後日談もBOA、GOD編があるのでなし。
最初に目に入ってきたのは白い天井と青みがかった照明。そして薄めの消毒液の匂いを感じ、ここが医療関係の場所だと理解する。
そして次に感じたのは自分が寝ていることと、右腕の喪失感。気絶直前の光景をおぼろげに思い出し、マジか……と顔を押さえようとして、改めて右肩から先が無いことを実感し、力が抜ける。
……参ったな。予想以上にキツい。
九年連れ添った利き腕の喪失が、想像以上に
しかし喪失感とは別に感じたものがある。
――達成感だ。
この右腕が無い事。それはつまり、ナハトヴァールの存在を消し去ったことに他ならない。
確信……という訳ではないが、恐らくはバックアップ諸共。再生も転生も許さないほどには消し去った……はずだ。――漠然とした確信。わからないけど、たぶんそう……というような『感想』しか出ないのだ。特に現状では。
そんなことを考えているとカシュッ、という音の後に誰かが入ってくる。
色々聞こうと思っていた人物……リインフォースだ。
「……起こしてしまったか」
「んや、いろいろナイスタイミング」
そうか。せやで。
短い言葉を交わし合い、沈黙。
その沈黙を破ったのは、ずっと聞きたい事があったひなただった。
「……ナハトはどうなった?」
「――不思議なことにな。私の中のバックアップデータまで消えていた」
しかし、とリインは続ける。
どうやら常識外の蒐集と、度重なる暴走。相性の悪い魔力同士の暴発など、様々な要因が積み重なって異常をきたし、ぼろぼろに崩れたリソースをリインから引っ張っていたらしいナハトヴァール。
その影響か、元々夜天の書に刻まれていたベルカ魔法以外がごっそり無くなり、リイン自身の魔力も以前のような高出力は出せないだろう量に減ったらしい。
それでも、と言葉は続き――
「まるで、夢でも見ているようだ」
「それは皮肉?」
「ふふっ……かもしれないな」
自嘲気味に、そして安堵しているかのような笑顔を見せるリイン。
ひなたの顔も緩やかな微笑みだが、その表情は硬い。二年と言う年月はひなたの表情筋を衰えさせるには十分すぎる期間だった。
それに気付いているが故か、リインの顔も少しばかり曇っており――
「くっっっっらいわドアホぉぉぉッ!!」
「はやてッ!?」
「あ、主ッ!?」
「重いわ暗いわ
――気付けば、リインと一緒に正座していた。
今更ながら患者衣であることに気付き、右腕の空白が目に入るもそれどころじゃない。目の前の
「大体、ひなも根っこは真面目で溜め込むし、リインフォースも真面目ちゃんで弱音は“迷惑やからー”で溜め込む似たもん同士。私からすれば頼られて嬉しいんや「でも」頼・る・ん・や。イイネ?」
「アッハイ」
「はい……」
まじこわい……
前みたいな依存性は無いし、これ以上は、って思ってたんだけど。
毛先が漏れ出た魔力でざわざわしてるし、目もマジだし……
「おーい、って……ミイラ取りがミイラになってんじゃねぇか」
「セっちゃん!」
「帰る」
「待て待て待ってッ!? ミイラ回収して!?」
まったく……と言いつつ部屋ん中に入ってくる聖刃マジツンデ「やっぱ帰る」待って!? 帰らないで! ザフィーラの体わしゃわしゃしていいから!
