノが得意とする設置型捕縛魔法だ。

 そして目の前には、クロノ有するストレージデバイス、S2Uの杖先。

 

「やっべ……」

「ブレイズキャノンッ!」

 

 零距離で放たれる、ディバインバスターと同威力の砲撃魔法がひなたを飲み込む。

 吹き飛ばされるひなたに追撃のスティンガーが放たれる。

 

「チィッ!!」

 

 盛大に舌打ちを一つ。体制を無理やり立て直すも、左腕と肩を撃ち抜かれ再び体勢が崩れる。

 無理やりに右腕のみでガンレイドを放つ。クロノはS2Uを持つ左手で障壁(シールド)を展開し、その影で魔力弾を四発を放つ。

 

「レオ、ローラー展開ッ!」

【肯定。ラートバイン、ローラーモード、アクティブ】

 

 両足の(くるぶし)部分を起点に赤紫の魔導車輪が現れ、回り出す。空中を、空間を削るかのように火花を散らしながら空中を走り、すれ違うように魔力弾を避け、右腕の車輪『ラートアルム』を回して叩き込もうとする。――が、ならず。

 避けたのは三発。相対速度ではっきりとは確認できなかったが、おそらく三発。回る視界で朧げに確認できたのは約四発。

 

「なっ、ちょ!?」

 

 目の前に、一発。それはただの魔力弾ではない。

 

バインド弾(・・・・・)……!?」

 

 ディレイドバインド派生――ハウンドスフィア。追尾型のバインド弾だ。

 バシンという音と共にひなたの体が水色の帯に縛られる。その背には、避けた三発がぐるりと返ってくるのが見える。

 

……まずい、まずいまずいまずいッ!

 

 前門の砲身。後門の狼といった状態。模擬戦ではあるものの、それとは抜きにこの状況はまずい。思った以上に手も足も出ない。パワー系接近重視型のひなたの弱点がここで露呈する。バインド重視の射撃型にハマりやすい、と。

 

「さて、僕はまだ手札が残っている。何通りにも派生可能な潤沢な手札がね」

 

 ストラグルで魔力を散らすか、スティンガーブレイドでヤマアラシの気分を味わってみるかい? というクロノ。かなりいい笑顔だ。

 

「え、遠慮しますです。うぃ」

 

 

 クロノ、完勝である。

 

 

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「完封とかマジ洒落にならんしょ……フルドライブの起動さえさせてもらえにぃ」

「君の爆発力は脅威だからな。速攻で潰させてもらった」

 

 ガチ凹みである。

 防御に対する突破力は以前よりも上がったものの、如何せん本人の技術と経験が不足しており、尚且つクロノが万能型で魔導師としての先達であることが拍車をかけた。

 ひなたも比較的万能型とはいえ、誘導弾はあまり得意ではなく、同時展開射撃も同様。バインド適性も一般並み。幻術系に関しては未来においても某凡人ガンナー以下である。受け継いだ創造魔法や奇抜な技術でカバーしているものの、ひなたの本質は『レベルを上げて物理で殴れ』方式の由緒ある脳筋殺法だ。

 

「まぁ、バインド特化だけならこうもいかなかっただろうさ」

「問題はクロノのトラップ配置と相手の誘導技術。隙間を埋める射撃技術だよなぁ……完全に『ずっと俺のターン』ってやつじゃん」

 

 余談ではあるが、後にこのクロノの戦術は多くの犯罪者を捕まえる大戦術となり、いつしか『隙間無き連術(イントルード)』と呼ばれることとなる。

 

「人間サイズであればな。例外がリインフォースやスズ、今回のU-Dなど力任せによる解除以外の方法を持つ相手だが」

「十分だっての!」




・カートリッジ使用者
日野ひなた、古城聖刃(主
高町なのは、フェイト・テスタロッサ(副
???、???

・OCシリーズ
アウトカートリッジシステム。
ベルカ地区発祥の外付けオプションデバイス。
近頃ベルカ出身者やミッド式の適性が低い局員などが増える中、注目され始めた近代ベルカ式と共に普及し始めた。
各艦隊に五つ試供品として配られている。
現五十種、随時開発中。一つ十五万ミッドドル。

・男はバカばっか
クロノ君だって男の子(意味深)

・事件と協力者(異常)
どうせみんなひどくなる

・ひなたのカートリッジ
パンツァークロイツ(戦車十字)……ではなく、『ミドガルドシュランゲ』
プログラムカートリッジの名称が兵器関係だったことから変更(2016/04/19)
……が、それは研究段階で終始されたロマン兵器でもある。
簡単に説明すれば『水陸両用ドリル付き拠点強襲用キャタピラ列車』
wikiには写真すらない。流石ドイツ。

・ひなたの弱点
実はガチガチにバインドで『固めるだけなら』問題はない。
しかし先々を潰されるクロノの戦術だからこそがひなたの弱点であり、イニチアシブが取り辛い相手が苦手であるという欠点が露呈した。

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