「褐色犬耳筋肉大男の体毛と考えるとちょっと」
「アルフか! アルフがええのんか! アルフ“で”わちゃわちゃしたいのか!」
「誤解を与えるようなことはやめろォ!」
「えっ……まさか、ユーノ? お前まさか自分と同じ男の娘属性に」
「ぶった切られてぇか」
「スマネ」
こうしてる間にも首絞めギリギリにリインと共にはやてに
横で『く、苦しいです主!』とか『二人揃っていい匂いやなもー!』とかも背後から聞こえる。
あとさ、左腕のやわい感覚は
そんなこんなで移動。はやてはリインに車椅子を押してもらい談笑中。
俺と聖刃はその後方にいた。
「……しかしまぁ、ありがと」
「あ? なんだよ急に」
「フェイトの事件の時も、今回も。要所要所でセイバには助けてもらってるからさ? 明確なお礼とか言って無いなーって」
「……はぁ」
「な、なにさ」
お礼言ったのに溜息つかれた……解せぬ。
そう思っていると聖刃は目を細めてこっちを見てくる。
「つくづくお前が男で残念だわ」
「急に何だそれッ!? 流石に理解不能だよ、おい!」
「だってお前さん、男らしからぬ女子力持ってるだろ?」
聖刃曰く、学校ではそういう人気があるらしい。
「いや、俺一年から行ってないだろ」
「文鳥」
「大体わかった。文鳥許さねぇ」
なんでですかぁーッ!? という幻聴が聞こえたが気にしない。
「……で、え? マジ?」
「結構な。俺らからすれば『山を眺める観光客』っぽい」
「誰が山だ誰が」
他に例を挙げるとするならば料理。他にも裁縫とか、考え方とか。聖刃よりは劣るが、髪が長いせいか仕草とかドキリとする人間が多いそうだ。
マジカヨ。これでも筋肉あるんだヨー?
「服の上じゃわからんべ」
「あちゃー」
「ちなみに秘書みたいに出来る女っぽい、というのが六年生以降の感想だ」
「狙われてる……!?」
「ぬかしおる」
「くそう」
いつも通りだ。
これがちょっとマイナス思考な主人公なら『僕がいなくても世界は何も変わらない』とか言うんだろう。まぁ、当然じゃし。でもその人の『世界』には大きな変貌があるくらいで。
俺のこの腕だってそうだ。拭いきれない喪失感が頭から離れなくて、あの戦いでこの腕を代償に
そんなことを呆然と考えていたからか、何かにぶつかる。
顔を少し上げると、聖刃の呆れたような顔が目に映る。
「――ったく。ほら行くぞ。みんなが待ってる」
「……ん」
自然と差し出された右手を掴む。
武器を握る手でもあり、誰かを傷つけてしまうかもしれないその手。
――それでも、今は誰かと繋がれるその手を掴む。
「そういえば、ちょっと古めのゲームにこんな感じで手を繋いで冒険するゲームがあってだな……」
「えっ、男同士で?」
「違わい。男の子と少女で」
「ピッタリじゃないか。少女男らしーな」
「普通逆だろうが」
「さぁ手を曳いて! そして私を養って!」
「ただのヒモじゃねぇか!」
「そうです。私が例のヒモです」
「ドン引きだッ!」
「ヒモだけに?」
「やかましい!」
「……ええ加減にせえ。な?」
「「アッハイ」」
この手を使うのは、その人自身が決める事。
あの時使った『幕引き』もそうであるなら、その魔導を宿した右腕に意味があるのなら。
――堕ちていた日々にも感謝できるだろうか。
・右腕
誰だってショック。
崩壊の原因としては十二体ユニゾンから分離直後での創造位階相当の力の使用、負荷が積み重なっての崩壊。あくまで『魔法』での治癒は不可。
・「――不思議なことにな。私の中のバックアップデータまで消えていた」
存在そのものに作用するのでバックアップもクソもない。
『名前を言ってはいけないあの人』にぶち込めば即終了な反則技。
※尚、負荷は軽減できない模様。
・狸鬼
※目がヤバい分福茶釜
・「セっちゃん!」
作者がネギまやるなら二番目に出るヒロイン枠……ではない。
ちなみにイントネーションは「セっ↓ちゃん↑!」
・やわいヤツ
(別のものがもげてるので何も言わず絶唱顔)
・「フェイトの事件の時も~」
突然のヒロイン臭。書いてる私もどうかしてると思った。
・「――ったく。ほら行くぞ。みんなが待ってる」「……ん」
成瀬:ガタッ
物語の幕間。
繋いだ絆が月と共に煌めき、拳が咆える。
その偽りは、人の為となるか。
次章、回転割砕の
B.O.A.(
似て非なる姿。しかしその心は別の輝きを示した。
君は知る。無限の円環に見た光とは何かを。
待て、而して希望せよ